ホーム > KAJIMAダイジェスト > April 2023:特集 光ファイバで見守る > 進む鹿島の実績 数々の業界初挑戦

進む鹿島の実績 数々の業界初挑戦

当社は業界に先駆けて光ファイバを多岐にわたる工種に実適用している。
そのほとんどが“業界初”,当社社員に受け継がれている進取の精神に基づく。
活用事例や実際の効果などを担当者の声とともに紹介する。

CASE 1 橋梁:PC張力計測システムで施工管理から維持管理まで計測

橋梁などのPC構造物の品質と耐久性を確保するためには,施工時に所定の張力がPCケーブルへ導入されるとともに,供用中も必要な導入張力が維持されていることが重要である。これまでは,緊張ジャッキの油圧やPCケーブルの伸びから緊張力を間接的に評価するしかなく,施工後に変動を計測する手段も確立されていなかった。その課題を解決したのが光ファイバを組み込んだPCケーブル「SmARTストランド」。光ファイバによるひずみ計測技術は,「国道115号月舘高架橋上部工工事」(福島県伊達市,2016年竣工)での実適用を皮切りに,橋梁への実績を積み重ねている。

当社JVが施工した「吉野川サンライズ大橋」(徳島県徳島市,2022年開通)では,技術提案でSmARTストランドを施工に取り入れたところ,発注者から供用後も維持管理に活用したいという要望があった。今後も当社は,施工から維持管理までのさらなる実適用を進めていく。

図版

吉野川サンライズ大橋。SmARTストランドを維持管理にも活用している

改ページ
図版:国道115号月舘高架橋上部工PCケーブル緊張作業時

国道115号月舘高架橋上部工PCケーブル緊張作業時

図版:計測結果の例

計測結果の例

図版:左右両端に見える黒い線が光ファイバ取出し線

左右両端に見える黒い線が光ファイバ取出し線

CASE 2 トンネル:山岳トンネル施工中の地山変状トラブルを完全回避

現在施工中の「中央新幹線中央アルプストンネル(山口)工事」(岐阜県中津川市)において,鋼製支保工が地山から受ける応力を高性能光ファイバによってリアルタイムに計測することを業界で初めて実現させた。山岳トンネルの施工において,断層部などトンネルの安定性が懸念される箇所では,鋼製支保工のひずみを計測し応力を把握することで支保工の安定性を確認できる。従前のひずみを測定するセンサ(ひずみゲージ)は設置に特殊な加工を要するため,断層部に遭遇してから設置まで1週間程度の期間を要する。さらに,ポイント型の計測であり,地山の状況を正確に計測できないという課題があった。

当社が開発した光ファイバセンサは,設置が容易かつ安価であり,支保工全周にわたり応力を把握できる。また,応力分布をリアルタイムに可視化することで,計測結果の局所的な異常値に留意しながら的確な支保パターンの変更と補強を迅速に行うことが可能となる。さらに,施工時に設置した光ファイバを残置することで,竣工後の変状など予兆を早期かつ的確に捉え,維持管理の安全性や経済性も向上する。

改ページ
図版:ケーブル状の光ファイバセンサを貼った鋼製支保工の設置状況

ケーブル状の光ファイバセンサを貼った鋼製支保工の設置状況

図版:鋼製支保工にケーブル状の光ファイバセンサを貼付

鋼製支保工にケーブル状の光ファイバセンサを貼付

図版:鋼製支保工のひずみ計測力を換算した応力

鋼製支保工のひずみ計測力を換算した応力

CASE 3 ダム:ダム堤体コンクリートのひずみ挙動を検知

現在施工中の「成瀬ダム堤体打設工事」(秋田県雄勝郡東成瀬村)で,高性能光ファイバを用いて,堤体のコンクリートひび割れ発生要因となるひずみ挙動をリアルタイムに高精度で検知することに,業界で初めて成功した。

コンクリートの反り上がりによるひび割れ要因であるひずみ挙動を直接的かつリアルタイムに計測するため,各層の水平打継部を貫通するように光ファイバを設置。その計測結果から,光ファイバのひずみが引張側に増大していることを確認し,ひずみの増大時期や状況が把握できた。

今後ひび割れ発生要因となるひずみ挙動の高精度な計測データを基にひび割れ発生のメカニズムを解明し,より有効なひび割れ制御対策を事前に実施していく。

改ページ

図版:成瀬ダム堤体打設工事

成瀬ダム堤体打設工事

図版:光ファイバの設置イメージ

光ファイバの設置イメージ

CASE 4 ケーソン:ケーソン躯体の沈設時のトラブルを未然に防ぐ

ケーソン工法では,躯体底盤の下部を掘削することで,自重や圧入力によりケーソンを沈設し,地中構造物を構築する。沈設時,周辺地盤からの圧力や摩擦によって,ケーソンにひび割れが発生するおそれがあるため,沈設を促進する滑剤を注入するが,注入する位置やタイミングは熟練の作業員の経験に頼っていた。そこで,ケーソン躯体に当社が開発したケーブル状の光ファイバセンサを設置することで,躯体全体の微小なひずみ分布の変化をリアルタイムで見える化する。

当社は本システムを実工事にも適用し,ケーソンの内側の鉛直方向に光ファイバを8側線敷設。約4ヵ月間,ケーソンの挙動を常時計測した。その結果,躯体構築に伴う自重増加による圧縮ひずみを捉えるなど,表面のひずみの様子を高精度かつリアルタイムにモニタリングできることを実証した。また,摩擦の発生を示唆するような引張傾向のひずみを検出した際には滑剤を注入し,引張ひずみの急速な低減が認められるなど,施工時のトラブルを未然に防ぐことへの有効性を確認した。

図版:光ファイバセンサによるケーソン沈設施工管理システム

光ファイバセンサによるケーソン沈設施工管理システム

改ページ

図版:ケーソン躯体のひずみ状態の見える化

ケーソン躯体のひずみ状態の見える化

図版:光ファイバの固定

光ファイバの固定

CASE 5 自動車道路:走行車両の振動を計測,車の位置や速度をリアルタイムに把握

自動車道路の交通状況や路面状態の監視は,通常道路管理者の目視確認やドライバーの通報などによって異常を検知しているが,精度やリアルタイム性に欠けるのが課題であった。

そこで,当社が事業運営権を取得している「熱海ビーチライン」(静岡県熱海市)※1の道路全長約6.1kmのうち東京方の門川料金所付近から65m地点までを試験区間として,ケーブル状の光ファイバを敷設。高性能の分布型光ファイバ測定器を用いて車両走行に伴い道路に生じる振動を計測。道路上に敷設した光ファイバでリアルタイムに把握する実証実験を初めて行った。

今回の計測では,微細な舗装の振動に着目し,DAS方式※2による振動計測を実施。その結果,試験区間に走行する全車両の位置や速度を明確に把握することができ,パトロールや監視カメラを補完する道路管理ツールとして活用できることを実証した。

今後は計測区間をさらに拡大し,車両重量の検出や海岸線道路特有の越波の検知,降雨や気温の変化に伴う路面状態の評価にもつなげていく予定だ。

図版:光ファイバ設置箇所と車両走行時の様子

光ファイバ設置箇所と車両走行時の様子

図版:光ファイバ計測による車両通行の検知例

光ファイバ計測による車両通行の検知例

※1 2021年にグループ会社の鹿島道路と道路の維持補修や環境配慮技術の社会実証・実装を目的に設立した熱海インフラマネジメント合同会社が事業運営している

※2 Distributed Acoustic Sensingという振動(動的ひずみ)計測用の測定器で,光ファイバ全長の振動状態をリアルタイムに把握する

改ページ

CASE 6 のり面:グラウンドアンカーに光ファイバを用いた張力計測システム

グラウンドアンカー工法は,地中にグラウトで造成する「アンカー体」と,地表の「アンカー頭部」をテンドンとなるストランドで連結し,ストランドの張力を利用してのり面を補強するもの。ストランドの張力は地山の動き,ストランドとアンカー体(グラウト)内部の付着力低下,アンカー体と定着地盤の摩擦力低下などによって変動する。その値が設計値の想定を外れると,ストランドの「抜け」や「破断」が発生し,のり面の崩壊につながるおそれがある。このため,施工時のみならず供用後もストランドの張力管理が必要となる。

当社は2017年に,「赤谷地区渓流保全工他工事」(奈良県五條市)でのり面におけるグラウンドアンカーに,住友電工,ヒエン電工,エスイーと共同で開発したSmARTストランドを用いたPC張力計測システムを活用。その知見を活かして,本数を増やしたり,計測期間を伸ばしたりするなど進化を重ね, 2022年には,「東名高速道路上石山地区切土のり面補強工事」(神奈川県足柄上郡山北町)で,計測管理対象となるグラウンドアンカー21本全てに本システムを適用し,張力の変動要因となる地山内部の変状を面的に精度よく把握できるようにした。今後も安全性の向上,維持管理の高度化・効率化に向けた検討を進め,切土のり面が多く存在する高速道路へ展開を図っていく。

図版:東名高速道路上石山地区切土のり面補強工事

東名高速道路上石山地区切土のり面補強工事

図版:光ファイバ計測システム施工完了。斜面から離れた場所まで配線している

光ファイバ計測システム施工完了。
斜面から離れた場所まで配線している

図版:張力計測システムの概念図

張力計測システムの概念図

改ページ

当社の光ファイバ実適用状況

当社は既に光ファイバを全国約40ヵ所に実適用している

図版:当社の光ファイバ実適用状況
Engineer’s Voice

光ファイバでさらなる価値創出へ

SmARTストランドを用いた計測システムの考案,計測性能の検証,現場への実適用など開発当初から携わってきました。開発時は細くて折れやすい光ファイバを損傷させずにPCストランドに組み込む技術的な苦労もありましたが,最も重要だったのは光ファイバを実装して何が評価できるか,そのデータの価値をいかに高められるかを考えることでした。施工時に実装したSmARTストランドを残置して,供用後も変化を把握できるようにし,経年劣化や地震による健全性の評価にも活用する方法を提案したのもその一つです。施工だけではなく維持管理まで実適用につなげることができたのを嬉しく思っています。

今後も計測結果に基づいた各種分析,評価を行うことで,施工管理や維持管理の各フェーズにおける合理化と,光ファイバのさらなる価値創出につなげていきたいと考えています。

写真

技術研究所
土木構造グループ
曽我部直樹グループ長

改ページ

計測技術の進展を実感

トンネルでの施工管理から維持管理までのモニタリング計測技術を確立するべく,現場検証試験・実適用を担当しています。トンネル掘削において,選定した支保パターンや補助工法が最適かどうかを確認するため,日々の施工管理計測データをリアルタイムで変位や応力に換算し,現場が評価できる形に可視化することが重要だと思って取り組んでいます。光ファイバはセンサ沿いに連続的に計測できるため,従来計器では捉えられなかった挙動が明らかになり,施工管理~維持管理において新たな視点での構造物の健全性評価が可能となります。各種学会や委員会などを通じて自分が取り組んでいる計測技術の有効性が認められるにつれて,この技術の進展を実感しています。

今後も関係者の皆様の期待に応えられるように尽力していきたいと思います。

写真

技術研究所
岩盤・地下水グループ
石井雅子研究員

実適用から感じる新たなビジネスチャンス

土質・地盤にかかわる光ファイバ実装・計測で,開削工事の土留めや周辺地盤の変位監視,橋脚の基礎となるケーソン沈設挙動監視,維持管理分野として舗装への実装などを担当しています。

光ファイバの実構造物への適用は初めてのことばかりなので,現場のスケジュールや施工方法を正しく理解しないと,後々計測できないような事象が発生することもあります。そのため事前に現場の方々と密に打合せし,最適な設置ルートを選定することが重要です。また,打合せの中で新たなニーズも得られるので,さらなる研究開発にもつながっています。

当社が携わってきた多種多様な工事経験と光ファイバの敷設・計測技術に,インフラやそこに作用する車,人などの挙動から得られた情報を組み合わせることで新たなビジネスチャンスが増えることを肌で感じています。

写真

技術研究所
土質・地盤グループ
那須郁香研究員

改ページ
Column

未来へ向かう仲間を求めて
~キャリア採用社員の活躍~

当社の光ファイバ技術の現場展開支援,パートナー開拓などを中心に活躍する2021年度キャリア採用で入社した土木管理本部土木技術部岡本圭司課長代理を紹介する。

入社前は,大手通信会社関連の研究所で光計測技術の研究開発や大学で研究成果の事業化に携わってきた経歴を持つ。光ファイバ計測技術のインフラ分野での事業化を思い描いていたところ,ちょうど鹿島が実用化に向けた技術開発と現場への実適用に本格的に取り組んでいることを知った。「同じ機運を感じ取っている人と一緒に働きたいと即座に応募しました」とキャリア採用を振り返る。

「光ファイバでは従来計器では見ることができなかった変化や連続的な挙動を観測できます。次に重要なことは,この計測データを事業としていかに実用化するかです。現場のニーズと技術創出の接点に存在する鹿島だからこそできる,まさに腕の見せ所です。日本で実績を重ね,洗練された光ファイバを日本が誇る技術として海外へ展開し,その実用事例を日本向けにリバースエンジニアリングするといった技術の循環を光ファイバで築いてみたいです」と自身のキャリアビジョンを語る。当社の光ファイバ発展の一翼を担う人材としてさらなる活躍が期待される。

図版

岡本圭司課長代理

ContentsApril 2023

ホーム > KAJIMAダイジェスト > April 2023:特集 光ファイバで見守る > 進む鹿島の実績 数々の業界初挑戦

ページの先頭へ