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鹿島グループ中期経営計画2018~2020 押味社長インタビュー

(聞き手:㓛刀欣弥広報室長)

Q 社長が掲げられた「現場第一主義」のもと,中期経営計画(2015~2017)の目標達成に向け,全社をあげて取り組んできました。3年間を振り返り,今の思いをお聞かせください。

写真:インタビューの様子

Photo:吉岡卓二

当時,何をすべきかは明確に見えていました。単体建設事業の再生・強化です。そのため構造改善を実施してきたのですが,最初に社員の皆さんにお願いをしたのは,建設業として基本となる生産活動を忠実に実行していくことでした。つまり,お客様が満足する品質を,安全な施工で,決められた工期内に納めていくということです。それには,入手までにお客様のニーズをプロフェッショナルとして具体的な形にして提案するとともに,工期の最後まで施工の合理化や生産性の向上に取り組んでいく必要があります。その時,肝要となるのは,中村会長が社長時代に伝えてきた“所長を一人にしないで,皆で考えていく”を着実に遂行し,モノ造りの主役は現場であり最重要部署だという共通の思いを持つことです。これが全社に浸透し,成果として国内建設事業の利益向上という目に見える形で表れ,目標値(2017年度・連結経常利益650億円)を大きく上回ることができたと思います。ただ,これは建設コストが比較的安定し,2020年の東京オリンピック・パラリンピックや米国の好景気など時代の波に後押しされているという認識も必要です。

Q 当社グループを取り巻く経営環境の見通しと新たな中期経営計画(2018~2020)の概要について,お教えください。

2020年度頃までの国内外の建設・開発市場については,施工量は増加傾向にあるものの,急激な変化はないと見ています。ただ,利益を上積みしていくには更なる創意工夫が求められます。競争の激化により建設コストの上昇が懸念されるからです。

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2021年度以降については,非連続な経営環境への対応が必要となります。非連続とは何かを,少し説明します。どの時代であっても,企業を取り巻く環境の変化に対応しながら,事業活動を続けていくのが宿命です。しかし近年は,IoTやAIの急速な技術革新など経営環境に変化をもたらす数多くの要素があります。そのため環境の変化がスピードアップし,実際には連続している変化が非連続的に見え,対処すべき課題が,突然押し寄せてくる状況になるのです。これは,建設業にとっても例外ではなく,これに備えることが必要なのです。

こうした状況の中で始動したのが,「鹿島グループ中期経営計画(2018~2020)」です。好調を維持しつつ,2021年度以降も成長を続けるために重要なスタートとなります。将来の非連続な経営環境への対応のほか,日本の少子高齢化や現在は旺盛な再開発案件の減少を考慮すれば,国内の建設市場は縮小傾向であることを受け止めざるを得ません。前回の中期経営計画でも,この縮小市場に備えるため,2020年度までの経営の方向性を示し,先駆的な価値ある建設・サービスの提供やグループ経営基盤の確立に向けて積極的に取り組んできました。その結果,海外事業における新市場への進出や海外エンジニアリング会社の買収など,新たな収益源が芽生えています。今回の中期経営計画は,これらを土台に,将来の成長を確かなものにするための指標だと考えてください。

写真:インタビューの様子

Q 計画の方針や事業戦略,施策などについて,お聞かせください。

まず,その前提として,鹿島グループの全員に改めて意識してもらいたいことについてお話しします。全ての事業活動が,常に社会とつながっています。環境やエネルギー,就労,法令遵守(コンプライアンス)など様々な課題を放置すれば経済の成長は続かず,健全な社会を築けません。私たちには,これらの課題を解決し,持続可能な社会を実現する責任があります。この責任を果たしてこそ,企業価値が高まり,永続的に生き残れる企業グループへと成長できるのです。そのためESG(環境・社会・ガバナンス)を重視し,環境・エネルギーに関する取組みの推進,生産性向上と就労環境改善,リスク管理体制強化と人材の確保・育成などについて重点的に実施していきます。また,コンプライアンスについては,最も重要な経営課題として取り組んできましたが,更なる徹底に努めていきます。

このことを皆で共有した上で,基本方針である「次世代建設生産システムの構築」「社会・顧客にとって価値ある建設・サービスの提供」「成長に向けたグループ経営基盤の確立」を受けて,これからお話しする様々な事業戦略を展開していくことになります。成長のために何をするか。シンプルに言えば“次の時代へ種をまく”ということです。鹿島グループの強みを発揮できる有望市場や成長分野に対して,積極的に投資を行い,将来にわたりお客様,株主・投資家の皆様,ビジネスパートナー,社員,そして社会へ利益を還元できる仕組みを構築していきます。

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中期経営計画の基本方針と経営環境の見通し

図版:中期経営計画の基本方針と経営環境の見通し

Q 具体的な投資先について,お教えください。

開発事業を中心に3年間で5,000億円の投資を行います。海外では,これまでの方向性を引き継ぎながら,新市場を開拓し,市場の特性に合わせた事業を展開することで,収益源の多様化を図っていきます。シンガポールやベトナム,ミャンマーでの大型複合開発,米国での賃貸集合住宅の開発・建設・運営事業などを手掛ける企業の買収などが代表例でしょう。その際,重視するのは,単なる開発事業者としてではなく,施工会社を育成することです。地元ゼネコンとの協業やM&Aによるグループ会社化などにより,同じ志を持ってモノ造りができるビジネスパートナーとして成長を促していきます。国内の開発事業は,これまで培ってきた企画提案力や技術力,ノウハウを活かしながら,共同事業者とともに付加価値の高い事業を創出していきます。

また,R&Dを戦略的に推進するための投資にも力を注ぎます。生産性を向上させる技術開発に加え,環境・エネルギー分野や斬新な技術・アイデアの探索などを行っていきます。さらに,多様な人材の確保・育成などグループ経営を支える経営基盤を整備するための投資も積極的に実施し,競争力強化と持続的な成長を促していきます。

写真:インタビューの様子

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有望市場・成長分野に対する取組み

図版:有望市場・成長分野に対する取組み

Q 働き方改革が注目されています。生産性向上に関する技術開発と関連性が高いと考えて良いでしょうか。

そのとおりです。当社の働き方改革は,現場において原則4週8閉所,年間で104閉所を実現していきます。重要なのは,社員だけでなく協力会社にとっても魅力ある就労環境を整備することです。休日確保のほか,技能労働者の賃金水準の維持・向上などに取り組んでいきます。それは,次世代を担う若手が,希望の職業として建設業を選択し,長く働いてもらえることにつながるのです。2018年度以降,首都圏での超大型工事の施工が山場を迎えます。そうした環境での対応は,困難だと感じる人もいるかもしれません。しかし,私たちは協力会社の発展があってこそ,ゼネコンという業態が成り立つと認識し,そのための演出をする責務があります。従来から進めてきた多能工を育成するグループ会社をさらに進化させるとともに,協力会社の採用活動や教育訓練などを支援していきます。これは,先程お話ししたグループ経営を支える経営基盤の整備やESGの観点からの投資であり,当社グループの持続的成長や中長期的な収益につながるのです。

一方で,当社グループの事業は,お客様のニーズに応えることで,長きにわたり続いてきたことを忘れてはなりません。働き方改革は,お客様の経済活動を阻害しては成立しないと理解してください。そこで生産性を向上させるためのR&Dが必要となるのです。省人化・自動化技術の開発やBIM・CIMの活用促進などにより,スマート生産,現場の工場化を戦略的に推進していきます。

図版:働き方改革と生産性向上

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Q R&Dの推進方法について,これまでとの違いはありますでしょうか。

オープンイノベーションを推進していくことです。今後,非連続な経営環境への対応が求められる中で,当社グループの経営資源だけでは,新たな価値(イノベーション)を生み出すことに限界があり,厳しい競争下で生き残ることはできません。外部から技術やアイデアを取り込むことで,研究開発が一挙に進み,社会やお客様の要請にスピーディに対応できるのです。ベンチャー企業や⼤学,研究開発法⼈など外部リソースの探索を行い,R&Dを戦略的に進めていきます。

また,現場で日常的にやってきた業務フローを今一度,見直すことも大切だと考えています。従来から精緻な分析を行ってきましたが,製造業など他産業で行われる業務分析手法を用いて,更なる生産性向上を図っていく必要があります。

写真:インタビューの様子

R&Dの戦略的推進

図版:R&Dの戦略的推進

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Q 環境やエネルギーに関する取組みについて,お聞かせください。

2016年にパリ協定が発効されたことは,ご存知かと思います。2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みで,グローバルに事業を展開する企業にとって,ESGの観点から大きなインパクトを持ちます。当社では2013年に「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」を策定しました。持続可能な社会を「低炭素」「資源循環」「自然共生」の3つの視点でとらえ,2050年までにCO2排出量ゼロ,産業廃棄物ゼロ,生態系へのインパクトゼロの3つのゼロを目指しています。今年度から,このビジョン達成に向けた取組みをさらに加速させていきます。具体的には,全現場でエネルギー消費量の削減やエネルギーの多様化に取り組み,2030年時点での具体的な数値目標「ターゲット2030」を達成します。

考慮すべき点は,自社の事業活動に限りません。お客様の事業活動支援として,当社グループが保有する優位技術を提案し,お客様の環境課題解決に積極的に取り組んでいきます。例えば,再生可能エネルギーやZEB(ゼロ・エネルギー・ビル),水素などの次世代エネルギーなどの技術です。また,先端技術を保有する企業などの知見を取り入れながら,当社の技術の進化,発展を図っていく考えです。

環境・エネルギーに関する取組み

図版:環境・エネルギーに関する取組み

Q グループ連携について,どのようにお考えでしょうか。

建設事業には,企画・開発からエンジニアリング・設計,施工,運営・管理,維持・修繕まで様々な周辺ビジネスが存在しています。鹿島グループ各社は,国内外を舞台に,それぞれの市場で事業を展開し,連結の好業績に大きく貢献してくれました。前回の中期経営計画から,鹿島グループが持つ強みを活かせる事業領域の強化・拡大を目指し,企画・開発などの上流分野への関与拡大や運営・管理などの下流分野の収益化を進めてきた結果です。

今回の中期経営計画では,各社が展開する技術やサービスを有機的に結び付け,上流から下流に至るまで,価値ある建設サービスをお客様に一貫して提供できる体制を構築したいと考えています。グループ連携をさらに促進し,エンジニアリングやコンサルティング,維持管理,リニューアルなどの市場において,建設周辺ビジネスの新たな需要を掘り起こします。

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Q 新たな中期経営計画を進める上で,社員へのメッセージをお願いします。

まずは,鹿島グループが一体となり,ベクトルを合わせ,今回掲げた数値目標の達成を目指して,ともに頑張っていきましょう。そして,冒頭でお話ししたように,これまでの好業績は,時代の波に後押しされた側面があることを認識してください。資源国でない日本は,外部環境に大きな影響を受けるのです。2021年度以降の急激な経営環境の変化は,向かい風となる可能性もありますが,この3年間で,しっかりと準備をしていけば,この変化をチャンスに変えることができ,必ず業績を維持できると確信しています。そのためには,地域や種別にとらわれない機動的な人事配置が必要となりますので,社員の皆さんにはご理解いただきたいと思います。

非連続な経営環境では,これまでの常識が覆され,建設業のビジネスモデルが大きく転換する可能性を秘めています。

「旧来の方法が一番いい」という考えを捨てよ。現状維持を是とせず,進取の精神で新たな挑戦を続けていきましょう。

中期経営計画の年度別経営目標

図版:中期経営計画の年度別経営目標

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