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座談会:鹿島のみどりのレガシーと現在,未来を語る

120年前から続く鹿島のみどりの歴史

市橋

近年当社ではグループ事業推進部を新設し,グループの中にある経営資源や技術を活かしたコラボレーションを通じて新事業をつくり,成長発展していこうと考えています。

当社グループとみどりの歴史は,いまから120年前の1902(明治35)年,2代目の鹿島岩蔵が明治政府より北海道の釧路に近い尺別の地を借り受けたことに始まります。当初取り組んだ畜産事業の経営は困難を極め,断念せざるを得ませんでしたが,その一方で豊富な原生林をもとにした山林事業が軌道に乗りました。1940年には鹿島組山林部を設置し,のちにグループ会社のかたばみ興業へと事業を引き継いでいます。同社は1960年代中頃より緑地空間の施工・管理事業にも力を入れています。

また設計のほうでは,1965年に当社建築設計部門にランドスケープ専任担当者が配属され,ランドスケープデザイン部門が新設されました。新部門の設立は当時副社長であった鹿島昭一最高相談役によるものです。これが日本初の近代ランドスケープを標榜した組織の萌芽でありました。最高相談役が東京大学を卒業後に建築を学んだハーバード大学G.S.D.(デザイン大学院)は,世界で初めてランドスケープアーキテクチャーの教育課程を設置した機関でもあり,建築,ランドスケープアーキテクチャー,都市計画の3つの専攻がありました。留学からの帰国後には,大阪府立大学で緑地計画学を教えられていた久保貞(ただし)先生とのご縁もあり,同大学で非常勤講師として建築を教えてもいました。その後,1999年にグループ会社として独立し,ランドスケープデザイン社となります。

ランドスケープデザインの真価

市橋

最高相談役が建築に注いだ情熱は,開発事業においてはマスタープランにも傾けられました。自然環境や景観への配慮を重視していました。

森林を切り拓くような開発事業では,環境保全の観点で環境省にさまざまな説明や届け出が必要となります。当間高原リゾート(新潟県十日町市)や安比高原(岩手県八幡平市)の開発では,いわゆる環境アセスメント法が制定される以前からそういった場面で技研の専門家が活躍していましたね。

福田

そうですね。技研では1980年代に生物関連の研究者が配属され,生物植物を扱うバイオチームを組織しました。当時の同業他社ではまだ研究対象として扱われていなかった分野であったと記憶しています。

近年の都市部の再開発事業ではランドスケープデザインによる不動産価値向上が期待されています。例を挙げると,東京ミッドタウン日比谷では都市と公園のみどりをつなげ,回遊性を生み出し地域の価値を上げました。東京ポートシティ竹芝 オフィスタワーでは環境技術の統合により生態系の維持に寄与し,下水道負荷を低減するなどエコフレンドリーな超高層ビルを実現しています。Hareza池袋(東京都豊島区)は賑わいの創出です。池袋駅付近の4つの公園をつないで,まち全体が舞台の,誰もが主役になれる劇場都市として再編しています。ランドスケープアーキテクトは建築,土木,都市工学,経済学など多様な分野をまとめ上げる役割を果たしています。

KIビルからThe GEARへ

建築デザインにおけるエポックメイキングはKIビルだったと思います。1989年に完成した当時はオフィス環境の新世代と言われました。

改めてKIビルについて考えると,その最も秀でている点は30年以上にわたる丁寧な維持管理の継続にあると感じます。往時の構想のまま魅力的な空間が持続していて,いま見てもまったく古びていない。持続可能性がみどりの空間の真価だと気付かされます。みどり環境の創造はつくることに加えて育むことが欠かせないという最高相談役の考えは核心をついていたと痛感します。

福田

KIビルはバイオフィリックデザインの日本での先駆けと言えるでしょう。アトリウムは多様な植物の中に,水音が響き,光が降り注ぎ,気持ちの良い空間です。コミュニケーションが取りやすく,話が弾むし,一人の時は集中もできる。働く場所としての提案に富んでいます。

自然を人工化する技術は非常に緻密で高度です。ビルの中で植物が育つにはさまざまな要素への配慮が欠かせません。そしてそれら技術をさりげなく組み込んでセンス良く空間のあり方へと昇華させていくデザインもまた,高い設計力が必要になります。来年竣工するThe GEARではKIビルでの建築的提案をさらに深化させています。

福田

近年,建物内部の従来はなかなか自然の恵みを感じられないような場所にもみどりを取り入れバイオフィリックな空間をつくるそと部屋や,屋上緑化のエバクールガーデンなどのみどり技術を,技研は開発してきました。The GEARは複数のみどり技術のテストベッドになる予定です。

みどりが輝く社会へ

福田

技研では現在グリーンインフラのR&Dにも力を入れています。都市部のヒートアイランド現象を抑制し,人々が集う場となり,リラックス効果を生むなど,グリーンインフラは社会的共通資本となります。

いま国はオフセット・クレジット認証などを通じて森林の施業を推進し,CO2の吸収量を増やそうとしていますね。しかしその効果はCO2固定だけに留まりません。日本の森が元気になると地方が活気づく。森が水を保持する力も上がり,防災面での効果もある。みどりほど多様な効果を生むものは人工物には存在しないと私は思います。

木材によるCO2固定が常識化し,木造や木質の建築物を希望されるお客様が増えています。CO2をさらに吸収,固定していくには木を使い,植林し,森林サイクルを循環させていかなければなりません。日本には高度成長期に植えられた人工林が多く,いままさに使っていくべきタイミングにあります。当社は国産スギ材を使用した特殊集成材のFRウッドという,都市部でも木造中高層建築を可能にする技術を所有しています。来年には7階建ての木造オフィスビルが都内に竣工予定です。

福田

林業は建設業と同様に担い手不足の問題に直面しているので,施業を補助する技術のR&Dも進行中です。近年急速に発展するUVA(無人航空機),ICT(情報通信技術),DX(デジタル変革)技術を組み合わせ,木々の生育状況や施業の必要度を低労力で把握できるように,かたばみと協力して実地試験を行っています。

グループで取り組むみどり環境の創造

福田

2015-2017年の中期経営計画でグループ事業推進という大きな方針があり,それを受けてジュロンレイクガーデン(シンガポール)のコンペに挑みましたね。LDを中心にグループのいろいろな部署が一丸となり,外部のパートナーも加えて取り組んだ結果,最優秀案に選ばれています。

市橋

世界的な著名デザインファームやエンジニアリング事務所が参加したコンペで,デザインのみならず,環境技術,地域経営の仕組みも含めた当社グループの総合力が勝因だと思っています。東南アジアでの,建築バリューチェーン上流分野における新たなビジネスモデルの第一歩となった非常に画期的な出来事でしたね。

グループで取り組む具体例のひとつとしてPark-PFIに可能性を感じています。既存公園の調査から,整備のための設計,施工,そして維持管理から運営に至るまで一貫した知見と技術を提供できます。Park-PFIは2017年に新設された制度でまだ日は浅いですが,今回の特集で取り上げたいろは親水公園以外にも既に複数の実績を挙げています。まちを想い,建物をつくり,みどりを育む当社グループの真骨頂となるのではないでしょうか。

市橋

みどりに関するさまざまな取組みを当社が続けてきたのは経営者の想いがあったからでしょう。社会状況が変化しても抱き続けてきた想いがいまにつながっているのですね。

(2022年2月7日,当社KIビルにて)

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