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世界最大級の超大断面トンネル
技術を応用し現場一丸で挑む

横浜環状南線 釜利谷庄戸トンネル工事

関東圏を取り囲むように走る圏央道。現在,木更津JCT(千葉県)~海老名JCT(神奈川県)が
開通(一部事業中)し,横浜環状南線へと繋がっている。
当社が施工する釜利谷庄戸トンネルは,閑静な住宅街の直下に,世界最大級※1の超大断面トンネルや
非開削で10分割施工を進めるカルバートなどから構成される。
例を見ない大規模な難関工事を安心,安全に進めるため,鹿島の技術の結集と現場独自の応用力で,
工事へ挑む社員の思いや挑戦をレポートする。

※1 NATMで施工する道路トンネルとして

【工事概要】

横浜環状南線 釜利谷庄戸トンネル工事

  • 場所:横浜市金沢区~栄区
  • 発注者:東日本高速道路
  • 規模:NATM―トンネル延長3,946m 
    最大断面積485m2
    掘削土量340,000m3 
    コンクリート90,000m3
  • 工期:2021年2月~2026年8月

(横浜支店JV施工)

地図
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都心を環状に走る圏央道(首都圏中央連絡自動車道)は,約9割が開通済みで,神奈川県内では残りの区間の約5割に当たる約16kmが,現在工事中となっている。このうち,戸塚IC(仮称)~釜利谷JCTまでの約9kmが横浜環状南線と呼ばれ,圏央道の一部に位置付けられている。開通効果として,横浜地区~首都圏内陸部間移動の所要時間短縮により物流の効率が改善され,経済効果が見込まれる。かつ災害時の緊急輸送路の役割を果たし,交通渋滞の緩和による沿線地域の環境改善が期待されている。

当社JVは,釜利谷JCTとの接合部から環状4号線との交差部までの約1kmの区間に,6本のトンネルと300mの2連カルバートで構成される釜利谷庄戸トンネルの構築を担う。

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安心と安全の積み重ね

本工事は,4連併設・近接区間,分合流区間,低土被り区間の約5.6km※2を,NATMで掘削するトンネル工事と非開削かつ10分割で構築する函体工事に分け,施工している。

※2 Cランプトンネル工事と釜利谷庄戸トンネル工事の合計延長

当社JVは,まず本工事の前に,作業用動線,他工区のずり搬出導坑,地質調査を目的としたCランプ・パイロットトンネル(2021年3月竣工)を施工した。Cランプトンネル工事では,トンネルを掘る作業のほか,4連併設・近接区間と分合流区間の連結地点地上部に位置する住宅街の盛土範囲の改良工事も行った。「住宅密集地に隣接する地上からの施工となる地盤改良工事では,当初約7千台の大型工事用車両が住宅街を通過する計画でした。閑静な住宅街には小・中学校もあるので,住民の方々が安心して生活できるよう,Cランプトンネルから地上に向け約130mの作業坑を提案しました。大型工事用車両を全てそこから出入りさせたことで,住宅街の通行を0台としました」。そう説明するのは,工事を取り仕切る居川圭太総合所長だ。音や振動の出る仮設備を坑内に収めるなど,住民への配慮を第一に考えた施工方法の立案は,本工事における原点となった。

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辻 裕幸所長

photo: Takuya Omura

工事を統括する辻裕幸所長は「特殊な工事で,何事にも工夫や応用が必要な現場です。その分やりがいも大きい。一つの現場で世界最大級の断面積となるトンネル工事と特殊な施工手順での函体工事を経験できることは滅多にありません」と語る。トンネル工事・函体工事とも施工時には,騒音・振動がつきものだが,本工事ではこれらを低減するため,掘削重機で振動を与えない施工方法の工夫や施工ツールの開発など,地域に配慮した施工を進めている。

現場で働く人たちの安全を第一に考え,「立入禁止や作業区域を細かく明示し,作業用動線をしっかりと確保するなど,設備を整えてから次のステップに移るよう徹底しています。また,現場にカメラを44台設置し,事務所から安全専任者が作業を監視できる安全支援室(3Sルーム)を整備して注意喚起を行っています。さらにカメラ映像をAIで解析し,危険区域に立ち入った作業員をリアルタイムに自動認識してアラート警告させる安全システムの開発にも取り組んでいます」。

現在,現場は施工のピークに達し,よりいっそう関係者一丸となって工事を進めている。「この現場は,鹿島の技術を駆使し,従来からのやり方を応用することで,現場独自の新たな施工方法を見出しています。やっているのは地道なことですが,この貴重な経験を若手社員にもどんどん吸収していって欲しいです」(辻所長)。

図版:現場のカメラ映像をAIが解析し,危険行動がないかを検知

現場のカメラ映像をAIが解析し,
危険行動がないかを検知

図版

事務所内に設置された「安全支援室」では,現場内の44台のカメラとモニターを連携させ,常駐の安全専任者が現場の安全管理を補完。異常時はリアルタイムで坑内担当者へ連絡する

photo: Takuya Omura

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執務室。所員のデスクのほか,様々な形態の打合せスペースや集中ブースも備えるスマート工事事務所

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多くの若手社員が活躍する当現場では,施工管理を担う女性社員も多い。外国人や65歳以上の所員も活躍する

photo: Takuya Omura

最小離隔0.6mの超近接区間から
世界最大級485m2
超大断面トンネルへ

約380mの4連併設・近接区間は,Cランプトンネル,釜利谷西トンネル上下線,Hランプ第一トンネルが併走し,一部区間では最小離隔が約0.6mになる。通常,掘削時には地山安定化のため,ロックボルトを打ち込むが,離隔が2m未満の場合は打ち込むことができない。「離隔が狭い部分には地山の圧力が集中的にかかります。吹付けコンクリートの厚さを増やし,支保内圧を大きくし,地山の安定化を図っています」。こう説明するのは,トンネル工事を統括する樋川敦次長だ。

この区間を抜けると,全長264m,世界最大級の超大断面を有し,合計9車線の上下線からなる分合流区間に入る。485m2の大断面(上り線)は3月に掘削が完了し,現在はインバートコンクリートの打設準備に入っている。NATMでの山岳トンネルの現場を複数経験して来た樋川次長も,未知の大規模トンネルに腕がなると言う。「これほど大きな大断面の掘削では,切羽の安定性を保つことが難しいので,施工機械や手順を工夫して地山の開放時間を短縮したり,人が近付くことができない切羽の地質をドローンを使って確認したりしています」。

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樋川 敦次長

photo: Takuya Omura

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ドローン撮影による切羽掘削中の地質観察。
騒音・振動低減のため,ツインヘッダーで撫でるように優しく掘っていく

加えてこの区間は,土被りが浅い部分もあり,地表面の変位にも留意しなければならない。「通常,上半,下半,インバートに分割して掘削しますが,この工事では,上半掘削後,仮インバートで閉合し,下半とインバートを一括で掘削することにより,早期に断面閉合させました。その結果,地表変位を予測値の60%(18mm)程度に抑えることができました」。

一つひとつの課題をクリアし,最初の山場は越えた。今後は,近接施工(上り線との離隔距離1.0m)による,断面積370m2の下り線の掘削や,大規模な防水型覆工など,再び難易度の高い工事に入る。「歴史に残る大工事にやりがいを感じています。完成まで安全を第一に,この工事に携わった技術者として,名を残していきたいです」(樋川次長)。

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大断面の上半支保工建込みは4分割施工
(通常は2分割)

photo: Takuya Omura

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下半インバート一括施工の様子
(2023年3月)

photo: Takuya Omura

図版:断面積485m2,幅29m。世界最大級の大断面掘削完了(2023年4月)

断面積485m2,幅29m。
世界最大級の大断面掘削完了(2023年4月)

photo: Takuya Omura

前代未聞の施工手順で挑む函体構築

低土被り区間は,住宅街の目下で,最小土被り1.7mの環境下に,全長300mの2連のカルバートを特殊な施工手順で構築する難関エリア。「良好な住環境に配慮して,本工事では非開削とし,断面積が60m2程度のトンネルを掘削,その中でカルバートを分割して施工しています。他工区の作業用動線の役割も担っているため,工程管理も重要です」。相澤栄治工事課長代理は力を込めて語る。着任当初は,経験してきた地下構造物の施工法との違いに,本当に工期内に完成するのか不安が大きかったという。

まず仮設の底部導坑を掘削し,導坑内で躯体を構築した後,埋め戻す。次に,頂部を掘削・構築し,埋め戻す。この工程を繰り返し,合計10ヵ所を構築していく。また,狭い坑内では資材置き場など十分なスペースは確保できない。「作業の効率化や工程短縮のため,鉄筋は場内の鉄筋ヤードでユニット化し,搬入,設置しています。また,狭隘な導坑内で複数の協力会社が合計8ヵ所で同時に作業を進めているので,安全に作業を進めるためには協力会社間の調整が特に重要です」。

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相澤栄治工事課長代理

photo: Takuya Omura

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函体構築のステップ

図版:函体構築のステップ
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狭い坑内での作業は至難の業

photo: Takuya Omura

図版:頂部中壁本体構築(2023年3月)

頂部中壁本体構築(2023年3月)

photo: Takuya Omura

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現在は,4分割目の頂部本体を構築中。「不安もありましたが,どんなに狭隘な環境で複雑な施工でも,当社の技術を駆使し協力し合えば解決できることを実感しています。安全最優先でよりよい品質,効率化を目指し,改善を積み重ねていきます」(相澤工事課長代理)。最善の方法を模索し,一致団結するからこそ成し得る大規模難関工事。現場のさらなる挑戦はつづく。

釜利谷庄戸トンネルを
もっと身近に

現場では,工事を身近に感じてもらえるよう,様々な取組みを行っている。

本工事を紹介するパンフレットでは「釜利谷庄戸トンネルのここがすごい!」と題して,現場が作成した,NATM工法に詳しい「にゃとむ先生」と庄戸トンネルに住む「しょうたろう君」が本トンネルの注目ポイントをわかりやすく教えてくれる。

また,庄戸小学校の卒業記念として6年生が描いた防音ハウスの壁画には,地元の自然や動物,名所などが登場。描かれた虹の大きさは,世界最大級のトンネル大断面と同じ大きさになっている。

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現場見学会で初めて見る大型重機に
興味津々の小学生たち

photo: Takuya Omura

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色とりどりの壁画は,
パンフレットの表紙にもなっている

(提供:東日本高速道路)

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東日本高速道路
関東支社
横浜工事事務所
庄戸工事区 工事長
松本大輔

現在,神奈川県の交通状況は,東西方向では主に東名高速道路や保土ヶ谷バイパスに頼っている状況であり,交通集中による渋滞や事故が多発しています。NEXCO東日本および国土交通省で整備を進めている横浜環状南線および横浜湘南道路の開通により,神奈川県の東西軸の多経路化による交通分散が実現し,交通渋滞の緩和や交通事故の減少が期待されています。また,横浜環状南線および横浜湘南道路は圏央道の一部に位置付けられており,広域的道路ネットワークが形成されることで,圏央道沿線の企業立地の促進や観光需要の創出など,地域産業の活性化に大きく貢献することが期待されています。

横浜環状南線は1988年度に事業化されましたが,市街化された閑静な住宅街を通過することから,約30年にわたって地域との対話を重ねてきました。鹿島JVさんに担当していただいている庄戸地区では,地域からの要望も踏まえ,有識者を含めた検討会や本工事の前段となる技術協力業務での提案により,超大断面トンネルや一般的には開削工法で施工される低土被り区間の非開削工法での施工方法が決定しました。

超大断面トンネルは,沿線住宅まで最小離隔が約10mと非常に厳しい条件でした。沿線住民に対する週1回のヒアリングにより、騒音・振動に関する意見に対して,作業内容の特定や掘削方法などをご改善いただき,周辺環境への影響を最小限に抑えることができたことは非常に良かったと思います。また、庄戸地区に設置しているデジタルサイネージでの積極的な情報発信や沿線住民を対象とした工事現場見学会などにもご協力いただいていることが,横浜環状南線事業の理解促進に繋がっていると感じています。

上り線の超大断面トンネルの掘削は完了しましたが,今後,離隔1mでの下り線の大断面トンネルの施工や低土被り区間における住宅に最も近接した箇所の掘削など非常に難しい工事が残っています。これまで同様,我々事業者と鹿島JVさんで地域との対話を継続し,無事故・無災害でみんなが笑顔で工事を終えられるよう協力していきたいと考えています。

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