ホテル・リノベーションマーケット
近年,外資系ホテルの新規参入が相次ぎ,国内のホテル業界の競争が激化している。既存ホテルは単なる修繕に留まらないリノベーションで商品性の価値を高め,生き残りをかける。「商品性強化」「リブランド」「エコロジー」とリノベーションの目的はホテルによって様々だが,中でもマーケットニーズに呼応した施設の改修や充実化によるリブランドは,競争力強化を図る重要な要素となっている。
「オーナー変更やブランドの交代によるリノベーション事例が増えています。ホテルは投資額が大きいため,商品性の変更により同じ建物で長期利用していくケースが多い」。当社グループのインテリアデザイン会社イリアでホテル業務を総括する米原聖一執行役員は,ホテル業界の動向についてこう話す。旧東京全日空ホテルから「ANAインターコンチネンタルホテル東京」へのリブランド(東京都港区・2009年2月竣工),沖縄県名護市にある高級リゾート・喜瀬別邸ホテル&スパの「ザ・リッツ・カールトン沖縄」へのリブランド(2012年4月竣工)など,イリアでは外資系ホテルチェーンの大型プロジェクトをはじめホテルのリノベーションを多数手掛ける。
トータル・インテリア・ソリューション
米原執行役員は,ホテル業界のリノベーションにおける独特な発注形態の変化を指摘する。「外資系ホテルの参入と併せて,インターネットの普及によりユーザー評価の影響力が非常に大きくなっています。流行のコピーやブランド品の陳列では,目の肥えたユーザーの心を打つことはできない時代。競争力のある商品を創り上げるため,発注者は既存施設の設計者・施工者にとらわれない新規のノウハウの提供を各専門分野に求めるようになってきています」。
ソフト分野では,建築・インテリア・設備・ランドスケープといった設計業務の細分化や,フード・物販・美容・ITなど関連するカテゴリーでのコンサルティングの参画も一般化してきた。ハードのつくり込みでは,PM・CM業務に特化した専門業が介在する分離発注, FFE(家具・什器・備品)更新は家具をはじめ食器から備品消耗品と細かく拡大し,メーカー,調達代行会社など関係者との調整が増大傾向にある。ホテルのリノベーションの大半は,時間やコストの厳しい制限の中で行われる。こうした複数参加の複雑な関係性が,スピード感と統一したブランドの確立を妨げる場合もある。「こうした複雑さを取り除き,いかにスムーズにサービスを統合していくかがリノベーションの鍵だと考えます」。
1985年の設立以来,イリアはホテルに代表されるホスピタリティ施設への改修計画の参画に,最大の関心とエネルギーを投じてきた。デザイン業務のみならず,改修計画コンサルティング,FFE調達,特殊内装工事,アートワークコーディネーションなど,業務は拡大しつつある。改修のキーワードとしてイリアが掲げるデザイン業務の〈A to G〉は,サービスの流れの重要性をよく表している。計画分析から設計を経てFFE調達に至る業務の流れを分断せずトータルでスピーディーにサービスを提供するのが,イリアがホテル・リノベーションマーケットに提案するサービスモデルだ。
「インテリアデザインはリブランドの成功を左右する大きな要素なので,我々がプロジェクトの舵取りをするのは有効と考えます。いつも同じパッケージではなくプロジェクトごとに必要なサービスをセットにして組み立て,適合させていくことが大切です」。 インテリアデザイン会社も時代にあった業務のリノベーションで,最新のホテル市場に対応していく。