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対談 曽我健一 × 川端淳一

土木工学,地盤工学におけるスマートインフラストラクチャーと
建設分野のパイオニアとして著名な曽我健一教授と,
ケンブリッジ大学で研究をともにし,それ以来親交がある
当社土木管理本部土木技術部川端淳一技術管理部長が,
光ファイバのこれまでの研究と今後の期待をテーマにリモートで対談した。

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曽我健一 (そが けんいち)
カリフォルニア大学バークレー校教授。
1987年京都大学を卒業,1989年同修士課程修了。
その後,カリフォルニア大学バークレー校に留学。
1994年に博士号取得後,ケンブリッジ大学の講師を経て
2007年から同大学工学部教授。
2016年からカリフォルニア大学バークレー校の教授を務める。

研究の原点と環境地盤

川端

今はカリフォルニア大学バークレー校で教授としてご活躍されておりますが,曽我先生が,ケンブリッジ大学でスマートインフラに携わるようになった頃からの話について教えてください。

曽我

ケンブリッジ大学は地盤工学が有名なので,様々な研究や実験ができると思って行ったところ,偉大な先生方と大きな研究テーマに出あうことができました。それが土壌汚染などを扱う環境地盤でした。

川端

いわゆるリニューアルに関する研究開発の第一歩のような感じでしたよね。

曽我

そうですね。次の世代にどのようにインフラを引き継いでいくかというところに地盤工学が目を向けたこと,これが私と川端さんの原点にあると思っています。

川端さんに出会って,現場のことを色々と教えてもらいました。地盤の不均質をどうやって考えるか,現場のプロセスがどうなっているかなど議論したのを覚えています。

川端

当時共同研究を行っていたケンブリッジ大学へ客員研究員として長期滞在していました。曽我先生には公私ともに本当にお世話になりました。その後2005年頃からスマートインフラに関するプロジェクトが増え始めましたね。

曽我

その頃にケンブリッジ大学の工学部に光ファイバ通信などの研究をしている先生が何人かいて,光ファイバでひずみが計測できることを知りました。

そして,MIT(マサチューセッツ工科大学)とケンブリッジ大学で次世代の工学研究のために政府がファンドを立ち上げていたので,スマートインフラストラクチャーの研究のプロポーザルをつくりました。ちょうどスマートフォンが出てきた頃で,プロポーザルにスマートファウンデーションとかスマートインフラストラクチャーなど「スマート」というキーワードを付けると必ず当たっていましたね(笑)。そのスマートインフラストラクチャーの研究を進めていく中で,光ファイバを始めることになりました。

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川端

曽我先生のこの分野の最初の研究はどのようなものでしたか。

曽我

はじめは土木研究所の方が,現場で地滑りのモニタリングをされていたのを見て,これはすごいと感銘を受け,他の地盤工学にも使えないかと思いました。その時に,もともとある杭に増し杭をして新しい建物をつくるという杭の再利用プロジェクトがあり,イギリスでもよく知られている杭の専門家が光ファイバに興味を持ち,取り入れました。それが最初の研究でした。

川端

当時,日本でも光ファイバがセンサとして使えるという話は出ていたのですが,その時はあまり普及しませんでした。

曽我

確かに当時は我々もデータの見方がよくわかっていませんでした。今,鹿島さんが現場で実適用できるようになってきた大きな要素は,データ解析技術が進みデータを見られるようになってきたからで,これが重要なことだと思います。

私が研究をしていた時も学生がデータを見せてくれるのですが,最初はよくわかりませんでした。地盤構造物に荷重を加えた際にどのようなデータとしてあがってくるか,学生と共有しながら,見えるようになってきたのが2005年頃でした。

川端

スマートインフラの喧伝がされていたロンドンの地下鉄でのプロジェクトがありましたね。

曽我

当時,ケンブリッジ大学の同僚の先生がヨーロッパで一番大きなトンネル工事のアドバイザーだったことと,イギリス政府がイノベーションに対して前向きな風潮だったこともあり,時代がうまくスマートインフラとマッチして現場で色々と試行できました。

地域性で変わる研究

川端

2016年にカリフォルニア大学バークレー校に移られたきっかけや,ご自身で立ち上げられたスマートインフラストラクチャーセンターという機関についてお聞かせください。

曽我

当時,イギリスでは光ファイバセンサを杭基礎やトンネル工事に多く取り入れていましたが,それを維持管理に使用するという長期的な視点に至らず,もどかしさがありました。カリフォルニア大学バークレー校からお話をいただいた時に,カリフォルニアはイギリスとは違って日本と同様に地震などの自然災害が多いので,維持管理に対する意識が高く,共感してもらえるのではないかと思いました。

実際,様々な方にお会いして考えを共有したところ,断層を跨ぐパイプラインに光ファイバをつける話があがってきました。自分がつくった構造物が明日には地震の影響を受けるかもしれないといった地域性による意識の違いは顕著だなと感じました。

例えば,カリフォルニアでは水道管やトンネル,アンカー,河川盛土,杭基礎などに光ファイバをつけることで,次世代が活用してくれるかもしれないと長期的な視点で考えてくれます。そこから賛同を得られた企業に投資していただき政府の研究費を加えて,業界全体で取り組んでいこうという形でインフラストラクチャーセンターは成り立っています。

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川端淳一技術管理部長

新たなイノベーションに向けて

川端

地域での考え方の違いが曽我先生の研究に変化をもたらしたとともに,今のセンターがあるのですね。今後,カリフォルニア大学バークレー校で挑戦したいことはありますか。

曽我

カリフォルニアは地震が多く気候変動による山火事などの自然災害もいろいろと起きています。それをシミュレーションできる時代になってきたので,道路からまち全体までをモデル化し,すべての構造物をモニタリングすることで,どういう影響があるかわかるようにしたいです。有事の際に,復旧シミュレーションをすることでどこがボトルネックになっていて,構造物をどのように強化すればいいかがわかる時代になってきました。

次のステップは,モニタリングの価値をシステムレベルにどのようにつなげられるかになります。そのためには,見える化が重要です。モニタリングによって可視化することで,復旧シミュレーション技術などへの橋渡しができます。今まで経験的に蓄積していたことを,デジタル化することで見えてくるものがあります。いろいろな方々に使ってもらえるようになると,市民の安全にも貢献ができます。それを建設の新しいイノベーションにつなげられるようにしたいと思っています。

鹿島への期待

川端

建設のイノベーションに向けて,当社への期待と役割などをお聞かせください。

曽我

テクノロジーは,ビジネスとして使わないと発展していきません。研究して論文を書いて終わりではなく,その研究成果を活かし,建設プロセスが向上してほしいと思っています。鹿島さんが今まさにそれを実現してくれているので,非常に感謝しています。まだこれからの部分もあり,失敗することもあるかもしれませんが,失敗することで新しいものが見えてきます。

大学だけではできないことを,鹿島さんのような業界のリーディングカンパニーが率先してイノベーションしていることに感動すると同時に,私がサポートできることはしていきたいと思っています。このイノベーションに学生たちが魅力を感じて,関わっていきたいと思える好循環が生まれることを期待しています。光ファイバで新しいビジネスをつくっていきたいと思っていますので,今後とも是非,よろしくお願いいたします。

(2023年2月17日オンラインにて収録)

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