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ミニチュア・ワンダー・ランド

旅をすると必ず目にする,
その土地の風景や構造物を模したミニチュアの数々。
旅の思い出を蘇らせる装置でもあり,
縮小された風景を掌に載せる喜びは世界共通だ。
今月からの新連載は,
コレクターアイテムとなる精巧な竣工記念品から,
怪しげな土産物まで,
さまざまなミニチュアの世界を紹介する。
オリジナルの姿を代弁する「小さきもの」の声に耳を傾け,
ミニチュアの不思議に迫る ——

天を目指すタワー

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図版:世界各地から集まったミニチュアタワー群

世界各地から集まったミニチュアタワー群

世界を俯瞰する楽しみ

ミニチュアは,観光土産の定番である。

世界各地の名所旧跡を訪問するたびに,ミニチュアを意識して買い集めるようになって,30年以上が経過する。コレクションは800点ほどになるだろうか。

旅先で感動した風景を切り取って,記念として持ち帰りたいと思う感性は,文化や時代を超えて誰もが持ち合わせている。この欲求を満たすべく,私たちは記念写真や動画を撮影し,景勝地の絵葉書やマグネットの類を買い求める。故郷に戻ってそれらを眺めるたびに,旅行中の体験を懐かしく想いだす。また家族や友人たちと経験を分かちあうことができる。

ミニチュアも同様である。私は,入手したミニチュア群を研究室の棚に陳列している。もちろん並べ方にもこだわりがある。たとえば電波塔や展望塔の類,高層ビルディング,教会堂,寺院,天守閣などは,それぞれ一群として配置させる。またスペイン,フランス,イタリア,アメリカ,中国など,国ごとに集めている棚もある。また社寺建築などを模した和風の土鈴,鋳鉄製のレプリカ建築群など,素材ごとに並べるコーナーもある。そこには自分なりの縮景を造り,俯瞰する楽しみがある。

この連載では,私の保有するミニチュアを写真家の川村憲太さんに託し,自由なイマジネーションのもとに撮影していただいた。サイズもさまざまな名所や名建築の縮景が,どのような新しい景観を生むのか。楽しんでいただきたい。

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図版:人類は垂直方向に生活空間を拡張しようとする

人類は垂直方向に生活空間を拡張しようとする

人類の本質的な想い

名所のミニチュアとして,各地でまず販売されているのが,その都市のランドマークであるタワーの類である。

バベルの塔の伝承を語るまでもなく,古代から人類は高層建築を競い合って建立してきた。エジプトのピラミッドなどの墓所,城塞の物見塔,教会の聖堂や鐘楼,寺院の塔,モスクのミナレット,戦勝を記念するモニュメントなど。材料や構造,様式もさまざまだが,文明の東西を問わず空に抜きん出て高くそびえるタワーに象徴的な意味合いを託してきた。

近現代にあっても変わらない。1889年,フランス革命100周年を記念してパリで開催された万国博覧会のシンボルとして,高さ300mの鉄塔が建立された。設計者の名前をとってエッフェル塔と命名された斬新なタワーは,エレベーターを装備し,多くの見物者を受け入れた。最上階には展望室のほか,エッフェルの私室や気象観測の実験室などが置かれた。

エッフェル塔以降,電波塔やテレビ塔,展望塔,オフィスビルなど,さまざまな機能を備えた塔が建設されるようになる。

ミニチュアのタワー群を眺めてみよう。構造設計者や意匠デザイナーの工夫もあって,その外観は多種多様である。本来は掌に載るサイズなのだが,なぜかそこに「高さ」を感じ取ってしまう。私たちは天に伸びるそのシルエットに,垂直方向に生活空間を拡張しようとする人類の本質的な想いを,おのずと見出しているのだろう。

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図版:パリのシンボル

パリのシンボル

ミニチュア提供:橋爪紳也コレクション

はしづめ・しんや

建築史・都市史家。大阪府立大学研究推進機構特別教授,
大阪府立大学観光産業戦略研究所長。
1960年大阪市生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程,大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。
『日本の遊園地』(講談社),『あったかもしれない日本』(紀伊国屋書店),『集客都市』(日本経済新聞社),『「水都」大阪物語』(藤原書店),『ツーリズムの都市デザイン』(鹿島出版会)など,建築史,都市文化論に関する著作は50冊以上。日本観光研究学会賞,日本建築学会賞,日本都市計画学会石川賞など受賞多数。

かわむら・けんた

写真家。1981年生まれ。
滋賀県在住,株式会社tametoma主宰。
建築・広告写真を主に,グラフィックデザインやWEB制作も行う。オフィス兼ギャラリーにて旅先で出会った風景写真などの個展も開催。

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