熊本県公共関与管理型最終処分場建設工事
現在,熊本県北部の玉名郡南関町で,最終処分場の建設工事が最終段階を迎えている。
これまで当社が携わってきた100件を超える最終処分場の実績の中でも,
特別な存在の一つと言えるだろう。“全国のモデルとなる”という旗印のもと,
最先端の最終処分場を造るプロジェクトに挑む人たちを追った。
【工事概要】
熊本県公共関与管理型最終処分場建設工事
- 場所:
- 熊本県玉名郡南関町
- 発注者:
- 熊本県環境整備事業団
- 設計・施工者:
- 鹿島・池田・興亜・岩下
特定建設工事共同企業体 - 規模:
- 覆蓋施設─S造 2F
埋立面積31,121m2※
埋立容量422,349m3※
管理棟─S造 2F 延べ674m2
浸出水処理施設─S造 2F
延べ836m2 ほか
総面積118.679m2※ - 埋立期間:
- 15~20年
- 工期:
- 2013年7月~2015年10月
(九州支店JV施工)
全国のモデルとなる安全な施設
九州新幹線の新玉名駅から車で20分程走ると,工場や物流センターを思わせる銀色の巨大な建屋が現れる。現在,当社JVが技術提案による設計施工一括発注方式で施工を進めている最終処分場「エコアくまもと」だ。「この現場では,通常の処分場では考えられない程,多種多様な取組みをしていますよ」と,現場へと向かう車中で,工事を統括する加藤政彦所長が教えてくれた。
ここは,県内で発生する産業廃棄物のうち,再生利用されない廃棄物を埋立て処分するための施設となる。覆蓋(ふくがい)と呼ばれる大屋根(縦220m×横155m)を持ち,人工散水により廃棄物の安定化を行い,発生した浸出水を浄化し再び散水に利用する“クローズド・無放流型”の最終処分場である。規模は,一般的な公営野球場とほぼ同じ。周囲を歩いてみると,大きさを実感できる。
「技術提案にあたり,要求水準書を見て驚きました。施設の明確なコンセプトが記載され,発注者のスタンスや考え方,熱意が伝わってくるのです。今まで,こうした水準書を見たことはありませんでした」(加藤所長)。「産業廃棄物の処理施設としての機能だけでなく,県北の環境拠点としての機能を有し,全国のモデルとなる安全な施設を整備する」という方針とともに,関係者の視点が明確に記載されていた。具体的には,民間事業者に代わり県などの公共が関与する「公共関与」により処分場の整備を行い,「環境立県くまもと」に相応しい環境拠点となること。地域の住民や産業に貢献し,地域の誇りとなるような魅力ある施設であること。長期間にわたる高い安全性に加え,長期的な視点での経済性に優れた施設であることなどが記載されている。これらに応えるため,当社は,九州支店のほか,土木管理本部,建築管理本部,技術研究所,土木設計本部,建築設計本部,環境本部の専門家の英知を結集し,技術提案を行った。
地下水を守る
覆蓋施設内に入ると,空間の広がりに驚かされる。すり鉢状となった採砂場跡地を造成し,大屋根をかけて生まれた空間は,まるで屋内アリーナのよう。目を引くのは,柱の少なさと斜め柱,そして底面部には柱が建っていないことだ。これが当社JVの技術提案のポイントの1つである。提案では環境保全を最優先に考えた。最も重視したのが,地下水を徹底的に守ること。この地区は昔から地下水を飲料水とし,これからも地下水とともに生活を営んでいくからだ。「地元の方々に,日々安心して暮らしてもらえるよう皆が思いを一つにしました」(加藤所長)。
当社JVは,散水により発生する浸出水が集まる底面部に柱を配置すると,柱と遮水シートとの接合部ができ,遮水上の弱点になると考え,8本の柱は全て法面に据え付けることとした。うち4本は構造上,斜め柱にする必要があった。「斜め柱の施工には本当に苦労しました。建築の世界では,垂直にものを建てるのが基本ですから。現場では“不安定への挑戦”と呼んでいました」と建築工事全般を統括する青木基裕副所長は,約1年半前の作業を振り返る。直径1.2m,長さ29m,重さ41tの柱を36度に傾斜させ据え付ける必要がある。その方法に辿りつくまで,協力会社と念入りに協議を積み上げた。「柱は14mと15mの2本を接合するから,地上で寝かせた状態でジョイント。その後,根本を固定して傾斜角に合わせクレーンで持ち上げ,設置できれば作業的にはシンプルで効率が良い。ただ,その方法では柱が自重に耐えられず破損するリスクが高く危険だ」。こんな議論と計算を繰り返したという。「提案に書いてあることを,如何に現場で実現するか。苦労は多いですが,それが腕の見せ所であり,その過程が楽しみです」(青木副所長)。様々な検討を行った結果,500tクレーンで柱を1本ずつ吊り上げ,鉛直に立てた状態で2本を接合した後,傾斜をさせ,仮設の支柱で安定させた。「最初は,この作業に約5時間を要しましたが,最終的には手順の習熟,様々な改善により2時間程度でできるようになりました。作業が終わるころになって,完璧になるんですよね」とほほ笑む。
遮水シートを守る
底面部へと降りて行くと,遮水シートを丁寧につなぎ合わせる作業が行われていた。“地下水を守る”ためのバリアが遮水シートである。当社は,幾重にも“遮水シートを守る”ための提案を行った。「絶対に失敗は許されないというプレッシャーの中で日々作業を進めています」と話すのは,遮水工を含め工事全般を管理する石田貴顕次長だ。これまで都市土木の経験が長く,狭隘(きょうあい)な空間で時間と闘いながら,厳しい条件下のプロジェクトを成し遂げてきた。しかし,住民生活に直結する工事には別の緊張感があるという。これまで経験をしたことがない工種なので,先ずはシートメーカーや協力会社との計画づくりを重視した。「施工が始まると何か見落としがあっても工事はどんどん進んでいきますから,事前の計画が何より大切なんです」。各所に応じた施工方法を確認するほか,失敗事例の洗い出しと,その対策を追求した。特に,遮水シートは供用中に変形すると損傷リスクが高まるので,変形を極限まで抑える施工計画を立案。また遮水シート以外の工事により,シートを傷つける可能性も考慮し,立ち入り禁止などの管理も徹底した。現在まで,大きなトラブルはなく無事に工事は進んでいる。“なによりまず計画”──鹿島守之助の「事業成功の秘訣20ヶ条」には学ぶことは多いという。
地下水を守るために
底面部は,二重の遮水シートとベントナイト混合土などによる約2mの厚さを持つ多重遮水構造となっている。ポイントは,締固めにより遮水機能が向上するベントナイト混合土を遮水シートより下層に設け,締固め時に遮水シートの変形や損傷リスクをなくしたこと。また,遮水シート間に中間保護土層を設け,上下のシートが同時に破損する事態を防止する。
万が一への備え
底面部では,漏水検知システムの敷設作業も行われていた。万が一漏水が起きた場合にも,環境を保全するための機能の一つ。二重の遮水シートの上下に配し,誤差1mの範囲内でどのシートのどの場所から漏水しているかを検知できるシステムである。その他にも,数々の環境保全対策が採用されている。特徴的なのが“揚水井戸”と呼ばれる汚染された地下水を回収する機能だ。この技術を提案に盛り込み,施工まで担ったのが小澤一喜工事課長である。入社以来,技術研究所で土壌汚染対策などに関する研究開発を担当してきた。汚染物質が地下水の流れにより,どう挙動するかを高精度に予測・評価する技術をベースに,揚水井戸を考案した。これまで数多くの現場に対して技術支援を行ってきたが,実際に現場で工事管理を担当するのは初めてとなる。研究員時代は,専門家の立場から技術的に100%正しいと思える答えを出すことを目指してきた。現場では,それに加え,工費,工期,安全などを考慮して現実的に実施可能かが問われることを改めて実感したという。「40代になってからの赴任で,緊張や不安もありました。ただ,知ったかぶりをしても仕方ないので“現場のことは何も分からないので,ゼロから勉強させてください”と職長さんに声をかけ,様々なことを教えてもらいました。本当に感謝しています」。
揚水井戸
最終処分場では地下水モニタリング井戸の設置が義務付けられているが,漏水を検知した場合,修復が完了するまでの間に,浸出水が周辺に流出してしまうリスクがあった。そこで,浸出水の回収用井戸「揚水井戸」を提案・構築し,敷地外への汚染の拡散を防止する。回収した浸出水は,浸出水調整槽に貯留する仕組みになっている。
地域に役立つ施設
覆蓋施設内には,ガラス越しに埋立作業を見学できるスペースがあり,循環型社会について学べる場所となる。また,ため池の周囲には,桜やつつじを植栽し,ホタルが生息する池造りも進んでいる。単なる最終処分場でなく“地域に役立つ施設”であると実感する。そして,この施設は,多くの地元出身者により造られている。若手ながら職長として活躍する地元建設会社・津留建設の池田祐介さんは,その一人。「これまでは10人程度で対応する工事しか経験したことがありませんでした。規模が大きすぎて最初は戸惑いましたが,地元に役立つ施設を自分の手で造っていることを誇りに思っています」。池田さんたちが困った時,頼りにする人物がいる。長年,下水処理場やプラント施設などの所長を務めてきた松本義弘工事課長だ。「ここは,多くの地元建設会社に,仕事をしてもらっています。彼らの悩みを聞いて,少しでも働きやすい環境をつくってあげたいと思っています」。朝から夕方まで,ほとんどの時間を現場に身をおく。「これまでの経験から,今どう動くのが良いかを考え,自分ができることをしているだけですよ」。現場を動かすために大切なものは何かを自らの行動で伝承していく。
“家族に誇れる最高品質の処分場を造ろう”加藤所長の方針のもと,多くの人の思いを乗せ,いよいよ建設工事はクライマックスを迎える。
最終処分場の建設は,全国的にも困難な課題となっています。「地元のご理解が第一」との思いで,丁寧に説明を繰り返しましたが,ご不安の声が多く寄せられました。そこで,初期投資は嵩みますが多くのメリットがある「クローズド・無放流型」とすることを決断し,安全性などについて,さらに説明を重ねました。担当職員は,地元の混乱を申し訳なく思いながらも,今回できなければ本県にはもう建設できないという決意と覚悟で取り組みました。こうして,少しずつご理解をいただき,建設地決定から7年を経て,地元と環境保全協定を締結できました。地元の苦渋のご決断であり,なお様々なご不安があると思っています。
私たちは,こうした経緯を踏まえ「全国のモデルとなるような安全な施設として,地域に役立つ施設」を整備することを方針とし,「最大限の知識と技術を活かし,極限まで施設の安全性を追求した施設」の建設を,また廃棄物の処分場というだけではなく,地域に役立つ施設となるよう「環境教育の拠点」,「地域のコミュニティ活動拠点」とすることなどを目指しました。
着工から2年3ヵ月,非常にタイトな工期であり,鹿島JVの皆様にはご苦労が多かったと思います。建設に至る経緯や私たちの思いをしっかりと受け止め,真摯に対応していただいたことに心から感謝を申し上げます。
いま,これまでを振り返ると万感胸に迫るものがあります。この施設が,安全・安心な施設として信頼をいただき,地域に役立つ施設として貢献していくことを願っています。