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日本品質に懸けて
台北の空を映すビルをつくる

中國人壽台北學苑投資開發案新築工事

台湾における経済の中心であり文化の発信地・台北市。
約270万人の人口を抱え,至るところに高層ビルや高級マンションが建ち並ぶ
アジア屈指の世界都市だ。その台北市で,中鹿営造は今新たな挑戦をしている。
中鹿営造初のダブルスキンカーテンウォールビルの建設現場を,
日本品質を胸に現地で築き上げた“中鹿ブランド”の担い手たちとともに紹介する。

【事業概要】

中國人壽台北學苑投資開發案新築工事

  • 場所:台湾 台北市
  • 発注者:中國人壽保險
  • 設計:建築-大元聯合建築師事務所,
    構造-創緯工程顧問,
    設備-恆開工程顧問
  • 監理:亞新工程顧問
  • 用途:事務所,商業施設,ホテル,駐車場
  • 規模:オフィス・ホテル棟-S・RC・SRC・CFT造 B5,18F/
    別棟-S・RC造 B1,2F 
    総延べ81,496m2
  • 工期:2017年1月~2020年5月 
    ※2019年12月建物使用許可取得予定

(中鹿営造施工)

図版:工事現場地図
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台北の中心街で

台湾の玄関口,松山国際空港に降り立ち,車に乗り換え,街の中心部へと続く敦化北路をまっすぐ南に進む。大通りは大きな木々が整然と並び,沿道にオフィスやホテル,飲食店など雑多な建物が軒を連ねる。10分ほど走ると,豊かな緑の間から頭一つ抜けた建物が顔を覗かせる。それが「中國人壽(じんじゅ)台北學苑投資開發案新築工事」の現場だ。

台湾の大手保険会社・中國人壽保險が新たな本社機能を有するビルとして建設を進める本プロジェクトは,地上18階,地下5階建てのオフィス・ホテル棟(以下,本体棟)と地上2階,地下1階の別棟で構成される。本体棟は事務所エリアに加え,レストランや店舗,プール付きのホテルが入る複合施設だ。

場所は敦化北路と南京東路が交わる台北市の中心部。南側には台北市のランドマークの1つ台北アリーナが位置するなど,日々多くの人々が行き交っている。

図版:現場全景。ダブルスキンカーテンウォールに空が映る(2019年7月撮影)

現場全景。ダブルスキンカーテンウォールに空が映る(2019年7月撮影)

図版:本体棟断面図

本体棟断面図

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ヨーロッパ並みの外装を実現する

取材で現場を訪れた7月中旬は,カーテンウォールユニットの取付けも終わり,透き通るようなガラス張りの外装が周囲を圧倒していた。

本体棟の外装は北・南面がシングルスキンカーテンウォール,東・西面がダブルスキンカーテンウォールとなっており,4種類計6,500ユニットから構成される。ダブルスキンカーテンウォールはユニットの大きさが幅1.5m,高さ4.2m,厚さ40cmで,キャビティ(中間層)内下部および上部側面に開口を設ける自然換気型となっている。

「外装はヨーロッパにあるようなダブルスキンカーテンウォールビルとしたい」。施主たっての希望から,ガラスは全て海外製。ドイツやアメリカから調達した高透過ガラスを使用することで,透明感溢れる装いを実現している。中鹿初となったダブルスキンカーテンウォール工事だが,そもそもこのシステムは寒冷地に適するとされているもの。1年を通して気候が温暖な台湾では全土を見渡してもその実績は少ない。そのため,品質確保にあたっては計画段階から困難が予想された。

また,懸念事項は施工に関してだけではなく,仕様や施工方法を決定する管理体制にもあった。今回,カーテンウォールにおいては,施主・設計・監理・施工・協力会社のほかに設計と施工側にそれぞれ顧問がいるなど,仕様の決定や図面承認が下りるまでの体制・手続きが複雑であったためだ。

図版:ダブルスキンカーテンウォール断面図

ダブルスキンカーテンウォール断面図

カーテンウォール工事の主担当として活躍したのが濵野伸洋規劃(きかく)長だ。協力会社選定段階から中鹿本社・当社建築管理本部と連携を取り合い,技術支援を受けながら先行して問題を抽出し対策を講じた。中鹿社員を常駐させて行ったユニット製作工場の管理や中国大陸での実大性能試験がその一例だ。

また,複雑だった管理体制ももの決めと図面承認フロー計画を作成することでそれぞれの役割を明確化。互いに協調して物事を進められる体制を築き上げた。

2005年入社の濵野規劃長は7年前に台湾に赴任した。赴任当初は言葉の壁にぶつかり,「電話さえすることができませんでした」と当時を振り返る。現在,施主および設計とのパイプ役を担っていることについて,「この規模の現場で,海外のお客さんを相手に仕事ができていることにやりがいを感じています」と話す。

図版:濵野伸洋規劃長

濵野伸洋規劃長

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図版:実大性能試験のため飛行機用のプロペラを用いて散水

実大性能試験のため飛行機用のプロペラを用いて散水

文化を越えたコミュニケーション

日本と比べると,台湾では着工時に詳細仕様まで決まっていないことも多く,詳細は実物を見てから決めるというケースも珍しくない。今回も現場内で多数のモックアップを作成した。現場の進行とともに仕様が決まっていく中,施工図と施工チームを的確な方向へと導いたのが田中誠副所長と沈(ちん)春明副所長の2人だ。

ローカル社員と接する中で田中副所長が心がけたのは,日本とは異なる文化を理解してコミュニケーションを取ることだ。「自分の考えを持っているローカル社員が多いので,こちらの意図を丁寧に伝えることが大切です」。

そんな田中副所長が大きな存在と話すのが台湾出身の沈副所長だ。2人は,14年前に田中副所長が初めて台湾に配属された現場でも一緒だった。「穏やかな沈副所長の人柄もあって,ローカル社員の話の聞き手となり私たちの手の届かない部分をフォローしてくれます」(田中副所長)。沈副所長は中鹿に入社して29年目となる。台湾の街の発展を中鹿社員として支えてきた。「中鹿は地元のゼネコンと比べて工種ごとにより細かく計画を立てます。その強みを活かしたいです」。

図版:田中誠副所長

田中誠副所長

図版:沈春明副所長

沈春明副所長

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図版:現場内でつくられたエントランスのモックアップ

現場内でつくられたエントランスのモックアップ

施工管理の本質を知る

敷地面積1万3,395m2の構内には,搬入ゲートが1つしかない。現場は,敷地西側に面する大通り以外を細い路地からなる住宅地に囲まれているため,計画当初は西側にゲートを2つ設けようと考えた。しかし,沿道にバスの停留所が併設されている関係で1つしか設置許可がおりなかった。また,敷地内の既存樹木は台北市から保護するよう指定されるなど敷地利用に関する制限が重なり,仮設計画策定に苦労を要した。

「工事の進捗に合わせて仮設計画の見直しをその都度行いました」と話すのは加藤弘之工事長。2007年入社で,仮設や鉄骨,コンクリートなど様々な工種の計画・施工チームを束ねた。既存の仮設計画に捉われずに,現場の進捗に応じて搬入や掘削開口封鎖などの計画に修正を加え,その成果として大型設備機器の地下への先行搬入を達成した。

図版:加藤弘之工事長

加藤弘之工事長

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図版:現場配置図

現場配置図

図版:大型設備機器の先行搬入の様子(2019年3月現場撮影)

大型設備機器の先行搬入の様子(2019年3月現場撮影)

図版:BIMを用いた搬入計画の検証も行った

BIMを用いた搬入計画の検証も行った

建築と設備間の連携の良さも予定通りに現場を進められている理由の1つだ。設備計画を担当する田中樹設備課長は加藤工事長と同世代。「この年齢で同世代の建築社員と,互いに役職者として仕事ができていることは新鮮です。思ったことを言い合いながら現場を進められています」(田中設備課長)。

現場内には系統ごとに複数色の配管が設置されており,配管の誤接続防止に役立っている。台湾ではこれが一般的のようで,田中設備課長は次のように話す。「台湾と日本で施工方法や品質管理に大きな違いはありません。配管のように,台湾で良いと思ったものは日本に持ち帰りたいです」。

ただ,「台湾で日本と同じ品質のものをつくるのは本当に大変です。日本の当たり前は通用しません」と加藤工事長は語る。鉄骨の施工計画を策定する際,日本で学んできたことを踏まえて作成し協力会社に説明を行ったところ,「その方法は台湾ではやったことがありません」と対応してもらえなかったという。どうしたら理解してもらえるのか。加藤工事長は自身の知識や固定観念を見つめ直しながら,協力会社との打合せを繰り返した。「ゼロから計画を突き詰めたことで,改めて施工管理の本質を勉強することができたと思います。台湾に来てまた1つ建築の面白さを知りました」。

図版:田中樹設備課長

田中樹設備課長

図版:色分けされた配管

色分けされた配管

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確かな品質

「今までに経験したことのない問題が多く発生し,その解決に努めてきました」。こう話すのは現場を率いる平井康所長だ。ダブルスキンカーテンウォールの外装を始め,内装や機能面でも施主と設計がこだわり抜いた建物。現場はこれまでも高いレベルの品質管理や検査対応を求められてきたが,平井所長を中心に所員全員でその要求に応えてきた。着工から約3年が経った今,現場は使用許可取得に向け最盛期を迎えている。「竣工時に施工に携わった全ての方々が満足できれば,それが一番いいです。そのために頑張っていきます」。

取材時,「役職者を中心に手の空いている方々で写真を撮ろう」という平井所長の声掛けに,非役職者を含めた多くの所員が駆けつけた。この一体感溢れる所員たちでつくり上げた建物が,台北に住む人,訪れる人を迎え入れる日が待ち遠しい。

図版:平井康所長

平井康所長

取材時の内装写真(2019年7月撮影)

取材時の内装写真(2019年7月撮影)

仕上がりへと近づく内装(2019年11月現場撮影)

仕上がりへと近づく内装
(2019年11月現場撮影)

図版:集合写真

集合写真

photo: Shinjiro Yamada(現場撮影以外同氏撮影)

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