スマートに再生「東京イースト21」
当社所有の「東京イースト21」(東京都江東区・1992年竣工)は,オフィスやホテル,コンベンションホール,ショッピングモールなどで構成される約14万m2の大型複合施設である。開業20年を機に,昨年10月より21階建てのオフィス棟「イースト21タワー」の内装改修と併せ,非常時のエネルギー供給の自立性を確保する「スマートエネルギーネットワーク」を構築し,2013年3月に完成した。
「オフィス棟は,内装の全面改修,トイレの更新,照明の全面LED化,セキュリティ強化などのリニューアルを実施しています。東日本大震災を契機に,企業のBCP対策への関心が非常に高まっています。大手町から10分圏という立地上,コールセンターやシステム部門,サーバールームといったバックオフィスとしてのニーズが高いため,非常時のエネルギーの安定供給という点に着目し,独自の付加価値を見出しました」。当施設の運営管理を行う開発事業本部資産マネジメント事業部の五十嵐匠担当部長は,ビルスペックに適した差別化でオフィスマーケットの厳しい競争に対応する。
【建物概要】
- 場所:
- 東京都江東区
- 発注者:
- 鹿島建設
- 共同設計:
- 当社設計・エンジニアリング総事業本部(当時),MIDI綜合設計研究所
- 規模:
- RC(地下)・SRC(地上)造 B2,21F,PH1F 延べ141,803m2
- 竣工:
- 1992年7月
頭脳派ネットワークシステム
東京イースト21に構築したスマートエネルギーネットワークは,コージェネレーションシステム(以下コージェネ)が核となっている。ガスエンジンによる発電に併せて太陽光発電など電力の多元化と,コージェネ発電の際生じる排熱を空調・給湯などのエネルギーとして有効利用する。情報通信技術により,これら複数の電力・熱を複合施設の建物間で最も効率よく活用させていく面的エネルギー供給システムだ。
今回,このスマートエネルギーネットワークの付加価値をさらに向上させている。耐震性が高く地震時の供給停止リスクの低い中圧ガスを利用した,自立スタート型(BOS)対応高効率コージェネ用ガスエンジン発電機を新設。ビジネスセンター棟屋上に設置することで,浸水リスクを回避する。さらに,システムの頭脳部となる制御装置〈ジェネスマート〉を東京ガス・エネルギーアドバンス・当社で共同構築。停電時に無駄なく安定的にコージェネの発電が行われるようシステムを制御する。
「〈ジェネスマート〉は災害発生直後から発電機を自動的にスタートさせ,発電容量をコントロールし,優先度に従って電力供給します。平常時は,施設全体でコージェネの発電と排熱を有効利用できます。停電時などの非常時には,優先度の高い電源負荷に電力を供給した上で,発電能力に余裕がある場合は自動的に他の電源にも供給し,発電能力を使い切ります。従来の停電対応のコージェネは,あらかじめ設定した電源負荷にしか電力供給できなかったので,安全・安心でスマートな電力制御システムです」。技術開発を担当する建築設計本部の平岡雅哉本部次長はシステムの有効性を説明する。
〈ジェネスマート〉対応の新規コージェネは,オフィス棟を優先とした電源供給設備として使用される。停電時においてはテナント専有部に20VA/m2の電力を供給するシステム構成となっている。「通常のテナントオフィスでは個別で非常用発電機の設置を行い,大掛かりな工事も必要です。オプションですが新築並みのサービスは画期的なことです」(五十嵐担当部長)。
複合施設に最適な面的エネルギーネットワーク
スマートエネルギーネットワークは,複合施設への導入が最も効果的だと平岡本部次長は話す。オフィス,ホテル,商業など,電力・熱の時間ごとの消費形態が異なるので,面的にエネルギーを有効活用できるからだ。
「大型複合施設へのスマートエネルギーネットワークの普及が活発化しており,現在計画中の複数の新規プロジェクトで導入が検討されています。今回の取組みは注目度が高く,多くの見学者にご来訪頂き,アンケートも実施しています。東京イースト21でシステムの実証とノウハウを蓄積し,新しい街づくりのソリューションとして提供していきたいですね」(平岡本部次長)。