超高齢社会の到来を踏まえ,わが国では医療制度改革が推進され,
国立病院や国立大学病院の独立行政法人化や公立病院改革など,医療施設の再編整備も活発化している。
これからの医療は,個々の医療施設が果す役割を明確にし,ネットワーク化することで,
患者さんの要請に合った質の高い医療を,患者さんが選択していく時代になる。
今回の特集では『医療新時代』と題し,主に「大学病院」「地域病院」「専門治療」という3つのカテゴリーから,
各々の医療が果す役割に応える当社のサービスを紹介する。
年間外来患者数約33万人,入院患者数約15万人に達する三井記念病院(東京都千代田区)は,
高度急性期医療を提供し,城東エリアの基幹病院として地域医療を担ってきた。同病院は創立100周年を機に,
5年にわたる建替え計画を進めている。2009年1月に,中央診療施設と病棟からなる入院棟が稼動。
この9月には外来棟がオープンして,医療新時代へ向けた施設の準備が整った。
新生・三井記念病院が目指す医療とは―― 。髙本眞一院長に伺った。
患者とともに生きる医療
当病院では今年6月,新たな医療理念と基本方針,行動指針を制定しました。その根本にあるのは「患者とともに生きる医療」です。
医療を取り巻く環境は日々変化しており,チーム医療での対応が不可欠となっています。当院では,登録医制度を導入し,地域の医療機関にもチーム医療に加わってもらう体制を構築しました。現在,約700名の医師が登録していますが,私が目指すチーム医療は,こうした医療側だけの関係ではなく,患者を含めたチームです。
医療の主役は患者です。患者が持つ生命(いのち)の力こそ治癒の原動力であり,私たち医療者は,その力をアシストする存在に過ぎません。患者が医療に参加することで生きる自信を取り戻し,患者と医療者双方が“ともに生きていこう”と思い合える信頼関係が構築できれば,それは最強の医療チームとなるでしょう。
チームの一員として,患者は「相応の責任をもって」治療に取り組む。医師は「自分が治した」という意識を捨てる。看護師は「医師の指示に頼らない仕事への責任感」を持つ。そうした自覚が醸成できるよう,講演会などを通じて啓発しているところです。
医療精神が込められた新施設
入院棟と外来棟からなる新施設には,患者とともに生きる医療を実践する様々な要素が盛り込まれています。
高度急性期病院として,最新鋭の医療機器を導入した手術室や各種治療室,検査室などを整備し,中央診療機能を強化しました。病棟は,個室数の増加,4床室中心の病室構成,インテリアやトイレ配置などの工夫で,患者へのホスピタリティを意識しました。開放的なナースステーションも,患者とのコミュニケーションを高めることが狙いです。外来棟の各階には相談コーナーを配置し,患者の医療への積極的参加を促します。動線の工夫やITの導入で,医療者にとっても快適で魅力ある職場を創出できたと実感しています。
もう一つ,私たちの医療精神を強く込めた大切な場所が,外来棟最上階の講堂です。設計変更までお願いして実現して頂きました。普段は職員食堂・会議室として使用していますが,可動式間仕切りで300人収容の講堂になります。患者へ安らぎを提供する各種イベントや交流会,地域医療関係者などを対象としたセミナー・講演会など,チーム医療の強化に活用していきたいと思っています。
ともに生きることは信頼関係を築くこと
昭和45年竣工の旧三井記念病院も,鹿島さんに施工を担当して頂きました。「東洋一の高さを誇る高層建築病院」(当時)は,この40年間,最新・最良の医療を提供できたと自負しております。次の40年も,わが国の医療をリードする病院でありたい。その願いを込めたこの新しい施設計画で,再び鹿島さんと仕事ができたことを嬉しく思います。
鹿島さんの社員は,医療に対する知識が高い。明るくパワーのある仕事ぶりに,私たちも元気をもらいました。患者や医療者を最優先に考え,病院側の意見を真摯に採り入れて下さるものづくりは,スタッフの高い評価を得ています。建物の品質だけでなく,こうした誠意ある仕事を通じて,信頼感は深まります。鹿島さんも私たちのチームの心強いメンバーと認識しています。
工事はあと1年ほど続きます。竣工の喜びをともに分ち合える日を楽しみにしています。
三井記念病院建替計画
三井記念病院は創立100周年にあたる2006年から,約40年の老朽施設の建替え計画をスタート。
旧施設を全て解体し,入院棟と外来棟および中庭などを整備する。2011年9月,全体オープンを迎える予定。
三井記念病院建替計画建設工事
- 場所:
- 東京都千代田区
- 発注者:
- 社会福祉法人三井記念病院
- 総合企画:
- 三井不動産株式会社
- 設計・監理:
- 株式会社日本設計
- 構造設計:
- 当社建築設計本部
- 規模:
- 入院棟―S造一部SRC・RC造 B2,19F,
PH2F 延べ28,748m2 (2008年9月竣工)/
外来棟―SRC・RC造 B1,7F,PH1F
延べ8,260m2 (2010年8月竣工)/
外構整備ほか1,583m2
(全体2011年9月竣工予定)
(東京建築支店JV施工)
最先端医療を目指して,新たなスタートを切った三井記念病院。
医療機能の充実・強化,患者さんへのホスピタリティ,快適な職場環境,
新施設に投入された様々な機能とは―― 。
機能性・安全性を重視した新施設
入院機能と中央診療機能を集約した「入院棟」と外来機能に特化した「外来棟」で構成された新施設。1階~4階部分は連絡通路で結ばれ,両棟のサービス機能を容易に共有できる。外来棟は,患者さんの検査移動の手間や時間を低減するよう,関連する診療科を同一フロアに配置した。
廊下や診療室には,グリッドシステム天井やスチールパーテーションを採用し,進化を続ける医療環境へフレキシブルに対応。19階建ての入院棟には,地震・風揺れ対策に当社の制震装置「HiDAX®」を設置して,患者さんの快適な居住性と安全な医療環境を提供する。
医療新時代の診療機能
入院棟に整備された手術,画像診断・検査,診療・検査などを集中・統合して行う中央診療施設には,ICU(集中治療室)とCICU(冠疾患集中治療室)の分離・増床(計13床),集中治療室と一般病棟の中間病床・HCU(高度治療室)の新設(21床),日本初の血管造影装置付き手術室など,最先端の診療機能を有する。
電子カルテの導入で,より詳細な患者情報を共有,薬剤・診療材料・検体などを自動搬送する搬送設備システムは,人と物の移動の迅速化を実現した。
患者さんへのホスピタリティ
入院棟は個室数を増床(143室),4床室(71室)中心の病室構成となっている(全482床)。患者用エレベータの増強(15台),廊下の拡幅,4床室ごとのトイレ配置,浴槽可変型浴室など充実したアメニティで患者さんを迎える。
外来棟には,自動受付機によるスムーズかつ診察待ちの少ないシステムや,プライバシーを配慮した患者呼出し案内表示システムなどを導入。フロアごとの色分けや見やすいサイン表示など,患者さんにやさしいデザインも特徴だ。7階講堂は患者さんと医療者の交流を促す各種イベントが開催される。
地域の基幹病院を建て替える場合,多くは現行敷地で医療活動を継続しながらの工事が強いられる。
特に敷地面積の限られた都市部では,利用者の安全・動線,医療環境の確保のために,
高度な技術と様々な工夫が必要となる。
東京都千代田区神田和泉町。周辺はビルが密集し,敷地いっぱいに既存施設が建つ三井記念病院の建替え計画は,約5年間で段階的に解体,新築,移転を繰り返す。
看護棟などを解体した後,その場所に入院棟を建設(Ⅰ期工事)。新入院棟と既存棟(外来)を稼動しながら移転済みの既存建物を解体し,新外来棟を建設した(Ⅱ期工事)。
現在施工中のⅢ期工事は,敷地中央の既存棟(外来)を解体し,中庭と車路などの外構整備を行う。
私たちの健康と命を扱う病院の建設は,一つひとつの品質のつくり込みに,使命感と責任を感じます。高品質な建物を建設する「熱意」,厳しい施工条件を克服するための「創意」,病院そして近隣の安全を守る「決意」――当社JV一同,病院の名前にちなんだ三つの「意」をスローガンに,工事を行っています。
新施設の開院に向けては,入院患者の搬送や医療機器の正常な稼動確認など,一般の引越しとは比べ物にならない準備と,確実な実行が求められます。十分な移転期間を確保できるよう,工期短縮を図る創意工夫を行いました。その結果,Ⅰ期工事は4ヵ月,Ⅱ期工事では2ヵ月の工期短縮を実現しています。
現在までにJV社員をはじめ作業員ら約5,000人近いスタッフが,この工事に携わりました。工事事務所には全員の顔写真を掲示して,我々工事関係者も,ともに生きるチームとしての仲間意識を深めています。100年の歴史をもつ三井記念病院の工事に携わることを誇りに,今後も工事に邁進して参ります。