電子デバイス工場を医薬品製造仕様へ
生産施設では,生産活動の継続,新施設の早期操業開始,投資コスト圧縮の観点から,他業種工場のコンバージョンで生産能力の増強を図るケースが増えてきた。
2011年9月に竣工した「大正薬品工業水口工場」は,化学・電気素材メーカーの工場を,製剤の検査・包装を行う施設に改修した事例だ。国の医療費削減を目的とするジェネリック医薬品の使用促進策を背景に,ジェネリック医薬品メーカーの同社は,安定供給に向けた生産量の拡大と本社工場(滋賀県甲賀市)の再整備を検討していた。当社はエンジニアリング本部,関西支店の営業所・建築設計部がタッグを組み,複数の事業提案を行った結果,製造ラインを新設するプランが採用された。着工から約6ヵ月という短期間でのプロジェクト完成を実現させている。
「国内電子デバイスの海外生産への移行,製造業の再編などを背景に,近年,工場の売却案件が増えています。一方,医薬品業界は生産量が増加している。両者のニーズが合致した事例です」。当時,関西支店建築設計部で設計を担当していた外園洋一担当部長は現在,エンジニアリング本部施設計画グループで生産施設の計画・設計を手掛けている。生産施設のリニューアルはスピード感が必須条件だと話す。
【工事概要】
大正薬品工業 水口工場
- 場所:
- 滋賀県甲賀市
- 発注者:
- 大正薬品工業
- 設計:
- 当社関西支店
建築設計部 - 生産設備:
- 当社エンジニアリング本部
- 規模:
- S造 1F 延べ5,573m2
- 改修内容:
- 内装改修,設備更新
- 工期:
- 2011年3月
~2011年9月
(関西支店施工)
目的の異なるクリーンルームを再活用
医薬品製造施設では,製造工程でのクロスコンタミネーション(交叉(こうさ)汚染)防止が必要不可欠であり,また,防虫・防鼠など外部からの生物侵入を遮断する管理された空間が求められる。「大正薬品工業 水口工場」では,インダストリアルクリーンルームを医薬品製造向けクリーンルームとして再整備することが重要な要素となった。清浄度の確保という目的は両者とも比較的近い一方,医薬品製造施設においてはGMP※と呼ばれる製造・品質管理に対する多岐にわたる厳しい取決めがある。既存工場の骨格はそのまま活かし,明快なゾーニングと動線計画,空調・照明設備などの改造を行った。
「品質も大切ですが,働く人にとって快適な環境を提供したい。ここでは,誇りをもって仕事をしてもらえたらと考え,見学窓と見学通路を設置しました。生産施設の場合,窓は極力少なくして密閉度を高めるのが一般的ですが,設計上の工夫で各種査察にも対応した製造エリアを実現しています」(外園担当部長)。
“エンジ本”のエンジニアリング力
エンジニアリング本部生産・研究施設第1グループが,製剤の包装機械の設計・レイアウト,搬入・据付け,試運転調整まで,機械設備に関する一連の業務を担当した。ジェネリック医薬品世界シェアトップを誇るテバファーマスーティカル・インダストリーズ・リミテッドの傘下ということで,提案・交渉,GMPやバリデーション※対応など,全てにおいて高い基準が求められた。完成後のメンテナンス業務も引き継ぎ担当するなど,エンジニアリング本部のサービス内容も充実させた。
エンジニアリング本部は1996年の開設以来,生産施設にターゲットを絞り,プロジェクトの調査・企画から,生産・物流システムも含めた設計,調達,施工,試運転調整,メンテナンス・アフターフォローまでのトータルサービスを目標としてきた。本件は,まさにエンジニアリング本部が目指すべきサービス例である。
現在,半導体製造工場のコンバージョンとして,植物工場への改修プロジェクトも動き出しているという。エンジニアリング本部の豊富な技術とノウハウで,生産施設のリニューアルのバリエーションは益々広がりをみせる。