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KAJIMAダイジェスト

SAFE+SAVE 支援と復興の土木・建築

CASE12 コミュニティとともに成長する職業訓練センター(カンボジア)

写真:地場の織物が使われた,建物を彩る鮮やかな網戸

地場の織物が使われた,建物を彩る鮮やかな網戸

カンボジアの中山間部にあるスラ・プウ村に,職業訓練校と公民館が併設された施設がある。落ち着いた赤い土色の外観が特徴の,この職業訓練センターは,地場の材料を用いて地元住民たちの手によってつくられた。地域の赤土からつくった日干しレンガを積んだ壁面は,ところどころに小さな開口部があり,そこから室内へと光が取り込まれている。地元の住民が織った色とりどりの布は網戸となり,建物の開口部を楽しげに彩る。この開口部の明るい雰囲気で多くの人が建築物に興味を持ち,気軽に入ってくる。

スラ・プウ村に住むのは,かつて都心のスラム街に住んでいた人たちだ。国の方針でスラムが一掃された際,強制的に中山間地域へと移住させられた。その場所には十分なインフラが整っておらず,学校もなく,まとまった収入を得るための仕事も存在していなかった。そこで,地域のNPOが職業訓練センターを建設して住民の生活をサポートすることになった。

写真:織物は地域の住民の手で織られたもの。明るい配色が醸し出す楽しげな雰囲気に,多くの人たちが集まる

織物は地域の住民の手で織られたもの。明るい配色が醸し出す楽しげな雰囲気に,多くの人たちが集まる

センターを設計したのは,ヘルシンキを拠点に活動する建築設計事務所「ルダンコ+カンクネン」である。この事務所は2010年に立ち上がったばかりで,ヒラ・ルダンコとアンシ・カンクネンのふたりが主宰している。ルダンコはニューヨークの設計事務所と一緒にプロジェクトを行っていた建築家であり,カンクネンはバーゼルのヘルツォーク・アンド・ド・ムーロンの事務所で働いていた建築家だった。

職業訓練センターをつくるプロジェクトは,このふたりがたまたま仕事をひと休みしてアアルト大学のデザインスタジオで学んでいた2010年にカンボジアを訪れたことがきっかけで始まった。地域のNPOからスラ・プウ村の話を聞き,大学の演習として職業訓練センターについて検討したのである。

最初は大学の演習課題にすぎなかったプロジェクトだったが,実際に多くの人が職業訓練センターの実現を望んだこと,彼らのデザインが住民たちに受け入れられたこと,NPOが賛同者を回って資金を調達したことなどによって,ふたりの案は実現されることになった。そこでふたりはあわてて設計事務所をつくり,センターの設計から現場管理まで取り組むことになる。

写真:大学の演習で発案された計画が,地域の人びとの支持を得て,実現へと結びついた

大学の演習で発案された計画が,地域の人びとの支持を得て,実現へと結びついた

改ページ

建設にはなるべく地場の材料を使うこととし,現地の工務店とともに作業を進めるようにした。なぜなら,このセンターを建設することもひとつの職業訓練だったからだ。地元で手に入る材料を使って建築物を建てることによって,それを手伝った人たちはその後も同じような仕事に就くことができるからである。そのため,すべては手作業でつくられており,地元で手に入らない機械やプレハブは一切使っていない。工法も特殊なものは使わず,誰でもわかるシンプルなものとした。その結果,より多くの地元住民を建設時に雇い入れ,学んでもらうことができたのである。

センターは職業訓練のほかに,地域の住民が一緒に持続可能なビジネスを起業することをサポートしたり,コミュニティが民主的にものごとを決める際の集会所としての役割も果たしている。室内には作業場,倉庫,トイレなどが含まれ,建物のポーチ部分は屋外のコミュニティスペースとして使われている。

しかし,センターの用途や形態は状況に応じて少しずつ変化している。カラフルな手織りの網戸は最近つくりかえられたものである。雨季に雨の水がセンター内に入ってしまい,運営が一時ストップしてしまったからだ。その結果,雨季の激しい水にも強い開口部分のデザインと織物網戸のアイデアが利用者のなかから導き出された。

建物のメンテナンスや,これからの施設利用は地域の利用者が主体となって運営されていくことになっている。スラ・プウ職業訓練センターはコミュニティとともに成長し,生き続ける建築物なのである。

写真:特殊な機械やプレハブを使わず,誰もが参加できるシンプルな工法によって,建設作業は地域の住民自身の手で完遂された。ルダンコとカンクネンによれば,建て方はもちろん,日干しレンガづくりや網戸の製作もまた職業訓練だった

特殊な機械やプレハブを使わず,誰もが参加できるシンプルな工法によって,建設作業は地域の住民自身の手で完遂された。ルダンコとカンクネンによれば,建て方はもちろん,日干しレンガづくりや網戸の製作もまた職業訓練だった

改ページ

写真:センターは職業訓練のほかに,地域の人びとが継続的な事業をはじめるためのサポート機能や,コミュニティの集会所としても使われている

センターは職業訓練のほかに,地域の人びとが継続的な事業をはじめるためのサポート機能や,コミュニティの集会所としても使われている

写真:建物のポーチ部分は,オープンなコミュニティスペース。壁に穿たれた孔からの光で室内も明るく,人が立ち入りやすいように配慮されていて,地域住民が絶えず集まる

建物のポーチ部分は,オープンなコミュニティスペース。壁に穿たれた孔からの光で室内も明るく,人が立ち入りやすいように配慮されていて,地域住民が絶えず集まる

山崎 亮 やまざき・りょう
ランドスケープ・デザイナー。studio-L代表。京都造形芸術大学教授。1973年生まれ。
Architecture for Humanity Tokyo / Kyoto設立準備会に参画し,復興のデザインの研究を行う。
著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社),『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版)など。
Architecture for Humanityはサンフランシスコを拠点に世界各地で復興や自立支援の建設活動を主導する非営利団体。

参考資料

写真提供: © Architects Rudanko + Kankkunen

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