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伊勢湾下を掘り抜く3台のシールドマシンたち

伊勢湾横断ガスパイプライン設置工事

環境性,供給安定性,利便性に優れ,将来も普及拡大が見込まれる天然ガス。
約96%を輸入に頼るわが国は,その安定供給が欠かせない。
中京工業地帯が広がる伊勢湾の海底下では,当社のシールドマシン3台が,
ガスパイプライン設置のためのトンネルを構築していた。

 

図:全体図

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図:縦断図

縦断図

工事概要

伊勢湾横断ガスパイプライン設置工事のうち土木工事
(1工区)

場所:
三重県三重郡川越町 中部電力 川越火力発電所構内 ~愛知県知多市南浜町
知多エル・エヌ・ジー(株)知多LNG事業所構内
発注者:
中部電力
設計:
当社土木設計本部
用途:
ガスパイプライン設置用シールドトンネル
規模:
泥水式シールド工法 延長13,314m 仕上がり内径3.0m
工期:
2008年4月~2011年1月

伊勢湾横断ガスパイプライン設置工事
(シールド土木工事)

(2工区)

場所:
三重県四日市市霞ヶ浦地区緑地内
~三重県三重郡川越町
中部電力 川越火力発電所構内
発注者:
東邦ガス
設計:
当社土木設計本部
用途:
ガスパイプライン設置用シールドトンネル
規模:
泥水式シールド工法 延長3,990m
仕上がり内径2.0m
工期:
工期:2008年4月~2011年1月

(中部支店JV施工)

地図

伊勢湾下を貫通する大プロジェクト

地中で接合する約13km(1工区)と,約4km(2工区)のガスパイプライン設置用トンネルを構築するプロジェクトである。1工区は中部電力発注で,川越立坑,知多立坑の双方向からシールドマシンで掘進し,2工区は東邦ガス発注で,四日市立坑から川越立坑へ掘進する。中部電力と東邦ガスが共同運用する知多地区LNG基地と川越,四日市を結ぶことで,ガスの安定供給のバックアップ体制が整う。

2008年4月,当社は,1工区を川越工区,知多工区,2工区を四日市工区とし,工事事務所を立ち上げた。

キーワードは長距離・高速・高水圧対策

数社コンペによるこのプロジェクトは,約13kmの長距離トンネルを約10ヵ月で地中接合する高速での施工,0.5MPaを超える高水圧対応が必要だった。当社は様々な技術提案で,受注に至った。

長距離高速施工のために,マシン先端で土砂を削るカッタビットには耐衝撃性,耐摩耗性を備え,掘削途中で交換の必要がないE-5材を使用。土留めと支保工の役割を果たすセグメントは,トンネルの内径で運べる最大幅で,押すだけで組み立てられるDS継手(当社とジオスター社の共同開発)を採用した。

川越工区は平均月進700m,知多工区は650mという,当初計画を上回る国内最速クラスで掘削。川越側では,月進934mの記録も残した。高水圧対策では,シールドマシンの最後部に設ける止水材のテールシールを4段装備にし,耐久性とともに止水性を高めた。

セグメントは高炉セメントB種を採用し,高い耐久性を確保した。「M8クラスの東海・東南海・南海地震が同時に起きた場合でも耐えられる強度を持っています」と辻井孝統合所長。セグメントが鋼製の2工区トンネルも,耐久性などは1工区と同様。シールドトンネルは完成すると,トンネル内にガスパイプラインを敷設,モルタルを充填した後に密閉される。100年耐用でメンテナンスの必要がないという。

伊勢湾横断ガスパイプライン設置工事の流れ
(土木工事は②まで)

図:伊勢湾横断ガスパイプライン設置工事の流れ

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図:泥水式シールドマシン断面図

泥水式シールドマシン断面図

写真:シールドマシンを川越立坑に投入

シールドマシンを川越立坑に投入

写真:橋形クレーンでセグメントを下ろす

橋形クレーンでセグメントを下ろす


写真:川越立坑内の川越工区の発進坑口(左)と四日市工区の到達 坑口(右)

川越立坑内の川越工区の発進坑口(左)と四日市工区の到達 坑口(右)

写真:運転席に災害防止用の鉄板を取り付けた四日市工区のバッテリーロコ。台車を繋ぎ,セグメントを搬送

運転席に災害防止用の鉄板を取り付けた四日市工区のバッテリーロコ。台車を繋ぎ,セグメントを搬送

機械化施工の最先端

「トンネルの掘削は,高い精度での測量が一番大変」と辻井所長は話す。掘削する都度,目的点においた反射鏡からの光の位相差で距離を計測する光波測距儀でマシンの位置を測定する。

さらに精度をあげるために,真北方向を高精度に観測できるジャイロを導入。1工区では1kmごとに,曲率半径が40mという急な曲線地点のある2工区では,カーブの前後で使用した。計算上の位置と実測とで,測量の目安となる方向角通りにマシンが進んでいるかを確認して,測量の精度を上げる。

写真:ジャイロでの測量は1日がかりの作業になるため,現場が稼動していない日に行われた

ジャイロでの測量は1日がかりの作業になるため,現場が稼動していない日に行われた

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鹿島が出会う地中ドッキング

1工区のクライマックスは地中ドッキング。シールドマシンはどちらが先着しても,受入れ・貫入が可能なカッタフェイスになっている。先着・後着に備え,両方のマシンに位置探知用の磁石やRI(ラジオアイソトープ)線源を通す穴を設置した。

マシン同士の間隔が50mまで近づくと,地中接合に向けた測量が始まる。シールドマシンは前へ進む機能しかないので,失敗が許されない。先着した川越工区のマシンから水平探査ボーリングを行い,知多側の磁石がついたカッタフェイスを回す。ボーリングマシンに装備された磁気センサの測定で,相対位置を把握する。

磁気探査を終えると,相対位置把握の精度を高めるために,RIセンシングをする。後着のチェックボーリング用穴にボーリングマシンを通過させRIセンサを当てて,シンチレーションカウンターと呼ばれる計測器で放射線を測定。測量と掘進を繰り返し行い,誤差をなくしていく。磁気センサの精度がφ100mmに対し,RIセンサはφ10mmの精度になる。接合は8月18日。誤差はわずか9mmだった。

図:地中接合ステップ

図:地中接合イメージ

地中接合イメージ

図:先着・後着に備え,受入れ貫入が可能なカッタフェイス。見た目はほぼ同じだが,掘削する土質に合わせてカッタビットの数と形状は異なる

先着・後着に備え,受入れ貫入が可能なカッタフェイス。見た目はほぼ同じだが,掘削する土質に合わせてカッタビットの数と形状は異なる

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地中ドッキングが終わって

9月1日,最難関の地中ドッキングを終えた1工区を見学する。当日の気温は34度。エレベータで川越側の坑口から入ると,内部はひんやりと涼しい。坑内温度は17度だった。バッテリーロコに乗る。目の前を電車が通り過ぎる時のような大音量が切羽到着までの40分間続く。距離にして6.7km。耳栓を渡された意味を理解する。「時間を節約するため,所員はこの移動中に,交代する所員に伝える引継ぎ用の測量計算をしていました」と,案内してくれた恒川照康工事課長。

シールドトンネル内は,マシンの動力や送排泥管設備などが撤去され,接合しているカッタフェイスとバルクヘッドと呼ばれる隔壁だけが残っている。水の浸入を完全に塞ぐため,ブライン(冷却液)で接合部の土を凍らせる作業をしていた。この周辺は,冷蔵庫の中のように冷たい。鉄板で凍結部を補強,隔壁を外して,9月29日に無事貫通式を迎えた。

写真:恒川工事課長

恒川工事課長

写真:内径が小さいため鋼製のセグメントでトンネルを構築する四日市坑内では,屈んで作業

内径が小さいため鋼製のセグメントでトンネルを構築する四日市坑内では,屈んで作業

写真:掘削を終えたシールドマシン(四日市工区)

掘削を終えたシールドマシン
(四日市工区)

写真:繋がった川越・知多工区

繋がった川越・知多工区

写真:内径が大きい1工区では,構造面・経済性・作業性からRCセグメントを使用(川越工区)

内径が大きい1工区では,構造面・経済性・作業性からRCセグメントを使用(川越工区)

所長座談会

このプロジェクトの特徴は,3つの工事事務所と統括する統合事務所があり,4人の所長がいること。
4所長に工事や意思の疎通の上での苦労話などを聞いた。

伊勢湾横断シールド統合事務所 辻井孝所長
川越工区JV工事事務所 臼井徹弥所長
知多工区JV工事事務所 岡本正芳所長
四日市工区JV工事事務所 大坪道夫所

写真:所長座談会

3工区のベクトルを揃える

辻井:私はプロジェクト始動当初は川越工区の所長で,途中から統合事務所を任せられました。その時考えたのが,各工区の所員・作業員の目標を明確にして,いかにベクトルを揃え,共通認識を持つかということ。毛利元就の3本の矢ですね。

臼井:週一で辻井所長から,全所員・作業員にメールが届く。訓示というか,アドバイスです。

大坪:工事事務所が異なると,なかなか辻井所長との接点がないが,これでプロジェクトの一体感が生まれた気がします。

辻井:私はいつも作業員と同じ気持ち,同じ目線でと心掛けた。作業員と同じつなぎの作業着も,その表れの一つのつもりでした。

大坪:プロジェクトとしての3工区全体のまとまりに加えて,各工区それぞれのチームワークにも気を遣いましたね。

臼井:川越工区は,1,000リング掘り進むごとに全員参加の慰労会を開いていた。セグメントが1リング1.35m なので,1.35kmが目安。誰ともなしに「そろそろですね」なんて声が上がったりして…。

岡本:知多工区も家族みたいに仲が良かった。私が父親で,他のメンバーは長男や次男。工事を進める上では,方針を示した後は,若手に任せてみようと思っていました。

大坪:厳しい環境下で粛々と対応し,最大限努力してくれた社員と作業員には本当に感謝しています。

辻井:全工区,協力会社も同一なので,作業員の皆さんにもライバル心があったね。それが切磋琢磨に繋がった。

岡本:良いスパイラルが生まれました。知多工区は川越工区と鏡の位置関係にあるので,反対側の掘進距離などを気にしていた。川越工区より掘ってやろうという意識はあったと思う。川越工区の追い上げで,最終的にはほとんど差はなかったですが。

大坪:四日市工区も,内径,セグメントの素材などの仕様は違っても同じプロジェクトですから,他の工区に迷惑を掛けないようにと思っていた。シールドマシンが一台だけ到達しなかったら大変ですから。

それぞれの工区で苦労も違う

臼井:川越工区は砂礫層が続いたため,泥水を送るポンプ,配管などの摩耗が激しかった。超音波板厚計で部材の摩耗状況を測定し,最適なタイミングで交換するのです。

辻井:泥水式シールドマシンは,マシン前面の切羽を泥水で充満し,安定を確保しながら掘削するから,掘削土が泥水に混ざって出てくる。地上で排泥水を処理する必要がある。

岡本:知多工区の立坑は緑地帯に造ったので,木を切るところから工事が始まりました。その上,固結した粘土層で地盤が固く,泥水処理設備が目詰まりを起こしてよく故障した。これには手を焼きましたね。

臼井:川越・知多工区の仕様は基本的に共通で,部材も同じだったため,連絡を取り合い,消耗品を融通し合いました。全工区を鹿島が担当したことが大きかったですね。

大坪:四日市工区は,放水路やガス導管,護岸設備など,近接構造物が多かった。桟橋の柱の間をプラスマイナス50mmの精度でシールドマシンが通る箇所では,肝を冷やしました。両側マシンで測量ができるI 工区と違って,一方向のマシンでしか測量できませんから。

新時代の3Kを提唱しよう

辻井:いまは胸を張って,「鹿島は海底下の長距離高速施工をやりました。地中ドッキングも万全です」といえるね。

岡本:伊勢湾の実績が次の仕事につながるといい。バージョンを上げて,大きなプロジェクトを成功させたいですね。

辻井:工事初期にトラブルはあったけど,解決に向けて意見を出し合うことで団結力が生まれた。問題を克服したら施工力も上がります。

岡本:川越・知多工区が地中接合した日と,四日市工区が貫通した日が偶然同じ日だった。あれは,大坪所長の策略だったのでは,という声が上がっていましたよ。

大坪:正確には8月18日の15時00分に川越・知多工区がドッキングして,同日15時40分に四日市工区が川越立坑に到達したのです。

臼井:ドラマみたいなことがあるものだと,所員,作業員皆で喜びました。

辻井:きつい・汚い・危険といわれる建設業ですが,これからの3Kは,感動・希望・協働といきたいですね。現場だからこそ,ものづくりの楽しさが味わえる。

大坪:現場での安全は絶対です。お客様が何かを心配された時,先回りして「こうしているので大丈夫です」という体制を整えていた。

辻井:私たちは会社から付託された貴重な資源,人や設備を使って品質の良い物を安全に造る。それがお客様の信頼に繋がるのだと思う。伊勢湾の実績が鹿島モデルとなり,この経験が次に繋がれば嬉しい。生涯現役を貫きたいという夢を見続けていけます。

写真:辻井所長

辻井所長

写真:臼井所長

臼井所長

写真:岡本所長

岡本所長

写真:大坪所長

大坪所長

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