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山岳狭小地に大型風車を建設 いちご米沢板谷ECO発電所

図版:いちご米沢板谷ECO発電所

[工事概要]

いちご米沢板谷ECO発電所

場所:
山形県米沢市
発注者:
いちごECOエナジー
規模:
発電出力7.39MW
(2.0MW風車×4基を出力制御)

※一般家庭の年間消費電力量
約8,200世帯分

土木工事一式 基礎設置・風車輸送・
据付・電気設備工事一式
工期:
2018年9月~2021年3月
(東北支店施工)
図版
図版:現場位置図

現場位置図

改ページ

国有林内における風車建設

緑眩しい森林が広がる尾根上の土地に,風車の白いタワーが林立する山形県米沢市板谷。冬季には雪が降り積もるこの山岳地に,今年の3月「いちご米沢板谷ECO発電所」が完成した。いちごECOエナジーは,これまで太陽光発電所を全国に展開してきた再エネ事業者で,風力発電では初の施設となる。当社環境本部は事業性評価や基本計画段階から携わり,東北支店がEPC契約で調査,設計,申請,風車調達,工事を一括して担当,トータル5年の歳月をかけて完成にこぎつけた。

「この風力発電所一帯は,国有林・保安林が広がる土地です。本発電所は当社初の国有林内の事例となりました」。こう話すのは本プロジェクトを率いた環境本部・新エネルギーグループの新海貴史課長だ。これまで公共事業以外では開発が難しかった国有林に対して,東日本大震災後に「再エネ発電の設備に係る国有林野の貸付条件を緩和する」という規制改革が生まれた。そのなかで2015年に本事業計画がスタートした。

※EPC契約 
設計エンジニアリング(Engineering),調達(Procurement),
建設(Construction)を一括したプロジェクトとして請負うこと

写真:新海貴史課長

新海貴史課長

港から山岳地への長距離輸送

2016年には東北支店・環境本部で事前検討の基本計画を行った。風車配置,造成計画,発電量の予測,輸送路調査,送電ルートの設計からコストを算出する一方,事業収入を算定。2017年には実測地形図により,国有林・保安林協議先の要望や許可基準にあわせて,詳細な風車配置と造成計画を検討。風車の基礎設計には,ジャストポイントでの地盤調査(ボーリング)が必須であり,風車位置を確定しておく必要がある。基礎設計の荷重を算出するため,地形を考慮した風速シミュレーションにより設計風速を割り出した。

前例のない事業を進めるにあたり,事業者とともに森林管理署に足繁く通い,事業計画への信頼を築いていった。「1.5mほどの積雪が残る中,境界杭を掘り起こして急きょ現場確認を行ったこともあります」(新海課長)。なんとか事業化させたいという思いが結実した。

懸念されたのが,風車部材が到着する相馬港から福島県をまたぐ90kmもの長距離輸送である。「道路管理者が多岐にわたること,そもそも一晩で運びきれるのか,また計画地付近の山岳部では,トレーラー輸送が難しいため,専用の運搬車両に積み替えて輸送しなければなりません。その二次輸送路も懸案事項でした」。

図版:相馬港から積み替え地点を経由した約90kmの長距離輸送

相馬港から積み替え地点を経由した
約90kmの長距離輸送

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図版:相馬港に到着したタワー部材の陸揚げ(水切り)作業

相馬港に到着したタワー部材の陸揚げ(水切り)作業

図版:タワー部材を載せ国道を輸送

タワー部材を載せ国道を輸送

図版:ブレードを載せ山岳地輸送中の専用車両

ブレードを載せ山岳地輸送中の専用車両

図版:風車の基礎・アンカーリングの荷卸しを行う

風車の基礎・アンカーリングの荷卸しを行う

風車組立にタワークレーンを初採用

現地での工事開始は2019年3月。工事は国有林・保安林への影響を配慮し,開発面積や造成土量を最小化する必要があった。そこで,国内初となる自立式の風車用タワークレーンを採用した。通常,風車組立は風車のサイズに応じた移動式クレーンを用いるが,本機は最小作業半径を半分以下にできるため,デッドスペースが少なく作業エリアを効率的に使える。懸案事項であった二次輸送路は,隣接する閉鎖中のスキー場用地を造成するルートに決まった。

図版:タワークレーンによる風車組立

タワークレーンによる風車組立

図版:風車用タワークレーンの検討例

風車用タワークレーンの検討例。
クレーンの作業半径を縮小化し,エリアを効率的に使える

改ページ

風車部材を載せた港からの長距離輸送は,夜間で交通量の少ないことも幸いし,予想よりも2時間早い4時間程度で運ぶことができた。しかし着工から半年後の2019年10月,令和元年台風第19号で国道が被災し,輸送ルートが断たれてしまう。「一時は運ぶ道がないという状態になりました。工期が間に合わない最悪の事態も危惧しましたが,県の道路管理者と何度も協議を重ね,最終的には県の復旧工事を待たず,被災した道路を当社が補強・補修することで通行許可を得ることができました」。現場を率いた東北支店平岡伸哉所長は振り返る。

タワークレーンによる風車組立は計画通りに進められ,2020年10月,風車4基の組立が完了。今年の3月より営業運転が開始されている。

写真:平岡伸哉所長

平岡伸哉所長

図版

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