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仮囲いの内外から見せる現場づくり

藤沢市新市庁舎建設工事

神奈川県藤沢市の中心部で新市庁舎を建設する工事が進行中だ。
公共工事という側面を活かし,多くの人々を現場見学会に招き入れるとともに,
社員が積極的に地元の市民とコミュニケーションを取ることで,
地域に根差した現場づくりを心掛けている。

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【工事概要】

藤沢市新市庁舎建設工事

場所:
神奈川県藤沢市
発注者:
藤沢市
設計:
梓設計
規模:
RC造(免震構造)B1,10F,PH1F 延べ35,435m2
工期:
2015年10月~2017年12月

(横浜支店JV施工)

図版:地図

図版:完成予想パース

完成予想パース

図版:建物断面図

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市民を受け入れ市民に受け入れられる

神奈川県の中央南部に位置し,サーフィンやビーチバレーなどマリンスポーツが盛んな湘南海岸に面した藤沢市は,人口約42万人の県下第4の都市だ。全国的にも有名な江ノ島には,1964年の東京五輪の際,ヨットの競技会場として整備された湘南港がある。3年後に開催される2020年東京五輪では,セーリングの競技会場に選ばれ,あらためて地元の期待が高まっている。

藤沢市の中心地は,JR東海道線や小田急線,江ノ電が乗り入れるターミナル藤沢駅だ。JRを使った場合,東京駅からの所要時間は約45分。平日は東京や横浜への通勤客,休日は湘南海岸や江ノ電沿線の観光地を訪れる行楽客でにぎわう。

この駅から徒歩5分ほどの場所で当社JVは,2015年10月から同市の新市庁舎の新築工事を進めている。施工するのは,RC造,地上10階,地下1階建ての免震構造の建物。老朽化や耐震面の課題があった旧庁舎の跡地1万6,291m2に建設する。完成後は,駅周辺に分散している市役所の機能を新庁舎に集約する計画だ。

「現場周辺には,行政機関や住宅街もあり,駅との間を行き来する人通りの多い場所です。施工ヤードは狭くなりますが,敷地内に元々あった歩行者用通路は残しました」と話す横溝正総合所長。入札時の技術提案を作成する段階から,地元への貢献を念頭にプロジェクトを進めてきた。歩行者用通路には,落下物を防ぐために屋根を設けた。

また,通路に面した仮囲いには,工事の進捗などの情報と併せて,はつらつとした作業員たちの働く姿をとらえた写真を大きく引き伸ばして展示することで,工事現場の魅力の発信にも努めている。

写真:横溝正総合所長

横溝正総合所長

技術提案では,外部からの現場見学者を積極的に受け入れることも掲げた。これまでに周辺自治体の技術系職員や大学生,高校生などを招いてきた。一回当たりの参加者は,多い時には120名にものぼる。横溝総合所長も経験したことがない頻度だという。一般の方々に現場を知ってもらうことで,現場社員の励みにもつながっていると,横溝総合所長は見る。

また,地域とのコミュニケーションに意欲的に取り組んでいる。その旗振り役を担うのが,松岡忠義所長だ。「仮囲いの外から見て通じる常識を持て」という押味至一社長の教えをこの現場に引き継ごうと思案している。2003年当時,直属の現場所長だった押味社長のもとで,いわゆる「押味イズム」を叩き込まれた。

「現場の中だけで物事を考えていても,社会には通用しません。特に地域の方とは,工事説明会だけではなく,日常的に顔を合わせてコミュニケーションを取ることが大切です」と,松岡所長は話す。そのきっかけづくりの一つとして,押味社長も現場所長時代に毎日実践していた現場周辺の清掃活動を取り入れた。実際に着工当初,工事用車両が頻繁に出入りすることなどに警戒感を抱いていた近隣の人も,毎朝,JV職員とあいさつを交わすうちに,次第に工事に対する理解を示してくれるようになった。近隣の人が工事に対する意見や要望を気軽に伝えられる雰囲気が,結果として,前向きな関係を築くことにつながった好事例だろう。

写真:松岡忠義所長

松岡忠義所長

写真:清掃の様子

清掃の様子

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写真:藤沢市新市庁舎の工事が進む

藤沢市新市庁舎の工事が進む。このとき,7階の躯体を構築していた(2017年3月)

図版:藤沢市を応援する現場オリジナルのロゴマーク

藤沢市を応援する現場オリジナルのロゴマーク

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現場の主役は「はまかぜ」と「しおかぜ」

工事は年内の竣工に向け,佳境に入ってきた。4月25日時点で,10階部分の躯体を構築中だ。建物の柱や梁には,工場で製作したコンクリート部材を使用するPCa(プレキャスト)工法と,その部材をPC鋼棒とPC鋼線で緊張することで曲げに対する耐力を向上させたPC(プレストレスト・コンクリート)工法を組み合わせた「PCaPC工法」が採用されている。

PCa工法の利点は鉄筋や型枠の組立て,コンクリートの打設といった現場での作業を大幅に減らせることだ。この工事では,建物の躯体自体を1フロア当たり約15日間というサイクルで施工している。また,PC工法によって,視界を遮る要因となる柱を極力減らした空間を確保。最大18mのスパンを柱なしで梁を飛ばした。特に市民向けの窓口が設けられる2階や3階の構造に活かされている。

使用するコンクリート部材は1ピース長さ12.5m,重さ約20tもある。鉄骨造のビルの工事現場と比較しても,部材一つ当たりの重量は桁違いに大きい。ブロックは地上にある作業ヤードから2基のタワークレーンを用いて,組み立てる位置まで吊り上げる。クレーンから最大27.5mの範囲に資機材を運搬できるようにタワークレーンは750t吊りのタイプを採用した。「建築の工事現場で使用するタワークレーンは400〜500t吊りのタイプが主流です。この現場では,それらを上回る規模の大型クレーンが活躍しています」(松岡所長)。

この工事の主役とも言えるタワークレーンを,一般市民にも親しんでもらおうと,現場では,タワークレーンの愛称を募集。21名のJV職員による審査の結果,藤沢市内の小学生が応募した案が採用された。現場の南側で建物の吹き抜けスペースに立つクレーンは「しおかぜ」,北側で建物の壁際に立つものは「はまかぜ」とそれぞれ名付けられた。

2基のタワークレーンの特徴は,吊り上げ能力だけではない。一般的に高層ビルを施工する場合,タワークレーンの支柱と建設中の建物を「ステー」によって連結する。しかし,この現場のクレーンには,ステーがない。建物に支えられることなく,クレーンが地面に自立しているのだ。

松岡所長は次のように説明する。「新市庁舎は免震構造を採用しているので,地震時に建物と地面の揺れ方が異なります。地面に直接立つタワークレーンを建物と連結してしまうと,地震時に建物へダメージを与える恐れがあります」。地面から支柱の一番上に当たる操作室までの高さは最大48m。ステーなしで使用できるほぼ上限の高さであり,自立するタワークレーンとしては,日本最大級の高さを誇る。

写真:「PCaPC工法」によって柱を少なくしたフロア

「PCaPC工法」によって柱を少なくしたフロア

写真:タワークレーン「はまかぜ」とPCaPC工法の柱

タワークレーン「はまかぜ」とPCaPC工法の柱

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現場志望のきっかけは見学会

現場には,2016年度に入社したばかりの社員が2人所属している。広島県出身の奥川はるか工事係と,福岡県出身の白石果渉設備工事係だ。ともに昨年春までは西日本にある大学院や大学で建築を学ぶ学生だった。

「完成したら,両親に見せたいと思っています。初めての現場が,建物内部にも入ることができる市庁舎でよかったです」。施工管理を担当する奥川工事係は,大規模な工事に携われることを誇らしげに話してくれた。配属されてから,間もなく1年が経つ。入社前,現場は大変なところだと漠然と考えていたというが,協力会社の職人たちが親切に様々なことを教えてくれる環境で印象が変わった。

2月に配属されたばかりの白石設備工事係は,現場のいろはを先輩社員から学んでいるところだ。「設備の仕事は,成果を目で確認できる部分が多くありませんが,室内の快適性を左右する重要な仕事だということを意識して取り組んでいます」と意気込む。

写真:奥川はるか工事係

奥川はるか工事係

写真:白石果渉設備工事係

白石果渉設備工事係

2人とも,現場を志望したきっかけは,就職活動中に参加した現場見学会だったという。「現場のことを隅々まで知ってみたいと,興味を持ちました」(奥川工事係),「若手技術者がいきいきとしていて,仕事へのやりがいを感じられました」(白石設備工事係)と,初心をあらためて語ってくれた。

彼女たちが一人前の技術者として認められるようになるのは,まだまだ先のことになるかもしれない。それでも,この現場の見学会に訪れた学生や子どもたちの中に,彼女たちが活躍する姿を見て,建設業を志す人がいることを期待したい。

写真:集合写真

集合写真
写真:大村拓也(column内の写真以外同氏撮影)

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Column 技術の焦点 工法の合わせ技で安全と効率を両立

「約2年間の工程の中でも,前半に施工した地下の掘削作業が一番気を遣いました。現場のすぐ南側がJR東海道線に面しているからです」と,横溝総合所長は振り返る。

建物地下に免震ピットや駐車場を設けるため,2016年1月から半年間かけて,深さ10.5mまで掘削した。最も近い場所で線路から8.6mほどしか離れておらず,掘削中のトラブルは列車の運行に支障をきたす恐れがある。異常をいち早く察知できるように線路に近い長さ約60mの区間では,通常の2倍となる10mおきにセンサーを設置し,地盤の動きを常時計測した。

地下の掘削作業では,地盤を支える山留め壁の変形を防ぐため,切梁支保工やアースアンカー工法が一般的に用いられる。切梁支保工は土留め壁の前面から水平方向に配した鋼材で支える方法だ。ただ,掘削する空間にジャングルジムのように鋼材を組む必要があり,掘削機械は身動きがとりにくく、掘削土を搬出するための動線も限られてしまう。一方,アースアンカーは土留め壁を背面の地盤に打ち付けるようにアンカーを打設するので,掘削の妨げにならない。

「施工性を考慮して,全面的にアースアンカーを採用したかった」(横溝総合所長)。ただし,この現場の場合,アースアンカーは水平距離で最大10m程度打ち込む必要がある。線路に近い場所では線路の直下へアースアンカーを打ち込むことになるので,鉄道会社との協議の結果,一部の範囲で採用を断念した。

2016年3月

写真:切梁を設置せず,地下を掘削していた時の様子

切梁を設置せず,地下を掘削していた時の様子。このときはまだ線路側に土が残っている

2016年4月

写真:切梁を設置し,地下全体を掘削していた時の様子

切梁を設置し,地下全体を掘削していた時の様子

その代わりに,アースアンカーを設けない部分の掘削手順を工夫した。まず切梁支保工を設けない状態で,土留め壁の約18m手前まで掘削。その後,土留め壁が倒れないように切梁支保工を設置し,残りの地盤を掘削した。地盤の変状を確実に抑えつつ,掘削作業の支障となる切梁を設けた状態で掘削する工程を短くすることで,施工性を向上させた。

図版:掘削平面図、JR側断面図

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