さまざまな知見を統合し,
安心・安全で快適な緑地環境を設計する
みどりとともにある
スマートウェルネスビル
当社グループのアジアの統括事業拠点となる「The GEAR」。シンガポールの空港にほど近い現場では,今年度末の竣工に向けた槌音が響いている。当社建築設計本部(以下,AE),プレイスメディア,LD,技研が協働して設計した空間は,みどりを取り入れた次世代型オフィス環境R&Dの舞台になる。空間デザインのキーワードはバイオフィリックデザインとABWだ。
The GEAR
- 発注者:カジマ・デベロップメント
- 設計:当社建築設計本部
- ランドスケープ設計監修:プレイスメディア
- ランドスケープ設計:ランドスケープデザイン
- 施工:KOAシンガポール
「バイオフィリックデザインは,自然とのつながりが感じられるように配慮するデザイン手法です。オフィス空間でも自然の要素を取り込むことで生産性,創造性と幸福感が向上するという報告があります。また,ABWはアクティビティ・ベースド・ワーキングの略で,オフィス内にさまざまなかたちのワークスペースを設け,利用者がその時の業務内容に応じて働く場所や時間を選べるワークスタイルです。The GEARでは,これら新しい空間概念の効果を定量的に捉えるための研究が計画されています。将来的に,オフィス空間の設計や不動産開発における提案のエビデンスとすることをめざしています」と話すのは技研の高砂裕之上席研究員。
The GEARには上記のデザイン手法を取り込んだ多様な空間があるが,中でも特徴的な2種類のスペースを紹介したい。ひとつは5階に設けられるK/PARK。吹抜け上部のハイサイドライトと建物を上下に貫くK/SHAFTのトップライトから自然光をふんだんに取り込んでいる。また,東西にあるガラスの大型引き戸を開放することで,外気を大胆に取り入れる半外部空間としての利用も可能な設計となっている。移動可能なみどりの設えを組み合わせることで,空間のバリエーションを生み,多様なワークスペースを与えてくれるだろう。もうひとつは2~6階の各階に設けられたSKY GARDEN。リラクゼーション,インスピレーション,コラボレーションといった階ごとのテーマに沿ったさまざまなみどりがオフィス空間の彩りを演出する。
「The GEARではウェアラブルデバイスやスマートフォンを用いて利用者から空間の快適性や使用感に関する情報を取得したり,建物に取り付けたさまざまなセンサーを連動させたりして,空間の利用状況,室内環境の設計,環境制御・運用に関する知見を蓄えていきます」。みどりに加え,IoTやAIといった技術を用いて人間中心の環境を創造する“スマート”ウェルネスビルは完成する。
建築設計・施工との連携で実現する
緑地環境
外観の優美な曲線がシンボリックな「東京ミッドタウン日比谷」(東京都中央区)。開業から4年が経過し,草木の緑がいきいきと輝きを増している。日比谷公園の園路から連続した街路空間は憩いを提供し,地上から2階へと続く日比谷ステップ広場はまちの賑わいの中心としてすっかり定着した。周辺街区と一体感のある100尺(31m)ライン上に位置する6階に設けられたパークビューガーデンは,まさに空中庭園と呼ぶにふさわしい開放感に満ちている。豊かな植栽は9階のスカイガーデンまで4層にわたり連続し,みどりの丘を形成している。
photo: FOTOTECA
東京ミッドタウン日比谷
- 発注者:三井不動産
- マスターデザインアーキテクト:ホプキンス・アーキテクツ
- 都市計画・基本設計・デザイン監修:日建設計
- 実施設計・監理:当社建築設計本部
- 外構実施設計協力:ランドスケープデザイン
- 施工:当社東京建築支店
- 外構施工:かたばみ興業
超高層ビルの低層部に設けられた有機的な曲線を描く多段テラス,と言葉に表すのは容易いが,それを実現するには高いレベルの技術と分野を超えた協働が必要になる。「超高層ビルは風の問題がシビアです。風への影響をシミュレーションで確認しながら,AEが最適な形状を導き出していました。私たちもシミュレーション結果を確認しながら,その場その場の風や日射に適した樹種の選定や樹木の固定方法の検討,冬季の冷風が根を冷やさないための断熱策など,環境に応じた提案をすることができました」とランドスケープの設計に携わったLDの岩崎哲治取締役は振り返る。
「植物を育む土量の充実と構造的に要求される軽量化とのバランスをとる荷重調整や,多段形状を考慮した排水,防水ディテールについてもAEの設備,構造の担当者と協議を重ねました。施工の立場からもテラスの資材搬入に対する提案をもらい,メンテナンス性の担保にとても役立ちました。都市を見わたすと,建築と一体化した緑化ではメンテナンス面への配慮不足から,竣工後に植物が育ちすぎたり枯れてしまったりしているものもじつは多いんです。また,竣工時点での植物の品質を確保する早め早めの施工スケジュールの調整も行いました」。ランドスケープアーキテクトがこのように多方面との調整を行い,高品質な緑地空間は創造された。
「設計時は9階のスカイガーデンをリラックスの場やサードプレイスとして考えていましたが,供用開始後に入居オフィスの方々がABWの場としてカスタマイズして,屋外の打合せスペースなどに活用されています。さまざまな個性をもつみどりの空間を点在させたことが,建物のレジリエンスにつながったエピソードです」。みどりもまた多彩な役割を果たしている。