当社は,火に弱い木材のイメージを覆す国産スギ材のみを利用した
純木質耐火構造部材「FRウッド(Fire Resistant wood)」を東京農工大学,
森林総合研究所,ティー・イー・コンサルティングと共同開発しました。
この技術について開発担当者に解説してもらいましょう。
木材の需要拡大へ
日本は,国土の約2/3にあたる2,500万haが森林で,世界でも有数の森林大国です。これまで,私たちは健全な森林の成長を保つため植林と伐採,利用を繰り返し,木材を有効に使ってきました。しかし,近年木材需要の減少や管理不足により森林の手入れが行き届かなくなっているのが現状です。
こうしたなか,政府は2010年10月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行しました。木造の少ない公共建築物を対象に積極的に木材利用を促すことで,建築業界全体の木材需要を高める取組みです。木は鉄やアルミニウムなどほかの資材に比べ,製造や加工時に排出するCO2がとくに少なく,建材や家具に形を変えても炭素を固定し続けます。日本は海外の安価な木材に依存しがちですが,国内の木材を有効利用しながらCO2削減などの環境対策に貢献し,2020年までに政府は木材自給率を50%以上にすることを目指しています。
しかし,木造建築においても当然耐火性が求められます。建物が密集する市街地では「防火地域」「準防火地域」が定められ,火災発生時に構造耐力を一定時間以上保持するよう,さまざまな建築基準が設けられています。都市部など最も規制の厳しい防火地域では,3階建て以上,または延床面積100m2以上の建築物は柱や梁などの主要構造部を耐火部材にしなければなりません。そのため,従来は耐火性のある石膏ボードなど不燃材で木材を覆う仕様以外,耐火木造建築物の実現は困難でした。
1時間耐火構造の大臣認定を取得
FRウッドは,国産スギ材のみを利用した純木質耐火構造部材で国内唯一の技術です。柱や梁となる荷重支持部の周囲に難燃薬剤を注入した燃え止まり層を配し,火災が起きても構造を支える内部まで燃焼が進行しない仕組みです。また,難燃薬剤を注入する前には,レーザやドリルを用いたインサイジング処理(孔あけ処理)という方法で薬剤注入量と注入分布を均一化し,産地や樹齢などによって性能の異なる木材を安定した品質に保っています。
当社技術研究所で実際の火災を想定した加熱実験を行い,FRウッドの耐火性能を確認,2009年8月に350mm×700mm(荷重支持部210mm×530mm)の大断面部材では1時間耐火構造の大臣認定を取得していましたが,設計の自由度を高めようとさらに小さな断面部材の研究を重ねました。
2012年3月,260mm×290mm(荷重支持部120mm×120mm)の小断面部材でも大臣認定の取得に成功。これにより,最小断面以上の寸法であれば自由な断面設計ができ,いままで以上にさまざまなニーズに応えられるようになりました。また,認定の取得で建設地域の制限に関係なく,木造4階建て,もしくは最上階から上部4層までを木造にすることが可能となりました。
FRウッドの初適用
現在,当社が設計を担当する「音ノ葉グリーンカフェ」(東京都文京区,2013年4月竣工予定)の独立柱と飛び梁にFRウッドを初めて適用しています。ここは明治の要人,田中光顕の屋敷だった蕉雨園や野間美術館に隣接する敷地で,目白通り沿いは防火地域のため耐火性が求められます。FRウッドを採用することで,石膏ボードに覆われない“木の見える”空間が防火地域においても実現されました。
今後,当社は木造建築に限らず,FRウッドを用いた鉄筋コンクリート造や鉄骨造との混合構造による“新木造”を提案し,学校やオフィス,福祉施設,住宅などに幅広く提供していきます。防火や耐火の規制で実現しなかった木造アトリウムや木造高層建物を実現し,災害に強く,より自由な設計を可能としていきます。
従来,木造で耐火建築物を実現するには,石膏ボードなどの不燃材で木を覆うことにより耐火性能を確保する手法が一般的であり,「木造ではあるが,木は“見えない”」というジレンマがありました。
FRウッドは,従来の技術とは異なり,木を見せた耐火木造建築物を実現する新技術です。国内で最も多いスギを採用し,「薬剤注入が容易」というスギの特徴をいかし,難燃薬剤を注入することで耐火性能を確保しています。
FRウッドの適用により,木が見える新しい建築物を実現するとともに,環境負荷低減や低炭素社会の実現,森林資源の有効活用,そして国内林業の活性化に貢献したいと考えています。