(仮称)新宿六丁目N街区計画新築工事
地下鉄の東新宿駅前で進む再開発事業「新宿イーストサイド」では,
約3.7haの敷地に1万人が就業可能なオフィスビルと,住戸数761戸の賃貸住宅が整備される。
当社はオフィスビル「新宿イーストサイドスクエア」を担当。
常時1,000名を超える社員・作業員を投入し,24ヵ月という短い施工期間の中で
巨大オフィスビルを建設する。超高速施工を実現する鍵は施工合理化――。
工事概要
(仮称)新宿六丁目N街区計画新築工事
- 場所:
- 東京都新宿区
- 発注者:
- 新宿六丁目特定目的会社
- 設計:
- 三菱地所設計・日本設計 設計監理共同企業体
- 用途:
- 事務所,店舗,駐車場
- 規模:
- 地下―SRC・S・RC造/地上―S造(CFT構造) B2,20F,PH2F 延べ172,363m2
- 工期:
- 2010年5月~2012年4月
(東京建築支店施工)
複合市街地と快適な環境の創出
当社が担当する「(仮称)新宿六丁目N街区計画新築工事」では,約2.6haの敷地に20階建ての賃貸オフィスビルを建設する。三菱地所・日本土地建物などが共同出資する新宿六丁目特定目的会社によるプロジェクトで,「新宿イーストサイドスクエア」と命名された。1階から20階のオフィスは,天井高2.85m,有効面積約6,400m2の無柱空間という都心最大級のフロアプレートと高水準の設備スペックを有し,逼迫する都心のオフィス需要に応える。都営地下鉄大江戸線と東京メトロ副都心線が乗り入れる東新宿駅と直結する利便性の良さも魅力だ。地下1階と1階の一部は店舗,飲食店などからなる商業施設が整備され,ビル就業者だけでなく,来街者や地域の人々にも開放された賑わいの場となる。
3つの「最短」
この工事の一つの特徴が,27ヵ月の工程を3ヵ月短縮し,発注者に提案したことだ。「やってやろう。自分ならできる」。その思いで,現場を統括指揮する戸田猛所長は,工期短縮のために綿密な計画を立てて工事に臨んだ。短縮のためには,1万5,000m3に及ぶ広大な外構工事に早期着手できるかが鍵になる。「最短で掘削工事」「最短で基礎工事」「最短で鉄骨上棟」と3つの「最短」を方針に打ち出し,工事が始まった。
各工事の数量は膨大で,掘削土量は25万m3。基礎のコンクリート量は7万3,000m3で,鉄骨は2万6,000tに及ぶ。莫大な量の工事を効率的に進めるために,計画時に様々な検討を行い,一つひとつ実現していった。
4ヵ月で行う深さ20mの掘削工事では,1日にダンプトラックが何台通行できるか付近の道路交通量を調査。山留めにはアースアンカー工法を採用した。アースアンカーは切梁を必要としないため,スロープを構築することで掘削重機とダンプが直接乗り入れて掘削でき,施工効率が飛躍的に向上する。ダンプの動線計画にも力を入れ,無駄を省いた。
基礎躯体工事の工期は2.5ヵ月。設計者と事前協議を行い,鉄筋のユニット化やシステム型枠を採用した。コンクリート打設時にはポンプ車の配管に工夫を凝らし,1日に1,000m3の打設を可能にした。
鉄骨工事に与えられた期間は4.5ヵ月で,3基のタワークレーンと2基のクローラークレーンを駆使した。
地域の顔になる特徴的な外装
5月26日,20階分の鉄骨工事がほぼ完了し,外装工事の進む現場を訪ねた。東新宿駅から地上に上がると,大通りの向かいに巨大なビルが現れる。そのスケールに圧倒されるとともに,個性的な外装に目を奪われる。凹凸のあるブロックのような白い壁と水晶の結晶のようにきらめくガラスの壁。複雑なデザインはどう施工するのだろうか――,そんな疑問が起こった。
この特徴的な外装を,「でこぼこ」,「がたがた」と表現する松崎和行工事課長。「でこぼこ」はPCカーテンウォール,「がたがた」はアルミカーテンウォールのことだ。
PCカーテンウォールは,厚さの違う3種類の白っぽいアーキテクチュアルコンクリート片約10枚とカシミールホワイトという花崗岩が打ち込まれたPC版でできている。温かみのある風合いと動きのある表情は,街に賑わいを創出し圧迫感を軽減する効果もある。
そして,PCカーテンウォールにはもう一つ,重要な役割がある。このビルはオフィス環境の向上を図るため,テナントごとに空調調節できるよう各フロアに給排気設備が設置される。PCカーテンウォールが室外機の目隠しとなり,デザインの一部となったランダムに開いた穴からは室外機の熱を放出する。
PC版の形は435通り,計1,304枚。最大で縦2.6m×横7m,重さ10.8t。松崎工事課長が「パズル表」と例える施工図は,PC版の形ごとに色付けされている。「一目で分かるようPC版の一枚一枚に番号が付けてあり,ルールが分かるとパズル表がなくてもPC版の場所とパターンが分かるようになっています。この施工方法は,PC版の製作を始める半年前から検討しました」と松崎工事課長。
都心部の限られた敷地での工事のため,1,300個を超えるPC版を置くスペースも検討した。「製作時のストックスペース・工期などを考慮して,PC版の約7割を中国の工場で製作しています。輸送に約7~10日かかるので,船の遅れなども想定し,中国からの出荷は取付け作業の3週間前に手配します」(松崎工事課長)。
PC版は海上輸送されたコンテナごとトレーラーで運び込む。タワークレーンやクローラークレーンで手際よく吊り上げていく。PC版に付いているファスナーと呼ばれる金物を,PC受け鉄骨に取り付ける。
特注クレーンで取り付ける
一方,「がたがた」と表現したアルミカーテンウォールは,ガラス面の角度の異なる5タイプのユニットで幅が4種類,20パターンの組合わせがある。最大のものでは,高さ5.5m,幅2.25m,重さ1.05t。様々な方向に反射した光が動きのある表情をつくる。建物内からの視覚を遮蔽する効果もあり,隣接するマンション(S街区)を始め近隣のプライバシーに配慮したデザインとなっている。
トレーラーで届いたユニットは1階でフォークリフトを使って荷下ろしし,エレベータで取付け階に運ぶ。重く,かつ変形していて重心がずれており,取扱いの難しいユニットをスムーズに取り付けるため,機電担当の吉川泰一朗次長が発案し,新しいタイプのクレーンを開発した。「このクレーンは安全性に優れ,騒音が少ないのが特長。順調に取付けが進みほっとしています。将来は外装だけでなく他の工事にも転用したいです」と吉川次長は意気込みを語る。現場で “ダッコちゃんクレーン”と呼ばれる通り,躯体の鉄骨にしがみつくように据え付けられた。このクレーンを6台使用し,1日2班で70ユニット程度を設置することが可能だ。
「効率的に施工するために,検討に多くの時間を費やしました。手戻りなく図面通りに外装ができていくのが嬉しい」と松崎工事課長は話した。
6月2日,上棟式の日を無事に迎えた。現在,2012年4月の竣工を目指し,設備機械の設置や内装・外構工事が行われている。工事完了の暁には,携わったすべての人が集い,東新宿のランドマーク誕生を祝うだろう。
現在,社員・作業員など約1,300人が働き,最盛期には2,000人近くになる予定です。全員参加の朝礼では,毎日必ず当日の注意事項を伝えています。また,朝礼後の巡回では,作業する人たちにできるだけ声を掛けています。まず安全を守るのが最大の役目だからです。
広い敷地で様々な工事が進む現場は,私が出席できる会議以外に15以上の分科会があり,各担当課長が運営し,重要な討議をしています。議事録を作成する専任担当者を2人配置し,分科会に出席させ全ての議事録を作成しています。各分科会の議事録に目を通し,問題点を早期に把握し,各担当社員に瞬時に助言をするとともに,必要な対策を取ることで,問題の発生を未然に防ぐように努めています。
今まで携わった現場でずっと「誰にも信頼される良い建物を安全に力を合わせてみんなで作ろう」という所長方針を打ち出しています。個人の能力には限りがありますが,所員・作業員が一体となることで,お客様に信頼される特注品の建物ができます。完成時にはみんなが良かったと思える現場にしたいと思います。
完成すると約1万5,000㎡の広大な緑と水と賑わいのオープンスペースが誕生する。その空間と地下で連続するサンクンガーデン。東新宿駅に直結するこの地区のメインアプローチで,商業施設が軒を並べる。3次元曲面を多用したデザインだ。
「サンクンガーデンは,天井と柱が波打つように“うねうね”していて,直線部分がない。どのように施工するか,事前に十分な検討が必要でした」と話す松谷英輝工事課長。着工2ヵ月前から施工計画を始めた。設計段階では曲面部材が構造体だったが,設計者と話し合って構造を変更し,工期短縮を図った。
設計意図を具現化するため,2次元の設計図を3D-CADに落とし込んで,構造躯体や内外装との接合方法などを検証。「施工精度を上げるために,等高線の地図を描くように,一つひとつの点を手作業で入力しました」と松谷工事課長は振り返る。
“うねうね”のベースは, 3次元曲面の立体トラス式配筋。そこにメッシュ金網の下地を貼り,モルタルを吹き付けて仕上げる。ひび割れを抑制するため,ガラス繊維で補強されたモルタルを採用し,滑らかな表面にするだけでなく,仕上げ材の付着強度を高めて剥落を防止する。「技術研究所の協力のもと,50年経過した状況を人工的につくり,経年劣化の状況も確認しています」と松谷工事課長。実物大のモックアップを製作し「施工前の検討で,デザイン性,品質,安全性の全てに自信を持っています」。