深川ギャザリア全景
生物が息づく複合商業施設
今春,東京・深川の水辺でカルガモが卵を産んだ。ここは1年前に生まれたばかりのビオトープ。近隣には小学校や幼稚園,大手金融機関のオフィス,そして全国トップクラスの売り上げで知られる大型スーパーマーケット,イトーヨーカドー木場店がある。
複合商業施設・深川ギャザリアは,東京メトロ東西線の木場駅から徒歩2分の敷地に,オフィスを中心に7棟のビルが立ち並ぶ。開業10年とは思えないほど地域に溶け込み,活気に満ちている。通信ケーブル・電線製造大手フジクラの工場跡地を,フジクラ開発が主体となって開発し,建物を段階的につくってきた。「ビオガーデン」と名付けた野生生物の生息空間は,その総仕上げとなる憩いの場だ。
地域に喜ばれる開発
「生態系を一からつくる難しさを何度も伝えましたが,オーナーの熱意は変わりませんでした。その強い気持ちがビオガーデンを実現させたのです」。こう明かすのは鹿島建物総合管理の山坂威営業本部次長。ビル管理を本業とする当社グループ会社が,開発当初から管理・運営のコンサルタントを務め,事業者と腹蔵なく意見を交わせる間柄になった。開発エリア全体を集中管理できる防災センター計画のアイデアなど,山坂本部次長は我が子のように施設を語る。
「Art & Green ギャラリー」をうたう深川ギャザリアでは,彫刻などのアートが建物内外に置かれ,植栽は至るところに育ち,野菜も栽培されている。ランチタイムには中庭のベンチがオフィスワーカーで埋まる。
事業会社であるフジクラ開発の川口茂社長は「商売だけで土地を使いたくない」とその狙いを語る。「CSRの観点からも企業姿勢を問われる時代。地域の住民や子どもたちに喜ばれる開発こそが,土地全体のバリューアップにつながります」。
フジクラ開発
川口 茂 社長
カルガモも生息する「ビオガーデン」。小学校の通学路に, 自然と身近に触れ合える憩いの場を提供している
散歩道としても人気の高い「ビオガーデン」。かつてこの地域に存在していた生態系を再現・保全している
オフィス棟とプラザ棟に囲まれた中庭。ランチタイムにはベンチが埋まる一等席
買い物客が行き交う「センタープラザ」。フィットネスクラブや映画館の利用で老若男女が訪れる
活気を呼び込む配置
7万m2に及ぶ敷地のなかで,最初に登場したのはイトーヨーカドーの建物だった。それを駅から最も遠くに配置することで,「人の流れをつくったのです。鹿島のみなさんとアイデアを出し合いました」と川口社長は振り返る。それまで工場などの自社施設は運営してきたが,「お客様に借りてもらう商売となると初めてのことばかり。共益費,電気・水道料金の設定など,テナント運営の考え方をすべて鹿島建物に教わりました」。
昨年4月からは設備管理の業務全般が鹿島建物に委託された。また,敷地内の建物の多くを当社が施工したほか,開発当初からグループ全体でこの事業をサポートしてきた。1棟は鹿島リースが保有し,施設パンフレットの一部は,広告代理店ピー・アール・オーが制作している。
オフィスの供給過剰が懸念されたいわゆる2003年問題では,当社営業本部のテナント部が積極的にバックアップした。「ゼネコンといいますが,本当にゼネラルだと実感しました」と川口社長は語る。施設全体が10年でほぼ完成したのは「リーシングで苦労したころからは全く予想しなかった早い展開。その陰に鹿島さんの総合力ありと思っています」。
鹿島建物総合管理
営業本部
山坂 威 本部次長
人々があふれる広場
たんなる不動産の開発ではない「まちの創造へのチャレンジ」で生まれた深川ギャザリアは,「地域貢献のためには複合施設を」という信念でつくられてきた。以前はほとんどなかった商店や飲食店が周辺地域にも増えたという。
深川ギャザリアとは「GATHER(集まる)」「AREA(エリア)」「IA(国や地方を示すラテン語由来の接尾語)」からなる造語。人とものが集う場を表す。その名のとおり,朝は出勤の人波が続き,日中は買い物客が絶え間なく行き交い,夕方はランドセルを背負った小学生が走り,いつでも人々であふれる場となった。時間とともに変わるその風景は,ひとつのまちの姿そのものである。
草花であふれる「ガーデンコート」。野菜もたわわに実る
地域に親しみを与える動物アート
木立と水の癒しをえられる「ウエストスクエア」
メインエントランスの「ウェルカムゾーン」。通勤の時間帯はスーツ姿の人波が続く
路地のような「四季の小路」