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ホタルの棲み処をつくる

夏の夜に光を放ちながら水辺を舞うホタルは,神秘的な自然の美しさを象徴する生き物として親しまれてきた。
ホタルは幼虫の時期に水中,さなぎは土中,成虫は地上(植生)と多様な環境で一生を過ごすため,
自然環境が豊かに保たれている場所にしか棲みつくことができない。

ホタルが棲むビオトープ

産業構造の変化や気候変動の影響で里山環境が衰退し,生き物が減少し始めている。この問題を解決すべく開発されたのが「ホタルが棲むビオトープ」

当社は①ホタルの生息環境調査・施工計画立案②ホタル幼虫とカワニナ(餌の巻貝)の高効率飼育増殖技術③環境DNAを活用したホタルの幼虫生息調査技術を確立することで,ホタルが棲み続けることができる生息空間を創生する。

※ビオトープ… Bio(生物)+Top(場所)の合成語で,生物が生きられる空間を意味する

図版:エコアくまもとに創生されたビオトープ

エコアくまもとに創生されたビオトープ

ホタル幼虫とカワニナを飼育する
新技術

ビオトープ創生初期に放流するホタル幼虫やその餌となるカワニナは,遺伝的多様性を考慮し地域固有のものを使用する。当社は,必要最低限の個体を採取し,効率的に飼育増殖できる装置を開発。飼育増殖装置は,ホタル幼虫飼育部とカワニナ増殖部から構成され,ホタル幼虫の成長状況に合わせて最適な大きさのカワニナを供給する。カワニナ増殖部では,従来のものと比較して稚貝の生残率が10%から50%に改善されたことが確認されている。「子どもでも管理がしやすく,扱いやすいことも特長です」(リン上席研究員)。

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環境DNAを用いた
ホタル幼虫生息調査

ビオトープを適切に維持するためには,ホタルの生活史の多くを占める,幼虫期の状況の把握が重要となる。しかし,幼虫は0.5~2.5cmと小さく,石の隙間や草の根元に隠れていて見つけることが難しい。

そこで当社は,生物が自ら生息環境中に放出したDNAを分析することで,在・不在や量を推定できる環境DNAを用いた新技術を開発した。技術開発に携わった大野主任研究員は「魚を中心に,水を汲んで分析するだけで,その場所にいる生物を把握できる環境DNA技術を,ホタルにも活用できるのではないかと考えました」と話す。ホタルのDNAを検出するため,独自のPCRプライマー(ホタルのDNAを判別する目印)を開発,生息地でモニタリングを行い,ホタルのDNAが検出できることを確認した。

図版:ホタルの生活史と生息環境

ホタルの生活史と生息環境

子どもたちとともに守り続ける

当社が施工した公共関与産業廃棄物管理型最終処分場「エコアくまもと」(熊本県玉名郡南関町)では,「ホタルが棲むビオトープ」技術を適用し,施設敷地内でホタルが棲める環境作りに取り組む。現地での水路試験によりホタル幼虫とカワニナに最適な水路環境を把握し,その結果をもとに水路を設計。カワニナは,必要最低限の量を採取し,飼育増殖装置を用いて,10倍に増殖してビオトープに放流した。

2015年11月の竣工後も,カワニナの生息密度や環境DNAによるホタルの幼虫の生息調査を行いながら当社グループ会社の鹿島環境エンジニアリングとともに維持管理を続け,ホタルの飛翔を確認している。「ホタルは興味をもってもらいやすい生き物なので,子どもたちに日本の自然が豊かで貴重な存在だと知るきっかけになってほしい」(大野主任研究員)と研究への想いを語る。2019年からは南関町立南関第二小学校の授業で,当社の技術を用いたホタル幼虫の飼育や放流を開始。現在も子どもたちや地元の方々とともにこの地のホタルを守り続けている。

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図版:ビオトープ創生の流れ

ビオトープ創生の流れ

図版:今年3月にも南関第二小学校の子どもたちとともにホタル幼虫とカワニナの放流を行った

今年3月にも南関第二小学校の子どもたちとともにホタル幼虫とカワニナの放流を行った

ContentsJune 2023

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