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KAJIMAダイジェスト

For Strategic Risk クリーンルームリニューアル ビジネスチャンスを逃さない可変性

写真1:施工中

写真2:改修後

写真3:はつり実験

写真4:溶接実験

写真5:各種の検収測定

当社技術研究所内のクリーン生産環境研究施設へのリニューアル事例(①施工中,②改修後)。改修中のクリーンルーム内において,③はつり実験,④溶接実験,⑤各種の検収測定などの実証実験をもとに,対応技術を保有している

戦略的行為としてのリニューアル

グローバルな競争のなかで市場がめまぐるしく変動する電子デバイス分野。これまでみてきたように,省エネ・省CO2の推進,自然災害への備え,BCPの再考など,さまざまに交錯する事業リスクに対し,的確なソリューションが常に求められる。

生産施設のリニューアルは,単なる経年的な劣化に応じた受け身の対応と思われがちだが,当社では積極的なソリューションとして捉えている。事業のリスクに迅速に反応し,時流と機会を逃さない戦略的な行為として考えられよう。

たとえば遊休倉庫からクリーンルーム工場へのコンバージョン。倉庫の床荷重や天井高といった建物の特性を評価したうえで,建築・構造・設備・ユーティリティまでトータルな改修を提案。新規の生産ラインの早期立ち上げに貢献する。

また,既存の敷地の持つポテンシャルも最大限に活かされる。技術者の分散防止,輸送やインフラの継続的な利用,近隣や行政との関係の継続など,リニューアルはその“地”に根づいた無形の財産を享受できるのだ。

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図:遊休倉庫からクリーンルーム工場へのコンバージョン例

遊休倉庫からクリーンルーム工場へのコンバージョン例。床荷重や建物高さが十分あったため,床下ピットや必要天井高さを確保できた。建築,構造,設備からユーティリティまでトータルに改修を行い,事業機会を逃さない施設更新を支援

適材適所の技術メニュー

当社ではリニューアルのニーズの系統化,付加価値の見える化を行い,保有技術と組み合わせて最適なソリューションを提供している。たとえば「居ながら®リニューアル」は,クリーン環境を向上させ,省エネ対策も操業したまま実施できる。

必要なところだけを改修する「部分リニューアル」も有効な手法となる。7ページで紹介した部分床免震システムは,重要な装置部分のみを免震化し,装置床面での入力地震動を1/10ほどに低減。建物全体の免震に比べて最少の費用で改修できる。

また,当社の技術研究所において,クリーン生産環境研究施設へのリニューアルを行った。改修中のクリーンルーム(CR)内において,はつり実験,溶接実験,各種の検収測定などを実証し,対応技術として保有。完成した施設は,循環風量,ファンフィルターユニット(FFU)レイアウト,床面の開口率にいたる変更も意のまま。高清浄CRから低風量CRまでフレキシブルに模擬し,検証できる。新たに設計する施設の省エネルギーシステムの効果と性能を事前に実験できるのである。

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写真:電子デバイス施設のリニューアル事例

電子デバイス施設のリニューアル事例。「居ながら®リニューアル」によるクリーンルームの環境性能グレードアップ。左が改修前,右が改修後

写真:電子デバイス施設のリニューアル事例

操業を止めないレイアウト変更

微振動を嫌う電子デバイス生産装置には,高剛性の「嫌振床」が必要となることがあるが,従来は独立架台だったため,生産ラインのレイアウト変更のたびに操業を中断しなければならなかった。

当社オリジナルの「Ks嫌振床」(特許第3629947号)は,通常のグレーチング床に比べて剛性は約20倍。使用条件の厳しい装置にも対応し,生産ラインに合わせて自由にレイアウトできる。この改良型となる「sKs嫌振床」(特許出願中)は,操業を中断しない「居ながら®リニューアル」が可能となった。

sKs嫌振床は補助鋼材を短くし,グレーチング床の脚を設置したままの状態で施工でき,すべての作業が床上から行える。操業を続けながらレイアウトを変更できるのである。

また,床工事にともなう対象エリアの設備配管の盛り替えが不要なことから,低コストで短工期に対応できる。施工後にグレーチング床の脚の取り外しを要さないため,工事中の騒音,振動,粉塵にも配慮している。

電子デバイス施設において最も重要視されるのが,操業の継続性である。日常のレイアウト変更を,操業を止めずに,安全にスピーディに行えることは,事業者の最大の要望となっている。今後も当社では,既存工場の有効活用のニーズも含めて,可変性の高い施設を積極的に提案していく。

写真:床上から施工できる「sKs嫌振床」のイメージ

床上から施工できる「sKs嫌振床」のイメージ。電子デバイス施設の「居ながら®リニューアル」を実現

写真:[中・下]高剛性床の施工例

[中・下]高剛性床の施工例

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Voice 生産施設を設計する醍醐味

高度で迅速なソリューションが求められる生産施設。
その最先端で担当チームを率いる
当社建築設計本部の3人の
統括グループリーダーは,
このジャンル特有の厳しさが楽しいと語る。

写真:国平浩士 本部次長・統括GL(設備担当),藤村正 統括GL(建築担当),小川泰男 統括GL(構造担当)

左から国平浩士 本部次長・統括GL(設備担当),藤村正 統括GL(建築担当),小川泰男 統括GL(構造担当)

連携から連帯へ

小川 10年前は「免震なんてとんでもない」というお客さまばかりでしたが,意識がすっかり変わりました。物流施設でもトレンドになっています。大面積・多層の倉庫は,免震装置によるコストインパクトが比較的に少なく,それ以上の安心を得ることができます。
国平 このところの電子デバイス分野の傾向は,製造が海外へシフトし,国内はマザー工場,つまり技術開発の場となっています。それだけ機能が高度化し,リニューアルの機会も増えているのです。
藤村 製品の生産がひとつの企業で完結しなくなってきました。それぞれの高度な技術を持つ企業がつながる,サプライチェーンへのトータルな対応が求められています。建築・構造・設備設計は,もはや連携のレベルでなく,連帯し,一体化した提案を行うことが大切です。

生産の専門家への技術提案

小川 「歩留まり100%だったよ」と,稼働後すぐにお客さまから声をかけていただいたことがあります。結果がすぐに分かる,お客さま自身がユーザーであることも,生産施設の特徴です。オフィスやマンションならばお客さまとユーザーは必ずしも一致しません。
藤村 私たちがお付き合いするお客さまは,その製品の生産技術の専門家です。この仕事の厳しさであり,楽しさでもあります。事業が成功しているからこそ,新たな計画を発注してくださるのであり,そうしたお客さまのスタイルに合わせつつ,鹿島としての技術を提案し,付加価値を高めていくのです。
国平 ご担当者さまは,その企業の工務部の方ですから,失敗を恐れてどうしてもスペックを上げたくなり,計画段階でコストアップしていきがちです。それを当社の経験による根拠(エビデンス)をもって,お客さまのご意向に沿いながら,予算内に着地させねばなりません。
藤村 設計スペックには不足も過剰も許されず,さらに一定の幅や可変性を持たせなければなりません。将来の変化を見込んだフレキシビリティこそが肝要です。

お客さまと走る

国平 パナソニックグループ三洋電機さんのグリーンエナジーパークでは,当初,建築と構造のみの発注でした。のちに設備の一部も当社の担当となり,「鹿島オペレーションアシスト®」を導入すると,鹿島にこんな技術もあるのかとお客さまに驚かれました。サブコンの仕事のイメージだったようです。その後の新規案件は最初から一括発注していただきました。これは成功例かもしれませんが,裏を返せば技術営業が足りていなかったのです。社内へのPR不足も痛感しました。
小川 生産施設ではとくにアフターケアが大切です。お陰さまで一度ご発注いただくと,つぎのお仕事も続けていただけるのも,当社の特徴かもしれません。一方で,設計段階から現場所長を決め,お客さまとの打ち合わせに立ち合います。ものづくりの大切さの順序が把握でき,よりよい施設づくりに役立っています。
国平 当社の建築設計本部は, オフィス, 住宅, 商業, 宿泊, 医療, 教育, 生産といった専門領域によるレパートリーシステムを採っています。お客さまよりもそのレパートリーを熟知することが,本部の方針です。
藤村 設備設計の社員は,建築学科の出身者だけでなく,機械や電気など,専門はさまざま。だからこそお客さまと同等の知識を持つ人材がそろっていると言えるでしょう。
国平 建築・構造・設備・施工・営業と,トータルソリューションがゼネコンの強みであり,使命だと思っています。お客さまとは本音をぶつけあい,ときには議論が白熱しすぎて関係がぎくしゃくするほどです。しかし,竣工式にはお客さまの笑顔がそろっている。そんなうれしさを実感できるのが,生産施設の仕事の醍醐味です。
藤村 お客さまと一緒に走り続けることができる体力と知力を鍛えていくことが大切ですよね。

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