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3環状道路への期待

私たち建設業が“造る”という側面で一翼を担う「3環状道路」――。
供用開始により初めて,“渋滞緩和”や“物流の信頼性向上”などの役割を果たすことになる。
「3環状道路」を“使う”という視点から話を伺った。

物流業界の視点から

渋滞は,私たち物流業者にとって,荷物を延着させ,運転手の焦りを生み,事故を引き起こす原因であり,日々戦わなくてはならない“手強い敵”といえます。

3環状道路が整備されると,主要渋滞ポイントが600ヵ所も解消され,平均速度も3割アップするといわれています。これが実現すれば,“約束した物を,約束した時間に届ける”という物流サービスの基本を効率良く展開することが可能です。例えば,八王子など多摩地区と横浜港,東京港を結ぶ国道16号は慢性的な渋滞が続き,輸送時間が読めないルートでしたが,圏央道を利用することで定時輸送が確実にできるようになりました。全線開通により,さらなる効果に期待しています。また,6割から7割ともいわれる都心に用のない車がバイパスすることで,都心中心部における小口配送の物流効率も向上すると考えています。ドライバーにとっても,限られた時間のなかで無駄なく効率的に配送業務ができるとともに,交通事故率の低い高速道路中心の輸送は,安全面でのメリットもあります。

道路に対する信頼性や安心感は,お客様の物流に対する期待に応えるための土台です。スムーズで事故のない道路,高度な物流サービスに支えられた豊かな生活――子どもの頃,よく目にした“未来の都市”が,あと数年で現実となります。その基盤となるのが3環状道路。そこは,私たちの企業理念である「物流から新たな価値を創ること」に挑戦する舞台でもあります。

図版:日本通運 業務部 岡部憲一次長

日本通運 業務部 
岡部憲一次長
日本通運は,1937年に設立された物流業界国内最大手で,災害対策基本法における指定公共機関である。自動車輸送,鉄道利用輸送,海上輸送,船舶利用輸送,利用航空輸送,倉庫,旅行,通関,重量品・プラントの輸送・建設,特殊輸送,情報処理・解析などの総合物流事業を展開する。岡部次長は,物流業務の作業管理,効率化に関する職務を担当している。

改ページ

「渋滞学」の視点から

渋滞による経済損失は十数兆円という数字を耳にすることが多いと思います。都心のビジネスや生活には,渋滞は付き物となり,環境に与えるインパクトも計りしれません。その渋滞を研究対象としたのは,首都圏への人口集中が急激に進むなかで,問題がさらに深刻化すると考えたからです。渋滞が嫌いというシンプルな動機もあったのですが――。専門の数学,得意とする流体力学を使って,渋滞を解決しよう。それが「渋滞学」の始まりです。連続する流れを小さな粒の集まりとして捉え,その粒を車に見立てるんです。水や空気と違って,車は人が運転していますから,心理学も取り入れました。その理論をもとに様々実験を行い,何回も渋滞を消すことに成功しました。

3環状道路全線が開通し,首都圏の高速道路ネットワーク網が形成されると,渋滞が起きにくい環境となるのは確かです。でも考えてみてください。GPSやスマートフォンなどで,全ての車が情報ネットワークにつながっている時代。「このルートが目的地に一番早く着きますよ」という情報を走行する全ての人に,同時に伝えたらどうなるでしょう。おそらく,そのルートは渋滞します。数多くの選択肢がある道路ネットワーク網のなかでは,リアルタイム情報が今まで以上に価値を持ち,全体を最適化する情報が求められます。さらに個々が選択したルートや交通状況,実際の物流との関係など,巨大で複雑なデータ集合(ビッグデータ)が収集され,今いわれている経済効果とは比較にならないほど,大きなビジネスを生みだす可能性があります。3環状道路整備は,誰も描いたことのない未来へのスタートなのではないでしょうか。

図版:東京大学 先端科学技術研究センター 西成活裕教授

東京大学 先端科学技術研究センター 
西成活裕教授
1967年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。ドイツのケルン大学理論物理学研究所客員教授などを経て現在に至る。2007年,『渋滞学』で講談社科学出版賞,日経BP・BizTech図書賞を受賞。『東大人気教授が教える 思考体力を鍛える』,『とんでもなく面白い 仕事に役立つ数学』など多数の著書がある。

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