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環境振動とは,工場の稼動や建設工事作業,周辺道路での車両走行など日常生活の中で発生する振動のことで,地震や風揺れなどの自然発生する振動とは区別されます。騒音と併せ,建設業と深い関わりがありますが,多様化する社会のなかで,様々な低減対策が求められています。環境振動が及ぼす影響と当社の対策について,担当者に聞きました。

環境振動が問題になるケース

建設業で環境振動が問題となるケースは,大きく2つに分けられます。1つは建設工事によって発生する振動です。法令により届出や規制基準の遵守が義務付けられていますが,法令遵守はもちろんのこと,近隣住民への配慮から使用重機の選定など必要な低減措置をとらなければなりません。

もう1つは建物完成後に事業者の事業活動や建物利用者によって発生する振動です。例えば,プレス機や破砕機などの振動発振設備を設置する工場では敷地外に振動の影響が及ばない設計が必要になり,集合住宅や宿泊施設では階下・隣室への振動を低減させる措置が必要になります。事業者の法令違反や事業活動の阻害につながる可能性があり,慎重に検討しなければなりません。

さらに近年では,生産・医療などの技術が向上し,微振動対策も求められています。半導体のような精密機器生産工場では,振動を嫌う機械が設置され,わずかな振動が生産効率や製品の品質に影響を及ぼします。医療機関や研究施設では顕微鏡を使用した研究や手術が行われ,微小な振動が問題になるケースが増えています。建設工事を行う際には,周囲に微振動が問題になる施設がないか調査することが大切です。また,微振動対策が必要になる建物自体を建設する場合は,設計段階で十分な検討が必要です。

いずれのケースも様々な対策技術がありますが,特に建物完成後に振動が問題となった場合は,対策方法が限られ多大なコストを要してしまいます。計画・設計段階で振動発生を予測評価し,対策を講じることが重要です。

図:環境振動問題の検討フロー

環境振動問題の検討フロー

写真:環境振動発振源の例/①解体工事/②工場の破砕機/③交通振動

環境振動発振源の例/①解体工事/②工場の破砕機/③交通振動

新たな予測評価法の開発

環境振動は発振源と地盤や基礎,構造物の組合わせで伝搬する振動の大小が異なってくるため,それぞれで予測評価を行っても信頼性は低くなります。当社は,地盤・基礎・建物を一体としてモデル化し,3次元解析で求める予測評価法を開発しました。耐震安全性の評価で実績がある解析手法をベースにしたものです。これに従来の技術と蓄積された実測データを用いて,あらゆる振動源と基礎・地盤で発生する振動を予測評価することができます。

予測評価の結果,当初の設計案では機器の振動許容値を満たさないことが判明した工場では,柱本数を増やしスパン割を見直して振動対策を行いました。建物完成後に振動測定を行い,振動許容値を満足することが確認されています。

図:開発された振動の予測評価法イメージ。 振動源と地盤・基礎・建物を一体としてモデル化することで, 発生する振動が正確に予測できる

開発された振動の予測評価法イメージ。
振動源と地盤・基礎・建物を一体としてモデル化することで, 発生する振動が正確に予測できる

図:振動・騒音の予測解析イメージ

振動・騒音の予測解析イメージ

図:カラーコンター(広がりを示す分布図)

カラーコンター(広がりを示す分布図)

対応例が増える建替え工事

環境振動への対応例が増えているのが,建物の新設と既存建物の解体を繰り返して行うスクラップアンドビルド方式の工事です。同一敷地内で事業活動が行われていることが多く,建設工事の振動が事業に及ぼす影響が懸念されるため,予測評価をしっかり行うことが大切です。

東京都千代田区で進められている三井記念病院建替計画建設工事では,工事の振動や騒音が入院患者や高度医療機器,手術などに及ぼす影響を考慮し,本評価法による振動評価に加え,騒音を予測するシステムを併用した予測評価を行いました。結果に従い,振動・騒音を低減させる防音パネルの高さや,重機や工法の選定と配置などを計画・実施しています。振動・騒音測定の自動モニタリング調査も行い,一定の測定値を超えた場合の迅速な対応はもちろん,以降の作業に速やかに反映する取組みも行っています。今後始まる解体工事でも既に予測評価を実施しており,最適な対策をとっていきます。

このほかにも環境振動対策が求められる事例は数多くありますが,ストック型社会の実現に向け,「居ながら」工事が増えるなど,これからますます対応需要が高まってくると考えられます。当社ではさらなる予測・対策技術の開発を進め,環境振動の低減に取り組んでいきます。

改ページ

データ収集は“宝物”探し

地を這いながら計測器を並べ,測定に夢中になる。環境振動のデータ収集を行う研究者の姿です。この分野の研究に着手してからおよそ30年が経ちますが,こればかりは当時から変わらない光景です。“宝物”を探すようにデータを拾い集めてきました。真冬の千歳で1mもの凍土を掘削してもらい,基盤の振動測定を行ったこともあります。無理を言ってデータを収集させてもらい,得意先の方や設計・現場に多大なご迷惑をおかけしてきました。皆様のご協力に感謝しております。

今でも“宝物”探しは続いていますが,データやノウハウが蓄積されて臨機応変の判断ができるようになっています。この分野の研究者も徐々に増えて,陣容が整ってきました。若干の経験と勘を頼りにしていた時代は幕を閉じ,これからは大切に集めてきたデータと必死に開発してきた技術がものを言います。より精緻で,より効果的で,そしてよりローコストな対応が求められるなか,それに応えられるよう精進してまいります。皆様方のさらなるご協力をお願い致します。

(研究員一同)

写真:技術研究所・環境振動の研究メンバー後列左から 建築解析グループ岩本賢治上席研究員, 先端・メカトログループ廣山浩上席研究員, 鶴田政博専任次長前列左から 建築環境グループ峯村敦雄上席研究員, 安藤啓専任次長, 石橋敏久専任次長

技術研究所・環境振動の研究メンバー
後列左から 建築解析グループ岩本賢治上席研究員, 先端・メカトログループ廣山浩上席研究員, 鶴田政博専任次長
前列左から 建築環境グループ峯村敦雄上席研究員, 安藤啓専任次長, 石橋敏久専任次長

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