今回の大修理を行ったことで新たな歴史を紐解く発見が数々あった。
その代表例が,瑞巌寺の前身である円福寺の場所,規模がわかったことだ。1259年頃に創建されたとされる円福寺は,14世紀はじめに一遍上人の遊行を描いた絵巻「遊行上人縁起絵」でその様子が描かれているが,こうした絵図は想像図であることも多い。今回,大修理に伴い本堂下の発掘調査を行った結果,瑞巌寺本堂の位置に同じ規模の建物があったことを示す礎石が見つかった。それが円福寺のものであり,当時の伽藍配置が判明した。特に,本堂南側で発見された一辺が45cmの正方形の石が整然と敷き詰められる四半敷の様式は,禅宗寺院の寺格を表すものとされ,関東十刹にまで昇進した円福寺の寺格を物語っている。
もう一つ挙げられる大きな発見が,本堂の主要な壁に筋違が施されていたことだ。筋違は室町時代に建てられた建物からも見つかっているが,一部に採用されているだけで,瑞巌寺のように部屋境の壁に数多く採用されている例はこれまで発見されていない。使われていた和釘の種類や,創建当初に入れられていないと納まらない場所にあることから,これらの筋違が創建当時のものであることがわかった。
保存・修理事業は創建時の姿を保存することを基本に進められる。しかし,構造計算などから最新技術との融合が図られることもある。
今回の工事では,新たにコンクリート基礎の構築(『柱を直す』参照)と本堂壁の耐震補強工事が行われた。耐震補強は,ポリカーボネート板を特殊穴あけ加工してパネル化したものを,壁内に仕込むものだ。瑞巌寺専用に開発された工法で,文化財建造物保存技術協会が採用を決めた。ポリカーボネート板のうえにボードを貼り漆喰を塗るため,外から見えることはない。原状保存の原則に則った補強といえる。こうして加えた現代の技術が,次の大修理への新たな足跡を刻んでいく。