ツインアーチフォーム工法®「TAF工法」
トリプルアーチフォーム工法®「TrAF工法」
覆工コンクリートの養生時間延長による品質向上と高速施工
従来の山岳トンネルの覆工コンクリートは標準的に2日に1回の打設サイクルです。2日間のうち、コンクリートの養生期間は18時間程度と短く、強度発現が低いうちに脱型するため、脱型時の自重による変形、ひび割れの潜在的要因となっていました。
鹿島が開発したツインアーチフォーム工法(TAF工法)は、脱着機構を有する2基のセントル型枠により従来の2日のサイクルを維持したままコンクリートの養生期間を66時間以上確保することで、コンクリートの品質を向上させる施工法です。また、フォームを1基追加して3基のフォームにより、毎日コンクリート打設を行えるトリプルアーチフォーム工法(TrAF工法)も開発しました。両工法ともコンクリートの養生期間を大幅に増やすことができるため、脱型時のコンクリートの強度が上がり、コンクリートの緻密さが向上します。
平成26年度建設施工と建設機械シンポジウム優秀論文賞
第27回日本建設機械施工大賞 最優秀賞
特許登録済

TAF1号機全景
関連情報
- キーワード
- 覆工コンクリート、養生時間、圧縮強度、ひび割れ、セントル、脱型、66時間、ツイン、アーチ
施工手順
TAF工法
TAF工法では、2つのアーチフォーム(型枠)に径の縮小・拡大機能を持たせ、1台のレール台車で2つの型枠を交互に使用できるようにしています。
まず、第1アーチフォームにコンクリート打設後、ガントリー(台車)から分離させて、そのままの状態で養生させておきます。その後、あらかじめ径を縮小させた第2アーチフォームを乗せた台車は、第1アーチフォームの下をくぐり抜けて通過し、次の打設位置まで進みます。第2アーチフォームで打設後は、脱型した第1アーチフォームの径を縮小して第2の下を通過させ、次の打設位置に移動させます。このプロセスを繰り返して前進していきます。

TAF工法概念図
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TAF工法施工サイクル(動画)
TrAF工法
TrAF工法では、フォームを1基追加し、3基とすることで、打設サイクルを毎日としてもTAF工法と同等の型枠存置時間(60時間)を確保できます。これにより打設スピードが速まってもTAF工法と同等の初期養生効果を得ることができます。

トリプルアーチフォーム(TrAF)工法施工の様子

トリプルアーチフォーム(TrAF)工法
特長・メリットココがポイント
66h脱型による高緻密化
室内試験により、透気係数を指標としてコンクリート表面の緻密性を評価しました。
- 66h脱型は、18h脱型に比較して大幅に透気係数が低減し、7日脱型とほぼ同様な状態まで緻密化していることが確認できました。
- 被膜養生やミスト養生など、他の養生方法と比較しても、66h脱型のほうが緻密化していることがわかります。

室内試験によるコンクリート表面緻密化の評価結果
圧縮強度は従来の約4倍
同じく、室内試験により、圧縮強度の増加を確認しました。
- 66h脱型にすることで、通常施工サイクルの18h脱型に比較してコンクリート強度が約4倍の10N/mm2に向上することが確認されました。

養生期間延長によるコンクリート圧縮強度増加確認結果
週5日コンクリート打設を実現
TrAF工法を採用した唐丹第3トンネル工事(岩手県釜石市)では、週5日の稼働で毎日のコンクリート打設を実現し、覆工工事の最大月進288.19m(12.53m×23日)、平均月進250mを達成しました。昼間のみ変則シフト(1.5班体制)に施工体制を変更し、生産性も向上しました。
適用実績
TrAF工法

国道45号 唐丹第3トンネル
場所:岩手県釜石市唐丹町
竣工年:2018年3月
発注者:国土交通省東北地方整備局
規模:トンネル延長L=3,023m 内空断面積95m2
TAF工法

新名神高速道路 箕面トンネル
場所:大阪府箕面市
竣工年:2018年2月
発注者:西日本高速道路関西支社

宮古盛岡横断道路 新区界トンネル
場所: 岩手県宮古市~盛岡市
竣工年:2019年8月
発注者:国土交通省東北地方整備局
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一般国道473号岩古谷トンネル
場所:愛知県北設楽郡
竣工年:2014年3月
発注者:愛知県建設部
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新東名高速道路徳定トンネル
場所: 愛知県新城市
竣工年:2014年6月
発注者:中日本高速道路
学会論文発表実績
- 「覆工コンクリートの品質向上と急速施工の両立に向けた取り組みについて」,トンネル工学報告集,2017年
- 「覆工コンクリートの高速施工と品質向上の両立を実現」,建設機械
覆工用中流動コンクリート
特殊混和剤の使用により覆工用中流動コンクリートを簡易に製造
従来、山岳トンネルの覆工コンクリートの構築においては、スランプが15cm程度のコンクリートを10m程度流動させて打ち込むため、材料分離や締固め不足、未充填部の発生といった初期欠陥を生じやすいことが問題となっていました。
こうした課題に対して、スランプフローが35〜50cmである中流動コンクリートを用いる施工方法が高速道路総合技術研究所によって開発されています。
今回鹿島が開発した中流動コンクリートは、このトンネル覆工用中流動コンクリートの仕様に準拠しつつ、特殊な混和剤を用いることで市中の生コン工場での製造を簡便にしたものであり、より多くの現場での中流動コンクリートの使用を可能にします。

特殊混和材を用いた中流動コンクリートのスランプフロー
- キーワード
- 覆工コンクリート、中流動コンクリート、特殊混和剤、粘着剤
技術の詳細
覆工用中流動コンクリートは、スランプフローが35~50cm程度で、型枠バイブレータ程度の軽微な振動で流動・充填させることができるため、材料分離のない均質な覆工コンクリートを実現できます。この「材料分離をさせないための方策」としては、セメントと同程度の細かさを持った粉体である石灰石微粉末やフライアッシュをコンクリートに添加する必要がありますが、石灰石微粉末やフライアッシュを常備している市中の生コン工場はほとんどありません。そのため、従来は中流動コンクリートを適用できる現場が限られてしまうという問題がありました。
今回、開発した覆工用中流動コンクリートは、高性能AE減水剤と増粘剤を一液にした特殊混和剤を使用することにより、流動性と材料分離抵抗性を同時に付与します。粉体を使用しないため、一般的な設備を有する市中の生コン工場で中流動コンクリートを製造することができ、より多くの現場で中流動コンクリートを適用することができます。また、特殊混和材を用いた中流動コンクリートの品質は粉体を用いた中流動コンクリートと同等であり、高品質な覆工コンクリートを確実に構築することができます。朝日トンネル(茨城県)で試験的に採用されたほか、徳定トンネル(NEXCO中日本)や矢頭峠トンネル(三重県)において採用が決定しています。

スランプ15cmの一般的な覆工コンクリートを使用したときの内空表面の仕上がり状況

特殊混和剤を用いた覆工用中流動コンクリートを使用したときの内空表面の仕上がり状況
特長・メリットココがポイント
優れた流動性と施工性
普通コンクリート(スランプ15cmの一般的な覆工コンクリート)と特殊混和剤を用いた中流動コンクリートの流動性を、実際の施工と同じ規模で比較しました。
- 特殊混和剤を用いた中流動コンクリートは、流し込むだけで10m以上流動させることができ、良好な流動性を有していることが確認できました。
- また、型枠バイブレータによる締固めだけで、ほぼ水平とすることができました。

実規模流動実験の結果(流動勾配)
材料分離がほとんどない
特殊混和剤を用いた中流動コンクリートの流動後の粗骨材量の分布状況を調べました。
- 特殊混和剤を用いた中流動コンクリートは粗骨材の変化率が80%以上で、流動による材料分離がほとんど生じていないことを確認しました。

実規模流動実験の結果(コンクリート中の粗骨材量)
緻密で均質なコンクリート表面
表面透気係数を指標として、流動後の普通コンクリートと特殊混和剤を用いた中流動コンクリートの表面の緻密さを評価しました。
- 特殊混和剤を用いた中流動コンクリートは、表面透気係数が小さく(透気係数が小さいほど緻密)、そのばらつきも小さい結果となり、緻密で均質な覆工コンクリートであることが確認できました。

実規模流動実験の結果(表面透気係数)
適用実績

朝日トンネル
場所:茨城県土浦市
竣工年:2012年3月
発注者:茨城県
規模:NATM トンネル延長1,784m
施工延長732m 車道幅員6m
内空断面積52m2
学会論文発表実績
- 「増粘効果を有する高性能AE減水剤を用いた中流動コンクリートのトンネル覆工への適用性に関する実験的検討」,コンクリート工学年次論文集,Vol.34,No.1,2012年
- 「特殊な混和剤を用いたトンネル覆工用中流動コンクリートの開発」,セメント・コンクリート,No.787,2012年9月
全自動トンネル覆工コンクリート打設システム
「FALCON-CAST™」
多様なニーズに対応可能な全自動打設システム
山岳トンネルの覆工コンクリートは、トンネルの長期安定性の確保などを目的に構築される、最終仕上がり面です。そのため、覆工コンクリートの不具合による剥離・剥落は、供用後の第三者災害に直結することから、確実に品質を確保しなければならない重要な構造物となります。しかし、従来、覆工コンクリートの施工は、狭隘な型枠内に技能者が窮屈な姿勢で身を乗り出しながら締固めを行う等、負担の大きい人力作業が多く、品質は技能者の技量に依存しており、未充填などの品質不良を生じる可能性がありました。
そこで、品質を確保・向上させ、締固め作業の省人化、省力化を目的として、覆工用中・高流動コンクリートと革新的な打設配管装置を開発し、覆工コンクリートの打設を完全に自動化する「全自動トンネル覆工コンクリート打設システム『FALCON-CAST※』」を開発しました。本システムを用いることで、覆工コンクリートの品質の確保・向上および生産性向上を実現しました。
※FALCON-CAST:Fully Automated pouring system for Lining-CONcrete of CAST in-situ
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「FALCON-CAST」の施工イメージCG 革新的な打設配管装置での打設イメージ(動画:24秒/音なし)
2025年度エンジニアリング功労者賞エンジニアリング振興
令和7年度日本建設機械施工大賞 大賞部門 優秀賞
土木学会第33回トンネル工学研究発表会 優秀講演賞
土木学会 土木建設技術発表会2020 セッションⅡ山岳トンネル 最優秀賞
特許登録済
商標登録出願中
関連情報
- キーワード
- 全自動トンネル覆工コンクリート打設システム、覆工用高流動コンクリート、覆工用中流動コンクリート、
回転式打設口、高速左右切替装置、打設制御装置
全自動トンネル覆工コンクリート打設システムの構成
本システムは、以下の4つで構成されます。
全自動トンネル覆工コンクリート打設システム概念図

ポンプ車2台での打設状況

ポンプ車1台での打設状況
❶覆工用中・高流動コンクリートの技術
覆工用中流動コンクリートは軽微な締固めを必要とするコンクリートで、覆工用高流動コンクリートは自己充填性を有し締固めが不要なコンクリートです。それぞれ、プラント製造用、現場での流動化用として2種類の混和剤を開発し、4タイプの施工が可能です。比較的少ない単位セメント量で流動性の高いコンクリートを実現しています。

覆工用中・高流動コンクリート
❷革新的な打設配管装置(回転式打設口)
革新的な打設配管装置は、各打設口を回転式打設口とし一筆書きで接続することで、各打設口が打設を完了した際は回転して型枠表面と同じ位置で蓋が閉まると同時に、次の打設口への配管ルートを形成します。

革新的な打設配管装置(回転式打設口)
❸打設制御装置
打設制御装置は、型枠表面にコンクリートの打上げ高さを検知するセンサを設置して打設状況を見える化するとともに、型枠バイブレータの稼働制御やコンクリートポンプとの連動制御を自動で行い、左右の高低差を無くし均等に吹上打設を行います。

打設制御装置
❹左右の高速配管切替装置
コンクリートポンプ1台で施工する場合、配管の分岐点に設置した高速配管切替装置により、左右系統の切替えを3秒、打設口の切替えも含めて15秒で行うことができ、流動停止時間を短時間に抑え、連続打設を実現します。

左右の高速配管切替装置
全自動トンネル覆工コンクリート打設システムの概要と特長
❶覆工用中・高流動コンクリートの技術
開発した混和剤は、分散剤と増粘剤により、覆工用中・高流動コンクリートの流動性を確保しつつ、材料分離抵抗性を付与することで、単位セメント量を少なくすることができます。また、ブリーディングを抑制し、経時保持性を含むフレッシュコンクリートの性状を良好としつつ、早期強度発現を実現しました。
- プラント製造型 増粘剤含有高性能AE減水剤
商品名 シーカビスコクリートUG6500/6550SDC(シーカ・ジャパン製) - 現場流動化型 増粘剤含有流動化剤
商品名 シーカビスコクリートUG6580/6585SDC(シーカ・ジャパン製)

覆工用中・高流動コンクリートの混和剤技術
(分離することなく高い流動性を確保)
❷革新的な打設配管装置(回転式打設口)
従来、覆工コンクリートの施工では、移動式型枠に複数の配管が設置されており、打込み箇所を切り替える際に配管内のコンクリートの回収や処分、及び清掃の作業が必要でした。
開発した革新的な打設配管装置は、各打設口を回転式打設口にし、一筆書きで接続することで、全ての打設口からコンクリートを吹き上げて圧入して打ち込みます。打設口からの打込みが完了すると打設口の配管を回転させて、次の打設口にコンクリートを連続的に供給する構造です。
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革新的な打設配管装置による打設状況(動画:18秒/音なし)
この打設配管装置を可能とした回転式打設口は、打設時は吹上口が型枠表面からコンクリート内部へ突出していますが、打設を完了した際は回転して型枠表面と同じ位置で蓋が閉まると同時に、次の打設口への配管ルートを形成します。これにより、打設中の残コンクリートの回収や配管清掃が不要となります。
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回転式打設口の実際の動き(動画:27秒/音あり)
❸打設制御装置(制御システム)
打設制御装置は、型枠表面に設置した複数の高さ検知センサで、コンクリートの打上がり高さ(打設進捗)を「見える化」し、回転式打設口を含む打設配管装置、型枠バイブレータ、コンクリートポンプの全ての装置を連動制御することができます。具体的には、型枠バイブレータの振動、天端圧力、打設口の切替え高さ、打設速度を設定し打設を開始すると、自動で覆工コンクリートを打設します。
また、制御システム画面は現場から工事事務所や生コン工場へ外部配信し、打設状況をリアルタイムで共有するとこにより、トラブル等への迅速な対応を図ることができます。

打設制御画面
❹左右の高速配管切替装置
従来の配管切替装置では、左右の切替えに数分要するため、コンクリートの打重ね線のような流動跡が色むらとして残るという課題がありました。そこで、コンクリートポンプの圧送信号と連動する左右の高速配管切替装置を開発しました。本装置は、電気信号による油圧制御で、約3秒間で左右の配管系統の切替えを可能とします。
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左右の高速配管切替装置の稼働状況(動画:9秒/音なし)
多様なニーズに対応した実工事への適用例とその効果
本システムを、大断面となる3車線、および標準断面となる2車線の実工事に適用しました。
3車線断面
2023年、本システムを軽微な締固めが必要な覆工用中流動コンクリートにも対応できるよう進化させ、大津大石トンネル工事(滋賀県大津市)に適用しました。
また、宇治田原トンネル西工事(京都府宇治田原町)では、システムのメリットを最大限活かすことができる覆工用高流動コンクリート用いた全自動打設を成功させ、打設時の人員の約60%低減、および覆工コンクリートの品質確保および向上を実現しました。

大津大石トンネル(3車線断面)での中流動コンクリート自動打設の様子

宇治田原トンネル西(3車線断面)での高流動コンクリート自動打設の様子
2車線断面
さらに、2024年、養老トンネル南工事(三重県いなべ市)では、現場で流動化させる覆工用高流動コンクリート用いて、標準的な2車線断面用に各種装置を小型化した全自動打設を完成させ、打設時の人員を約50%の低減を実現しました。

養老トンネル南(2車線断面)でのポンプ1台での自動打設の様子

養老トンネル南の仕上がり状況(現場流動化型覆工用高流動コンクリート)
その他にも、現場で流動化させる覆工用中流動コンクリートを用いた全自動打設も可能であり、あらゆる断面、中流動コンクリートまたは高流動コンクリート、さらにそれぞれのプラント製造型、現場流動化型が選択可能となり、多様なニーズに対応することができます。
適用実績

養老トンネル南
場所:三重県いなべ市
工期:2022年8月〜2026年10月
発注者:中日本高速道路
規模:トンネル延長(本坑)2,062m
掘削断面積90.3m2

宇治田原トンネル西
場所:京都府宇治田原町
工期:2019年5月~2026年1月(その1)
2022年9月~2027年10月(その2)
発注者:西日本高速道路
規模:トンネル延長上り線822m 下り線1,092m
設計掘削断面積140m2 内空断面積116m2

大津大石トンネル
場所:滋賀県大津市
工期:2019年5月~2025年3月
発注者:西日本高速道路
規模:トンネル延長上り線695m 下り線917m
設計掘削断面積127.3m2 内空断面積103.8m2
学会論文発表実績
- 「トンネル覆工コンクリートの全自動打設システムの開発」,日本建設機械施工協会,建設施工と建設機械シンポジウム論文集・梗概集,2024年
- 「トンネル覆工コンクリート全自動打設システムの施工実績」,土木学会,トンネル工学報告集,第33巻,Ⅰ-12,2023年11月
- 「中流動覆工コンクリートを用いた自動打設システムの適用実績」,土木学会,第78回年次学術講演会,2023年
- 「覆工用高流動コンクリートを用いた自動打設システムの適用実績」,土木学会,第78回年次学術講演会,2023年
- 「トンネル覆工コンクリートの自動打設システムの開発」,土木建設技術発表会2020,Ⅱ-11,土木学会,2020年



