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叡智を集めて甦る首都東京の象徴

東京駅丸の内駅舎保存・復原工事

日本の玄関口,“赤レンガ駅舎”として,人々に永く愛されてきた東京駅丸の内駅舎。
戦災でかたちを変えた駅舎を創建当時の姿に保存・復原し,
首都東京の象徴として甦らせるプロジェクトが進行している。
難解な複合工事を,多くの叡智を集めて切り開く現場を訪ねた。

 

完成予想パース

完成予想パース

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工事概要

東京駅丸の内駅舎保存・復原工事

場所:
東京都千代田区
事業主:
東日本旅客鉄道
設計:
東日本旅客鉄道
東京工事事務所・東京電気システム開発工事事務所  東京駅丸の内駅舎保存・復原設計共同企業体 (ジェイアール東日本建築設計事務所・ジェイアール東日本 コンサルタンツ)
監理:
東日本旅客鉄道
東京工事事務所・東京電気システム開発工事事務所  ジェイアール東日本建築設計事務所
用途:
駅施設,ホテル,ギャラリー,駐車場
規模:
鉄骨煉瓦造・RC造一部S・SRC造(免震構造)  B2,3F(一部4F) 延べ約43,000m2
工期:
2007年4月〜2012年(予定)
(東京建築支店JV施工)

地図

図:工事の区分

工事の区分(画像をクリックすると拡大表示されます。)

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首都東京のシンボルとして

明治時代の東京の鉄道網は,南に東海道本線の新橋停車場,北は上野停車場,西は万世橋停車場,東は両国橋停車場と方面別に分かれていた。1889(明治22)年に新橋と上野をつなぐ新線が計画され,その中間に中央停車場(丸の内駅舎)を建設。明治・大正期を代表する建築家辰野金吾の設計で, 1914(大正3)年に完成した。1万1,000本の松杭,3,100tの鉄骨,800万個の構造用レンガなどを用い,延べ74万人の作業員で建設された,明治時代における未曾有の大工事だった。

中央停車場は「東京駅」と名称を改め,営業を開始。全長約335m,南北にドーム屋根を持つ赤レンガと白い花崗岩の3階建ての駅舎は,鉄道省庁舎,ホテルという様々な顔も持つ。頑強な鉄骨レンガ造の建物は,関東大震災時も大きな被害はなく,1945(昭和20)年の戦災まで首都東京のシンボルとして勇姿を誇っていた。

戦災によりドームなどを焼失した駅舎は,戦後直ちに応急工事で再建。ドーム跡には八角形の屋根がかけられ,3階部分は安全性を考慮して撤去し,2階建てとして復興された。丸の内駅舎は,2003年に国の重要文化財指定を受け,新たに「歴史と風格のある首都のランドマーク」を形成する都市計画制度※も定められ,創建時の姿に甦ることとなった。

※大手町・丸の内・有楽町地区特例容積率適用地区

写真:創建時(1914〜1945)ドーム形状

創建時(1914〜1945)ドーム形状

写真:戦災復旧後(1947〜2007)寄棟形状

戦災復旧後(1947〜2007)寄棟形状

様々な建設現場の集合体

本工事では,外観を創建時の姿に忠実に再現するとともに,機能拡充のため既存駅舎の下に地下空間を新設,さらに巨大地震にも耐えうる建物とするため免震化工事も行う。

取材で現場を訪ねたとき,ちょうど南ドームの頂部にフィニアル(頂華)を設置する作業が行われていた。フィニアルの据付が終わると,南ドームでは一足先に屋根仕上げ工事に入っていく。地上部分では各所で躯体の補強工事や外壁の保存・復原工事が進む。旅客コンコース部分では毎日夜間工事が行われている。一方,地下部分では今,掘削工事の最盛期を迎えている。様々な様相が複雑に絡み合う状況は,まさに建設現場の集合体だ。

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工事対象範囲見取り図

工事対象範囲見取り図

写真:丸の内駅舎現況全景。建物全体が風散防止のネットに包まれている中,各所で様々な工事が展開している

丸の内駅舎現況全景。建物全体が風散防止のネットに包まれている中,各所で様々な工事が展開している

写真:南ドームの頂部に設置されたフィニアルは復原のシンボル

南ドームの頂部に設置されたフィニアルは復原のシンボル

史上最大の「仮受け」施工

“赤レンガ駅舎”の免震化。その方法は,駅舎を一旦仮受けし,その下に地下2層分の構造体を新築,駅舎と地下躯体の間に免震装置を設置する。地上建造物の総重量約7万t, 設置される免震装置は,アイソレータ352台とオイルダンパー158台。免震化される建物としては史上最大規模となる。

駅舎が重要文化財であり,全長約335mに及ぶ大規模な鉄骨レンガ造であることが,この工事を極めて難しいものにしている。地下躯体構築及び免震化工事を行うため,まず行うのが,既存駅舎の仮受け杭施工と1階新設躯体施工だ。

杭は全部で約450本。そのほとんどは既存駅舎の中で施工する必要があり,TBH工法という狭い場所での施工が可能な方法を採用している。また,1階新設躯体は既存駅舎仮受けのための土台として井桁状に施工される。特にレンガ壁直下に施工されるものは縦梁と呼ばれる。レンガ壁の強度を考慮して1回の施工は5m,この作業を何回も繰り返して総延長約1,400mの縦梁を構築する。

約450本の仮受け杭に,10本程度を1グループとして駅舎の荷重を順次移行していく。その際最大60台の油圧ジャッキを仮受け支柱にセットし,荷重や変位をモニターしながら集中管理で作業を進める。

施工計画を担当する日比純一次長は,「全長約335mもある鉄骨レンガ造の既存駅舎は,現代では未知の構造物」と評する。施工中は仮受け期間を含め駅舎の耐震性と構造的な安全性を保持しなければならないが,そのために「変形角1/2,000以内という精度を求められている」という。

写真:日比純一次長

日比純一次長

写真:仮受け完了とともに逆打ち工法で地下躯体を施工する

仮受け完了とともに逆打ち工法で地下躯体を施工する

写真:既存駅舎内部の狭い場所で杭を打設するTBH工法

既存駅舎内部の狭い場所で杭を打設するTBH工法

免震装置配置図

免震装置配置図

仮受けの施工ステップ

仮受けの施工ステップ

難工事だからこそのやりがい

駅舎の仮受け完了後,既存基礎の撤去と地下の掘削を開始し,2層分の地下躯体を逆打ち工法で施工する。入社8年目の丹下勝善工事係は,駅舎南側のウイング・ドーム部分の地下工事担当で「歴史的建造物も初めてなら,逆打ち工事も初めて」という。乗降客が往来する覆工板を隔てて直下での工事となるため,騒音・振動・粉塵には細心の注意を払って施工している。

「南北に長い地下工事の先鞭をつけて施工するため,自分が作った施工計画に倣ってほかのブロックの地下工事が追いかけてくる」と責任の重さを語る丹下さん。この現場で初めて新入社員の教育担当となり「新人に教えることで,上司が自分に厳しく指導してきた意味が分かった」。難しい現場を日々管理しながら,やりがいを見出している。

写真:丹下勝善工事係は,日々地下工事の段取りに奔走する

丹下勝善工事係は,日々地下工事の段取りに奔走する

重要文化財の保存・復原を極める

重要文化財を忠実に復原するためには,残存する創建当初の壁体と新規に取り付ける構造体・内外装材との納まりが重要となる。

高村功一副所長は,歴史的建造物のエキスパートで,外壁部分の仕上げなど具体的な復原のための施工方法などを担当している。「通常,保存・復原では事前に十分な解体調査をするが,駅舎として使用されているため事前に調査ができず,モルタルを剥してみて初めて分かったこともある」という。

擬石の洗出しでは,「当初の擬石部分,戦災復興で擬石を塗りなおした部分などが混在するのをどう納めるか」と課題は尽きない。補修にあたっては,まず補修方法を検討して設計に確認し,試験施工を行い,それをもう一度設計者に確認してもらい本施工に入る。いわば現場で設計と施工の二人三脚だ。

写真:山積する保存・復原の課題を実地に検討する高村功一副所長

山積する保存・復原の課題を実地に検討する高村功一副所長

写真:独特なカマボコ型のタイル目地「覆輪目地」を試験施工する

独特なカマボコ型のタイル目地「覆輪目地」を試験施工する

大動脈の「安全」を第一に進める

東京駅の発着は一日約3,600本で,乗降客数は 40万人を超える。地上の新幹線や在来線などのホームと地下の総武・横須賀線を結ぶ総武大階段は,一日中大勢の乗換え客などが行き交う大動脈だ。乗降客の通行部分や営業線の近接箇所では,実際に工事ができるのは終初電の合間,正味3時間しかない。

工事全体を統括する上浪鉄郎副所長は,「現場は,外部との接点が非常に多く制限も多い。工事を安全かつ円滑に進めるためには,施工スペースの確保などで鉄道事業者の各部署はじめ様々な関係先と,きめ細やかな協議・調整が必要」と日々現場の安全衛生管理に余念がない。「現場の中も多種多様な工事があって大変だが,通勤客や旅行者など様々なお客様が安心して通行できるよう,現場の安全管理にも増して,旅客公衆災害防止活動に細心の注意を払っている」。

写真:昼間の様子

昼間の様子

写真:上浪鉄郎副所長。「総武大階段直上の仮設工事だけで半年かかった」と旅客コンコースでの安全管理に細心の注意を払う

上浪鉄郎副所長。「総武大階段直上の仮設工事だけで半年かかった」と旅客コンコースでの安全管理に細心の注意を払う

写真:夜間工事

夜間工事

写真:中央玄関をバックに集合写真

中央玄関をバックに集合写真

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Interview 鹿島の新たな礎となる「丸の内学校」

これまでの現場では経験したことのない,類例を見ない大変難しい工事である。重要文化財の駅舎の保存・復原では,建物を解体して初めて設計が検討され,施工方法につなげる手探りの部分も多く,対応に柔軟さと粘り強さが求められる。発注者・設計者・施工者が三位一体となり「いいものをつくるためにどうすべきか」という共通の認識が必要だ。2009年10月に赴任して所長を引き継いだ時,何か所員の意識改革を促すことはできないかと考え,手始めに現場のトイレを一新した。都会の建設現場では珍しい食堂も,所員相互のコミュニケーションを活発化し,人心をまとめる場となっている。この現場での様々な経験が,その後の現場で役立つ新たな鹿島の礎となるような「丸の内学校」としたい。

写真:東京駅丸の内駅舎保存・復原工事共同企業体 所長 金丸康男

東京駅丸の内駅舎保存・
復原工事共同企業体
所長 金丸康男

写真:東京のど真ん中の食堂

東京のど真ん中の食堂

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