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KAJIMAダイジェスト

SAFE+SAVE 支援と復興の土木・建築

CASE14 コミュニティを結束させる麦わら住宅(アメリカ)

「麦わらでつくった家」と聞けば,『3匹の子ぶた』で最初に狼に吹き飛ばされた弱々しい家を想像するかもしれない。ところが,「ストローベイルハウス」と呼ばれる麦わら住宅はとても頑丈だ。「ストローベイル」とは乾燥させた麦わらを四角く圧縮したブロックのこと。これをレゴのように積み上げてつくる。断熱性能もかなり高い。

飲み物を吸うストローはもともと「麦わら」を指す。ストローハットといえば麦わら帽子のことだ。麦わらは稲わらと違って断面が中空になっている。その昔,空気層を含む麦わらでつくった帽子が,頭部を熱射から守ることに気づいた人がいたわけだ。

それと同じように,住宅の壁に麦わらをすき込む方法は1,000年以上前から世界中で見られる。さらに,その麦わらを保管用に四角く固めたブロックを使えば,より断熱効果の高い住宅が実現できる。麦わらのブロックだけを積み上げて壁をつくる,「ストローベイルハウス」がアメリカで誕生したのは約100年前。燃えやすい麦わらも,表面を漆喰で覆えば耐火性が担保される。

写真:ストローベイルハウスは,多くの人が協力しあって建てられる。地域住民は家づくりのノウハウを学び,ボランティアは彼らとの協働を通じてネイティブ・アメリカンの歴史や生活の理解を深める

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写真:ストローベイルハウスは,多くの人が協力しあって建てられる。地域住民は家づくりのノウハウを学び,ボランティアは彼らとの協働を通じてネイティブ・アメリカンの歴史や生活の理解を深める

ストローベイルハウスは,多くの人が協力しあって建てられる。地域住民は家づくりのノウハウを学び,ボランティアは彼らとの協働を通じてネイティブ・アメリカンの歴史や生活の理解を深める(上下とも © Michael Rosenberg)

「ストローベイルハウス」を地域の住民と一緒に組み立てることでコミュニティの力をさらに高められると気づいたのがナサニエル・コラムである。自らの地域に必要な建築物を,麦わらや木材や漆喰など地域にある素材を使って,地域に住む人たちがつくりあげる。

アメリカ国内に住むネイティブ・アメリカンの暮らしを改善したいと考えていたコラムは,スポーツメーカーの協賛を得て各地にネイティブ・アメリカンとともに麦わら住宅をつくっている。かつてインディアンと呼ばれた彼らのうち,約35万人が現在,家を持たないか貧しい家で生活しており,その半数は子どもである。ひとつのベッドルームで8人が寝ている家もあるという。政府が指定した地域に住めば少ないながらも補助金が手に入るので,自立しようとせずに劣悪な住宅で暮らし続ける者も多い。こうした人たちと力を合わせて麦わら住宅をつくることで,居住環境を改善するだけでなく,コミュニティの力を高め,自立した生活を促すのがコラムのプロジェクトである。

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写真:麦わらや木材,漆喰など,素材は地域で調達できるのが特徴。圧縮した麦わらを積み上げるシンプルな工法だが,丈夫で快適な住まいになる

写真:麦わらや木材,漆喰など,素材は地域で調達できるのが特徴。圧縮した麦わらを積み上げるシンプルな工法だが,丈夫で快適な住まいになる

麦わらや木材,漆喰など,素材は地域で調達できるのが特徴。圧縮した麦わらを積み上げるシンプルな工法だが,丈夫で快適な住まいになる(左= © Harry Connolly, 右= © Nathaniel Corum)

その建設プロセスは明快だ。まずは住宅の土台となる基礎をつくる。次にレゴを組み立てるように麦わらブロックを積み重ねて壁をつくる。各ブロックを安定させるためには麦わらをしっかり圧縮させる必要がある。これには農場や牧場で使われてきたベイル機を活用する。壁には漆喰を塗って麦わらを隠す。最後に屋根をかけて完成である。

建設用の敷地は,地域における水の流れや植生パターンなどを分析して決める。住宅の基礎には,石炭精製の副産物であるフライアッシュセメントを使うことで,ポルトランドセメントの使用量を削減している。壁には,農業の副産物である麦わらと漆喰を使っており,人体に無害であるばかりでなく,断熱性能に優れており,住宅の寿命も長い。そのほか,とうもろこしの皮でつくったカーペットやひまわりの種の殻を圧縮してつくったパーティションなども多用しており,コラムはこうした農業副産物を使った建築のことを「アグリテクチャー(agri-tecture)」と呼んでいる。

できるだけ少ない財源で多くの住宅をつくるため,ボランティアと地域住民とが協力して作業する。基礎づくりから屋根を架けるまでは約3週間。デザインから施工まで地域住民がかかわるため,住宅づくりに関するノウハウやスキルがコミュニティに伝授される。また,作業中にボランティアが地元の料理や踊りなどを学ぶことでネイティブ・アメリカンに対する理解が深まる。

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写真:ストローベイルハウスの建設は安価でありながら,農業副産物の再利用やバリアフリー,雨水貯留といったさまざまな技術が用いられている。専門家の関与は最低限にとどめ,コミュニティが独自に建設できるよう配慮するのもプロジェクトのミッション

写真:ストローベイルハウスの建設は安価でありながら,農業副産物の再利用やバリアフリー,雨水貯留といったさまざまな技術が用いられている。専門家の関与は最低限にとどめ,コミュニティが独自に建設できるよう配慮するのもプロジェクトのミッション

写真:ストローベイルハウスの建設は安価でありながら,農業副産物の再利用やバリアフリー,雨水貯留といったさまざまな技術が用いられている。専門家の関与は最低限にとどめ,コミュニティが独自に建設できるよう配慮するのもプロジェクトのミッション

写真:ストローベイルハウスの建設は安価でありながら,農業副産物の再利用やバリアフリー,雨水貯留といったさまざまな技術が用いられている。専門家の関与は最低限にとどめ,コミュニティが独自に建設できるよう配慮するのもプロジェクトのミッション

ストローベイルハウスの建設は安価でありながら,農業副産物の再利用やバリアフリー,雨水貯留といったさまざまな技術が用いられている。専門家の関与は最低限にとどめ,コミュニティが独自に建設できるよう配慮するのもプロジェクトのミッション
(5点とも © Skip Baumhower)

2005年につくったホピ族の住宅は,ふたつのベッドルームを持つ家を350万円で仕上げた。同じ年にタートルマウンテン地域でモデル住宅を建設した際には,自然エネルギー利用や雨水貯留,バリアフリー,農業副産物利用など,さまざまな技術がコミュニティに移植された。翌年にナバホ族の住宅の建設作業ではほかの部族との協働がみられ,コミュニティ間のネットワークを構築することに寄与した。いずれも1,000人を超える人たちが住宅を必要としている地域である。

コラムは,こうした地域に入り,対話や共同作業を通して住民との信頼関係を築き,コミュニティの人びとと一緒に3週間でモデルとなる「麦わら住宅」を建てる。専門家の関与は常に最小限とし,モデルが完成した後は,力をつけたコミュニティが自分たちで住宅を増やし続けられるよう配慮している。

材料はその土地にある。人もその土地にいる。コラムが提供しているのは,「麦わら住宅をつくる技術」と「人びとが結束するきっかけ」だけなのだろう。

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写真:基礎づくりから屋根を架けるまで,建設期間はわずか3週間ほど。短い期間で家づくりのノウハウをコミュニティに伝授する

基礎づくりから屋根を架けるまで,建設期間はわずか3週間ほど。短い期間で家づくりのノウハウをコミュニティに伝授する
(© Michael Rosenberg)

山崎 亮 やまざき・りょう
ランドスケープ・デザイナー。studio-L代表。京都造形芸術大学教授。1973年生まれ。
Architecture for Humanity Tokyo / Kyoto設立準備会に参画し,復興のデザインの研究を行う。
著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社),『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版)など。
Architecture for Humanityはサンフランシスコを拠点に世界各地で復興や自立支援の建設活動を主導する非営利団体。

参考資料

  • Nathaniel Corum, Building a Straw Bale House:
    The Red Feather Construction Handbook, Princeton Architectural Press, 2005.
  • Architecture for Humanity, Design Like You Give a Damn:
    Architectural Responses to Humanitarian Crises, Thames & Hudson, Ltd., 2006.

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