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干潟をつくる

干潟は全国の河口部,沿岸部において大小規模を問わず形成が見られる。
藻類,貝類,魚類などが生息し生態系の循環において重要な役割を果たすが,都市部の発展とともに
消滅が危惧される場所となった。東京湾では,この100年で90%以上が消滅したとも言われている。

注目を集める干潟

ウェットランドは水と陸が出合う場所にできる。「地球の浄化槽」「生命のゆりかご」とも呼ばれ,生態系における水域浄化・大気中のCO2吸収庫としての有用性から近年注目をあつめるようになった。その代表が干潟である。

「1990年代は,建設会社として生き物の棲める『場』をつくることが求められました」(リン上席研究員)。当社は,当実験場設立初期から人工的に干潟をつくる研究や,そこに棲むハゼやカニなどの生き物の研究を行ってきた。

図版:トビハゼ

トビハゼ

30年以上トビハゼを見守り続ける

当社は1991年~1992年にかけて江戸川放水路(千葉県市川市)において水害から住民を守る護岸改修と,この地が北限といわれるトビハゼが生息できる泥干潟の再生を両立する取組みに参画した。トビハゼが生息可能な護岸構造と工法を計画するほか,工事前に生息している860個体におよぶトビハゼを市民団体とともに保護。工事完成まで,リスク分散として当実験場を含む3ヵ所で保護飼育を行い,完成した干潟に再び放流した。放流後の個体数の追跡調査でも工事前に劣らない結果が得られ,干潟は復活した。この計画を主導した柵瀬さんは,竣工後も夏の産卵時期に毎年欠かさず足を運び個体数の推移を確認し,30年以上この地を見守り続けている。「現在もトビハゼはたくさん棲んでいます。計画した人間には責任があります。つくりっぱなしにはしません」。

図版:ヨシ原が広がる約500mにおよぶ江戸川放水路のトビハゼ人工干潟。土壌の穴はカニの棲み処

ヨシ原が広がる約500mにおよぶ江戸川放水路のトビハゼ人工干潟。土壌の穴はカニの棲み処

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都心で生き物に触れられる水辺

当社は,大小の潮だまりが干潟の生物多様性の基盤であることに着目。芝浦アイランド(東京都港区)ではかつての江戸前を蘇らせようと,1995年に開発した「潮だまり干潟付きテラス護岸」で潮の干満により出現する潮だまりと干潟を人工的に再現した。再現された潮だまりや干潟は,藻類や魚介の生育の場となり,マハゼ・ウナギ・テナガエビなどの生物が棲みついており,現在でも干潟としての有効性が確認されている。

生物の棲み処であると同時に人も楽しめる公園干潟としても活躍。地元の小学校の課外授業や,住民による生物調査,マハゼの資源調査を目的とした釣り大会の場にもなった。

図版:現在の潮だまり干潟付きテラス護岸

現在の潮だまり干潟付きテラス護岸

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column

カワスナガニを
稚ガニにすることに成功!

干潟が腐敗しない要因のひとつにカニが土壌に穴をたくさん掘ることが挙げられる。穴を掘ることで耕起状態が保たれ,生き物にとって良好な環境が創出される。この働きに注目し,カニの人工生産技術を開発したリン上席研究員は,絶滅が危惧される「カワスナガニ」を塩分濃度や餌を試行錯誤することで,2012年に稚ガニにすることに成功した。

カワスナガニは卵からゾエア幼生となり,5回の脱皮を繰り返して,メガロパ幼生という成体に近い形へと変態し,次の脱皮で親ガニと同様の生活をする稚ガニとなる。「メガロパ幼生までは人工的に飼育されていましたが,稚ガニにしたのは当時世界で初めてだと自負しています」。

ゾエア幼生

ゾエア幼生

メガロパ幼生

メガロパ幼生

図版:カワスナガニの稚ガニ

カワスナガニの稚ガニ

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