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KAJIMAダイジェスト

次世代ハウジング

人々の生活の中心であり,心身ともに安らげる場所――。それが住宅だ。
当社は,時代の要請に応じながら住まう人の満足を求め,様々な技術の研究開発を行ってきた。
そして現在めざすのは,これまで取り組んできた安全・安心・快適の追求や環境負荷低減に加え,
注目されているLCPの概念を加えた構想「鹿島次世代ハウジング」である。

LCP

東日本大震災では,建物の構造に被害がない場合でも,停電や断水が原因で生活を継続できない例がみられた。LCP(Life Continuity Performance:住宅生活維持性能)は,災害時における設備的なバックアップ機能などを住宅に持たせることで生活を継続していくというもの。2012年1月に東京都が「東京都LCP住宅情報登録・閲覧制度に係る基本方針」で防災対応の強化を打ち出すなど,その概念は広がりをみせている。

LCPには,耐震性能とライフラインのバックアップ機能が有効になるのはもちろん,環境負荷の低減も効果がある。太陽光発電に代表される自然エネルギーは,災害時にも電力を供給し,高い省エネ性能は少ないエネルギーで建物機能の維持を可能とするためだ。当社では,様々な角度からLCP向上の検討を行っている。

図:LCP

Chapter 1 LCP

ザ・パークハウス新宿タワー

LCPの観点から高い評価を受けているのが,2012年3月に完成した「ザ・パークハウス新宿タワー」(東京都新宿区)だ。1.4haの敷地に各種商業施設とオフィスが入る「新宿フロントタワー」との一体整備で行われた東京都の第二種市街地再開発事業で,当社は設計・施工を担当。20階建て・高さ約70mの超高層マンションに免震構造を採用している。採用にあたっては,地盤や塔状比などを綿密に検討した。

商業・オフィス棟との複合再開発事業であるため,この計画には地域一体型の防災対策が求められた。そのひとつが街区全体で整備した約4,700m2の防災広場だ。緑あふれる広場には,石づくりの丸ベンチが置かれ,人々の憩いの場になっているが,災害時には一時避難・集合場所になる。座板を外せばかまどに使用できる「かまどベンチ」を備え,断水して水洗トイレが使用できなくなった際には,仮設トイレが設置できる屋外排水管直結のマンホールを配置している。

写真:ザ・パークハウス新宿タワー

ザ・パークハウス新宿タワー。東京都の再開発事業。
発注者:三菱地所レジデンス,平和不動産/設計:当社建築設計本部/
規模:RC造(免震構造)B1,20F,PH1F,延べ29,967m2/住戸数298戸

ザ・パークハウス新宿タワーのLCP例

住宅のバックアップ体制

住宅のバックアップ機能として特徴的なのが,共用部に電気を供給する72時間稼働可能な自家用発電機。この自家用発電機は,災害時に消火ポンプや非常用エレベータへ優先的に電気を供給するが,火災時以外であれば保安用として運転することも可能だ。全台数のエレベータや中央管理室の照明コンセント,給排水ポンプ,共用部の保安照明などから供給対象を任意で選択して利用できる。加えて屋上には,出力14kWの太陽光発電パネルを設置して共用部の電源としている。これも停電時には自立運転に切り替えて単独で使用できる。

断水にも強い。上記のように,停電時には自家用発電機で給水ポンプを稼働でき,発電機の燃料が切れた場合でも受水槽に取り付けられた取水栓から直接取水することができる。また,地震時に給水配管が破断して受水槽の貯留水が流出しないように,大きな地震を感知すると自動で遮断弁が作動する。遮断弁作動後は公共給水本管と下水本管の復旧状況に応じて,各住戸に送水するかどうかを決められるようになっている。

こうしたバックアップ設備を多数搭載したマンションは,現在ではまだ少なく,今後のモデルケースとなる。

写真:街区全体で整備された防災広場

街区全体で整備された防災広場

写真:高さ約70mの超高層タワー屋上に据え付けた太陽光パネル

高さ約70mの超高層タワー屋上に据え付けた太陽光パネル

写真:地下9m以深に設置された免震装置

地下9m以深に設置された免震装置。地盤や塔状比など様々な条件を総合的に判断して構造形式を決定した

Chapter 2 エコ・デザイン

住まいの環境負荷低減

環境負荷の低減は,低炭素社会実現に向けた課題であるが,住宅では居住性をいかに保ちながら適用するかが鍵になる。当社はこれまで,ハウジングにおける環境配慮設計や環境シミュレーションツールの技術開発を行ってきた。タワーマンションでは,居住空間の自由度を高めるとともに吹抜けにより自然光や通風を確保。南面企画を多くしながら,バルコニー・庇などの日射遮蔽効果を利用して空調負荷を軽減する。快適な居住空間でありながら,省エネルギー型の生活を提供する環境配慮設計である。

また,太陽光発電などの自然エネルギーは災害時にも電力を供給し,建物の省エネ性能が高ければ,同じエネルギー量でより長く生活を続けることができる。環境配慮設計は,LCPを考える際にも欠かせない。

図:[左]光環境シミュレーション、[右]VENT(気流シミュレーション)

図:KaUCES(鹿島都市気候評価システム)によるプライベートガーデンの風・熱環境評価

吹抜けの自然光と自然換気を利用する

2011年にオープンしたグランドミッドタワーズ大宮(さいたま市大宮区)では,共用廊下に接する外形約21m角・深さ約100mの吹抜けが住戸の2面採光と2面通風を可能にし,居住性を高めている。吹抜けには熱がこもりやすいため,2階駐輪場に約30m2の開口を設けて換気能力を高めた。

注目すべきは,吹抜けの底部まで自然光が届いているところだ。中廊下式のマンションでは,停電すれば窓がないところは昼間でも明かりを得ることができない。吹抜けを採用することで,災害時にも自然光がそのまま明かりとなる。竣工後の検証では,手摺や壁面の素材選定と色彩計画などの細かな検討の積み重ねにより,吹抜け内部の反射率が向上し,当初上空から届くと予想された光の量のおよそ2倍の明るさを実現することができた。共用廊下の照明系統の見直しを行い,点灯時間を軽減することが可能となっている。

こうした設計には,技術研究所の開発技術が欠かせない。光環境シミュレーションで季節・時刻ごとの照度を検証したほか,換気シミュレーションでは温熱効果を算出,プライベートガーデンの周辺風環境と温熱環境改善効果も確認した。検証結果は,環境配慮設計に生かされている。

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写真:グランドミッドタワーズ大宮

グランドミッドタワーズ大宮 
発注者:近鉄不動産,
当社開発事業本部,小田急不動産/
設計:当社建築設計本部/
規模:RC造,B1,30F,PH2F,
延べ99,992m2/住戸数941戸

写真:吹抜け内部。自然光が届いていることがわかる

吹抜け内部。自然光が届いていることがわかる

写真:約3,200m2の住民専用のプライベートガーデン

約3,200m2の住民専用のプライベートガーデン

Chapter 3 フリープラン

最適な構造の選択

LCPを考える際の大前提は,構造に十分な耐震性能が備わっていること。加えて,商品企画に合わせた最適な構造を採用することで,居住空間への制約の開放による居住性の向上や設備更新性の拡充による建物の長寿命化を図ることができる。

地盤条件や建築物の形状によっても適切な構造が異なってくる。例えば,免震構造は揺れ自体を低減させるが,塔状比が大きなタワーマンションに免震構造を採用する場合は,建物に引抜き力が働くため対策を講じる必要が出てくる。また,軟弱な地盤では共振を起こす可能性もあり,十分な検証が必要になる。

写真:商品企画に合わせた構造が快適な居住空間を創出

商品企画に合わせた構造が快適な居住空間を創出

写真:桜プレイス

桜プレイス 
発注者:当社開発事業本部/
設計:当社建築設計本部/
規模:RC造(免震構造) B1,13F 
延べ15,523m2/住戸数149戸

写真:木場レジデンス(イメージ)

木場レジデンス(イメージ) 
発注者:住友商事,当社開発事業本部/
設計:当社建築設計本部/
規模:RC造 7F 延べ6,812m2/住戸数77

HIスマートウォール

「桜プレイス」(東京都豊島区)は,13階建ての高層マンション。強固な支持地盤が浅い位置にあり,杭を打たない直接基礎で建設されている。ここでは,当社開発技術の壁式免震構造「HIスマートウォール」を採用した。

この構造は,壁式免震構造にコアウォールを組み合わせた構造形式。従来,壁と床だけで成り立つ壁式構造は低層のみで使用されていたが,壁式免震では免震装置による地震力の低減で高層化を果たし,それに加えてコアウォールで耐震性を向上させている。

室内に柱や梁がなく,プランの自由度が向上し,居住性を大きく高めることができる。また,2.5mのフルハイトサッシュを採用したことで,開放感あふれるくつろぎの住まいを創造した。

図:壁式免震構造「HIスマートウォール」の概念図

スマートウォールラーメン構法

一方で,7階建ての中層マンション「木場レジデンス」(東京都江東区)で採用された「スマートウォールラーメン構法」は,中高層ハウジング用の構造として開発された当社の新構法である。

この構法は,免震・制震装置に頼らず,高強度材料を採用することで,建物の安全性を高めているのが特徴。桁行方向には,超高層建築で使用される“Fc60”の高強度コンクリートを使い,梁間方向の耐震壁と組み合わせることで高い耐震性能を得ている。桁行方向の構面を中央部に集約することで,構造体への設備貫通をなくした自由な居室利用を可能とする。この構法も居室開口部まわりに柱・梁がなく,フルハイトサッシュを適用できるため,自然光を充分に採り入れる開放的かつ健康的な住宅を実現する。

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図:スマートウォールラーメン構法

「スマートウォールラーメン構法」は中高層ハウジング用の構造免震・制震装置に頼らず,高強度材料を使用して耐震性能を得る。桁行方向の高強度コンクリートと梁間方向の耐震壁との組合わせで高い耐震性能を得ている

これからのハウジングへの想い

写真:赤対清吾郎 統括グループリーダー

建築設計本部
建築設計統括グループ
ハウジング統括
赤対清吾郎 統括グループリーダー

東日本大震災を経て,災害に強い住宅が望まれています。人々が生活する場ですから, 安全・安心な住宅を望まれるのは当然で,むしろ住宅づくりの「原点にかえる」ことと言えるでしょう。

以前から超高層ハウジングにおける免震構造の検討要望はありましたが,震災後に一段とそのニーズが高まっています。私共は, これまでと同様に地盤状況や建物形状,風の影響などを総合的に検討し,免震構造に限らずその計画に最適な構法を提案していきたいと考えています。

一方で,人々が集まる「場」の重要性も指摘されています。今回の震災時には停電や情報不足が住民の不安を増幅させましたが,その時機能したのが普段居住者が利用するパブリックスペースでした。LCPを意識した共用部のあり方について, 様々な角度から検討を進め, 住まいの安心に繋げたいと考えています。

2009年にも市場動向や居住施設への取組みについて様々な議論が行われました。行き着いたのは,やはり「原点にかえる」ことでした。住まわれる方々が何を求め,いかに満足いただけるかという顧客本位の姿勢に立った取組みが必要で,多様なニーズに応えるため,当社が1990年代初頭より進めてきた「フリープランハウジング」への取組みや, 住まいとしての基本性能の高さ,環境負荷低減への取組みの重要性を再認識しています。これら継続的な開発成果を生かし, 統合した最新プロジェクトが動き出しました。今後は,高齢化やエネルギー課題などのニーズが一層多様化するでしょう。また, 数街区にまたがり, 災害に強い街づくりが求められてきます。引き続き様々なニーズに応える住宅の開発に取り組みます。

かつてプロジェクトをご一緒させて頂いた事業担当者から「設計スタート時点, 鹿島さんはやりにくかった」と言われたことがあります。「鹿島さんは次々に新たな提案を厭わず, 判断に迷ってしまった」と言われるのです。しかし,完成した建築・出来栄えに「あの時の提案,こだわりに納得行きました。是非,また一緒にやりましょう」とのお言葉も頂いています。事業者も設計者も施工者も,住まわれる人々のために,いいものをつくりたいと思う気持ちは一緒です。これからも喜んで頂ける住まいづくり, 街づくりに励みます。

画像:勝どき五丁目地区第一種市街地再開発事業完成予想パース

勝どき五丁目地区第一種市街地再開発事業完成予想パース
3敷地の複数棟・複合再開発事業 実施設計:当社建築設計本部
開発の中心となるタワー棟は,地上53階・地下2階,延約16万m2,総戸数約1,400戸を予定する

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