水中不分離性コンクリート
「ハイドロクリート」
材料分離が少ないので、水中の大規模工事から補修工事まで適用可能
一般の水中コンクリート工事には、プレパックドコンクリート工法、トレミ―工法、コンクリートポンプ工法がありますが、水中でのコンクリートの分離を防ぐためには「打ち込まれるコンクリートと水との接触をできる限り避けること」を基本としています。一方、鹿島、三井化学産資、日本海上工事が共同で開発した水中不分離性コンクリート「ハイドロクリート」は、一般の水中コンクリートの概念を一掃するもので、水と接触しても品質の低下が小さくなるようにフレッシュコンクリートの性能を改良したものであり、水中不分離性剤(UWB)を混和してコンクリートの粘性を高め、水の洗い作用による材料分離に対する抵抗性を極限まで高めたコンクリートです。このため、水中に打ち込んだコンクリートの品質の信頼性が飛躍的に向上するばかりではなく、施工水域の汚濁を防止し、施工環境の保全に顕著な効果を発揮しています。
- キーワード
- 水中不分離性、セルフレべリング性、水質汚濁防止、水中施工、長期耐久性、スランプフロー、水中流動距離、環境保全
特長・メリットココがポイント
特長と効果
- 高品質コンクリートの確保
水中においても均質かつ所定強度の高品質コンクリートが得られます。(❶) - 水質汚濁の防止
打込み場所周囲の水質汚濁をきわめて小さく抑えることができます。(❷) - 優れた流動性
コンクリート自体の自重により、鉄筋部や狭い間隙への充填性、流動性を有します。(❸) - ブリージングの防止
ブリージングがないため、レイタンスの発生がなく打継面の処理作業を軽減できます。(❹) - 施工性の向上
材料自体が分離しないため、施工法・施工条件の制約が少なく、工事の簡略化、工期の短縮等により、トータルでの工事費を削減できます。(❺)
高い材料分離抵抗性
普通コンクリート及びハイドロクリートを60cm水中落下させたものを試料として用い、「JIS A 112」に準じて試験を行いました。
- 普通コンクリートは、水中落下により材料分離が生じ、配合の変化が大きい。
- ハイドロクリートは、水中不分離性剤を使用し水中落下による材料分離を抑制するため配合の変化が小さい。
適用実績
明石海峡大橋2P下部工
場所:兵庫県明石市
竣工年:1992年6月
発注者:本州四国連絡橋公団
規模:27万m3
羽田空港D滑走路
場所:東京都大田区
竣工年:2010年10月
発注者:国土交通省関東地方整備局
規模:15,000m3
大滝地区地すべり対策
場所:奈良県吉野郡
竣工年:2011年12月
発注者:国土交通省近畿地方整備局
規模:25,000m3
学会論文発表実績
- 「新しい水中コンクリート ─ハイドロクリート─」,農業土木,No.384,1981年12月
- 「ハイドロクリートと施工例」,第27回全国港湾工事報告会概要報告,1981年12月
- 「新しい水中コンクリート(ハイドロクリートの物性と応用例)」,セメント・コンクリート,No.48,1981年12月
- 「新しい水中コンクリートの開発研究 ─ハイドロクリートを用いて水中施工した無筋及び鉄筋コンクリートの実用例」,鹿島建設技術所年報,No.29,1981年6月
- 「新しい水中コンクリートの開発研究(その2)─ハイドロクリートのノーブリージング特性に関する基礎実験」,鹿島建設技術研究所年報,No.30,1982年7月
可塑状グラウトによる地盤注入工法
地盤中の空隙、間隙を効率的に充填注入する技術
近年、地震発生時の災害復旧対応、BCPの観点から岸壁の耐震補強工事が多く進められています。ほとんどの場合、護岸背面の埋立て地盤は地震時に液状化すると判定され、この部分は溶液型の薬液注入工法、あるいはセメントミルクを用いた高圧噴射撹拌工法による地盤改良が実施されます。しかしながら、護岸ケーソン直下の基礎捨石層や背面の裏込栗石層は間隙が大きいため、この層を通じて薬液やセメントミルクが海へ流出し、pHの上昇や汚濁などが発生することが懸念されます。これを防止するために、あらかじめ間隙の大きな層に充填注入し、流出経路を閉塞する材料が「可塑状グラウト」です。
- キーワード
- 捨石、栗石、間隙充填、空隙充填、流出防止、海域汚染防止、液状化、地盤改良、地震、耐震、補強
特徴
2種類の流動性のある材料(A液:主材=流動性グラウト、B液:可塑剤)を混合することで可塑状グラウトとします。A液、B液の初期状態ではそれぞれ液体状ですが、A液、B液を混合すると10秒前後の時間でゲル化して可塑状固結状態となります。
可塑状とは、自重変形による流動性を失っているものの、外力によって若干圧力を加えることで容易に変形しうる状態(可塑状固結状態)のことをいいます。可塑状グラウトは、この可塑状固結状態を長時間(10~30分以上)保持できる注入材です。注入材は、大きな地盤空隙に注入した後にも流出せず、計画した限定的な範囲に留まり、良好に充塡されます。
特長・メリットココがポイント
空隙が大きい地盤への確実な注入
従来技術では注入が難しかった間隙が大きい護岸ケーソン直下の基礎捨石層や背面の裏込栗石層にも、流出させることなく注入材を注入できます。また、水中不分離性を有しているので、注入中の注入材分離による改良地盤の品質低下や環境負荷の増大といった懸念がありません。
適用実績
大阪港北港南地区岸壁改良
場所:大阪府大阪市
竣工年:2011年3月
発注者:国土交通省近畿地方整備局
目的:一般港湾の液状化対策、薬液注入材の流出対策
八戸LNGターミナル
場所:青森県八戸市
発注者:日揮プラントソリューション
目的:SMW連続壁造成時のソイルセメント流出対策
学会論文発表実績
- 「耐震性向上を目的とした岸壁背面の地盤改良(その2) ─可塑性グラウトによる遮蔽壁築造工─」,地盤工学会,第47回地盤工学研究発表会,2012年
- 「既設構造物の耐震補強、液状化対策を目的とした地盤改良技術」,平成23年度中国地方建設技術開発交流会,2011年
長寿命化コンクリート
「EIEN®」
物質遮断性、耐溶脱性に優れたプレキャスト用コンクリート
古代ローマコンクリートや中国大地湾遺跡から発掘されたコンクリートの多くが健全な状態で発見されました。そのコンクリートの分析をしたところ、コンクリートが炭酸化していることが確認されました。つまり、コンクリートが炭酸化することで化学的に安定化して耐久性が向上し、地中や海中に埋没しても健全に存在できたものと考えられています。
「EIEN」は、古代コンクリートの調査結果を、現代の最先端コンクリート技術に反映させた新しいコンクリートです。EIENは緻密であり、塩分など劣化因子の侵入を長期にわたり遮断し、すり減り抵抗性にも優れます。今までのコンクリートでは数十年で鉄筋が腐食し、耐久性が低下してしまう環境においても、100年単位の耐久性を確保することが可能です。
平成16年度日本コンクリート工学会 論文賞
平成12年度土木学会全国大会 優秀講演賞
特許登録済
- キーワード
- 炭酸化、耐久性、溶脱抵抗性、遮塩性、拡散係数、空隙率
技術の詳細
長寿命化コンクリート「EIEN」は、一般的な鉄筋コンクリート構造物においては鉄筋腐食を招く中性化のうち、炭酸化反応に注目しました。このコンクリートは、特殊混和材と炭酸イオンが反応することでセメント硬化体を緻密化し、耐久性を向上させる、新しいコンクリートです。
「EIEN」は表面近傍が緻密化しているため、物質遮断性およびすり減り抵抗性が向上します。物質遮断性に優れているため、波が直接作用する桟橋などの塩害環境下では、長期にわたり劣化因子である塩化物イオンの侵入を防ぐことができます。さらに、炭酸化によって溶脱抵抗性が向上するため、コンクリート中のアルカリが溶出せず、周辺環境のpHの上昇が抑制されるため、環境負荷を低減することができます。また、一般的なコンクリートであれば表面がすり減ってしまい、耐久性が低下してしまいますが、EIENは一般的な普通コンクリート(W/C=45%)よりもすり減り抵抗性が2倍以上あるため、長期にわたり健全性を維持することができます。
「EIEN」の製造方法は、プレキャスト工法と場所打ち工法の2種類の工法があります。プレキャスト工法は、コンクリート製造工場でEIENの打込みおよび炭酸化養生を行います。一方、場所打ち工法は、EIENを場所打ちし、現場で炭酸化養生を行います。
EIENの各工法
また、本技術を利用した舗装用ポーラスコンクリート「EIEN-ROAD」は、炭酸化により、曲げ強度の向上と耐磨耗性の向上が可能となります。また、骨材の種類を変えることで、意匠に合わせてデザインを選定することができます。
特長・メリットココがポイント
優れた耐久性その1:溶脱抵抗性
室内において作用水にコンクリートを浸漬し、作用水のpHを測定することで溶脱抵抗性を評価しました。
- 標準水中養生した供試体の作用水のpHが11.2~12.4であるのに対し、EIENはpHが9.0~11.0と低い値になり、溶脱抵抗性が高いことが確認されました。
優れた耐久性その2:遮塩性
人工海水に28日間浸漬させた後、EPMAによって供試体内部の塩化物イオン濃度を測定し、遮塩性を評価しました。
- 標準水中養生した供試体では表面から深さ15mm程度まで塩化物イオンが浸透しているのに対し、EIENは塩化物イオンの浸透が確認されませんでした。
優れた耐久性その3:すり減り抵抗性
奥田式すりへり試験機を用いた摩耗試験により、すり減り抵抗性を評価しました。
- EIENは普通コンクリート(W/C=45%)に対して約2.8倍、高強度コンクリート(W/C=30%)に比べて約2倍のすり減り抵抗性を有することが確認されました。
適用実績
石油桟橋(プレキャスト工法)
規模:72m2
荷卸し桟橋(プレキャスト工法)
規模:12m2
荷卸し桟橋(場所打ち工法)
規模:26m2
学会論文発表実績
- 「γ-2CaO・SiO2 および各種ポゾランを添加した硬化体の炭酸化反応による空隙充てん機構」,土木学会論文集E2,Vol. 68,No. 1,2012年
- 「γ-2CaO・SiO2 を添加したセメント系材料の各種炭酸化養生条件における物理・化学特性」,土木学会論文集E2,Vol. 68,No. 3,2012年
- 「炭酸化コンクリートの海洋環境下における耐久性評価」,コンクリート工学年次論文集,Vol.34,No.1,2012年
- 「New Renovation Method for Jetty Structure Using High Durability Concrete Form Cured with CO2 Gas」, Journal of Advanced Concrete Technology, 8(3), 2010年
- 「High Durability Cementitious Material with Mineral Admixtures and Carbonation Curing」, Waste Management Volume 26,Issue 7, 2006年
超高強度繊維補強コンクリート
「サクセム®」
超高強度、高じん性および超高耐久性を併せ持つコンクリート
サクセムは、日本国内の材料と技術で構築した超高強度繊維補強コンクリートです。セメントと特殊混和材を含むプレミックス粉体、細骨材、特殊鋼繊維、特殊減水剤及び水とで構成されています。水結合材比は16%程度で水和反応によって化学的に緻密化された硬化体を形成し、通常のコンクリートに比べて格段に高い圧縮強度(180N/mm2)及び耐久性を実現しています。また、特殊鋼繊維を混入することにより高い引張強度と高い靭性を有し、サクセムが引張応力を負担することができるため構造物に鉄筋を配置する必要がありません。
先端材料技術協会 製品・技術賞
土木学会 技術評価証
平成26年度プレストレストコンクリート工学会賞 技術開発部門
- キーワード
- 超高強度繊維補強コンクリート、鋼繊維、引張強度、耐久性、軽量化
サクセムの特徴
普通コンクリートではひび割れ発生と同時に破壊に至るのに対して、サクセムでは、ひび割れ発生後も鋼繊維の補強効果により変形性能に優れた破壊挙動を示します。このような力学特性から、サクセム部材の設計においては引張強度を期待して設計することができ、鉄筋補強を必要としない構造部材が実現可能となります。
サクセムの塩化物イオンの見掛けの拡散係数は0.002と小さく、80N/mm2の高強度コンクリートと比較しても1/100程度の値となっています。サクセムの組織の緻密性により物質移動に対する抵抗性が格段に優れており、過酷な気象条件下でも、100年以上の耐久性が保証されます。
サクセムは流動性が高く、自己充塡性を有するため、薄い部材や複雑な形状の部材でも容易に製作が可能です。
特長・メリットココがポイント
合理的な構造物を実現
高い圧縮強度を活かして高いプレストレスを導入することができ、鉄筋補強を必要としないため、より合理的な構造の構築が可能となります。
- 高い圧縮強度を有するため、従来のPC橋に比べて半分の桁高のPC橋を実現できます。
- 部材を薄くできるため、従来のPC橋に比べて半分程度の軽量化を実現できます。
ライフサイクルコストの低減が可能
高い耐久性を活かすことによりライフサイクルコストを低減することができます。
- 遮塩性が極めて高く、内部鋼材の発錆を防ぎます。
- 透気係数が極めて小さく、通常の環境下では中性化しません。
- 凍結融解作用に対して優れた抵抗性を有し、自然環境化では凍害劣化が生じません。
適用実績
デンカ小滝川橋
場所:新潟県糸魚川市
竣工年:2015年5月
発注者:電気化学工業
規模:橋長39.0m 桁高1.3m 幅員5.2m
羽田D滑走路桟橋部床版
場所:東京都大田区
竣工年:2010年10月
発注者:国土交通省関東地方整備局
規模:長さ3.61m×幅7.82m/枚 797枚
リバーサイド千秋連絡橋
場所:新潟県長岡市
竣工年:2007年8月
発注者:ユニー
規模:橋長30.5m 桁高0.5m 幅員4.1m
国道163号線水路橋
場所:京都府木津川市
竣工年:2010年7月
発注者:京都府山城南土木事務所
規模:橋長23.75m 桁高0.6m 幅員0.64m
学会論文発表実績
- 「デンカ小滝川橋の設計 ─場所打ちによるUFC製道路橋─」,プレストレストコンクリート57巻1号,2015年1月
- 「超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を場所打ちで施工したPC橋 ─小滝川橋─」,コンクリート工学,2015年7月
- 「デンカ小滝川橋の設計・施工」,橋梁と基礎,2015年7月
- 「超高強度繊維補強コンクソート製型枠を用いた高耐震性橋脚の適用」,橋梁と基礎,2012年5月
- 「リバ-サイド千秋連絡橋(仮称)の設計と施工 ─超高強度繊維補強コンクリ-トおよび橋脚の制震工法を用いた歩道橋─」,橋梁と基礎,2007年12月
- 「超高強度繊維補強コンクリートを用いた下路式歩道橋の施工時検討」,第21回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム,2012年10月
- 「UFC床板製作におけうAft系UFCの製造・品質管理」,第19回プレストレスコンクリートの発展に関するシンポジウム,2010年10月
コンクリート表層品質向上のための
「美(うつく)シール®工法」
より美しく、より耐久性の高いコンクリートを実現する
全く新しい養生技術
コンクリート構造物の耐久性を低下させる劣化因子は、コンクリートの表面から侵入します。したがって、コンクリートの表層品質を高め、劣化因子の侵入を防止することで、耐久性の高い構造物を構築することができます。
表層部の高品質化の一手段として、セメントの水和反応を最大限発揮させるには、入念でかつ十分な期間の湿潤養生が有効であると考えられています。
「美シール工法」はシートの高撥水性による表面気泡低減効果と型枠脱型後もシートを残置させ長期養生することにより、表層品質の改質を可能とする新しい養生技術です。美シール工法により、構造物の耐久性を向上させることができます。
平成28年度土木学会賞 技術開発賞
2018年コンクリート工学会賞 技術賞
特許登録済
NETIS KT-190003-A
関連情報
- キーワード
- 養生、シート養生、耐久性、表層品質、かぶり、中性化、塩害
施工方法
美シール工法は、せき板の内側に高撥水性シートを貼りつけた型枠を建て込み、そこにコンクリートを打ち込みます。シートの高撥水性により表面気泡を低減することができ、脱型時にシートをコンクリート側に残置させることで、コンクリートの表面を一度も乾燥させることなく、長期間にわたって湿潤状態を保ち、表面を緻密化することができます。
従来工法との比較
- 表面気泡の低減と長期養生が両立できます。
- 打込みから養生終了まで1度も外気に曝されません。
- 場所打ち、プレキャストなど各種工法に適用可能です。
特長・メリットココがポイント
表面気泡の低減
- 高撥水性シートにより表面気泡を低減でき、コンクリート表面の美観が向上します。
シートによる長期養生
型枠取外しの際、シートはコンクリートに残置するため、コンクリート中の水分を封じ込めることができ、セメントの水和反応が長期にわたって継続します。これによりコンクリートの耐久性が向上します。
表層品質向上効果
- 美シール工法による表面気泡低減と長期間養生によって、コンクリートの耐久性が著しく向上します。
- 中性化抵抗性や塩害抵抗性が向上し、コンクリート構造物の長寿命化に寄与します。
- 特に、高炉セメントB種などの混合セメントに対して優れた耐久性向上効果を発揮します。
適用実績
長部高架橋
場所:岩手県陸前高田市
竣工年:2017年3月
発注者:国土交通省東北地方整備局
規模:1,712m2
平成27年度中防内5号線
橋りょうほか整備工事
場所:東京都
発注者:東京都港湾局
規模:約3,000m2
学会論文発表実績
- 「実規模試験体を用いた熱可塑性樹脂シートによる養生効果の検討」,コンクリート工学年次論文集,2015年7月
- 「熱可塑性樹脂シートによる長期間の水分逸散抑制養生の効果」,コンクリート工学年次論文集,2015年7月
- 「コンクリート表層の耐久性を向上する『美シール工法』」,セメント・コンクリート,2016年1月
- 「高撥水性シール工法によるコンクリートの表層品質向上技術」,コンクリート工学,2016年11月