札幌三井JPビルディング新築工事
札幌のビジネス・商業の中心地で市内最大規模の複合施設
「札幌三井JPビルディング」の工事が着々と進んでいる。
この工事の特徴は,地下・地上の躯体を同時に施工する「二段打ち工法」。
掘削後,地下躯体に先立ち,地上1階の床を構築することが工期短縮の鍵を握っていた。
【工事概要】
札幌三井JPビルディング新築工事
- 場所:
- 札幌市中央区
- 発注者:
- 三井不動産,日本郵便
- 設計・監理:
- 日本設計
- 実施設計:
- 当社建築設計本部
- 用途:
- 事務所,店舗,駐車場,地域冷暖房施設,中水処理施設ほか
- 規模:
- SRC造(地下),CFT構造(地上) 制震構造 B3,20F,PH1F 延べ約68,000m2
- 工期:
- 2012年4月~2014年8月
(東京建築支店・北海道支店JV施工)
新しい街の賑わいを創出
札幌の街は,東西を貫く大通と南北に流れる創成川を基線に碁盤の目状に整備される。当社が実施設計と施工を担当する「札幌三井JPビルディング新築工事」は,JR札幌駅から歩いて約5分の場所に位置する。駅前通に面し,西側に国の重要文化財に指定されている北海道庁旧本庁舎があるビジネス・商業の中心地に,約半世紀にわたりオフィスとして活用されてきた「札幌三井ビルディング」を解体し,高さ約100mの市内最大規模の複合施設が建設される。規模は地上20階,地下3階,延床面積約6万8,000m2。同時に隣接する北3条通を「(仮称)北3条広場」として一体的に整備し,新たな街の賑わいを創出する。
この施設の低層部には,地下1階から地上4階まで物販・飲食店を中心に約30店舗の商業施設が入居する予定で,4層吹抜けのアトリウムや5階の展望テラスからは北海道庁旧本庁舎など美しい観光名所が眺望できる。オフィスとなる中高層階は,景観に配慮して低層部よりセットバックしている。6階から19階までフロア面積約1,900m2,3面開口の明るい無柱大空間が実現するほか,鋼板ダンパーを採用した制震構造や災害時も安定的なエネルギー供給が可能な設備が整う。また地下1階では,札幌駅と大通・すすきの周辺を結ぶ「札幌駅前通地下歩行空間」と直結する。
現場運営の秘訣はコミュニケーション
この工事には,総勢40人超の所員が携わっている。大所帯を牽引するのが,これまで東京建築支店で病院など大規模現場を指揮してきた伊藤樹統括所長と,解体工事着手から約6年間,このプロジェクトに携わってきた石井誠所長だ。両者がタッグを組み,北海道最大規模のプロジェクトに挑んでいる。「肝心なのはコミュニケーションです」と2人は口を揃える。その一例が,“朝礼システム”の導入である。事務所の会議室および作業員休憩所で毎朝6時半から約10分間隔で,その日の作業手順や注意点などを映像で流す。都合に合わせて作業員が朝礼に参加できる仕組みで,伊藤統括所長の発案だ。「作業員の数は最盛期になると500人を超すでしょう。敷地内に十分な朝礼スペースが取れず,朝礼後の作業員によるエレベータのラッシュも懸念されていました。前日までに映像制作をするので手間はかかりますが,作業員一人ひとりへの周知とグループのコミュニケーションには欠かせません。確実に内容を伝えられることから,聞き漏れなども防げます」と語る。また,職長と所長のコミュニケーション会を定期的に開催し,協力会社とのFace to Faceの交流も忘れない。
部署横断したコミュニケーションの大切さを強調するのが,初期の段階からかかわる北海道支店の石井所長である。「北海道支店や東京建築支店,建築管理本部,建築設計本部,技術研究所など多くの関係部署に技術的な支援など様々な協力をしてもらい,今があります。その結晶として最後の仕上げを担当するのが現場です」。鹿島の総合力が活かされた現場だと熱く語る。
地下・地上躯体を同時に施工する「二段打ち工法」
2人が率いる現場を訪れたのは,9月中旬。上棟式を8月に終えて,ビル上に据え付けられたタワークレーンはすでに解体が始まっていた。昨年4月の着工から約1年半,大規模なビルをどうやって建設してきたのか。これまでの苦労を,現場を案内してくれた監理技術者の有江暢亮次長が教えてくれた。
この施設は,市内に冷暖房を供給するエネルギー拠点にもなる。ここで課題となるのが,他社施工で行われる地上5階の屋上と地下3階部分に予定される地域冷暖房プラントの設置工事。とくに地下3階部分は着工から16ヵ月の今年8月に引き渡すことが求められていた。従来の工法では間に合わないため,実施設計段階から工期短縮の検討を重ね,「二段打ち工法」が採用された。これは,地下部の掘削を完了した後,1階の床を先行して設置し,地下・地上躯体を同時に施工していく画期的な工法だ。
まず,敷地内に掘削機や重機などが乗り入れられる構台を架設し,4ヵ月で掘削を完了させることから始まった。掘削土量は,ダンプ1万4,000台以上に相当する約8万7,000m3。「掘削の効率を上げるには,切梁のない空間が必要でした。本社や支店に協力してもらい,アースアンカーを採用したほか,土留壁にかかる土圧を24時間計測し,安全性を確保しました」(有江次長)。
一方,地下の基礎が構築完了すると同時に,地上躯体の基礎といえる地上1階の床(1階先行床)の構築が始まる。この1階先行床こそが「二段打ち工法」の特徴で,1年強で地上100mの躯体を立ち上げたポイントである。基礎底面と地上1階の落差は約24m。地下柱の鉄骨や1階先行床の梁となる鉄筋・型枠を地下ヤードで組み立てて,クレーンで吊り上げて設置していく。工務全般を担当する馬場優次長は,「設計段階から施工計画を練れたことで,初期段階から地上躯体を支える地下柱のサイズアップの必要性や1階先行床の軽量化などが検討されました。資材の調達も早くに着手することができました」と設計・施工のメリットを語る。
二段打ち工法施工手順
例年にない積雪と1階先行床の構築
年越し前に1階先行床を構築することを目指し工事を進めていたが,実際の施工では,例年にない積雪が現場を苦しめた。1階先行床の型枠・配筋工事が佳境を迎えていた昨年12月,札幌市は1890年以降観測史上第4位の積雪量を記録。「北海道育ちの私でも,経験がない積雪でした。配筋したスラブ上に除雪用のシートを敷き詰めてクレーンで排雪する日々でした。コンクリート打設の前日は,社員総出で除雪を行ったこともありました」と有江次長は振り返る。
気温も氷点下になる日が続いた。コンクリートは4℃以下になると硬化が著しく遅くなり,凍結する恐れがある。コンクリートを打設するエリアにはスラブ下に温風ヒーターと風管を設置し,さらにその下をシートで養生した。スラブ上では,断熱材を敷き詰めて保温したうえ温度計を設置し,徹底した品質管理に努めたという。「天候という外部要因により予定外の作業が続くなか,いかに現場のモチベーションを上げるかも課題でした」(有江次長)。互いに声をかけ合い,所長方針の“いそぐな!あせるな!+50%の余裕”を合言葉に,コミュニケーションを大切に一致団結して作業に取り組んだ。
昨年12月末,1階先行床の構築が完了し,年始から地上と地下を同時に施工することに成功した。地下では1階先行床を屋根代わりにし,天候に左右されない効率的な作業を実現した。現在,一部の低層部分の躯体工事を残し,各階の内装工事などが進められている。完成は来年の夏。現場は一丸で,最後の冬を乗り越える。
今年8月に上棟し,空調や給排水,電気,ガス,防災などの設備工事が始まっている。この施設の空調・衛生設備を担当する佐竹龍司次長は,「快適に使っていただけるように寒冷地の気候に配慮し工事を進めています」と話す。利用者が五感で感じる部分の工事だけに,緻密な対応が求められるが,電気設備を担当する根本昌文次長は,「完成した建物に明かりなどで演出できるのは,設備ならでは」と仕事の魅力を教えてくれた。