耐震補強
「円弧拘束RCダンパ工法」
鉄筋コンクリート部材を用いた制震工法による橋梁の耐震補強工法
制震工法は、長周期化や減衰付加により、橋脚や基礎に作用する地震力を低減できる工法です。制震工法は機械式ダンパや鋼製ダンパによる工法が一般的であるが、耐久性やコストの面で課題がありました。
円弧拘束RCダンパ工法は、従来の制震工法にあった耐久性やコスト面での課題を解決するために、RCダンパ部材に円弧拘束機構を付与した制震ダンパ工法です。
本工法は、この円弧拘束機構の付与により、地震時に繰り返し生じるRCダンパ部の大きな変形に対して、安定した変形性能と減衰性能を有しています。RCダンパが曲げ変形する際にRCダンパ内部の軸方向鉄筋が塑性変形することで、ダンパとしての減衰力が得られます。また、RCダンパ部は高密度ポリエチレン管で被覆された部材としているので、塩害などに対して高い耐久性を確保することが可能となっています。
特許登録済
円弧拘束RCダンパによる耐震補強のイメージと円弧拘束RCダンパのメカニズム
- キーワード
- 橋梁、制震、耐震補強、ダンパ、耐久性
従来RC部材の2倍以上の高い繰返し変形性能
一般的な鉄筋コンクリート部材は、地震時繰返し変形を受けて、断面力が大きくなる部材端部にて鉄筋降伏により塑性ヒンジが形成され、コンクリートの圧縮破壊、鉄筋の座屈によるかぶりコンクリートの剥落、及び鉄筋の破断によって耐力が低下し、部材としての終局に至ります。本円弧拘束RC工法は、塑性ヒンジ部を緩やかな円弧形状に変形させることにより、鉄筋コンクリート部材の繰返し変形性能を飛躍的に高めることを可能としています。従来の鉄筋コンクリート部材の限界変形性能が部材角4%程度(せん断スパン長1,000mmに対し、水平変形量40mm)とされているのに対し、本円弧拘束RCダンパは、部材角8%以上(従来技術の2倍以上)の繰返し変形性能を有することを、実物大試験体を用いた構造実験で確認をしています。
実物大試験体構造実験による地震時変形性能の確認
実物大実験より得られた水平荷重-水平変位の関係
(繰返し変形に対して非常に安定した履歴特性)
特長・メリットココがポイント
高い繰返し変形性能
地震時に生じる大きな繰返し変形に対して、非常に安定した性能を有します。多数回地震動に対しても高い安全性を有します。
- 高い変形性能(水平変形±160mm以上)
- 多数回地震に対する安定性(繰返し100回以上鉄筋破断等の脆性的な破壊なし)
- 明快な力学メカニズム(様々な条件で設計可能)
実物大実験による高い繰返し変形性能の確認
塩害等に対する高い耐久性
ダンパ部は、高密度ポリエチレン管で被覆されていますので、海岸線に近い環境にける塩害等に対して高い耐久性を有します。高密度ポリエチレン管は、斜張橋ケーブルや電線の被覆材として多数の実績があり、信頼性の高い材料です。
高密度ポリエチレン管による被覆構造
低価格の制震ダンパ
橋脚や基礎に作用する地震力を低減する耐震補強として制震工法が有効ですが、機械式ダンパなどでは高いコストが課題でした。本工法では、機械式ダンパなどと比較して低価格で制震工法を採用することが可能となります。また、機械式ダンパで必要な塗装などのメンテナンス費を大幅に削減することが可能となります。
円弧拘束ダンパと機械式ダンパの初期コスト比較
(制震ダンパ性能 200kN、±150mmの場合)
適用実績
高速道路耐震補強
規模:設置ダンパ約200本
連続繊維シートによる橋脚の耐震補強工法
炭素繊維及びアラミド繊維を用いた巻き立て補強工法
炭素繊維やアラミド繊維は、鋼材に比べて高強度・高耐久性・軽量・施工が容易という特徴を有しており、付加価値の高い建設材料として注目されています。これらの連続繊維をシート状にして、樹脂接着剤を用いて橋脚表面に貼り付けることにより、橋脚のせん断耐力や靱性(変形性能)の向上を容易に行うことができます。
鹿島では、さまざまな構造実験を行い、炭素繊維シート及びアラミド繊維シートを用いた橋脚の耐震補強工法を確立しています。
連続繊維シートによる橋脚耐震補強のイメージ
- キーワード
- 橋脚、耐震補強、連続繊維シート、炭素繊維シート、アラミド繊維シート、巻き立て
施工手順の概要
連続繊維シートの一般的な施工手順はフロー図に示すとおりで、連続繊維シートを必要回数だけ繰り返し貼付することにより設計で要求される耐震補強性能を確保します。
連続繊維シートや接着剤などの使用材料は鋼板補強に比べて軽量であるため、揚重機などを使用しないで施工場所へ搬入することができます。また、連続繊維シートは補強対象構造物の形状に合わせて現地で切断加工することができます。
連続繊維シートの施工状況(シート貼付工)
連続繊維シートの施工手順の一例
特長・メリットココがポイント
連続繊維シートの特徴
連続繊維シートには、次のような特徴があります。
- 高強度(PC鋼材以上の引張強度)
- 軽量(比重が鋼材の1/5程度)
- 高弾性(鋼材の1~3倍の弾性係数)
- 高耐久性(腐食の心配がない)
炭素繊維シート
- 軽量かつ高強度で施工が簡便
- 破断ひずみが大きいため、繊維が破断しにくい
- 耐衝撃性が高く、地震波などの衝撃に強い
- 電気絶縁性があり、通電トラブルがない
アラミド繊維シート
連続繊維と鋼材の応力-ひずみ曲線の比較
連続繊維シートの機械的性質
連続繊維シートの代表的な機械的性質を示します。必要補強量に応じて、繊維目付量と積層枚数を適切に組み合せて使用します。
連続繊維シートの機械的性質の一例
適用実績
田尻スカイブリッジ耐震補強
場所:大阪市泉南郡田尻町
竣工年:2021年
発注者:大阪府
規模:炭素繊維シート7,800m2
アラミド繊維シート3,500m2
京急久里浜駅構内耐震補強
場所:神奈川県横須賀市
竣工年:2009年5月
発注者:京浜急行電鉄
使用材料:アラミド繊維シート
鶴見つばさ橋耐震性向上
場所:神奈川県横浜市
竣工年:2006年9月
発注者:首都高速道路公団
規模:炭素繊維シート6,800m2
学会論文発表実績
- 「炭素繊維シートによる鶴見つばさ橋主塔橋脚SRC構造部の耐震補強効果確認実験」,構造工学論文集Vol.53A,土木学会,2007年3月
- 「アクリル樹脂を用いた鶴見つばさ橋主塔橋脚の耐震補強工事」,土木学会,第35回関東支部技術研究発表会,2008年3月
スマート床版更新(SDR)システム®
高速施工を可能に、ソーシャルロスを大幅に低減
道路橋の床版更新は供用中に工事を行うため、交通規制等によるソーシャルロスを最小限にすることが最重要課題です。具体的には、規制期間を最小限とする「工程短縮」技術や、規制範囲を最小限とする「安全施工」技術が求められています。
そこで鹿島は、連続作業による「工程短縮」や、専用の床版撤去・架設機による「安全施工」により、ソーシャルロスの大幅な低減を可能とする「スマート床版更新(SDR※)システム」を開発しました。
本システムは、施工機械を移動させながら床版取替に係る一連の工程を連続して行う「移動式工場」を実現した施工システムです。具体的には①既設床版の縁切り・撤去、②主桁ケレン、③高さ調整、④新設床版の搬入・架設の一連の工程をそれぞれの作業班が移動しながら連続して行うことにより、床版取替期間の大幅な短縮を実現します。
なお、本システムは、全断面床版取替と幅員方向分割床版取替のいずれにも適用できます。
※Smart Deck Renewal
2023年度エンジニアリング奨励特別賞
令和6年度土木学会 技術開発賞
特許登録済
スマート床版更新(SDR)システム概要図(幅員方向分割床版取替)
幅員方向分割床版取替工事施工中の伴高架橋
関連情報
- キーワード
- 床版取替、ソーシャルロス低減、高速施工、安全性向上
施工の流れ
本システムでは、以下の①~④の作業を連続して行います。
①既設床版の縁切り・撤去
撤去可能な大きさに切断した既設床版上に、新たに開発した床版撤去機から吊り下げた剥離装置をセットし、鋼桁から床版を引きはがし、場外に搬出します。
②主桁ケレン
鋼桁上フランジのケレン作業を行い、防錆材を塗布します。新たに開発したR面取りロボットやケレンロボットを適用することで作業員の負担軽減が可能となります。
③高さ調整
床版の高さを調整するための硬質ゴムと、床版下の無収縮モルタルの漏れ止めとなるソールスポンジを設置します。
④新設床版の搬入・架設
新設床版を載せた床版運搬台車を、新たに開発した床版架設機の内部を通過させながら架設位置の手前まで移動します。床版架設機で新設床版を吊り上げ、90度回転して架設位置まで前進し、床版を降下・設置します。
特長・メリットココがポイント
高速
4つの作業ステップを連続して行うことにより、大型クレーンを1台使用した標準的な施工方法に比べ、既設床版の撤去から新設床版の架設までの工程を大幅に短縮できます。2019年と2022年に行った実物大総合実証実験では、標準的な工法に対し全断面取替で83%、幅員方向分割取替で90%短縮できることを確認しています。
施工枚数の比較(大型クレーン1台に対する比較 実物大総合実証実験結果より)
安全
床版撤去機および床版架設機の内部を、床版搬出用トラックおよび床版運搬台車が通過できるため、既設床版および新設床版の旋回を伴う揚重作業が不要となります。これにより、最小規制範囲での施工が可能となり、一車線規制による幅員方向分割施工時においても、近接する交通や周辺施設に対する安全性が確保できます。
架設作業範囲の比較
軽量
軽量な床版撤去機および床版架設機(ぞれぞれ作用荷重:約5t)を用いることで、大型クレーン(約60t)を用いた標準的な施工方法に対して、施工時に鋼桁に与える影響(発生応力)を1/2~1/3に大幅に低減できます。
施工機械の鋼桁に対する作用荷重の比較
全断面床版取替の実施例
関越自動車道阿能川橋床版取替工事(上り線)と広島自動車道奥畑川橋床版取替工事(上り線)において、全断面床版取替工事を行いました。
阿能川橋の三期工事において、標準的な工法で39日間(1日あたり3枚)のところ、SDRシステムでは13日間(1日あたり平均9枚、最大では18枚)となり、床版取替にかかる期間を約67%短縮しました。
全断面床版取替
全断面床版取替工事の状況
幅員方向分割床版取替の実施例
広島自動車道伴高架橋床版取替工事(上り線)において、幅員方向分割床版取替工事を行いました。
標準的な工法で21日間(1日あたり3枚)のところ、SDRシステムでは6日間(1日あたり平均10枚、最大では20枚)となり、床版取替にかかる期間を約70%短縮しました。
幅員方向分割床版取替
幅員方向分割床版取替工事の状況
適用実績
広島自動車道 伴高架橋(上り線)
場所:広島県広島市
床版取替期間:2024年4月~2024年12月
発注者:西日本高速道路
規模:橋長122.1m 幅員10.19~10.339m
幅員方向分割床版取替
新設床版の架設枚数:走行車線61枚+追越車線61枚
広島自動車道 奥畑川橋(上り線)
場所:広島県広島市
床版取替期間:2023年7月~2023年12月
発注者:西日本高速道路
規模:橋長214.8m 全幅員10.19m
全断面床版取替 新設床版の架設枚数109枚
関越自動車道 阿能川橋(上り線)
場所:群馬県利根郡みなかみ町
床版取替期間:2023年7月~2024年11月
発注者:東日本高速道路
規模:橋長628m 全幅員10.65m
全断面床版取替 新設床版の架設枚数279枚
学会論文発表実績
- 「スマート床版更新(SDR)システム® 全断面施工で床版架設の工期を最大85%短縮できることを実証」,土木施工,Vol.65,No.8,2024年8月
- 「スマート床版更新(SDR)システム® 幅員方向分割取替工事における床版取替工程を1/10に短縮」,土木施工,Vol.63,No.7,2022年7月
- 「スマート床版更新(SDR)システム 安価で高速施工を可能に、ソーシャルロスを大幅に低減」,土木施工,Vol.61,2020年7月
- 「安価にして高速施工を可能にする床版更新工法」,建設機械施工,Vol.72,No.6,2020年6月
UFC道路橋床版
超高強度繊維補強コンクリート「サクセム®」を用いた
薄肉・軽量で高耐久なプレキャスト床版
UFC※1道路橋床版は、高い強度と耐久性を併せ持つ超高強度繊維補強コンクリート「サクセム®」を用いた軽量で高耐久なプレキャスト床版です。平板型UFC床版とワッフル型UFC床版の2つのタイプがあります。老朽化した高架橋の床版取替えや軟弱地盤に建設される高架橋など、薄肉・軽量であることが求められる工事に適用する床版として、阪神高速道路と共同開発しました。
※1 Ultra high strength Fiber reinforced Concrete:超高強度繊維補強コンクリート
水結合材比が15%程度、圧縮強度が180N/mm2以上のUFCを使用
①平板型UFC床版
既設RC床版の更新に適した床版で、薄肉・軽量であるため、床版取替えに伴う道路面の高さ調整が不要で、鋼桁や下部構造の補強を最小限に抑えることができます。阪神高速守口線ほかに適用し、品質だけでなく工程においても通常のPC床版よりも優れていると評価されました。旧基準で設計された薄いRC床版の更新工事を中心に展開を図ります。
平板型UFC床版
②ワッフル型UFC床版
鋼床版に近い軽さを有する2方向のリブ付き床版で、新設橋に適した床版です。阪神高速信濃橋入路橋に適用し、当初計画されていたRC床版から床版重量を54%削減することにより、主桁構造の簡素化や架設クレーンの小型化を図ることができました。疲労き裂が問題となっている鋼床版を代替できる床版として期待されており、鋼橋新設工事を中心に展開を図ります。
ワッフル型UFC床版
2024年日建連表彰 第5回土木賞
2022年日建連表彰 第3回土木賞
令和3年度土木学会 技術賞
令和3年度エンジニアリング功労者賞
令和3年度コンクリート工学会賞 技術賞
平成30年度および令和元年度PC工学会賞 技術開発賞
平成30年度土木学会 田中賞 作品部門
平成26年度PC工学会賞 論文賞
NETIS KK-190043-A
土木学会 技術評価証
特許登録済
関連情報
- キーワード
- 超高強度繊維補強コンクリート、UFC、床版、薄肉、軽量、疲労、耐久性
UFC道路橋床版の特長・メリット
薄肉・軽量化
UFC道路橋床版は超高強度繊維補強コンクリート「サクセム」製のプレキャスト床版に、橋軸方向と橋軸直角方向のプレストレスを導入する構造です。「サクセム」の高い強度を活かした2方向プレストレスにより薄肉・軽量化を実現しました。
- 取替え前の旧基準で設計された薄いRC床版より約2割薄く、更新後の路面高さの変更が不要となります。
- 通常のPC床版の約2/3の重量となり、床版取替えに伴う鋼桁の補強量を大幅に低減できます。
2方向プレストレスのイメージ
更新後のイメージ
路面高さと床版の重量の比較の例(平板型UFC床版の場合)
高い耐久性および耐疲労性
超高強度繊維補強コンクリート「サクセム」は組織が緻密なため高い耐久性を有しています。また、2方向に高いレベルのプレストレスを導入することによって、耐疲労性の向上を図っています。輪荷重走行試験の結果、供用期間100年相当の走行回数を上回り、通常のPC床版と同等以上の耐疲労性を確認しています。
輪荷重走行試験
輪荷重走行試験での等価回数と正規化たわみ
UFC道路橋床版の施工技術
幅員方向分割施工を実現した技術
- 小型の定着突起にPC鋼材を配置することで、重量増加を最小限にしながら、一次床版と二次床版を一体化できます。
- 間詰材としてUFCに準じる性能を持つVFC※2を充填することでUFC床版の連続性を確保できます。
※2 Very high strength Fiber reinforced Cementitious composites:高強度繊維補強セメント系複合材料
水結合材比が15%程度、圧縮強度が150N/mm2以上のVFCを場所打ちで使用
UFC道路橋床版の架設
幅員方向分割施工および接合部のイメージ図
専用架設機により狭隘な空間での架設および工程短縮が可能
強度が高く軽量なUFC道路橋床版の特長を活かし、設置した床版上を専用架設機が走行して床版を運搬架設できます。
- 自走式の専用架設機で設置するためクレーン旋回時の側道の交通規制等が不要となり、狭隘な空間でも安全に床版の架設が可能です。
- トラックの荷台から床版を直接受け取り旋回、運搬して架設することでUFC道路橋床版の架設工程を短縮できます。
設置済みの床版上を走行する専用架設機
旋回可能な専用架設機による床版の架設
適用実績
国道29号新中島橋
場所:兵庫県宍粟市
竣工年:2025年3月
発注者:国土交通省近畿地方整備局
規模:橋長15.400m 全幅員8.700m
平板型UFC床版14枚
名神高速道路河内橋
場所:滋賀県米原市
床版取替完了年月:2024年9月
発注者:中日本高速道路
規模:橋長29.000m 全幅員11.620m
平板型UFC床版44枚
阪神高速3号神戸線
場所:神戸市中央区
竣工年:2023年10月
発注者:阪神高速道路
規模:橋長30.000m 全幅員17.600m
平板型UFC床版26枚
阪神高速12号守口線
場所:大阪市北区
竣工年:2021年5月
発注者:阪神高速道路
規模:橋長35.000m
全幅員17.600m~18.640m
平板型UFC床版42枚
阪神高速信濃橋入路橋
(ワッフル型UFC床版)
場所:大阪市西区
竣工年:2020年1月
発注者:阪神高速道路
規模:橋長37.000m 全幅員5.750m
ワッフル型UFC床版15枚
阪神高速15号堺線玉出入口
場所:大阪市西成区
竣工年:2019年3月
発注者:阪神高速道路
規模:橋長22.000m×3径間
全幅員6.250m 平板型UFC床版39枚
学会論文発表実績
- 「平板型UFC床版の接合部の構造性能および間詰の施工 ─阪神高速3号神戸線床版更新工事─」,コンクリート工学,Vol.62,No.7,2024年
- 「都市内高速道路における上下線一体橋梁での合成桁RC床版更新工事 ─生産性向上と工程短縮が可能な施工技術等の適用─」,道路,No.966,2021年9月
- 「平板型UFC床版の設計・製作・架設 ─阪神高速道路15号堺線玉出入路橋の床版取替え─」,橋梁と基礎,Vol.53,No.7,2019年
- 「ワッフル型UFC床版の構造設計および使用性検討」,土木学会論文集A1,Vol.74,No.3,2018年
- 「鋼床版と同等の軽量かつ耐久性の高いUFC道路橋床版の開発」,プレストレストコンクリート,Vol.56,No.1,2014年
UHPFRCによる道路橋床版の打替え・補強工法
超高性能繊維補強セメント系複合材料を用いた
コンクリート床版と鋼床版、双方に効果的なリニューアル工法
高度経済成長期に完成した道路橋の老朽化が進み、特に、床版の補修・補強は喫緊の課題となっています。これまで、交通荷重による疲労や凍結防止剤散布による塩害等で劣化した道路橋のコンクリート床版は、アスファルト舗装をはがし床版上面の一部を撤去して鋼繊維補強コンクリートで増厚する補修が行われてきました。しかし、この従来工法では早期に再劣化の生じる事例が散見されていることに加え、構造上、床版を撤去・取替えできない形式の橋梁もあることから、耐久性に優れる新しい補修・補強工法が求められていました。また、鋼床版についても交通荷重の累積により疲労亀裂が顕在化している事例があり、従来の増厚補強では路面が高くなり、段差を擦り付ける工事が必要となる場合がありました。
本工法は、老朽化した床版上面の一部を撤去し、超高性能繊維補強セメント系複合材料(UHPFRC※)で打ち替えることによって、薄層での補修・補強でありながら高耐久な床版を構築するものです。本工法は中日本高速道路株式会社との共同開発です。
本工法については、長野自動車道(特定更新等)岡谷高架橋改良工事(平成30年度)における現場施工で本格的に導入し、高速道路を通行止めすることなく大規模リニューアルを実施することができました。
※Ultra High Performance Fiber Reinforced cement-based Composites
:圧縮強度が150N/mm2以上で極めて緻密なセメント系材料を多量の鋼繊維で補強したもの
令和6年度土木学会 技術開発賞
特許登録済
UHPFRCによる道路橋床版の打替え(岡谷高架橋改良工事)
UHPFRCの打込み状況
関連情報
- キーワード
- 超高性能繊維補強セメント系複合材料(UHPFRC)、大規模更新・修繕技術、床版打替え・補強工法、ライフサイクルコスト低減、1車線規制下での施工
本工法の概要
本工法は、コンクリートの劣化部を除去し、UHPFRCを打ち込んで一体化させます。舗装を含めた厚さを現況と変えることなく、床版の耐荷力や耐久性を高めるものです。
また、橋梁上部構造の重量がほとんど変わらないため、下部構造の補強を最小限に抑えることができます。
本工法の断面模型(コンクリート床版)
施工の流れ
岡谷高架橋改良工事での実適用を例に、施工の流れを示します。
新たに開発した専用の自走式運搬機械により、1車線規制下の狭隘な作業エリアにおいても施工が可能となり、450m2(延長128m)の打込みを約8時間で完了させました。
①アスファルト舗装の撤去とコンクリート床版の切削
アスファルト舗装を切削機によって撤去し、劣化したコンクリートの表層をウォータージェットで取り除きます。
ウォータージェットによる床版の劣化部の除去
②UHPFRCの製造・場外運搬
現場の敷地内、もしくは、近くに設置した専用プラントでUHPFRCを製造し、アジテータ車で運搬します。
アジテータ車での運搬
③プライマーや接着剤の塗布
UHPFRCを打ち込む前に、既設の床版との一体性を確実なものとするためにプライマーや接着剤を塗布します。
接着剤の塗布
④UHPFRCの場内運搬・打込み
攪拌機能を有する専用の自走式運搬機械にUHPFRCを荷卸し後、道路勾配に応じて、だれ止め剤を添加・攪拌します。UHPFRCの流動性を調整しながら運搬し、打ち込みを行います。
自走式運搬機械による場内運搬・打込み
⑤UHPFRCの敷均し・締固め
UHPFRCの打込み後、専用フィニッシャで敷均しと締固めを行います。
専用フィニッシャによる敷均し・締固め
⑥仕上げ・シート養生
後続台車で、こて仕上げを行った後、シートと飛散防止ネットで覆い養生をします。
シート養生
⑦防水工およびアスファルト舗装工
硬化したUHPFRCの上にアスファルト舗装を敷設します。
(床版防水の代わりに、防水性に優れるアスファルト舗装を行う場合もあります)
アスファルト舗装工
施工手順と機械配置図(1車線規制下)
特長・メリットココがポイント
耐荷力および耐久性の向上
UHPFRCは超高強度かつ緻密であるため、コンクリート床版・鋼床版のどちらのリニューアルにおいても、最小限の厚さで、最大の効果を発揮します。
- UHPFRCは優れた引張特性を有するため、鉄筋に頼らない補強が可能となります。
- プレストレストコンクリート床版においては、切削によるかぶり部分のプレストレス力(導入圧縮力)の消失をUHPFRCの引張強度でカバーします。
- 輪荷重走行試験にて、従来の床版よりも疲労耐久性が向上していることを確認しています。
- 耐久性の高い床版に更新できることから、ライフサイクルコストの低減に大きく寄与します。(アスファルト舗装を除く)
- 道路橋床版自体の重量がほとんど変わらないため、橋梁下部工の補強を最小限に抑えることができます。
輪荷重走行試験
UHPFRCの引張特性
UHPFRCの塩分浸透抵抗性(劣化促進試験後)
UHPFRCの流動性を任意にコントロール
UHPFRCは流動性が非常に高いため、一般的には複雑な形状を有する型枠への流し込み施工に適した材料で、プレキャスト床版による床版取替工事の接続部(間詰)にも用いられてきました。
一方で、道路には縦断・横断勾配があり、床版の全面に流し込む際にはこの勾配によって先流れが生じる懸念があります。そこで、現場で流動性をコントロールするだれ止め剤「アジャストフロー™」を開発しました。
- 勾配に応じて任意にUHPFRCの流動性を調整し、先流れをさせることなく施工厚さや平坦性を確保できます。
- 流動性の調整は打込み直前や打込み途中に行えるため、“その場で”対処することができます。
- 最大9%の勾配まで先流れせずに仕上げられることを試験施工にて確認しています。
- 勾配のある床版への施工においても、鉄筋まわりの充填性や既設床版との一体性が良好であることを確認しています。
勾配9%での施工状況
UHPFRCの流動性コントロール技術
硬化後の評価試験(切断面)
適用実績
長野自動車道(特定更新等)
岡谷高架橋改良工事(平成30年度)
場所:長野県岡谷市
工期:2022年11月~2029年10月
(規制期間は、5月~7月および8月~11月)
発注者:中日本高速道路
規模:UHPFRCの打替え範囲20,000m2
学会論文発表実績
- 「UHPFRC床版打替え工法による道路橋床版のリニューアル」,コンクリート工学,Vol.63,No.7,2025年
- "Experimental investigation of fatigue behavior of UHPFRC – RC composite deck slabs subjected to moving wheel loading",Engineering Structures 303,2024年
- 「既設部材の補修・補強に用いる場所打ちUHPFRCの引張特性および拘束条件下における挙動に関する研究」,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),Vol.77,No.3,2021年
- 「UHPFRCで打替えやオーバーレイをしたPC梁部材の曲げ特性に関する検討」,令和2年度土木学会,第75回年次学術講演会,2020年
- 「UHPFRCによる道路床版打替え・補強工法に向けた実大施工実験」,第28回プレストレストコンクリート工学会,シンポジウム論文集,2019年
- 「超高強度繊維補強コンクリートの道路床版打替え工法への適用に関する研究」,第26回プレストレストコンクリート工学会,シンポジウム論文集,2017年