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主要な建設材料として私たちに身近なコンクリート。
使用目的や用途が多様化する中で,様々なコンクリートが開発されています。
「CO2-SUICOM(スイコム)」はその名の通り,大量の二酸化炭素(CO2)を吸い込むことのできるコンクリート。
開発担当者の皆さんに,この画期的な環境配慮型コンクリートについて解説してもらいましょう。

CO2を吸い込み固まるコンクリート

「CO2-SUICOM」(以下スイコム)とは,「CO2-Storage Under Infrastructure By Concrete Materials」の略称。コンクリートで造ったインフラに,二酸化炭素を貯めてしまおうという発想から名付けた商品名です。当社では地球温暖化防止に向け,構造物のライフサイクルを通じてCO2 削減を積極的に推進しています。しかし,コンクリートについては,その主原料であるセメントの製造時において発生する大量のCO2が大きな課題で,これまで革新的な削減手段がない状況でした。この難題を解決してくれるコンクリートがスイコムなのです。

スイコムは,セメントの半分以上を特殊な混和材や産業副産物などに置き換えることで,セメント製造時に排出されるCO2を大幅に削減します。また,この混和材はCO2と反応することでCO2を吸収し,固まる性質を持っています。この特殊な混和材を用いたコンクリートを,高濃度のCO2環境下で養生(炭酸化養生)を行うことにより,大量のCO2を吸収させることを可能にしました。結果,コンクリート製造時におけるCO2排出量を実質ゼロ以下にすることに世界で初めて成功しました。

スイコムは,中国電力,電気化学工業と当社の共同研究によって誕生したコンクリートです。日本におけるCO2排出量の約3割を電気事業が占める中,大量の安定したCO2の供給源として,火力発電所の排ガスに着目しました。スイコム第一号は,石炭火力発電所である中国電力・三隅発電所の排ガスを使用。さらに,副産物として出る石炭の燃えかす(石炭灰)も,特殊混和材と一緒にセメントの代替材料とし,産業副産物の有効利用につなげました。この製品は,中国電力 福山太陽光発電所の舗装ブロックやフェンス基礎などに使用しています。

「低炭素化社会への実現に貢献したい」という同じ目標を持った共同研究パートナーとの出会いが,スイコムを成功へと導きました。

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古代コンクリートから授かった知恵

スイコムの特徴である「炭酸化」を利用するアイデアの原点は,古代コンクリートに端を発します。1980年代に,中国の「大地湾遺跡」(西安市)で,約5,000年前のコンクリート構造物が発掘されました。その耐久性の鍵が炭酸化であることが,近年の調査で解明されたのです。

古代コンクリートの主原料は現代のものとは異なり,火山灰や石灰が使われていました。長きにわたり自然界のCO2と化学反応を続けた結果,古代コンクリートの表面が大理石のように緻密になり,水などによる浸食を防ぎ,驚くべき耐久性へとつながった,最古の土木技術のひとつと言えるでしょう。

スイコムの特殊混和材には,古代コンクリートの原料とよく似た消石灰を使っています。この消石灰もまた,セメント工場から発生する産業副産物なのです。

土木・建築の垣根を越えた技術へ

土木の技術としてスタートしたスイコムですが,このたび「中野セントラルパーク レジデンス」において,プレキャストコンクリート型枠(PCF)として,バルコニー天井部の建築工事に初適用しました。生活に密接する部材なので,これまでの舗装ブロックのような外構材料に必要なコンクリート強度18N/mm2を大きく上回るものが必要とされました。強度が高いほどコンクリートは緻密となるので,CO2が内部まで入り難くなり炭酸化が進まなくなります。そこで,調合から検討し,炭酸化養生の最適な条件(温度・湿度・CO2濃度・養生期間)の制御を行うことにより,50N/mm2の強度を実現しつつ,炭酸化も進めることに成功しました。また,意匠性の観点からも,建物のモジュールに合わせて目地の入らない大型パネル(3,985mm×1,305mm×40mm)の製作が可能となりました。

土木・建築の垣根を越え,スイコムの適用範囲の可能性が大きく広がりました。

CO2-SUICOM適用例…土木

図:中国電力 福山太陽光発電所(広島県福山市)

中国電力 福山太陽光発電所(広島県福山市)

写真:境界ブロック

境界ブロック

写真:フェンス基礎ブロック

フェンス基礎ブロック

写真:舗装ブロック

舗装ブロック

CO2-SUICOM適用例…建築

図:「中野セントラルパーク レジデンス」完成予想パース(東京都中野区)

「中野セントラルパーク レジデンス」完成予想パース(東京都中野区)

写真:PCF

PCF

写真:取付状況

取付状況

写真:バルコニー天井部

バルコニー天井部

真に環境にやさしい建設材料を目指して

建設業にいだかれる“自然破壊”のイメージを払拭できるようなコンクリートを生み出すことが,私たち開発メンバーの目標でした。「従来比,CO2 ○○%減!」と謳っている,いわゆる省エネ製品や低炭素製品は世の中にたくさんありますが,そういう製品であっても多少なりとはCO2を排出しています。

このスイコムは,それらの製品とは異なり,人の暮らしに役立つ「建造物」を造りつつ, CO2を削減できる画期的なコンクリートです。例えて言うなら,地球に木を植えていくように,そんな真に環境にやさしいコンクリート構造物をつくることが可能になります。

今後,さらに研究を進めて,国内外問わず広くスイコムが使われるようになれば,世界のCO2削減,地球温暖化抑制に大きく貢献できると信じています。建設業に携わる技術者として,スイコムで社会貢献を行うことが,我々の大きな夢です。

写真:左から技術研究所・土木材料グループ 取違(とりちがい)剛研究員・横関康祐上席研究員,建築生産グループ 笠井浩上席研究員・巴(ともえ)史郎主任研究員

左から技術研究所・土木材料グループ 取違(とりちがい)剛研究員・横関康祐上席研究員,建築生産グループ 笠井浩上席研究員・巴(ともえ)史郎主任研究員

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