ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2022:特集 A4CSEL×進化×深化 > 活用領域の拡大

活用領域の拡大

A4CSELの活用領域はダムだけに留まらない。
災害現場における国内初のA4CSELの導入や山岳トンネル工事の自動化に向けた
実証実験専用のトンネル施工,月面での有人拠点施設の建設への応用検討など適用現場の拡張への試み,
さらにはそれら稼動現場を一括管制。進化と深化を続けるA4CSELの展開を紹介する。

災害現場

現場への立入りが制限される災害現場-川原樋川赤谷(かわらびがわあかだに)地区「赤谷3号砂防堰堤工事(奈良県五條市)」にA4CSELが適用された。

地図

遡ること2011年9月,台風12号は近畿地方を中心に記録的な大雨をもたらし,浸水・河川氾濫,土砂災害など甚大な被害を引き起こした。当工事は,その台風により発生した大規模な河道閉塞部の安定化を図るため,「河道閉塞部の侵食防止」と「崩壊地,削られた地表面からの土砂流出の抑制」を目的とした基幹砂防堰堤の構築である。特筆すべき点は,台風や豪雨による度重なる越流の影響だけでなく,2011年の深層崩壊以降,3回も斜面崩壊を繰り返している過酷な条件下にあるということだ。現在施工中の3号砂防堰堤は,崩壊斜面直下に位置し,出水期(6月15日~10月31日)になると崩壊斜面と河道閉塞部の周辺は立入り規制区域が設定される。斜面再崩壊に対する安全性確保と施工の効率化の両立が最も求められるエリアとなる。まさに当社開発のA4CSELの技術を活かすべき施工条件だ。これまで無人化遠隔操作での施工を試みてきたが,オペレータがモニターを確認しながらの操作となり,熟練したオペレータでも,通常の有人施工と比較して,70%程度に効率が低下することが課題であった。今回,A4CSELを活用し,砂防堰堤本体ソイルセメントの敷均しや転圧作業を自動化することで,遠隔操作の課題であった施工効率の低下を大幅に解消。自動化されたブルドーザ,振動ローラで施工を行い,狭隘な中での重機輻輳による遅延を防止し,所定の精度と安全性の確保はもちろん,計画工程通りの短工期での施工を達成した。

現場を統括する江口健治所長は,「A4CSELは建設技能者の減少が進む昨今の建設業界において,従来の工事現場の進め方を大きく変革させる技術であると実感しました。将来的には,A4CSELの思想や技術は,ダムや赤谷のような特殊な施工条件下だけでなく,すべての工種に実適用され,建設DXによる建設業そのものを変革させるポテンシャルを持っていると確信しています」とA4CSELに大きな手ごたえを感じている。

図版:赤谷地区対策工事全体概要。崩壊斜面からの土砂で河道が閉塞した

赤谷地区対策工事全体概要。崩壊斜面からの土砂で河道が閉塞した

改ページ

A4CSEL for Tunnel

山岳トンネル工事の安全性・生産性・施工品質の飛躍的な向上を目指す「A4CSEL for Tunnel」。山岳トンネル工事の切羽周辺作業の自動化を実現するため,その実証実験専用のトンネル工事が2021年10月に開始された。

図版:試験坑道坑口の様子

試験坑道坑口の様子

当社は2018年11月に模擬トンネル(静岡県富士市)を試験フィールドとして開設し,山岳トンネル掘削での一連の作業である①穿孔②装薬・発破③ずり出し④アタリ取り⑤吹付け⑥ロックボルト打設を自動化するため,それぞれの作業機械の開発とその自動化を進めてきた。作業の自動化とともに山岳トンネル工事の生産性向上の鍵となる「余掘りのない発破掘削」を実現するためには,岩盤性状に適合した穿孔と発破が必要となる。この実証は実工事と同じ環境でしか行えない。

そこで当社は神岡鉱業協力のもと,同社が所有する鉱山(岐阜県飛騨市神岡町)を実際に掘削し,当社が開発した効率的穿孔・発破技術を検証する業界初の試みに挑戦している。また,自動化した施工機械を実現場で実験することで,施工環境の不確定要素に対応した合理的な施工システムの実現を目指す。

図版
改ページ

A4CSEL for Space

2021年11月,国土交通省が主管する「宇宙無人建設革新技術開発推進事業」で民間企業に委託する10件(F/S:8件,R&D:2件)の取組みが発表され,当社のA4CSELを活用する「建設環境に適応する自律遠隔施工技術の開発」が5年間の研究期間が与えられるR&D課題として採択された。

※F/S: Feasibility Study

当事業は,国の建設事業の高度化を実現し,近い将来の月面など宇宙開発における建設活動へ展開することを目指すもの。当社は,事前実験ができない月面での自動運転と遠隔運転による遠隔施工を実現するため,仮想空間上で再現可能なシミュレーション・プラットフォームを開発する予定だ。

本誌1月号の特集「2022年,鹿島と宇宙と」でも掲載のとおり,JAXAと当社は2016年に開始した共同研究から,現在に至るまで,月面の有人探査拠点施設建設の実現を目指す研究を続けている。今回,国土交通省の事業に採択されたことで,A4CSELが宇宙で活躍する日がまた一歩近づいたと言えるだろう。

図版:月での無人による有人拠点建設作業イメージ

月での無人による有人拠点建設作業イメージ

改ページ

遠隔集中管制システム

A4CSELの挑戦は止まらない。A4CSELを導入している国内の複数現場に配置されている自動化建設機械を1ヵ所から集中的に管制して,自動化施工を同時に実施する「遠隔集中管制システム」を開発し,昨年10月にその実証実験を公開した。今回は,成瀬ダム堤体打設工事(秋田県),赤谷3号砂防堰堤工事(奈良県),西湘実験フィールド(神奈川県)の3ヵ所と,鹿島本社ビル(東京都)に設けた集中管制室とを公衆回線で結び実施した。3現場のA4CSEL管制システムを集中管制室に配置し,各現場の作業状況をモニターで確認しながら同時に20台の建設機械の自動運転および遠隔運転での作業を4名の管制員で一括して円滑に実施することができた。

A4CSELによる現場毎の生産性,安全性の向上を複数現場へ拡張するこの遠隔集中管制システムは,究極の建設生産システムのあるべき一つの姿を示している。

図版

ContentsMarch 2022

ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2022:特集 A4CSEL×進化×深化 > 活用領域の拡大

ページの先頭へ