

橋梁やトンネル、ダムなど高度成長期に集中的に整備されたわが国のインフラが、老朽化や自然災害により損傷し、人々の安全な暮らしが脅かされることが懸念されています。
このような中、鹿島は、光ファイバ計測を革新的な技術に発展させ、世界で初めて本格的にインフラに導入しました。これによって、人々が安心してインフラと共生できる社会の構築を目指します。
施工管理から維持管理、さらには新たな付加価値をもつインフラの構築へ、世界に大きな変革をもたらす可能性を秘めた鹿島の光ファイバでどんな近未来のインフラを描けるのか紹介します。
とはABOUT
鹿島の光ファイバ「分布型光ファイバセンサ」は、
どこで起こるか分からない構造物のわずかな変化を逃さず検知
光ファイバ計測技術は、インフラ内部の見えない箇所のひずみ・温度・振動の分布を、数十kmの長距離で、数十年の長期間にわたり計測できる、極めてインフラへの親和性の高い計測技術です。
従来の技術では、精度や速度に限界があり、適用できる場面が限定されていましたが、鹿島はそれらの足枷を取り去った「高性能光ファイバ計測技術」を開発しました。
施工時、供用時、災害時、さらに先進的なインフラ運用など様々な場面で、インフラの状態や利用者の状況を正確に遠隔から把握することができる、近未来のインフラ管理に変革をもたらす画期的な技術です。
本技術は“インフラセンシングを革新する分布型光ファイバセンサ計測技術”として、令和3年度土木学会技術開発賞を受賞するなど学協会でも注目されています。
本分野において世界的に知名度が高い専業メーカーのニューブレクス社とともに、建設分野に特化した独自の測定器を開発したことにより、インフラ内部のさらなる“見える化”を実現し、あらゆる箇所のひずみ・温度・振動を高精度かつ広範囲にわたりリアルタイムで計測できます。
の特徴TECHNOLOGY
01安全で高品質な施工管理を合理的に実現
インフラを広範囲にわたりリアルタイムにセンシングできる光ファイバは、安全で品質の高い施工管理にも活かされはじめています。
光ファイバという神経網をもったインフラは、その使用状況などを示すデータをインフラ利用者に発信するなど、新たなインフラ像を提供しはじめています。
山岳トンネルでの実施例
山岳トンネルの施工において、断層部などトンネルの安定性が懸念される箇所では、鋼製支保工のひずみを計測し応力を把握することで支保工の安定性を確認します。従来のひずみを測定するセンサ(ひずみゲージ)は設置に特殊な加工を要するため、断層部に遭遇してから設置まで1週間程度の期間を要します。さらに、ポイント型の計測のため、地山全体の状況を正確に計測できないという課題がありました。
鹿島の光ファイバセンサは、設置が容易かつ安価であり、支保工全周にわたり応力を把握することができます。また、応力分布をリアルタイムに可視化することで、計測結果の局所的な異常値に留意しながら的確な支保パターンの変更と補強を迅速に行うことも可能となります。
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02供用状態の維持管理を革新
施工時・竣工後に設置した光ファイバは維持管理にも活かされはじめています。屋外環境下においても錆びることなく長期的な活用が可能で、光ファイバを設置してから15年以上経過しても健全に計測している事例が多数あります。
インフラ構造物を使い続けながら、変化を客観的なデータとして遠隔でタイムリーにモニタリングすることができるだけでなく、近年頻発する自然災害時には構造物の損傷の有無や損傷部位を正確に把握することで効率的な維持管理や迅速なBCPなどにも活かすことができます。
橋梁「SmARTストランド®張力センサ技術」の実施例
橋梁などのPC構造物の品質と耐久性を確保するためには、施工時に所定の張力がPCケーブルへ導入されるとともに、供用中も必要な張力が維持されていることが重要です。全長かつ長期にわたって作用する張力を計測可能としたのが光ファイバを組み込んだPCケーブル「SmARTストランド®」です。光ファイバによるひずみ計測技術は、「国道115号月舘高架橋上部工工事」(福島県伊達市、2016年竣工)での実適用を皮切りに、橋梁への実績を積み重ねています。
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03光ファイバでインフラに更なる
価値を創造
インフラへの光ファイバセンサの適用を通じて、構造物に生じる変形などの状態の評価、利用状況の把握、センシングデータに基づく利用者へのリアルタイムなサービス提供、といったインフラの新たな価値の創出を目指しています。
将来、スマートシティにおける自動運転やエネルギー最適化などにおいても光ファイバの活躍の期待は高く、より安全なモビリティサービスを提供できる道路インフラとしてスマートロードの開発を進めていきます。
自動運転社会の実現に向けたスマートロードの開発事例
鹿島の光ファイバセンサは、30km以上にも及ぶ距離にわたって、どこに振動やひずみ(伸縮)が発生しているか、その位置と大きさを捉えることができます。幅10m、長さ20mの本試験フィールドにおいて、5本の同センサを、それぞれ異なる深さに埋め込み、道路上を移動する歩行者や車両から生じたわずかな振動から振動の伝播状況を詳細に把握できます。2022年4月から1年間、外気温など環境条件が変化するなかでデータを蓄積し、同センサで検知した歩行者や自転車からの振動データを解析した結果、その位置や進行方向を自動で追跡できることを確認しました。
近年の多様化するモビリティサービスを受け、安全な社会の実現に向けたカメラなどの活用が進められています。しかし、これら技術には、雨や霧などの天候による影響、プライバシーの保護、物陰に隠れた移動体への対応など課題があります。光ファイバセンサはこれらの技術課題を解決でき、圧倒的に広い範囲を面的にセンシングできるためコスト低減効果もあります。本技術を発展させることにより、安全性の高いモビリティサービスの構築が可能となります。
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数々の業界初挑戦!
の実績
TRACK RECORDTRACK
RECORD
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橋梁線状の長大構造物の管理に光ファイバセンサを活用
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山岳トンネル山岳トンネルの変状を光ファイバで網羅的に検知
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シールド(地中変位)地中の変位などの変化を光ファイバで高精度、リアルタイムに検知
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道路光ファイバでセンシング機能を持つ道路(スマート道路)を実現
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造成(のり面)グラウンドアンカーに光ファイバを用いて、張力管理を実施
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ダム巨大なダムの挙動を網羅的に把握可能で、品質確保の手段として光ファイバを活用
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ケーソン(構造物基礎)沈設時のケーソンの挙動を見える化し、高品質で周辺環境に優しい施工を実現
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通信用光ファイバ通信用光ファイバを用いて合理的な管理を実現
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コンクリート躯体コンクリートのひずみをモニタリングし、コンクリート構造物のひび割れの予兆を検知
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鹿島の光ファイバの実績
橋梁
光ファイバ組込み型PCストランドによる張力管理などを活用し、線状の長大構造物の施工管理・維持管理を実現
橋梁は線状の長大構造物であり、構造物の品質と耐久性を確保するためには、施工時に所定の張力がPCケーブルへ導入されるとともに、供用中も必要な張力が維持されていることが重要です。また、維持管理においては長い供用期間中に生じる変状を漏れなく検知することが重要で、高耐久でひずみ分布が計測できる光ファイバセンサは計測方法として最も適しているもののひとつです。
橋梁の施工管理・維持管理・BCPに役立てることを目的として、光ファイバが組み込まれたPC(Prestressed Concrete)ストランド(SmARTストランド®)を開発し、ストランド全長にわたる張力分布を見える化しました。
長期的な変状や地震による変状の検知に役立てている事例があります。
橋梁「SmARTストランド®張力センサ技術」の概要
「SmARTストランド®張力センサ技術」は、PCストランドの全長にわたって光ファイバセンサを組み込んだSmARTストランド®を用いて、ストランドを緊張した際に光ファイバに生じるひずみを計測することで張力分布を評価します。SmARTストランド®は裸線のPCストランドの表面に直接光ファイバを組み込んだ「裸線型」と、内部充てん型エポキシ樹脂被覆PCストランドの被覆内に光ファイバを埋設した「ECF型」の2種類を開発しています。
<SmARTストランド®工法の特長>
・工場にて予め光ファイバを組み込んで使用する
・通常のPCケーブルと同様の施工が可能
・PCケーブルの任意の位置において施工時導入された張力と設計値との比較が可能
・光ファイバの計測用コネクタを残置することで、供用後も随時計測が可能
鹿島の光ファイバの実績
山岳トンネル
山岳トンネルの変状を光ファイバで網羅的に検知
山岳トンネルの施工での活用
山岳トンネルの施工では、局所的に過大な荷重が作用し、トンネルの安定性が損なわれることがあります。光ファイバをトンネルの支保に設置することで、複雑な岩盤の挙動を詳細に把握することが可能となります。また、光ファイバは安価なので、あらかじめ光ファイバを貼り付けた鋼製支保工を現場に常備すれば、地質の急変時に迅速に計測を開始することが可能となります。
供用中のトンネルでの活用
供用中のトンネルにおいては、トンネル周辺の地山の長期的な劣化、トンネル近傍での新規トンネルの掘削、あるいはトンネル直上の地盤改変等により、路盤の隆起や覆工等の変状が発生することがあります。しかし、このような変状は、その発生個所や時期、その大きさを予測することが困難であり、また、大きな変状となるまで目視で確認することは容易ではありません。
光ファイバ計測では、そうした変状を長期間にわたりモニタリングし、変状の早期の段階で場所やその程度を把握することが可能です。また、構造物の応力状況を計測することで、実際の状況に基づいた判断や合理的な対策工の検討が可能となります。
プレスリリース
鹿島の光ファイバの実績
シールド(地中変位)
地中の変位などの変化を光ファイバで高精度、リアルタイムに検知
地表面やインフラへの影響が出始める前に少しでも早く異常を検知できれば、安全、安心な工事を遂行できます。
地中で変位などの変化をリアルタイム、高精度に検知するために、地中の変位を3次元的に計測可能な光ファイバセンサ「Geo-NewROn®」を開発しました。
様々な工事に本技術を適用していくことにより安全・安心な施工管理・維持管理手法を実現していきます。
鹿島の光ファイバの実績
道路
光ファイバで、センシング機能を持つ道路(スマート道路)を実現
道路状況の把握が可能なスマートロードの実証実験
自動車道路の交通状況や路面状態の監視は、通常道路管理者の目視確認やドライバーの通報などによって異常を検知していますが、精度やリアルタイム性に欠けるのが課題でした。
そこで、鹿島が事業運営権を取得している「熱海ビーチライン」(静岡県熱海市)※1の道路全長約6.1kmのうち東京方の門川料金所付近から65m地点までを試験区間として、ケーブル状の光ファイバを敷設しました。
高性能の分布型光ファイバ測定器を用いて車両走行に伴い道路に生じる振動を計測。道路上に敷設した光ファイバでリアルタイムに把握する実証実験を行いました。
今回の計測では、微細な舗装の振動に着目し、DAS方式※2による振動計測を実施。その結果、試験区間に走行する全車両の位置や速度を明確に把握することができ、パトロールや監視カメラを補完する道路管理ツールとして活用できることを実証しました。
今後は計測区間をさらに拡大し、車両重量の検出や海岸線道路特有の越波の検知、降雨や気温の変化に伴う路面状態の評価にもつなげていく予定です。
※1 2021年にグループ会社の鹿島道路と道路の維持補修や環境配慮技術の社会実証・実装を目的に設立した熱海インフラマネジメント合同会社が事業運営している
※2 Distributed Acoustic Sensing という振動(動的のひずみ)計測用の測定器で、光ファイバ全長の振動状態をリアルタイムに把握する
自動運転社会の実現に向けたスマートロードの開発事例
将来の新たなモビリティサービスの提供や自動運転社会の到来を見据え、センシング機能を有する道路、スマートロード※の開発に着手しました。
光ファイバセンサは、30km以上にも及ぶ距離にわたって、どこに振動やひずみ(伸縮)が発生しているか、その位置と大きさを捉えることができます。幅10m、長さ20mの本試験フィールドにおいて、5本の同センサを、それぞれ異なる深さに埋め込みました。道路に埋め込まれた同センサには、道路上を移動する歩行者や車両から生じたわずかな振動が伝わるため、振動の伝播状況を詳細に把握できます。2022年4月から1年間、外気温など環境条件が変化するなかでデータを蓄積し、同センサで検知した歩行者や自転車からの振動データを解析した結果、その位置や進行方向を自動で追跡できることを確認しました。
本技術を発展させることにより、見通しの悪い交差点や悪天候下においても歩行者や車両などをあらかじめ認識する安全性の高いモビリティサービスの構築が可能となり、自動運転社会の実現に貢献することが期待できます。
※ ICT・DXによって、安全・安心な通行確保、効率的な交通管制など高度利用が実現された道路
鹿島の光ファイバの実績
造成(のり面)
グラウンドアンカーに光ファイバを用いて、張力管理を実施
グラウンドアンカー工法は、地中にグラウトで造成する「アンカー体」と、地表の「アンカー頭部」をテンドンとなるストランドで連結し、ストランドの張力を利用してのり面を補強するものです。ストランドの張力は地山の動き、ストランドとアンカー体(グラウト)内部の付着力低下、アンカー体と定着地盤の摩擦力低下などによって変動します。その値が設計値の想定を外れると、ストランドの「抜け」や「破断」が発生し、のり面の崩壊につながるおそれがあるため、施工時のみならず供用後もストランドの張力管理が必要となります。
鹿島は2017年に、「赤谷地区渓流保全工他工事」(奈良県五條市)でのり面におけるグラウンドアンカーに、住友電工、ヒエン電工、エスイーと共同で開発したSmARTストランド®を用いたPC張力計測システムを活用。その知見を活かして、本数を増やしたり、計測期間を伸ばしたりするなど進化を重ね、 2022年には「東名高速道路上石山地区切土のり面補強工事」(神奈川県足柄上郡山北町)で、計測管理対象となるグラウンドアンカー21本全てに本システムを適用し、張力の変動要因となる地山内部の変状を面的に精度よく把握できるようにしました。今後も安全性の向上、維持管理の高度化・効率化に向けた検討を進め、切土のり面が多く存在する高速道路へ展開を図っていきます。
鹿島の光ファイバの実績
ダム
巨大なダムの挙動を網羅的に把握可能で、品質確保の手段として光ファイバを活用
ひび割れ発生要因であるひずみ挙動を見える化
「成瀬ダム堤体打設工事」(秋田県雄勝郡東成瀬村)で、高性能光ファイバを用いて、堤体のコンクリートひび割れ発生要因となるひずみ挙動をリアルタイムに高精度で検知することに、業界で初めて成功しました。
コンクリートの反り上がりによるひび割れ要因であるひずみ挙動を直接的かつリアルタイムに計測するため、各層の水平打継部を貫通するように光ファイバを設置。その計測結果から、光ファイバのひずみが引張側に増大している状況や時期が把握できました。
今後ひび割れ発生要因となるひずみ挙動の高精度な計測データを基にひび割れ発生のメカニズムを解明し、より有効な事前のひび割れ制御対策を考案してくことで、将来にわたり安心して使い続けられる社会インフラの整備に貢献していきます。
プレスリリース
【検討中および試行中】施工時のグラウチング管理への活用
ダムの施工においては、基礎岩盤の確実なグラウチング施工が遮水構造の構築にきわめて重要です。ボーリング孔に光ファイバセンサを設置すると、グラウチング時の岩盤内への注入材の浸透や割れ目の挙動を光ファイバによる温度変化やひずみ変化として検知することができます。これを利用することで、岩盤の構造特性に応じた効率的なグラウチング管理が期待できます。
鹿島の光ファイバの実績
ケーソン(構造物基礎)
沈設時のケーソンの挙動を見える化し、高品質で周辺環境に優しい施工を実現
ケーソン工法では、躯体底盤の下部を掘削することで、自重や圧入力によりケーソンを沈設し、地中構造物を構築します。沈設時、周辺地盤からの圧力や摩擦によって、ケーソンにひび割れが発生するおそれがあるため、沈設を促進する滑剤を注入しますが、注入する位置やタイミングは熟練の作業員の経験に頼っていました。そこで、ケーソン躯体に光ファイバセンサを設置することで、躯体全体の微小なひずみ分布の変化をリアルタイムにモニタリングできるため、施工管理へのフィードバックを通じて、躯体の品質確保、周辺環境に優しい安定した沈設を実現します。
鹿島は本システムを実工事にも適用し、ケーソンの挙動を常時計測しました。摩擦の発生を示唆するような引張傾向のひずみを検出した際には滑剤を注入し、引張ひずみの急速な低減が認められるなど、施工時のトラブルを未然に防ぐことへの有効性を確認しました。
鹿島の光ファイバの実績
通信用光ファイバ
通信用光ファイバを用いて合理的な管理を実現
既に電柱に共架している通信用光ファイバ※を用いたセンシングにより検知した振動から工事に起因する振動を抽出する処理を行うことで、トンネル掘削工事による振動の影響範囲を常時かつ面的に可視化することに世界で初めて成功しました。
これにより、新たにセンサを設置することなく、建設工事に伴って周辺の地域で発生する振動状況を広範囲かつリアルタイムに把握しながら施工することができます。
※通信用光ファイバ回線のうち、未使用の稼働していない芯線
鹿島の光ファイバの実績
コンクリート躯体
コンクリートのひずみをモニタリングし、コンクリート構造物のひび割れの予兆を検知
コンクリート構造物に設置した光ファイバセンサにより、高精度かつリアルタイムにコンクリート構造物全体のひずみ分布をモニタリングします。コンクリート構造物にひび割れが発生する際に生じる微小なひずみの変化をリアルタイムで捉えることができるため、ひび割れの予兆を検知することができます。