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鹿島の光ファイバとは

光ファイバの特長

光ファイバが通信技術として開発されたのは1970年頃。この時から光ファイバでの計測技術の開発も始まっていた。通信網だけでなく,その他の分野でのセンシング(感知)へと発展し,潜水艦探知用の高感度水中音響センサの開発などが米国を中心に行われた。

開発当初から光ファイバの有する様々な優れた特長①光ファイバ自体がセンサとなりひずみ・温度・振動の分布計測が可能②小型・軽量で設置場所を選ばない③伝送損失が低いことから長距離の計測が可能④高耐久で半永久的な継続計測が可能⑤廉価であり汎用性が高い⑥センサ部に電力供給を必要としない⑦電磁気ノイズの影響を受けないなど,メリット尽くしの素材であることは認知されていた。しかしながら,計測性能に課題を抱えていたため,今日まで適用範囲はかなり限られたものであった。

鹿島の光ファイバ技術の始まり

インフラ構造物の状態確認は,ひずみゲージなどの器具を用いて,代表的なポイントでの測定や目視で行われているのが現状だ。しかし,これらの手法では不均質なインフラを相手に網羅的かつ長期間モニタリングするのは難しい。

当社はその課題解決に向け,2006年,東京大学の保立和夫教授と共同で光ファイバによる計測技術を開発し,供用後の秋葉原駅前(東京都千代田区)の公共デッキに設置した。人間に例えるならば,神経にあたる光ファイバと,神経からの情報を知覚・判断する脳にあたる測定器からなるシステムである。計測できる速度や精度などまだ多くの課題を抱えていたが,分布計測を可能とした最初の一歩であった。

施工時からの張力管理を実現

その後も大学や測定器メーカーなどと連携しながら計測技術開発を継続的に進め,2016年,当社は住友電工らと共同でPC(プレストレストコンクリート)構造物に使用するPCケーブルの張力を計測する技術,光ファイバ組込み式PCストランド「SmARTストランド®」を開発した。

この技術が開発されたことにより,従来難しいとされていた施工時におけるPCケーブルの全長にわたる張力管理を実現。また,施工時に設置した光ファイバを残置することで,供用後もPC構造物の健全度を効果的に把握でき,維持管理や地震発生時の二次災害防止,応急復旧対策など活用の広がりへ期待が一気に高まった。

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図版:光ファイバの従来技術と新たな技術の比較

革新的「高性能光ファイバ」の誕生
施工管理〜維持管理〜さらなる価値を

そして今,当社はインフラ管理を大きく変革させる可能性を秘めた「高性能光ファイバ」を開発した。大きく進化したポイントは,計測できる精度や速度を格段に向上させたことである。

最先端技術で世界的に知名度が高い専業メーカーのニューブレクス社とともに,建設分野に特化した独自の測定器を開発したことで,インフラ内部のさらなる“見える化”を実現し,あらゆる箇所のひずみ・温度・振動を高精度かつ広範囲にわたりリアルタイムで計測。施工中から供用後,災害などの有事の際にも構造物の状態を正確に遠隔から把握することができる。インフラ管理に変革をもたらす画期的な技術である。

図版:光ファイバ計測の概要

光ファイバ計測の概要

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光ファイバ計測技術の概要

  • これまでと比べて圧倒的に高速・高精度なレイリー散乱光の活用により,データに裏打ちされた高品質なインフラ構造物を実現
  • 地盤や構造物内部のひずみ,温度を数km(数cmピッチ)にわたり計測し,その変状,状況を空間的に把握
  • 光ファイバケーブルは寿命が長く数十年にわたる長期計測が可能なためインフラのライフタイム管理を具現化
  • 通信用光ファイバの利用により,低コストで効率的な計測を具現化

この高性能光ファイバの開発に携わったのは,当社技術研究所先端・メカトロニクスグループの今井道男上席研究員だ。

「2000年代初頭,建設分野に限らず分布型光ファイバセンサが流行した時期がありましたが,計測性能の課題などから他社の取組みは一時的なものでした。技術研究所では継続的に技術開発を続け,実構造物での定期的な検証や測定器開発のプロジェクトへの参画,バックエンド関連の委託研究など,少しずつ実績を積み重ね他分野の最新技術をキャッチアップしてきました。また光ファイバの設置技術や評価技術を有していたため,今回の高性能光ファイバセンサをいち早く取り込むことに成功しました。本技術は,施工管理から維持管理,さらにはインフラに新たな付加価値を与えられるものと考えています」と万里一空の精神で開発し続けた思いを語る。

当社は今回新たに開発した高性能光ファイバ技術と従前の光ファイバ技術を適用することで,用途に応じたソリューションの提供を可能とし,構造物の健全性を適切に保ち,安全安心なまちづくりの実現に貢献する。

図版:技術研究所 先端・メカトロニクスグループ 今井道男上席研究員

技術研究所
先端・メカトロニクスグループ
今井道男上席研究員

鹿島インフラセンシティブネットワーク型
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Technology

世界初の技術
「SmARTストランド工法」

PC構造物やグラウンドアンカーでは,PCケーブルやテンドンと呼ばれる緊張材に張力を与え,コンクリートや地山に圧縮力を作用させる。その緊張材に光ファイバを組み込んだものが,「SmARTストランド」だ。

PCやグラウンドアンカーの設計性能を確保するためには,施工時の張力確保が不可欠で,供用後も維持する必要がある。そこで,当社,住友電工,ヒエン電工,エスイーらは,PCケーブルに光ファイバを組み込むことで,全長にわたるひずみ分布の長期的な計測を世界で初めて可能とした。

図版

SmARTストランド工法の特長

  • 工場にて予め光ファイバを組み込んで使用する
  • 通常のPCケーブルと同様の施工が可能
  • PCケーブルの任意の位置において施工時導入された張力と設計値との比較が可能
  • グラウンドアンカーでは,テンドンの張力変動に加え,アンカー体の抜出し,地山の変状などの変動原因の推定が可能
  • 光ファイバの計測用コネクタを残置することで,供用後も随時計測が可能
図版:張力分布計測のイメージ

張力分布計測のイメージ

また,この施工と維持管理技術の開発と向上,ならびに本技術の普及による良質な土木構造物の形成や維持管理を目的として「SmARTストランド張力センサ技術研究会」が設立された。

SmARTストランドの計測実施は,前例が少ないため試行を続けながらの作業となる。その中で最適解を模索しながら尽力しているのは,鹿島グループである“リテックエンジニアリング”の技術本部第2グループだ。「現場で試行回数を重ね,関係各社と連携することが重要です。一つひとつの工程を丁寧に進め,継続的に改善することで,着実に技術を積み重ねたいと考えています。これからも施工中に必要な情報や光ファイバで得られる情報を鹿島さんと密に共有し,施工プロセスの監視や品質管理の効率化を目指します」と大塚雄次郎グループ長は鹿島グループのバリューチェーン拡充への思いを語る。

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図版

リテックエンジニアリング技術本部 第2グループ(左から)早坂洋太技術長,
大塚雄次郎グループ長,髙梨大介担当

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