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小規模現場の結束力で“鹿島初”の工法に挑戦

予讃線市坪北伊予間市坪架道橋新設その1・その2工事

現在,当社の国内建設現場数は約1,800ヵ所を数える。
工事の規模は大・小様々だが,現場担当者たちが傾ける熱意と努力は皆等しく,
無事の完成を目指し日々作業に邁進している。
愛媛県松山市の「予讃線市坪北伊予間市坪架道橋新設工事」の現場では,
ベテラン・中堅・若手社員3名がタッグを組み,当社初となるトンネル施工技術
「SFT工法」に挑戦した。試行錯誤を繰り返した完成までの日々を振り返る。

図版:地図

図版:現場風景

現場風景

【工事概要】

予讃線市坪北伊予間市坪架道橋新設
その1・その2工事

場所:
愛媛県松山市
発注者:
四国旅客鉄道株式会社
規模:
土留工仮設(発進側・到達側)一式
反力体仮設一式 グラウンドアンカー工39本
タイロッド工104本 根掘5,600m3
薬液注入工385m3
箱形ルーフ推進架台仮設撤去一式
箱形ルーフ推進工一式
ボックスカルバート製作820m3
ボックスカルバート牽引一式
軌道監視工一式 ほか
工期:
2011年10月~2013年8月

(四国支店JV施工)

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より魅力ある地へ

愛媛県の県庁所在地・松山市は,四国地方最大の人口を擁する中核市だ。瀬戸内の海と温暖な気候がもたらす極上の産物,松山城を中心に広がる風情ある街並み,名湯で知られる道後温泉,俳人・正岡子規や文豪・夏目漱石のゆかりの地でもあり,魅力溢れる松山には県内外から多くの観光客が訪れる。

現在,松山市では市内の交通渋滞の解消・緩和と,高速道路・空港・港湾など主要施設へのアクセス性向上を目指し,国土交通省,愛媛県,松山市が協同で松山外環状道路(松山自動車道・松山IC~松山空港を結ぶ延長8.6kmの地域高規格道路)の整備を進めている。当社JV施工の「予讃線市坪北伊予間市坪架道橋新設工事」は,松山外環状道路がJR予讃線の市坪駅と北伊予駅間の一部をアンダーパスするために,軌道下にトンネル構造物となるボックスカルバート(函体)を構築する工事である。JRの交差部工事のみをJR四国が受託し,2011年10月より建設を進めてきた。

切羽を掘らない安全なトンネル施工法

JR予讃線松山駅より宇和島方面へ。単線をいく1両編成の列車で10分程田園風景を眺めると市坪駅に到着する。JR予讃線は,香川県の高松駅から県を跨ぎ松山駅を経て宇和島駅に至る路線で,通勤・通学の足として,また観光列車として人々に親しまれている。このJR予讃線の走行の安全を確保しながら,当社JVは約1年半にわたり新工法にチャレンジしてきた。

この工事では,アンダーパス技術協会開発の最新トンネル施工技術「SFT(Simple and Face-Less Method of Construction of Tunnel)工法」を採用し,JR予讃線の軌道下に幅34m,高さ8m,奥行き9mの上り本線・下り本線・側道・歩道からなる4連ボックスカルバートを構築した。SFT工法は,トンネル構造物となるボックスカルバートをあらかじめ発進側立坑内で構築し,トンネル設置箇所の土砂をボックスカルバートで押し出して置き換えるという方法。ところてんをつくる“天突き”の原理だ。トンネル断面の土砂(切羽)を掘削することなく構造物を施工できる安全性の高い工法である。

本工法は開発されてから日が浅く施工実績はまだ数例で,幅34mのボックスカルバート推進は過去に例がない。当現場では次のような手順で施工が行われた。

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SFT工法による施工手順

施工手順

 

❶軌道盛土部に鋼矢板による仮土留を施し,土砂を拘束・安定させる。軌道盛土の両サイドには,ボックスカルバートを推進移動させる発進側・到達側立坑を設ける。(図Ⓑ)

❷幅38m,高さ6m,奥行き15mの「反力体」を構築。ボックスカルバートを推進させる際の反力となる鋼矢板で囲った巨大盛土壁で,推進時には約36,000kN(キロニュートン)の力が加わる。28層に分けて盛土を転圧し強靭化を図った。(図Ⓑ)

❸仮土留した軌道盛土部に「箱形ルーフ」部材を挿入し,ボックスカルバートの外周と同一型となる枠をつくる。反力体を反力に,断面:縦・横1m,長さ:3m形状の箱形ルーフをジャッキで推進させ,1列につき3本継ぎ足し,計72列・216本の箱形ルーフを挿入した。(図Ⓒ)
発進側立坑内ではRC造のボックスカルバートを現場打ちで製作する。

❹完成したボックスカルバートの後方に牽引設備を設置。箱形ルーフを通して反力体に貫通させたPC鋼線をボックスカルバートにつなぎ,反力体を反力に牽引ジャッキでPC鋼線を引っ張り,ボックスカルバートと箱形ルーフを一緒に推進させ,軌道下にボックスカルバートを設置する。(図ⒹⒺ)

❺ボックスカルバートの推進完了後,到達側立坑内に押し出された箱形ルーフと土砂,反力体を撤去。仕上げ工事を行い工事完了。(図ⒻⒼⒽ)

図版:デジタルカメラを使用した軌道変位計測装置を軌道上に設置。

デジタルカメラを使用した軌道変位計測装置を軌道上に設置。施工時の軌道変動を現場事務所内のPCでリアルタイムに監視

図版:矢印

図版:軌道盛土部を仮土留し,発進側立坑,到達側立坑,反力体を構築する

軌道盛土部を仮土留し,発進側立坑,到達側立坑,反力体を構築する

図版:矢印

図版:作業構台設置後,軌道盛土部にボックスカルバートの外周と同一型に,推進ジャッキで反力体を反力に箱形ルーフを推進させる

作業構台設置後,軌道盛土部にボックスカルバートの外周と同一型に,推進ジャッキで反力体を反力に箱形ルーフを推進させる

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図版:矢印

図版:箱形ルーフの推進完了。発進側立坑内で製作したボックスカルバートの後方に牽引設備を設置する

箱形ルーフの推進完了。発進側立坑内で製作したボックスカルバートの後方に牽引設備を設置する

図版:矢印

図版:32本の150t牽引ジャッキで反力体を反力にボックスカルバート(函体)を推進させる。

32本の150t牽引ジャッキで反力体を反力にボックスカルバート(函体)を推進させる。写真は発進側函体推進の様子

図版:矢印

図版:9日間にわたる夜間作業でボックスカルバート(函体)を9.5m推進させた

9日間にわたる夜間作業でボックスカルバート(函体)を9.5m推進させた

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図版:矢印

図版:押し出された箱形ルーフとルーフ内に拘束されていた土砂,反力体を解体。写真は箱形ルーフ内土砂の撤去作業

押し出された箱形ルーフとルーフ内に拘束されていた土砂,反力体を解体。写真は箱形ルーフ内土砂の撤去作業

図版:矢印

図版:仮設撤去完了

仮設撤去完了

図版:箱形ルーフ内は人力掘削

箱形ルーフ内は人力掘削。後方のトロバケツを使用し排土する

図版:箱形ルーフは左右対称に3本1セットで推進させる

箱形ルーフは左右対称に3本1セットで推進させる。ルーフ上にセットされたFCプレートは,ボックスカルバートと地山との縁切りを目的とする

図版:箱形ルーフ推進作業の様子

箱形ルーフ推進作業の様子。ルーフ内で土砂を人力掘削後,150t推進ジャッキ2本を使用し,1ストローク40cm推進を繰り返す。軌道までの土被りは僅か58cmのため,軌道近くの推進作業は夜間に行われた

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図版:ボックスカルバート・コンクリート打設の様子

ボックスカルバート・コンクリート打設の様子。型枠内には密に鉄筋が組まれている

図版:箱形ルーフ推進作業と並行して製作されたボックスカルバート

箱形ルーフ推進作業と並行して製作されたボックスカルバート

図版:ボックスカルバートと地山とを縁切りするFCプレートが函体推進時にずれないよう固定・制御する「FCプレート定着工」装置

ボックスカルバートと地山とを縁切りするFCプレートが函体推進時にずれないよう固定・制御する「FCプレート定着工」装置

図版:ボックスカルバート後方に設置された牽引装置。32本の150t牽引ジャッキを操作し巨大構造物を推進させた

ボックスカルバート後方に設置された牽引装置。32本の150t牽引ジャッキを操作し巨大構造物を推進させた

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現場の結束力

現場は8月末の引渡しを前に,軌道周辺の整備工事を行っていた。「列車見張り員」が大きな声で列車が来るのを知らせる。列車通過時は軌道内の作業およびクレーン作業を全て止め,作業員は手を挙げ確認合図をおくる。ここでは平均10分に1度の頻度で列車が通る。昼間の工事は作業制限が厳しい。

井上武重所長,川井拓也工事課長,濱田康司所員が現場を案内してくれた。ボックスカルバートが軌道下にぴったりと収まっている。ほとんど隙間のないスペースに寸分の狂いもなく巨大構造物を推進移動させた。実際の構造物を見て改めて,現場担当者の努力と苦労が理解できた。

「SFT工法による施工は当社初でした。社内には誰も経験者がいない。社員3名,JV社員1名の小さな現場ですが,皆で試行錯誤を繰り返し,何とか完成までこぎ着けました」と工事を振り返る井上所長は,これまで四国支店内で数々の土木現場を経験してきたベテラン所長だ。「鉄道を利用するお客様の安全にも関わる作業です。厳しい目で安全管理 するのが私の仕事。技術の面では,川井・濱田両者に信頼をおいてきました。彼らの頑張りに感謝しています」。後進の成長ぶりを井上所長は嬉しそうに語る。

監理技術者の川井工事課長は,作業工程の管理から技術的検討までリーダーシップをとり現場を切盛りしてきた。「設備の図面を読み解くところからのスタートでした。毎日が勉強で,アンダーパス技術協会に質問の電話をしたことも何度もありました」と話す。入社4年目の濱田所員は自分の努力が成果物となって見えるのが楽しいと,笑顔を絶やさない。「井上所長は仕事に対して非常に厳しい人。所長が予想したことが本当に起こるので,その経験値は凄いです」。

小さな現場だからこそ社員の結束力が成功の大きな鍵となった。

図版:井上武重所長

井上武重所長

図版:川井拓也工事課長

川井拓也工事課長

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夜間工事は戦場

現場は軌道までの土被りが僅か58cmと浅い上,軌道盛土は河川の砂利を使用したルーズな土質だったため,箱形ルーフの上部水平部と垂直部の上2段の施工,ボックスカルバートの牽引推進は,夜間線路閉鎖後の作業となった。「箱形ルーフの推進時,上面の土砂が移動して軌道を持ち上げたり,小崩落を起こすといったトラブルもありました。箱形ルーフの先端部刃口を改良したり,推進ジャッキの操作を調整するなどして対応し,工期を約2ヵ月短縮しています」(川井工事課長)。

夜間の作業時間は,始発に向けての軌道整備時間を確保すると実質約4時間。箱形ルーフの推進作業は,作業終了時にルーフ先端が軌道内に位置しないことが施工条件となっていた。どこで作業を終えるかも,その時々で判断 しなければならない。「夜間工事はまさに戦場でした。1分1秒が大切になってくる作業なので,その緊張感は凄いです。無事始発列車を見送ると,やっと1日が終わったと思えるんです」。夜間工事がスタートした当初は,殺気立つ現場の雰囲気に圧倒されたという濱田所員。現場最盛期は,約20人の作業員を取りまとめて工事管理にあたった。

図版:濱田康司所員

濱田康司所員

「列車の運行を妨げることなく作業することは鉄道工事の大前提。少人数で昼夜現場の安全を管理するのは非常に神経を使いました。こうした中,新工法に取り組むことができたのは発注者のご指導をはじめ,JV社員,作業員,土木管理本部,土木設計本部,機械部,鉄道現場の所長などの支援のお陰です。またSFT工法による工事が出たら,この経験を生かしたいですね」。川井工事課長から頼もしい言葉を聞くことができた。

6月末,2ヵ月工期短縮して無事工事は終了した。彼らはまた新しい現場で土木技術者としての経験を積む。

図版:SFT工法により設置完了した幅34m,高さ8m,奥行き9mのボックスカルバート

SFT工法により設置完了した幅34m,高さ8m,奥行き9mのボックスカルバート

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