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複合的な要件をチームワークで解く

鎌倉学園中学校・高等学校②

鎌倉のデザイン

リニューアルにあたってデザインのテーマになったのは,建築設計本部の福吉ひとみさんによれば「鎌倉らしい表現」だという。今年3月に完成した中央棟の正門側の外壁は,2種類のタイルでボーダー状に仕上げられている。「鎌倉の名所・切通しの“地層”がモチーフ」となった。学園の名が堂々と掲げられた外壁のデザインには,学園の歴史が重ねられていくことへの思いも込められている。

正門を抜け中央棟へと至ると,正面玄関の脇にカフェテリアがある。かつて駐車スペースだったピロティの一部に設けられ,生徒たちだけでなく父兄や来客も気軽に立ち寄れる。カフェテリアの開口部には,オリジナルデザインのルーバーが取り付けられた。室内に竹林を思わせる影を落とし,鎌倉らしい趣ある光の表情を生む。

写真:オリジナルのルーバーがカフェテリアに竹林のような柔らかい影を落とす

オリジナルのルーバーがカフェテリアに竹林のような柔らかい影を落とす

上履きを廃止に

このリニューアルにともない,鎌倉学園全体で大きく変わったポイントがある。それは上履きを廃止したこと。一足制とすることで昇降口から下足箱が姿を消し,ICT完備のマルチスペースや自習室となった。職員室に近接し,校舎のハブに位置するこれらの諸室は,コミュニケーションの場へと生まれ変わったのである。新たに4台のプロジェクターが設置され,生徒たちのグループワークや映像を使ったクラブミーティングなど,学習用途を超えて活用されている。リニューアル後の空間でとくに人気が高く,放課後はつねに人が絶えないという。

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デモ教室で普及を呼びかけ

プロジェクターや電子黒板,デジタルサイネージといったICTを活用して効率的で質の高い教育を行うことは,教職員の念願でもあった。中央棟ではこれらの機器がマルチスペースだけでなく,職員室や一般教室,カフェテリアなどにも配備されている。タブレット端末を使った授業や,全校連絡の配信など,さまざまな用途に活用されている。

これらの計画段階で,具体化のかじ取り役を担ったのが当社ITソリューション部である。学内でも若手教員を中心にICT委員会が新たに組織され,敷設や運用の検討を行った。「私学ではいまICTの導入が急速に進んでいます」と語るのは推進役を担った建築管理本部の山田真梨子さん(当時ITソリューション部)。最大の懸案は「教員の皆さんにきちんと普及させること」だったという。そこでICT委員と当社は,機器の使用を実際に体験できるデモ教室を校内に設け,教員の生の声を取り入れていった。

こうしたプロセスを経たことでICT化はベテラン教員にも抵抗なく広まったという。「いまでは教員全員がタブレット端末を使った職員会議を行っています」(山田さん)。

写真:旧校舎の教室を活用し,机のサイズと通路幅の確認。この結果が設計にフィードバックされる

旧校舎の教室を活用し,机のサイズと通路幅の確認。この結果が設計にフィードバックされる

写真:旧校舎に開設されたデモ教室。ICTの普及を図るべく,教員にはここで実際に機器を使用してもらった

旧校舎に開設されたデモ教室。ICTの普及を図るべく,教員にはここで実際に機器を使用してもらった

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居ながらリニューアルのメリット

学校のリニューアルはその多くが「居ながら工事」となる。当社建築設計本部の篠田秀樹統括グループリーダーによれば,居ながらのリニューアルには「デザイン上のメリット」もある。設計者が設計に着手するとき,「旧校舎は最良の設計資料になる」という。実際,教室の家具レイアウトや仕上げ材といったディテールは,教職員とともにリニューアル前の校舎をサンプルにしながら決定された。

篠田グループリーダーはさらにIII期工事であることのメリットも指摘する。I期での成果はII期・III期へ,II期の成果はIII期へと「設計と施工が同時に進むことで,ブラッシュアップできる」のだ。仮校舎で授業を受ける生徒たちには安全と快適性の面でいっそうの配慮が求められるが,段階的にフィードバックできることによって,よりよい校舎へと生まれ変わっていくのである。

学校の大規模な更新は,敷地要件や既存校舎のコンディション,学習環境の変化にともなって複合的なソリューションが求められる。営業,設計,開発,施工,情報技術が一体となった鎌倉学園での実践は,当社の総合力が発揮される一大プロジェクトとなっている。

写真:星月ホールのホワイエに掲げられたレリーフ。学園OBのサザンオールスターズ・桑田佳祐氏によるメッセージが刻まれている

星月ホールのホワイエに掲げられたレリーフ。学園OBのサザンオールスターズ・桑田佳祐氏によるメッセージが刻まれている

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Before →After 鎌学流

刷新された中央棟の空間には,生徒たちからさまざまな反響の声が寄せられた。
リニューアル前後の写真とともに紹介する。

写真:外観デザイン

写真:ピロティ

写真:生徒用下足室→自習室

写真:教員用下足室→マルチスペース

写真:教室

写真:小講堂→星月ホール

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鎌倉学園中学校・高等学校

場所:
神奈川県鎌倉市
発注者:
鎌倉学園
設計:
当社横浜支店建築設計部,建築設計本部
規模:
RC造 B1,4F 延べ9,200m2
工期:
2014年4月~2017年3月

(横浜支店施工)

interview 「リニューアル後の変わり映えに驚きました」

本学は旧制・鎌倉中学校から数え,あと6年で創立100周年を迎えます。この節目を前に,生徒たちの学習を第一に考えた現代的な教育環境の再整備を決断しました。当初は, 他のエリアへ移転する考えもあったのですが,古都鎌倉の建長寺に隣接する伝統の地で,また新たな一歩を刻むことができ,嬉しく思っております。

鹿島とのお付き合いは5年前,本学の第2グラウンドにセミナーハウスを建設して以来となりますが,このときの仕事がたいへん素晴らしいものでした。すでに校舎を刷新することも視野に入れていた時期です。

写真:鎌倉学園中学校・高等学校  竹内博之 校長

鎌倉学園中学校・高等学校
竹内博之 校長

その後,本格的に建て替えを考えるうちに,鎌倉にはさまざまな建築規制があることがわかりました。結果,リニューアルの道を取ることとなりましたが,正直に申し上げて中央棟の仕上がりを見るまではこれほどの変わりようとは予想もできませんでした。BeforeとAfterを見比べてもらえれば,その違いがおわかりいただけると思います。関係者にも好評ですよ。

リニューアルで大きく変わった点に,上履きの廃止があります。これにより,下足室がマルチスペースと自習室に生まれ変わったことで,学習環境は飛躍的に向上しました。

ICT導入にも,コンサルタントとして関わってもらいました。機器の選定には各メーカーのデモ機を用意してもらうことができ,教員が実際に試用しながら,いい雰囲気で行われました。的確なアドバイスを受けられたことで,生徒たちにとって最善かつ最先端の教育環境を備えた校舎のリニューアルが実現できたと自負しています。

鹿島では営業,設計,施工の各部門で,本学OBがその任を担ってくれました。教職員からさまざまな要望が寄せられたのも,意見を出しやすい空気をつくっていってくれたからではないでしょうか。多くの声を集約するのはたいへんだっただろうと推察されます。

現在は東棟の工事が進行しており,来年4月には西棟が着工となります。居ながら工事ならではのご苦労もあろうかと思いますが,残り1年半の工期も引き続き安全・安心に努めて, がんばっていただきたいですね。来年度末の全面オープンが, いまから待ち遠しいです。

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voice 母校刷新を牽引するOBたち

当社横浜支店には,鎌倉学園のリニューアル工事でキーパーソンとなる3人の卒業生がいる。営業, 設計,施工の職種を超え, チーム鎌学OBとして一丸となり,それぞれ専門的な立場から母校の刷新に携わるその思いを聞いた。

山本 今回のリニューアルの機縁をつくったのが5年前に当社が施工を担当したセミナーハウスの新築です。当社として, 学園からの初めての受注となりました。

石井 私はこの工事に総合所長という立場で携わり,山下君も途中から設計に関わりました。

山下 セミナーハウスの運用面での相談を学園から受けていたときに, 新たに「講堂を拡張したい」という要望をいただきました。そこで色んな提案を考えたことが今回の全面リニューアルにつながっています。

山本 当初,第一グラウンドの地下に講堂を整備する要望もありましたが,工事費や工期, 維持管理などから総合的に判断し,お勧めしませんでした。

山下 地下空間,さらに山を背負う悪条件では,講堂内を空調などで常時湿度コントロールする必要があり,学校の施設として本当に適切かといった点も率直に説明しました。

山本 学園へはさまざまな更新プランをもって日参しました。御用聞きとならず,各提案のメリットとデメリットを明確に提示する姿勢が,次第に認めてもらえるようになったと感じています。

写真:一新された講堂(星月ホール)で。左から山本啓吾課長代理(1997年卒),石井陽一建築工事部長(83年卒),山下悟志建築設計グループ長(83年卒)

横浜支店
建築部
石井陽一 建築工事部長
建築設計部
山下悟志 建築設計グループ長
営業部
山本啓吾 課長代理

一新された講堂(星月ホール)で。
左から山本啓吾課長代理(1997年卒),石井陽一建築工事部長(83年卒),山下悟志建築設計グループ長(83年卒)

石井 当初は講堂の他に,エレベーターとカフェテリアを新設する部分改修の予定でしたが,あるときに内外装の全面リニューアルが方針決定されたのです。

山本 母校を刷新する工事を恩師から「お前たちに任せる!」と言われたときは感無量でした。後輩たちのためにも校舎だけでなく,創立100周年に向けた象徴となるものを残したい,そうした思いから母校が誇るOBの桑田佳祐さんにアプローチしたところ,快く講堂のレリーフへメッセージを寄せてもらうことができました。

山下 久しぶりにこの校舎を訪れたとき,自分たちの学び舎がいまも使い継がれているのをとてもうれしく思いました。リニューアル後も他の卒業生や後輩たちに同じように感じてもらえたらうれしいですね。

石井 これからも期待に応えられるよう,OBチーム一丸となってがんばりたいと思います。

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