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特集 アスリートファースト・フィールドへ

図版:南西上空からの栃木県総合スポーツゾーン新スタジアム完成予想図

南西上空からの栃木県総合スポーツゾーン新スタジアム完成予想図

スポーツ施設と鹿島

今月開幕するラグビーワールドカップ2019日本大会や東京2020オリンピック・パラリンピックの舞台,地域のプロスポーツ振興の場,市民のための開かれた場として,各地でスポーツ施設の整備が進んでいる。
今月の特集は,ユニークなコンセプトから独自の施工技術まで,当社が現在取り組んでいるスポーツ施設の現場を紹介。トップレベルの選手から市民を含めた未来のアスリートともいえる一般の競技者まで,“アスリートファースト”に向けた環境整備の現在を取材する。

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進化するボールパーク:埼玉西武ライオンズ本拠地大規模改修工事

メットライフドームは,埼玉県所沢市にあるプロ野球埼玉西武ライオンズの
ホームグラウンドだ。当社では20年前のドーム化事業から設計・施工を担ってきた。
現在,球団創設40周年記念事業としてメットライフドームエリアの
大規模改修工事を行っている。進化するボールパークを取材した。

図版:メットライフドーム前広場の完成予想図

メットライフドーム前広場の完成予想図

メットライフドームエリアの改修計画

場所:
埼玉県所沢市
発注者:
西武鉄道
設計:
当社建築設計本部・関東支店建築設計部
規模:
延べ46,977m2(メットライフドーム面積)
工期:
2018年6月~2021年3月
(関東支店JV施工)

大規模改修の2つの目的

メットライフドームは自然豊かな狭山丘陵の中にある。周辺の自然に溶け込み,協調することを最大のコンセプトとして建設された世界的にも珍しい半ドームは,開放感に溢れ,ドーム内からも四季折々の風情を楽しむことができる球場となっている。

現在,西武ライオンズ創設40周年記念事業として西武鉄道が保有するメットライフドームエリアの大規模改修を行っている。この改修には,2つの大きな目的が掲げられている。ひとつは「ボールパーク化」,もうひとつは「チームの育成と強化」だ。

これまでも女性や,子どもからシニアまであらゆる世代が楽しめるボールパークとして親しまれてきたが,改修によって老朽化による不便を解消,今までにない「新しい価値」を提供することでさらに進化したボールパーク化を図ろうというものだ。また一方で,長年の課題となっていた選手寮,室内練習場,西武第二球場など若い選手の育成施設を刷新。高く評価されてきた若手育成をさらに追求できる環境を整備する。

大規模改修の第1弾として,室内練習場「ライオンズ トレーニングセンター」,選手寮「若獅子寮」,大型グッズショップ「ライオンズ チームストア フラッグス」,「西武ライオンズ オフィス棟」が2019年6月に竣工,7月から稼働した。

新しい観戦方法の創出

球場内のさらなるボールパーク化を目指し,バックネット裏ボックスシートの大規模改修を行う。これは現在年間予約席として利用されているボックスシートの地下部分を掘り下げ,選手と同じ目線でフィールドを見渡すことができるVIPラウンジを新設するものだ。エスカレーターで上部スタンド席からアクセスが可能で,空調が効いた空間で食事を楽しみながら快適に観戦できる。収容人数は約430名とラウンジとしては12球団中最大級。くわえてそのラウンジ前をさらに一段掘り下げ,両軍のベンチから見るのと同様の高さで観戦できる「砂かぶり席」を約150席設置する。ピッチャーとバッターの本気の勝負がすぐ目の前で行われ,まるで選手の息づかいが聞こえてくるようなこれまでにない迫力で試合を楽しむことができる。

また,観客席の全面改修を行うとともに,空調環境を整備・拡充する。ドーム内の大型ビジョンや音響,照明設備を刷新し,エンターテインメント性と臨場感溢れる演出を実現する。

図版:VIPラウンジ断面イメージ

VIPラウンジ断面イメージ

図版:ラウンジ内の完成予想図。ラウンジの手前に一段低くつくられた「砂かぶり席」がある

ラウンジ内の完成予想図。ラウンジの手前に一段低くつくられた「砂かぶり席」がある

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外周エリアのボールパーク化

球場を取り巻く周辺のさらなるボールパーク化を目指して,外周エリアの大規模な拡張・改修が行われている。

1塁側には多目的に利用できるイベントスペースを設置。飲食店やグッズショップなどスタジアムインフラを増強する。先行してこの7月には2階建ての大型グッズショップ「ライオンズ チームストア フラッグス」がオープン。たくさんのチームグッズが並べられ,階段脇の壁にはこれまで数多くのリーグ優勝や日本一,記録を達成した選手たちのメモリアル写真が飾られている。

3塁側ではグッズショップや球団事務所があった「獅子ビル」をリノベーションし,屋内キッズパークとフードエリアを常設する。コンコースと獅子ビルの間にデッキを設け開放的な空間を創出,そこに子どもたちが野球観戦以外でも楽しめる遊具を用意した1,000m2超の「屋外子ども広場」もつくられる。くわえて,ビジネス部門の拠点として3階建ての「西武ライオンズ オフィス棟」が新設された。

また,これまで1,3塁側に分かれていた入場ゲートを撤廃し,ドーム前広場にゲートを集約させ,入場後は自由に行き来することができ,だれもが楽しめる空間を提供する。

図版:大型グッズショップ「ライオンズ チームストア フラッグス」の外観

大型グッズショップ「ライオンズ チームストア フラッグス」の外観

図版:大型グッズショップ「ライオンズ チームストア フラッグス」の内観

大型グッズショップ「ライオンズ チームストア フラッグス」の内観

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育成強化のための施設改修

もうひとつの目的である「チームの育成と強化」のために,練習施設の拡大と整備が行われている。若手のさらなる育成を目指し,効率的な練習と野球に専念できる環境が提供される。

西武第二球場にはファンが快適に見学できるよう,バックネット裏に観客席を新たに設け,ファーム公式戦や練習試合などでも常に選手はファンに見守られながらトレーニングを行う環境とする。さらにサブグラウンドやブルペンも併設し,同時進行でさまざまな練習ができるよう整備する。

新室内練習場「ライオンズ トレーニングセンター」は,冬季,雨天,夜間での練習でも十分なスペースを確保。ブルペン5レーン,バッティング4レーンが併設され,投球練習と打撃練習が同時にできる場が提供されている。その隣には選手寮である「若獅子寮」も新設。部屋数は28室で,トレーニングルームや温浴施設,食堂なども完備されている。

チームの育成と強化のためにこのような投資を行うのは,「強さこそ最大のファンサービス」であり「魅力ある選手こそ最大のコンテンツ」ととらえているからだ。さらに強い埼玉西武ライオンズを目指し,常にアスリートファーストで環境整備が更新され続けている。

図版:西武第二球場のバックネット裏に観客席を設置(完成予想図)

西武第二球場のバックネット裏に観客席を設置(完成予想図)

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図版:選手寮「若獅子寮」(左)と室内練習場「ライオンズ  トレーニングセンター」(右奥)

選手寮「若獅子寮」(左)と室内練習場「ライオンズ トレーニングセンター」(右奥)。
選手が中で行き来できるようにつながっている

図版:室内練習場の内部

室内練習場の内部

interview

ボールパークの夢,再び

写真:岡村 耕治 マネージャー

建設設計本部 
建築設計統括グループ
岡村 耕治 マネージャー

「駅を降りたらボールパーク」。駅に降りた瞬間から観客はスタジアムの熱気につつまれる。球場までの道のりも取り込んだ魅力的な空間にしたいという「ボールパークの夢」。実は13年前の9月に同じような全体スケッチ(夢)を描いています。

観客席下トイレ増設検討の際に描いた提案が,2009年の観客席大規模改修へと発展しました。そのときのご縁もあり,今回のメットライフドームエリア大規模改修の仕事につながっています。「ボールパークの夢,再び」です。

西武球場との関わりは,1995年のドーム化コンペから足掛け24年になります。1999年,球場を使いながら2回のオフシーズンを利用したユニークな工法で,周囲に開かれた半屋外ドームが生まれました。2009年の改修では「DOME+BALLPARK」を目標に観客席の大改造を行いました。今回は,13年前に描いた夢のマスタープランをいとぐちに,選手を強化するための2軍練習施設の建替え計画が加わり,西武ライオンズさんの抱くさまざまな夢が重なった,3オフシーズンを使ったボールパーク化計画です。

ボールパークは,訪れる人々に野球の魅力や野球場に訪れる楽しさをとことん味わってもらうための,観客ファーストの場所です。しかし,そこに集う人々の熱気や笑顔が選手にさらなる力を発揮させます。ボールパークという場が観客を育て,観客と選手が一体となった球場の盛り上がりが,選手やチームを鍛え,強くします。ぐるっと回った「アスリートファースト」の野球場づくりです。また,四半世紀をかけた私の,人々が集い野球を熱くする場所づくりでもあります。

図版:スタジアム客席
図版:設計者の建築設計本部 岡村耕治マネージャーが描いた改修計画の全体スケッチ

設計者の建築設計本部 岡村耕治マネージャーが描いた改修計画の全体スケッチ

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