新名神高速道路高槻インターチェンジ工事・高槻インターチェンジ中工事
大阪府と兵庫県を結ぶ新たな高速道路ルートが今秋開通する。
当社は開通区間のスタート地点となる大阪府高槻市内で,362万m3におよぶ大規模な土工事を手掛けている。
規模が大きく,異なる工種が混在する中,密に連携し工事全体の意思疎通を図ってきた。
今まさに最終ゴールを迎えようとしている現場に迫る。
【工事概要】
新名神高速道路高槻インターチェンジ工事(IC工事)・
高槻インターチェンジ中工事(IC中工事)
- 場所:
- 大阪府高槻市
- 発注者:
- 西日本高速道路
- 設計:
- オリエンタルコンサルタンツ
- 規模:
- 土工量 約3,620,000m3,
法面工 約260,000m2,
用排水構造物工 約40,000m,
橋脚・橋台 39基,
ボックスカルバート・パイプカルバート
11カ所, 調整池 7カ所,砂防堰堤 3カ所,
埋蔵文化財調査 約20,000m3,
軟弱地盤処理工 260,000m,
仮桟橋 5,915m2(L=0.5km,W=8~16m)
(いずれも2工事の合計数量) - 工期:
- IC工事 2011年1月〜2016年8月
IC中工事 2015年4月〜2017年11月
(関西支店施工)
大規模土工事に挑む
新名神高速道路の大阪府と兵庫県を結ぶ高槻インターチェンジ(IC)—川西IC間延長約24kmが今秋開通する予定だ。現在,当社が大阪府高槻市内で施工を担う「高槻IC」の現場も,完成に向けカウントダウンに入った。
高槻市は,大阪と京都の中間地点に位置する人口35万人のベッドタウンで,新名神高速道路のルートは住宅街を避けて,山間地を通るように計画された。この工事は,新名神高速道路と既存の名神高速道路を結ぶ高槻第一ジャンクション(JCT)と高槻ICを新設するもので,工事総延長は東西に約2.8kmにわたり広がっている。契約上,IC工事とIC中工事に分かれているが,2つの工事を1つとみなすと,現場は「高盛土工区」,「第一JCT工区」,「IC工区」,「高架橋工区」の4工区に分けられる。最初の3工区は土工事,あとの1工区は橋脚工事となる。
「ここは広大な山林だったんですよ。手つかずの山を道に迷いながら,測量のために登ったことが昨日のことのようです」と振り返るのは,監理技術者の齊藤宣成工事課長。この言葉のとおり,当社の施工区間は,山林を切り開きながら工事を進めてきた。切土の高さは最大48m。土工量は,全体で合計362万m3にもおよんだ。
早期の決断で工期を守る
「土工事は,第一JCT工区とIC工区でそれぞれ150万m3ずつ掘削し,工事エリアの西端にある高盛土工区へ重ダンプで運搬し,最大高さ65mの盛土を築きました。2つの山を崩し1つの山にするイメージです。この盛土は本線の土台となります」と現場を率いる堂本聖司所長は説明する。
堂本所長が着工時から懸念していたのが,IC工区内に立つ高圧鉄塔の存在だった。「鉄塔移設など外的要因は,現場でコントロールできないとはいえ,あらゆる状況を想定しておかなければなりません」。堂本所長の考えは正しかった。当初計画では,鉄塔移設完了後に70万m3の土を1年半かけて掘削・運搬することになっていたが,高槻IC付近の鉄塔移設は,当初計画の1年後となった。つまり70万m3をわずか半年で掘削することになる。このままでは,工期に間に合わない。
そこで,土工事に使用する重機編成を全面的に見直し,ダンプトラックを25t積みから最大45t積みの重ダンプへ,ブルドーザーは100t級へ変更するなど大型化した。また,高架橋工区に並行するダンプ走行用の長さ500mの仮桟橋の設計変更を決めた。しかし,荷重増加や桟橋上ですれ違うためのスペース確保など,重ダンプを走行できるようにしたことで,設置コストは大幅に跳ね上がった。「今,思えば,掘削が本格化する前の大胆な提案でしたが,工期を何としても守るという思いを発注者と共有でき,ご理解いただきました」。
鉄塔移設後の半年が,工事最大の山場となった。掘削した土は1日平均6~7,000m3,多い時には1万m3に達することもあり,掘削する位置の目印となる丁張りの設置が追い付かないほどだったという。早期の決断により,土工事の工期を順守できた。
高い現場力で最盛期を乗り切る
この最盛期を乗り切るため,現場の最前線で奮闘してきたひとりに,土工事担当の小槻敏広工事課長代理がいる。大規模工事の生命線ともいえる様々な工種間の連携を支えたキーマンだ。
土工事用の重ダンプ専用の走路と,一般の工事用車両のルートの調整も重要な仕事の1つ。工事の進捗に合わせて,施工エリアにアプローチするためのルートを幾度も切り替えなければならない。「重ダンプの運転手さんが仕事をしやすい現場の配置と,図面がなかなかうまくかみ合いませんでした。職長さんにヒアリングを繰り返すことで,ようやく考え方を理解でき,最適解を見い出せるようになりました」。
協力会社である山崎建設の貴嶋利憲さんは,「工事規模が大きくなるほど,現場で鹿島社員が調整しないと工事がうまく回りません。小槻さんは先頭に立って実行してくれる頼もしい存在です」と,太鼓判を押す。
同じく協力会社とのコミュニケーションを重視するのが,構造物担当の川上幸夫工事係だ。構造物関係の工事が落ち着いたことから,現在は工務課で設計変更などに携わっている。「デスクワークよりも,現場での課題解決に取り組んでいる方が向いていると思っています。ただ,技術者として必要なスキルやバランス感覚も身に着ける良い機会だと思っています」と,今後の抱負を語る。
人員配置を見直し体制を整える
堂本所長にとって,ここは所長を務める初めての現場だ。これまでは部下に対して,詳細な指示を出して現場を運営することをモットーとしてきた。厳しく指導することも多かったという。しかし,大規模現場では,トップダウン型の現場運営は通用しないと,これまでの経験から察した。「当初から,今までのやり方を封印すると決めていました。この現場には優秀なスタッフが集まっています。彼らの自主性や自立性に委ね,力を最大限に発揮できる環境をつくるのが私の仕事です。皆の活躍ぶりに感謝しています」と堂本所長は話す。
「馴れ合いではなく緊張感を持って,皆で仲良く仕事をしたいと思っています。そのためには,施工体制を明確化することが大切です。指揮系統の乱れは,工事規模に比例し組織に混乱を生じさせるからです」。こう語るのは,現場代理人を務める江上眞次長だ。堂本所長に一任され,人員配置などのマネジメント業務を精力的にこなしている。
工事エリア全域には土工事のほか,橋脚やボックスカルバート,調整池など様々な構造物が点在している。複雑な工事を効率的に管理するには,人員配置が現場運営上の最重要課題だった。
高速道路本体の工事が本格化した2013年春。江上次長は,現場を管理する人員をエリアごとにグループ分けする体制を打ち出した。持ち場が明確なので,工程の調整などをそれぞれの担当エリアの中だけで完結できるというメリットがあると考えた。しかし,この体制は半年も経たないうちに,見直しを迫られることになる。
「エリア別にした場合,ひとりの担当者が複数の工種を管理する必要があることは当初からわかっていました。若手に,未経験の工種も経験してもらいたいという思いもあったのです。ただ実際には,工事のスピードに追い付けず,一人ひとりの仕事がパンクしてしまいました」と,江上次長は振り返る。
2013年8月,人員配置を土工事,構造物,法面と工種別にグループ分けを変更する決断をした。工種間の調整や連携は必要になったが,スタッフからの不満は大幅に減り,モチベーションも向上したという。最盛期を目前に控えたこの仕切り直しが,大きなターニングポイントになり,現場が動き出したと実感する瞬間でもあった。
情報の収集・発信で工程の先を読む
江上次長が,重要な役割を託した人物がいる。2017年4月,新たに設けた「工事調整グループ」のリーダーを務める小河亮介工事課長だ。これまでは工事の進捗に合わせて,隣接する大阪府発注の一般道付け替え工事との調整役を務めてきた。
工事調整グループは,通常の業務では,目が届きにくい各工種の境界付近でトラブルなどが発生しないか,先回りして調べて,必要な情報を事務所全体で共有することを目的としている。工程的にまだ先のことで,対応方法や担当が具体的に決まっていないことをピックアップする。
「みんなが知り得ない情報を,事務所内に周知することが仕事のひとつです。それぞれの担当範囲にプラスαになる情報を発信することで,ほかのグループとの連携を促します」と,小河工事課長は話す。
日に日にその役割の重要性も高まり,事務所内に留まらず,発注者や設備工事など他の施工者に対しても,同様の働きかけを行う機会も増えた。
竣工に向け,大詰めの調整に奔走する齊藤工事課長は「この現場の仕事は多岐にわたり,すべての状況を把握することは困難です。小河さんからの情報はシンプルで的確にまとまっています。受け取る側が取捨選択をしやすく,大変助かります」と評する。
7年かけて,築き上げられてきた現場運営体制の仕上げの時が来た。ここで働く人に培われたノウハウが次の現場へと受け継がれていく。
着工から7年が経つ。2017年6月12日現在,工事は無事故・無災害で進められている。「安全第一」を掲げ,現場常駐の安全責任者の配置,新規入場者のヘルメットバンド着用,熱中症対策としてかき氷の無料配布など,様々な取組みを行ってきた。発注者である西日本高速道路から工事現場の安全成績「AAA」を取得している。最上位ランクを取得した土工事現場は,西日本高速道路で初のことだ。名実ともに安全な現場となった。「職長会による安全パトロールでは,協力会社の職長同士が競いながら安全管理を追求してくれています。現場を安全で働きやすい職場にするという意志を日々肌で感じています」(江上次長)。
安全意識の高さは,どこから来るのか。構造物の施工を手がける協力会社の職長,協栄土木の窪田康さんは話す。「チームワークの良さが安全な現場づくりに直結していると感じます。これだけ大きな現場なのに,他工種の職人さんとも面識があります」。コミュニケーションのきっかけは,半年に1回程度開催されるバーベキュー大会だった。多い時には総勢200人くらいが参加する。当社社員,協力会社社員とも40歳前後の世代が多く,話も弾む。
「自分たちが安全に作業しているところを堂本所長がしっかり見てくれているという実感があり,張り合いがあります」と語るのは,窪田さんとタッグを組む光南の森新吾さんだ。堂本所長が現場を見回る際,必ず声をかけてもらえるのが嬉しいという。独自のアイデアも現場で積極的に展開する。“1人KY”が書かれたカードをヘルメットに付け,それぞれの安全に対する意識を見える化した。作業員が定期的に選んで交換することで,安全への意識を高める仕組みだ。
「安全に品質の良いものをつくり,信頼を得る。これが次の仕事へとつながる,現場での営業活動です」と,森さんと窪田さんは胸を張る。安全をもたらすチームワークと信頼の好循環が,この現場にはある。