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#kajima
宇宙への夢をつなぐ建屋とヒト

宇宙時代がやってきた。世界各国で宇宙に関わるさまざまなアイデアが生まれ,
民間による研究や宇宙ビジネス参入の動きも加速。関連市場は急速な規模拡大を続けている。
宇宙航空研究開発機構JAXAは宇宙輸送をリードすることを目指し,次世代大型ロケットの開発を推進している。
そんななか,種子島宇宙センターでJAXAが建設を進めていたひとつの建屋が竣工を迎えた。
日本の宇宙輸送を“建屋”で支える地上部隊のプロジェクトを紹介する。

日本の宇宙輸送を支える建屋

日本最大のロケット発射場,種子島宇宙センターは鹿児島の南,種子島東南端の海岸線に面する。ここに今年3月,JAXAが計画し,当社が施工を担った「第3衛星フェアリング組立棟」が完成した。JAXAが開発を進める次世代大型ロケット「H3ロケット」に搭載する人工衛星の最終整備およびフェアリングへの組込み作業を行う建屋で,約20年前に建てられた第2衛星フェアリング組立棟に次ぐ新棟だ。

「世界各国で衛星打上げのニーズが高まっています。そのなかで日本が宇宙輸送をリードするため,使いやすく,高信頼性と低コストを両立させた衛星フェアリング組立棟が必要不可欠でした」。プロジェクトを先導したJAXA施設部施設推進課の田嶋一之主任研究開発員が新棟建設の意義を語る。竣工以降,特に海外ユーザーからの視察依頼が多数寄せられ,世界中から熱い視線が注がれている。

図版:衛星を護る“フェアリング”

衛星を護る“フェアリング”

フェアリングはロケットの最先端部に位置するもので,この中に衛星などが搭載される。
打上げの際の大きな音響や振動,大気中を飛行する際に生じる摩擦熱から搭載機器を護る役割を果たす。

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ジャパンオリジナルの
衛星フェアリング組立棟

新棟は海外のトレンドも汲みつつ,日本の環境・運用に合致するよう建設された。
日本企業による独自技術も適用された衛星フェアリング組立棟は,まさしくジャパンオリジナルだ。

特長1:超低速クレーンと
日本初のシャッター

宇宙に運ばれる衛星などの搭載機器は軽量で繊細なつくりとなっている。そのため,設置・組立てに用いられるクレーンは搭載機器への衝撃を極力低減する低速なものが望ましい。新棟は三菱電機の超低速クレーンを採用,最低速分速3cmを実現する。

クレーンと同時に検討されたのがシャッターだ。JAXAは敷地環境や輸送効率,空間の清浄度確保などの観点から,これまでの日本にはない独自の仕様を導き出し,三和シヤッター工業と新たに共同開発を行った。また,クレーンとシャッターの連動性を持たせることで,効率性と安全性を最大化。国内メーカーの連携による日本独自の設備となった。

図版:超低速クレーンと独自開発のシャッター

超低速クレーンと独自開発のシャッター。
写真のシャッターは,クレーンが機器を吊ったまま部屋を行き来できるようT型をしている

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特長2:気流の最適化と見える化

人工衛星などの搭載機器を扱う大空間はクリーンルームとなっており,室内温度の均一性が求められる。ここに当社が保有する専用コンピュータによるCFD(数値流体力学)シミュレーションを適用。設計段階から空調の吹出口の位置や形状,温度,風向,風量などの最適化を検証し,施工計画に反映した。

また,室内温度の均一性を求めながらもユーザー毎の要望にも対応できるよう,吹出口の位置や風向,風量などは可変的に設計されている。運用開始後のCFDシミュレーションの確認や実運用に伴うチューニング作業に当社も携わり,ユーザーにとって使いやすい空間を提供する。

図版:CFDシミュレーションによる気流分布の解析例

CFDシミュレーションによる気流分布の解析例

interview

第3衛星フェアリング組立棟建設プロジェクトが始動したのは今から約6年前。
プロジェクト立ち上げから携わるJAXAの田嶋主任研究開発員と,
特殊な環境・建屋の施工を完遂した当社の有田耕二所長,八汐洋平工事課長に,
完成までの舞台裏を語ってもらった。

写真

JAXA・田嶋一之
主任研究開発員

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プロジェクトの始まり

田嶋

衛星打上げの需要が世界規模で高まることを見込み,衛星打上げ商業化の一環として新棟建設の検討を始めたのが2017年。それから一気通貫で設計,施工と駆け抜けてきました。

有田

第2衛星フェアリング組立棟の増築工事(2009年)を担当していたので,建屋に関する基礎知識は備わっていました。一方で,離島環境での人や物の手配の難しさ,種子島宇宙センター内の工事という注目度の高さも理解しており,所長を任命された時は身の引き締まる思いでした。

八汐

種子島出身の私は,宇宙センターの工事に携わることをずっと熱望していました。最高高さ42.9mの大空間など,一般の建築物とはひと味違った工事に高いモチベーションで臨みました。

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現場の所員一同。前列右が有田耕二所長,後列左が八汐洋平工事課長

クレーンやシャッターなど多くの特殊設備について

八汐

巨大なシャッターも,実は小さな部品や機械が組み合わさってできています。専門会社でさえも初めて扱うものが多かったので,工程や品質管理に苦慮しました。

有田

設置したクレーンは全部で6基。大型設備設置を鉄骨・型枠・足場などの複数工種と並行で進めるのは,鹿島の施工計画力の見せ所でした。

田嶋

国内メーカーのご協力で世界に誇れるクレーンとシャッターを導入することができました。外壁や屋上もこれまで主流だった断熱材パネルではなく,大部分をコンクリート壁とすることで漏水リスクを軽減,信頼性が高まりました。鹿島さんにはより複雑な管理が求められたと思いますが,工期遵守で進めてもらったことに感謝しています。

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図版:最高高さ42.9mのフェアリング組立室

最高高さ42.9mのフェアリング組立室

特に印象に残っていること

八汐

色々ありますが,現場乗り込み当初,近くの建屋から電気や通信線を引き込むために有田所長と一緒に山の中を分け入ったのは,今ではよい思い出です(笑)。

田嶋

土日を確実に閉所日にするという有田所長の強いキャプテンシーに感心しました。土日完全閉所は,施主である私たちにとっても精神的休息につながりました。

有田

土日を閉所することで週末に社員や作業員が家族と会う時間をつくることができます。JAXAさんがスムーズな物決めにご協力くださったからこそ達成できたものと思っております。

図版:JAXA開発中のH3ロケット,イメージ図

JAXA開発中のH3ロケット,イメージ図

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竣工を迎えて

有田

テレビなどで中継されるような建屋ではないかもしれませんが,しっかりと役目を果たしてくれることを楽しみにしています。

八汐

現場が終わると種子島を離れますが,また今度宇宙センターに子どもを連れて遊びに来たいです。

田嶋

まずは新棟の運用が軌道に乗るようフォローを続けていきますが,長期的には,建設を通して得たノウハウを地上だけでなく,月面・宇宙に結び付けていくことがJAXAの役割だと思っています。これからも是非技術協力をお願いします。

写真

第3衛星フェアリング組立棟。沿岸に大型ロケット発射場が見える

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