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Interview: Good Wind Energyの実践に向けて

風力発電は次世代のエネルギーインフラ。
建設会社の総合力に期待しています

2050年カーボンニュートラル――
このエネルギーの大転換期に向けて,日本の風力発電の成長イメージはどのように実践されていくのか。
その具体的な道筋について,社会基盤学の分野から風力エネルギーの利用を研究し,
近年は洋上風力発電システムの開発に尽力する石原孟教授に,
全体の視点から建設業が果たすべき役割までをうかがった。

図版:石原 孟 教授
石原 孟 教授
いしはら たけし
東京大学大学院工学系研究科
社会基盤学専攻

1962年北京生まれ。東京工業大学理工学研究科土木工学専攻博士課程修了。
長大橋,電力システム,交通システムにおける耐風工学の研究に従事するとともに,風力発電量のリアルタイム予測,風力発電設備の耐風設計,浮体式洋上風力発電システム開発等の研究を行う。
日本風力エネルギー学会会長,日本風工学会理事,NEDO IEA風力国内委員会委員長など多くの風力関連委員を歴任。

私が風力発電の研究を始めたのはちょうど2000年です。もともとは航空工学の出身で水工学の研究に移り,それから超高層建築物などの耐風設計の技術開発に携わった後,社会基盤学を専攻する東京大学の橋梁研究室に入りました。日本の長大橋梁はある程度開発が終わり,研究室としても新しい社会インフラを考えていく必要がある時期に差しかかっていました。

2000年は,世界で初めて商業洋上ウィンドファームができた年です。デンマーク・コペンハーゲンの沖合に,当時世界最大の2MW風車20基が建設されました。現地で見て,非常に感銘を受けました。円弧上に風車がきれいに並んでいて,その後ろにはデンマークとスウェーデンを結ぶ海峡大橋が見えました。私自身のそれまでの研究と風力発電がその時初めて繋がったのです。

改ページ
図版:世界初の商業洋上ウィンドファーム

世界初の商業洋上ウィンドファーム
(デンマーク・ミドルグリュンデン)
photo: shutterstock.com

風力発電の世界展開と日本の現状

世界的に見ると,風力発電の導入量はずっと右肩上がりです。昨年の新規導入量は陸上で8,700万kW,洋上で600万kW。陸上に比べれば洋上はまだ少ないですが,累積導入量では3,500万kW,これが10年後の2030年には2億3,400万kWになる予測です。日本全体の電力設備を全部足した容量と同程度ですね。設備利用率は欧州でも50%程度ですから発電量としては原子力発電より少なくなりますが,世界規模で展開されています。

一方,日本の累積導入量は世界の0.6%で20位。それでも昨年は新規導入量(陸上)が51.6万kWと過去最高になりました。今後は年間100万kWまで伸びるでしょう。電力消費量が世界4位の日本はまだ遅れをとっていますが,その分,風力発電の伸び代があると言えます。日本では再エネを促進する法律として,2002年にRPS法,2012年に固定価格買取制度(Feed-in Tariff)が制定されましたが,環境影響評価の導入など,風力発電の成長とうまくマッチしてこなかった印象があります。それが,この2,3年で変化してきました。

カーボンニュートラルへの成長戦略

昨年,2050年カーボンニュートラルを目指す成長戦略が政府より発表されました。洋上風力を重点分野に置き,年間100万kWを10年継続,2030年までに1,000万kW,2040年までに3,000〜4,500万kWの案件形成を目指すとしています。これは非常にインパクトのある数字です。ドイツよりも高く,世界トップであるイギリスと比べても遜色ないのですから。これが実現できれば日本は世界最大の洋上風力発電市場になります。

日本は排他的経済水域(EEZ)面積が世界6位の海洋国家です。水深200m以浅に限定しても,12億kWぐらいの設備がつくれる計算になりますが,これまで日本には海洋エネルギー利用を可能にする法律がありませんでした。風車基礎を海に設置し,海面を使い,その上で発電する,その一連の利用ですね。まず2016年,港湾法の改正で,港湾区域に風車が建てられるようになり,さらに19年の再エネ海域利用法の施行で,導入エリアが一般海域にまで広げられ,30年間の貸付が可能になりました。

日本の洋上風力のはじまり

2004年,東京電力・鹿島・東京大学で洋上の風力エネルギーの調査を行いました。それまでも,洋上では高い平均風速,少ない風向変化などの好条件が期待されていましたが,実用化に向けては実測による検証が必要でした。そのデータを取るために,福島県磐城沖のガス田プラットフォーム上の掘削櫓(くっさくやぐら)を利用し,海面から高さ95mの位置に風向風速計をつけました。現場へ向かうのにヘリコプターをチャーターするほどの大変な場所です。天然ガス田では電気を使用できないため,防爆型機器を使用し風向やプロペラの回転数を光ファイバーで検出する方法を採用しました。1年間の洋上風速の観測結果は,年間の平均風速7.5m/s。風力発電の立地条件の目安は,風車のハブ高さにおける年平均風速6m/sですので,この観測により,洋上の優位性が実証されたのです。その後,NEDOの実証研究プロジェクトとして,銚子沖の洋上風力発電実証研究の建設工事が鹿島さんによって2009年に始まり,2013年に完成しました。そのぐらい苦労して日本の洋上風力発電が立ち上げられたのです。この実測で風況特性を明らかにできたことが,まさに日本の洋上風力の第一歩であったと言えます。

海洋国家日本での課題

最近は少しずつ減ってきましたが,地震でタワーが座屈したり,基礎が壊れたり,台風によってブレードが飛んだりと,地震,台風,落雷が多い日本の風力発電は,欧州に比べて厳しい自然環境に置かれています。これは大きなリスクとなりますが,一方でこれを逆手にとって,これまでI~IIIの3段階で規定していた国際基準の風車クラスに,日本独自の最速区分「T」クラスの規格を設定しました。これは,日本に多い台風や乱気流に対する安全性を高めるためのものです。Tは熱帯低気圧,「Tropical Cyclone」のTです。これで日本や台湾の98%の地域はカバーできるでしょう。実際に台湾も「T」クラスの認証が通った日本製の風車を採用しています。日本の技術力で耐震,耐風などのノウハウを使って,これを国際基準と定めて工業製品化し,付加価値をつけて世界に売るという戦略が展開できるのではないでしょうか。

※経済産業省による風力発電に関するJIS(日本工業規格)

洋上風力の導入を進めるにあたり,重要なことは4点あります。1つ目は国主導で行う送電線の整備です。東北と北海道から首都圏まで太平洋側に海底ケーブルを引いてくる。2つ目は,漁業関係者との調整をまとめた海域の確保。これによって地域振興が進みます。3つ目は国内風力関連産業の育成。これはとても重要で,何でも海外からもってくるのではなく,日本の産業を強化し,育てていく形を期待しています。4つ目は,人材育成と研究開発です。

「巨大化」がカギ

陸上は長らく風車2MWの時代が続きましたが,今は4MW,今後5MWが主流になっていきます。一方の洋上は長いこと5MWが最大でしたが,開発が相次ぎ,今後の主流は8MW以上,風車メーカーはローター径236mの15MWクラスも発表しています。サッカーのグラウンドが100m,新宿の高層ビルが200mといえばイメージしやすいでしょう。欧州ではこのクラスの風車が2,3年後には建設されるでしょう。

今後,5MWや15MWの風車を支えるタワーは,巨大化すると鉄の剛性が足りなくなるので,下部はコンクリートにして変形しにくいようにするなどのハイブリッド化が必要です。この風車の巨大化に対応できるのは建設会社ですね。実は日本でコンクリート式タワー風車を初めてつくったのは鹿島さんですよ。さらに設置には地域との調整が非常に重要になりますので,企画段階から入り,地域とのネットワークを活かしたマネジメントにもゼネコンの総合力を期待しています。

洋上風力の発展に向けて

洋上風力については,地盤が非常に複雑な日本ではコストが増加する方向にあります。その総建設コストを下げることが重要です。官民一体となって作成した洋上風力産業ビジョンでは,目標設定として,国内における部品の調達比率を2040年までに60%に,着床式発電コストを2030〜35年までに8〜9円/kWhにするという目標が掲げられています。現在のコストは約20円/kWhくらい,あと10年でどうやって10円程度下げていくのか。

まずは,欧州で使っている技術導入による施工コストの低減です。すでに欧州で採用されているあらゆる製造法と施工法を導入し,それを日本で実証する。

次は維持管理。着床式洋上風力を建設するためのSEP船は,ゼネコンによる建造が相次いでいますが,年間100万kWの施工には,まだまだ不足しています。風車の補修・メンテナンスのために常に船を押さえておくことが重要です。欧州でも以前は,風車1基の建設に1週間かかったのが,今や1基2日で建てられます。設備を投資して,風車建設のスピードアップを図り,効率をよくする。

そして製造。BOP(バランス・オブ・プラント)が大事です。プラントは風車ですが,風車以外の送電線や,ゼネコンのもつ技術を駆使した風車基礎の製造,量産技術の開発が不可欠です。銚子の実証実験で鹿島さんが取り組んだ重力式を,スマートに軽くした形で発展させることができれば,コストを下げることも期待できるでしょう。また,着床式は,日本で設置できる水深が限定的です。浮体式の設置エリアは広大ですが,今後の開発では,同様に施工コストの低減や量産技術の開発が必要になっていきます。初めて洋上の風況観測を行った福島県磐城沖の地点は水深154mあり,浮体式でなければ建設できません。鹿島さんには,先駆的な技術開発と実現に向けた取組みをぜひ期待したいです。

社会インフラの整備は建設会社が果たすべき重要な役割です。今後のエネルギー政策の動向を考えると,風力発電への取組みがより重要になりますので,鹿島さんには,ぜひ総力をあげて頑張っていただきたいです。

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