ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2022:特集 A4CSEL×進化×深化 > 座談会 A4CSELへの期待

座談会 A4CSELへの期待

今,人類が考えうる最後のフロンティア,「宇宙」での有人拠点施設建設へ向けて――
当社が誇る自動運転を核とした次世代建設生産システムA4CSELへの期待を,
JAXAと当社の共同研究メンバーが語る。

写真

合致したスキームとタイミング

若林

A4CSELに出会った時,直感しました。もし,宇宙に適用していただいたらすごい発展に繋がっていくだろうと。私は,宇宙にある人工衛星に乗せたロボットを地上から遠隔操作する実験をしていましたが,すべての作業を人が遠隔操作するのは効率が悪いと思っていました。月という未知の自然環境ではなおさらです。定型作業や部分的な作業を自動化し,遠隔操作を効率化させることが絶対に必要だと考えている時にA4CSELの存在を知り,自動化への道が切り拓けると思いました。

星野

JAXAが進める宇宙開発のための技術開発には課題がありました。宇宙のための技術は他で売れず,実現まで多くの投資を続けなければならなかったり,完成した頃には技術が古くなっていたり…。それをなんとか解消できないかと宇宙探査イノベーションハブ(以下,探査ハブ)制度が2015年にできました。月や火星の探査は地表での活動が中心で,無重力空間で活動するのとは違います。民間企業が行っている地球での開発技術が月でも活用でき,その延長線上で私たちと共同研究ができる企業はないかと考えていた時,そんなスキームにA4CSELはぴったり合致したんです。

※様々な異分野の人材・知識を集めた組織を構築し,新しい体制や取組みでJAXA全体に宇宙探査に係る研究の展開や定着を目指す制度

写真
浜本

探査ハブが始まった時期に,私たちはブルドーザでのまき出しと2台の振動ローラでの転圧の自動化を五ケ山ダムの現場で実現して,A4CSELとの名称で2015年5月にプレスリリースをしました。それが星野さんたちのタイミングと合ったんですよね。

互いに活かされる共同研究

浜本

お声がけがあった時,A4CSELの技術は月面建設への親和性は高いと思いましたし,また宇宙でのハードプロジェクトで求められるタスク管理手法などの技術を共有したいとも考えました。さらに地上で積み上げた実績や成果が,月面での自動化施工実現の種になると思いますので,「地上から月へ」とすべて繋がっていくと考えて取り組んでいます。

三浦

私にとって宇宙開発というと人工衛星をはじめとした「宇宙に行く」ことで,現実だけれども非現実の世界でした。特に土木とは無縁の世界。そこにJAXAさんとの共同活動が始まりました。「地上でできないことは月ではできない」と,月面探査拠点の自動化施工の模擬実験を成功させたことで,大げさかもしれませんが,土木と宇宙がリアリティを持って結ばれたと思っています。土木,建築だけではなく,AI,IoT,ロボットをやっている人たちにも鹿島は先進的な会社だと思ってもらえたのではないかと。地上の建設技術の発展が先決で,その先に月面での施工があるという意識は変わりませんが,遠くない時期に月面建設がA4CSELで行われるかもしれないと思うとワクワクします。まさに,「次の現場は,宇宙です。」

写真
星野

それにしても2019年3月に共同研究の成果をプレスリリースした時の反響には驚きましたね。イギリス・ロシア・イランなど海外の新聞でも鹿島さんとJAXAが月面拠点建設と取り上げられたんですよね。ロシアの新聞には鹿島西湘実験フィールドの写真も載りました。ここまでの反響は想定外でした。

浜本

月面建設では,人が行けない,通信遅れもある月面において,自動化施工と遠隔施工をいかに融合していくかが重要で,2019年に当社の西湘実験フィールドで実証した模擬モジュール施工で,そのことを具体的に示せたことは大きな意義がありました。通信遅れによる遠隔操作の不自由さを自動化で埋めていく方法は今後も重要な課題と考えています。

三浦

その通信遅延にも対応した自動運転と遠隔運転の連携を検討していた時,図らずも,当社がJAXA種子島宇宙センターの造成工事を担当し自動化建機を導入していました。ここを月と見立て,約1,000km離れたJAXA相模原キャンパスから作業を管制する超遠隔施工を実現場で実証できたのは,月面建設実現への大きなステップアップだと思います。

星野

そうですね,種子島で鹿島さんが工事をしていたのも巡り合わせだと思いますし,私たちとしては,実験するための土地探しに非常に苦慮していたので鹿島西湘実験フィールドを用意してもらえた時は本当に助かりました。JAXAの建機を持ち込み,試験させてもらったのもとても感謝しています。

若林

当時私たちは建設のことはわかっていないことが多く,重機の仕組みや操縦方法などを学ぶためにまず重機の免許を取りました。今では鹿島さんの広告のポーズを取れるくらいの腕前になりました。
JAXAで初めて油圧ショベルを購入し,実験で自ら運転しています。

写真

国土交通省の採択を受けて

三浦

昨年11月に国土交通省の宇宙無人建設革新技術開発推進事業に採択されました。地上でも月面でも自動化施工を実現するために最も重要な事項は現場条件に合致した運転方法を見出すことですが,月では現地試験ができない。このため月面での動作を再現するシミュレーション技術を提案しました。ただ,シミュレーションで100%再現することはできないので実作業しながら自己調整するような自律化も進めなければと思っています。

若林

地球での試験と月面での動作の相違をいかにチューニングするかが最も重要で難しいのです。事前に行って調べておくことができないという実状を含めて,共通理解を持つ方々と組ませていただいているのは非常にありがたいことです。

浜本

この事業では,さまざまな企業や大学が参画できるプラットフォームのベースもつくりたいと思っています。研究開発の中で,鹿島が地上の施工に役立つ自動化技術を深めていくだけに留まらず,日本の建設業や宇宙開発の発展を技術的にリードしていく役割を果たしたいと思っています。

写真
星野

宇宙を事業としている企業でなくても,宇宙で使える技術を提供してくれる企業は多いと思います。そういった方々も含め,広い枠組みで活動の中核に鹿島さんがなってくれると嬉しいですね。

目指すはシームレスな社会

若林

宇宙に関わる仕事をしたい場合にJAXAを思い浮かべてくださる人は多いと思いますが,これからはどんな企業でも宇宙との接点を持つようになり,「自分の業務の一部が月です」と多くの人が言える時代が来ると思います。ご自身の業務のすべてが地球だけでなく,宇宙の重力のある星にも繋がっていると考えてほしいですね。

星野

国土交通省が始めた宇宙の技術開発推進事業は,建設というテリトリーの中で地球と宇宙の区別がなくなってきたことを示す第一歩だと思います。もし,学生さんに宇宙関連の仕事に就くためには何を学んだらいいかと聞かれたら「なんでもいい」と答えます。どの分野でもスペシャリストになることが宇宙での活躍に繋がっていきます。工事において私が目指している理想像があるんです。重機のオペレータがダムでも月でも現場を問わず同じように施工できるシームレスな社会になってほしいと考えています。最近,鹿島さんが実施した遠隔集中管制システムによる複数現場の一括管制先の一つが月でもいいですよね。鹿島さんと共同研究していく中で,近い将来実現可能ではないかと感じています。

若林

月は荒れ地があるだけなので,最初の仕事は土木工事だと思っています。JAXAは将来のシナリオを描くことも仕事ですが,技術的な裏付けがないと説得力がありません。そんな中でA4CSELは,とてもインパクトのある技術です。ここまできたら乗り掛かった船,月面での活躍を一緒に実現させましょう。

photo: takuya omura

星野 健
JAXA 国際宇宙探査センター
月極域探査機プリプロジェクトチーム副チーム長。
1994年4月にJAXA前身の航空宇宙技術研究所に入所,2016年よりJAXA宇宙探査イノベーションハブにて
地産地消技術の研究リーダーを務める。2020年1月より現職。

若林 幸子
JAXA 国際宇宙探査センター
月極域探査機プリプロジェクトチーム技術領域主幹。
遠隔操作とテラメカニックスを専門分野とし,月面ローバを担当。
前職のJAXA宇宙探査イノベーションハブにて月面有人拠点建設をテーマに自動・自律型探査技術の取りまとめを担当。

ContentsMarch 2022

ホーム > KAJIMAダイジェスト > March 2022:特集 A4CSEL×進化×深化 > 座談会 A4CSELへの期待

ページの先頭へ