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特集 新体制始動

現場勤務時代から長い間見てきた。
目標に向け,計画や施策を練り着実に遂行する力と強いリーダーシップを兼ね備えた人物――
押味前社長は,バトンを渡すにあたり,天野新社長をこう評した。
新型コロナウイルス,地球規模での気候変動と脱炭素化,デジタル化の進展などによって,
急速に変化する経営環境への適応力が企業に求められる中,
基幹支店などでの豊富な経営実績を持つ天野新社長への期待は大きい。
天野新社長に今後の経営戦略を聞いた。

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天野新社長に聞く

(聞き手:㓛刀欣弥広報室長)

押味会長から天野社長へバトンが渡されましたが,まずは,率直なお気持ちからお聞かせください。

社長という重責を担うことに身の引き締まる思いです。創業180年の歴史の重みを胸に,故鹿島昭一最高相談役の社業と建築への真摯な思いを引き継いで,精一杯務めたいと思います。

当社グループは,中核事業となる土木・建築・開発だけでなく,バリューチェーンの上流から下流まで幅広いサービスを保有し,そのサービスの提供範囲も世界各国に広げています。「鹿島グループのオリジナリティ」が何かということを自分が社長の間に確立したいと考えています。

社長交代の記者発表の際に,「社会とお客様に信頼される会社を目指したい」とお話しされていました。
会社の目指すべき方向性についてお考えを聞かせてください。

押味社長時代にグループ全体の業績水準が向上し,財務構造が改善されました。加えて,生産性向上に向けたR&Dの集中的実施や開発事業投資,グループ経営基盤の確立に向けた取組みも進みました。経営基盤が整い,非常に良い状態で受け継がせていただいたと感じています。

一方,市場環境は不透明で,経営の舵取りという意味では,非常に難しい時代に直面しています。目の前の社会的課題としては,災害の激甚化に伴う防災力強化,カーボンニュートラル,感染症への対応などが挙げられます。これらは,新型コロナウイルスの感染拡大のように時には突発的に,また,脱炭素化のように長年かけて解決に取り組んできた中で,いま改めてその重要性が高まっている継続的な課題があります。産業構造や価値観の激しい変化の中にあり,時代の変革時期として,目を配っていかなければならないと考えています。このような目まぐるしく変わる社会環境に対し,鹿島グループとして,幾多の課題と真摯に向きあい解決していくことやニーズに応え続けていくことで,「社会とお客様に信頼される会社」を目指します。

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支店長時代からITを活用したマネジメントを強く推進してこられました。DXによる業務改革など,建設業のデジタル推進についてお聞かせください。

建設業は何十万,何百万の部品をアッセンブルする仕事で,モノづくりを行う会社ですが,製造業のように工場を持っていません。モノづくりの知識,ノウハウが重要であり,その知識とノウハウを具現化する「人」が資源です。人への技術の伝承が会社の存続を左右すると言っても過言ではありません。そのためには,暗黙知・属人化した知識をいかにデジタルに落とし込むかが重要で,文字や数字,図面などで見えるようにする必要があります。それを蓄積し,標準化していくことで誰でも使いやすくすることがデジタル化のイメージです。我々の持つモノづくりに対するデータの付加価値は非常に高いと見ています。会社に有利な資源として活かすためデジタル化を推し進めます。

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中期経営計画(以下,中計)が発表されました。前回の中計と比べて,さらに意欲的な計画だと思います。
社長が注力したい課題やテーマにつきまして改めてお聞かせください。

前中計では押味社長の下,投資を行いながら生産性の向上,担い手確保に取り組んできました。これは今後も確実に継続していく必要があります。そのために私は足元を固めて,建設事業の基盤の強化に努めたいと考えます。今回の中計は「未来につなぐ投資」と題して策定しております。この言葉は,厳しい競争環境においても,鹿島グループの総力を挙げ,業績を維持・向上させながら,中長期的な成長に向けた投資を実施していくという意思が込められています。

私たち建設業界は自然環境とどう向き合うかを問われています。当社もトリプルゼロ2050を目標に,環境問題やSDGsの各テーマに取り組んでいますが,環境問題への取組みについてご意見をお聞かせください。

昨年の菅首相の2050年カーボンニュートラル宣言以降,これまで以上に,多くの得意先からカーボンニュートラル実現に向けたお問合せ,ご相談をいただいており,鹿島グループへの期待と責任を感じています。昨今の気候変動による自然災害の激甚化,社会への影響に対し,我々は社会資本の整備を担う立場として,社業を通じて社会に貢献するという経営理念にも則し,その解決に努めていくことが重要です。

具体的な目標として,CO2排出量を2013年度比で2050年度には100%削減達成を掲げました。2030年度で50%削減をマイルストーンとして,今回の中計最終年度の2023年度にCO2削減目標に関する国際認証であるSBT(Science Based Targets)を取得することが大切な一歩と考えています。

カーボンニュートラル実現に向けて,「事業から排出されるCO2の削減」「カーボンオフセット」の2つの取組みを実施していきます。企画,設計,施工,維持運営管理という本業での取組みと併せて,再生可能エネルギー,コンクリート材料や木質材料などの低炭素建材の開発と普及,水素エネルギーの導入など目標を達成すべく,幅広く取り組んでいきます。

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中計の中でも主要な施策の一つとして挙げており,建設業界全体としても喫緊の課題である「建設業の担い手確保」についてご意見をお聞かせください。

モノづくりのノウハウや経験,知恵を見える化し,デジタル技術も活用してデータとして,水平展開や伝承できるようにすることが必要で,建設生産プロセスの進化をさらに推し進めていきたいと考えています。しかしながら,建設業は,労働集約的な産業の一面があり,我々の本業,建設現場においてロボット化,自動化が及ばない範囲は必ず残ります。若い人,新規の入職者がいなければ産業として成り立たなくなるのは目に見えています。建設業の魅力が高まり,若い人,新規入職者が増える,具体性,実効性のある取組みを進めなければなりません。具体的には,重層下請構造の改革,建設キャリアアップシステムの推進・活用,技能者の処遇改善,技能者の育成・定着,採用支援,資金援助を実行します。現場の4週8閉所の実現も促進することで,建設業への入職者増加に繋げていきたいと考えます。

一方,日建連,国交省と協同で,担い手確保を目的とした諸制度の制度設計をする必要があります。若い人たちが職業訓練や地位の確保,適正な報酬を受けられるよう大手が主導して取り組むべきです。技能者が長期的に安心して働ける環境,働きたいと思える環境づくりを,継続的に考えて提供できるようにすることが使命だと思っています。

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当社が働きやすい会社,魅力ある会社を目指すために,社員の働き方についてのお考えをお聞かせください。

社員の働き方改革についてはコロナ禍によりスピードが増したと思います。我々建設業は2024年の時間外労働上限規制への対応という点からも課題があります。異なる言い方では,社員一人ひとりのワークライフバランスの実現はもとより,会社・組織の生産性維持・向上,さらには将来当社の門をたたく若者たちに魅力的な会社として見てもらえるか,という観点に立つことが必要になります。デジタル化を進めることで,現業部門のみならず,管理部門においても業務の抜本的な効率化・省力化に挑戦し,時代の変化に対応した環境整備に努めます。

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最後に,今後当社の舵取りをするにあたり,社員へのメッセージをお願いいたします。

デジタル化の進展など変化が速い環境の中で,IT産業ほどの激変はないとしても,今後,建設業も激しい産業構造の変化の波に晒されると思います。しかし,当社がこれまで築き上げた百八十有余年の歴史と伝統は,まさしく変化の繰返しの中で築き上げられてきたものであり,鹿島グループ社員は必ず乗り越えていくことができると信じています。

今年8月から世界貿易センタービルディングの解体が始まります。51年前の超高層の勃興期に,霞が関ビルに続き当社が着手した2棟目の超高層ビルで,「超高層の鹿島」と名を馳せることとなったシンボルタワーの一つです。霞が関ビル以降,超高層のパイオニアとして幾多の実績を残してきた当社にとって,この解体と建替えは,超高層のDNAを持つ当社の歴史に刻まれる大変意義深いプロジェクトであり,新たな挑戦でもあります。また,当社には「居ながら®」に超高層の既存建物の安全性と快適性を高めることを可能とした制震装置TMDがあり,この技術は日本建築学会賞を受賞しています。

※Tuned Mass Damper: 建物に設置した錘の揺れによって,地震の振動を抑制する制震装置

2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取組みが加速する中,当社も開発に携わっている「CO2-SUICOM」というコンクリートは注目されている技術の一つです。これはCO2を吸収・反応させて製造するコンクリートで,製造時のCO2排出量を実質ゼロ以下にすることが可能です。また,数々のダム工事で実適用し,現在成瀬ダムでも稼動中の自動化施工を可能とした「A4CSEL®(クワッドアクセル)」もあります。月面拠点建設を実現するために期待される技術として,建設機械の遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの共同研究も進めています。

社会インフラの整備やまちづくり,建造物の構築など,当社の中核である建設事業の技術やマネジメントを深化させ,併せて,激しい社会の変化に応じた新たな企業価値の創出に挑戦する。こうした取組みに鹿島グループが一体となり,積極的に挑んでいきたいと考えます。この予測が困難な経営環境を乗り越えていくにあたり,一人ひとりの創造的な知恵を積み上げ,社会に必要とされる会社を皆さんとともにつくり上げていきましょう。

天野 裕正(あまの・ひろまさ)
1951年9月26日生まれ 69歳
神奈川県出身

写真:天野 裕正
  • 1975年3月 早稲田大学理工学部建築学科卒業
  • 1977年3月 早稲田大学大学院(建設工学)修了
  • 1977年4月 鹿島建設入社
  • 2003年3月 横浜支店建築部長
  • 2007年11月 横浜支店次長
  • 2009年4月 執行役員建築管理本部建築企画部長
  • 2012年4月 執行役員中部支店長
  • 2013年4月 常務執行役員中部支店長
  • 2014年4月 専務執行役員東京建築支店長
  • 2017年4月 副社長執行役員東京建築支店長
  • 2021年6月 代表取締役社長兼社長執行役員

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