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「平成28年熊本地震」を知る

平成28年熊本地震について,被害状況から地震の特徴を分析した。(文・小堀鐸二研究所)

平成28年熊本地震の概要

平成28(2016)年4月14日(木)21時26分頃,熊本県熊本地方の日奈久断層帯付近を震源とするM6.5(M:気象庁マグニチュード)の地震(以後前震と略す)が発生した。益城町では震度7の激震に見舞われ,9人の犠牲者が出たほか,電気,ガス,上下水道などのライフラインや道路,鉄道などの社会インフラに多大な被害が生じた。熊本駅から熊本総合車両所に向かう九州新幹線の回送列車も本線上で脱線している。その僅か28時間後の16日(土)午前1時25分頃,同地方の布田川断層帯付近を震源とするM7.3の地震(以後本震と略す)がさらに発生し,再び益城町で震度7を観測するとともに,阿蘇大橋の崩落や九州自動車道への陸橋の落下,阿蘇神社の楼門や熊本城跡の複数の櫓などの重要文化財が倒壊するなど,甚大な被害が生じている。気象庁は熊本県を中心とする一連の地震活動を「平成28年熊本地震」と命名した。現地調査を踏まえ,この地震の特徴を3つの観点からまとめた。

写真:資料1: 2016年4月16日本震(M7.3)の震度分布

資料1: 2016年4月16日本震(M7.3)の震度分布

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第一の特徴:短期間に震度7を2度観測

益城町では「前震」が震度7を観測したことから,それを「本震」と思い込み,もうこれ以上の揺れは来ないものと判断した方々が多いと思われる。「前震」では大きな被害を免れたものの,耐震性能が低下していたと思われる家屋が,再び発生した震度7の地震により,大破,倒壊に至ったケースが多く存在すると推定される。益城町を東西に横断する県道28号から秋津川にかけての地域は,1階がつぶれて全壊となった木造構造物が多く見られ,1995年の阪神・淡路大震災の被害状況を彷彿させる光景であった。気象庁により震度7が1949年に導入されて以来,一連の地震活動の中で,一つの自治体が震度7を2回経験したのは初めてである。「本震」の強い揺れに伴い死者も40人増え,「前震」と合わせて49人(関連死等を含めると69人)と,多くの尊い命が奪われる結果となった。建物の損壊は累計9万棟以上を数え,甚大な被害がもたらされた。

過去には1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災),2004年新潟県中越地震,2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)等で震度7が観測されている。益城町の2地点で得られた速度波形や擬似速度応答スペクトル(横軸は構造物の周期,縦軸は地震波による構造物の応答値の速度表示)は,過去に震度7を観測した地点の観測記録よりも大きいことが確認された(資料3)。特に,木造構造物に大きな被害をもたらす周期1~1.5秒の地震動が卓越しており(資料4),その周期の卓越が益城町の地盤の特徴なのか,または震源の影響によるものかを明らかにしていくことは今後の重要な課題である。

「本震」発生以降,熊本県阿蘇地方で震度6強が,大分県では震度5強の大きな地震が連鎖的に発生しており,今後も引き続き警戒が必要である。

写真:震度7(激震)を受けた益城町の住宅被害

震度7(激震)を受けた益城町の住宅被害。耐震性に劣る古い住宅の倒壊や盛土の地盤変状など多くの被害状況を確認
(写真提供:小堀鐸二研究所)

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写真:資料3: 震度7クラスの地震観測記録の比較(速度波形)

資料3: 震度7クラスの地震観測記録の比較(速度波形)

写真:資料4: 震度7クラスの地震観測記録の比較(擬似速度応答スペクトル 減衰定数5%)

資料4: 震度7クラスの地震観測記録の比較(擬似速度応答スペクトル 減衰定数5%)

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第二の特徴:地表地震断層が広域に出現

熊本地震は,余震などの震源分布から日奈久断層帯の高野—白旗区間と布田川断層帯の布田川区間で発生したと推定されている。それらの断層帯は,文部科学省の地震調査研究推進本部による主要活断層として長期評価の対象とされており,布田川断層が含まれる九州中部では今後30年の地震発生確率が21%と推定されていた。すなわち,事前に地震発生が指摘されていた活断層で,実際の地震が発生した事例といえる。

また,地震直後から産業技術総合研究所や国土地理院の調査によって,活断層の地表トレース付近で(資料2),熊本地震による地表地震断層が約30kmにわたって生じたことが報告された。田畑の地表面に亀裂を与える地表地震断層の写真や映像を観測すると,地表地震断層が現れた付近は震源の極近傍であるにもかかわらず,周囲の建物には目立った被害は見られなかった。実際に現地に行ってみると,震源からやや離れた益城町の甚大な構造物被害とは対照的に建物被害が少なかった。これまでの被害地震,例えば2011年福島県浜通りの地震でも,地表地震断層付近は,その断層で生じているズレの直上を除いて被害は大きくなかった。断層極近傍における地震動は,まだ不明な部分も残されている。活断層直上に位置する都市も多いことから,断層極近傍の地震動予測は重要な課題の一つである。

写真:資料2: 活断層のトレース(赤線)と震央分布の日変化

資料2: 活断層のトレース(赤線)と震央分布の日変化

第三の特徴:構造物の被害状況と耐震性能

主に建築構造に生じた被害を対象とした現地調査を実施した結果,熊本市中心部では耐震性に劣るとされている,いわゆるピロティ形式をはじめ,1981年の新耐震設計法以前に建築されたと思われる古い建物に大きな被害が確認された。また,坪井川や白川の近傍では,少なからず地盤変状が生じており,建物被害につながる事例も見られた。一方,比較的新しく十分に耐震性を有するとみられる建物では,タイルの剥離など外装に軽微な被害が散見されたものの,外観からわかる深刻な構造被害は見受けられず,特に阪神・淡路大震災以後に充実された耐震対策が有効であったものと考えられる。新耐震設計法の施行から35年が経過し,古い建物が徐々に新しい建物に置き換わっていることもあり,都市全体の耐震性が向上しているともいえる。ただし,2度にわたり震度7の激震に見舞われた事例はなく,強い揺れが繰り返されることが,被害の進展に与える影響を詳しく調査・研究することは今後の課題である。また,震災からの復旧・復興がいち早く,かつ安全になされるためには,強い揺れを受けた建物の安全性を迅速に判断できる技術が不可欠である。

以上で述べた通り,この度の熊本地震では今まで経験したことのないような様々な特異な現象が見られた。このような現象は熊本地震固有のものなのか,それとも日本の他の地域でも起こり得ることなのか,現地の被害状況をしっかりと精査し,実態の解明を着実に推進する必要がある。多大な人命や財産上の犠牲を無駄にすることなく,被害要因の解明を通して継続的な減災・防災対策の一層の進化につなげていくことが求められている。

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