ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2010:特集「いのちの共生を,未来へ」 > 地域と企業をつなぐビオトープ

KAJIMAダイジェスト

地域と企業をつなぐビオトープ

2003年1月,ミツカングループの新工場建設で,ビオトープ計画提案コンペがあった。
当社は,地域住民と共にビオトープ活動を行う計画を提案,採用された。
ビオトープは今,地域と事業者をつないでいる。

ミツカンよかわビオトープ

ビオトープとは,Bio(生物)+Top(場所)の合成語で,“生物が生きられる空間”を意味する。ミツカンよかわビオトープは,2004年3月,兵庫県三木市吉川(よかわ)町に整備された。棚田跡を利用した湿地ビオトープと雑木林やアカマツ林などの森林型ビオトープを併せ持ち,約16haの広さを誇る。

ビオトープ活動の「しくみ」づくり

ビオトープ活動を行うにあたり重要視されたのが,「しくみ」づくり。「兵庫県立人と自然の博物館」に指導を仰ぎ,地域住民,行政担当者,事業者,設計者,施工者などからなる「ビオトープ研究会」が発足した。ビオトープ活動と整備計画の整合性を図り,活動プログラムづくりやイベントを行う。
新規メンバーも募集し,地域とのネットワークが広がった。基盤整備が完了した2004年,同会を母体とした「ミツカンよかわビオトープ倶楽部」が設立された。月に一度の活動を基本として,下草刈りなどの維持管理活動やバーベキュー大会,季節に応じた催しなどを行い,「皆で育てるビオトープ」を目標として,活動を続けている。 また,ビオトープの維持にはモニタリングが重要で,「里と水辺研究所」がその役割を担い活動をフォローしている。

写真:ミツカンよかわビオトープ倶楽部

ミツカンよかわビオトープ倶楽部

改ページ

当社関西支店土木部担当部長の靍本(つるもと) 寬さんは,開発段階から現在のビオトープ活動まで中心的な役割を果たしてきた。靍本さんに同行し,「ミツカンよかわビオトープ倶楽部」の活動に参加した。

ビオトープ全体計画図

ビオトープ全体計画図

陽が差し込む山林内

JR福知山線新三田駅から車で10分ほど。工業団地やゴルフ場に囲まれた場所にミツカンよかわビオトープはある。駐車場こそ舗装されているが,隣接する公園広場部分は全面芝生。「自然の魅力を生かすために,遊具などは設けなかった」と靍本さんはいう。この日の活動内容は「竹のクラフト&そうめん流し」。準備までの時間,ミツカングループ中核企業・中埜酢店の専任部長で,ビオトープ計画を推進してきた宮原一明さんと靍本さんにビオトープ内を案内してもらった。

山林内は陽が差し込み,明るい。「涼しいでしょう」という靍本さん。森林が持つ効果を感じながら,なだらかな斜面の散策路を下っていく。下草が刈られ,木々は枝打ちされている。間伐材を利用したシイタケ栽培,せわしなく舞う小さなチョウ,青い実をつけた柿の木なども見られる。ビオトープ活動で整備したという散策路の脇には様々な景色がある。「大規模な伐採などはミツカンさんが行っていますが,出来る部分は活動の中で整備しています」と靍本さん。さらに下っていくと,場所が開け,湿地ビオトープに出た。

写真:靍本 寬さん

靍本 寬さん

写真:陽が差し込む山林内

陽が差し込む山林内

自然の力を生かす

ビオトープ整備の目的のひとつは,害虫の発生抑制だという。「生態系が維持されることで,特定の生物が異常発生しない環境づくりを目指した」と宮原さんはいう。あたりにはギンヤンマやショウジョウトンボが飛び交い,オタマジャクシやメダカ,フナなど多様な生態系が見られた。

湿地ビオトープは,棚田の構造のまま,水田部分を池にしてつくられている。段になっている池と池を魚道でつなぎ,水が最下段の池にたどり着くまでに,3つの池を通る仕組みになっていた。工場排水を農業用水として使うために構造を工夫したという。

排水は工場内で一度処理されているが,食品を扱っているため微量の窒素分が含まれている。「水の流路を長くすることで植物が窒素を吸収してくれる」と宮原さんはいう。上段部分では覆い尽くさんばかりの水面の草が下段に行くにつれ減少し,種類も変わっていく。ハスやスイレンの花が咲き,ビオトープ脇のあぜ道を歩いていると驚いたカエルが次々と池に飛び込む。6月にはホタルも見られるという。

広場に戻ると,そうめん流しの準備がはじまっていた。竹を割って樋をつくる作業を見学する。鉈を竹の中心にあて木槌で叩いて竹の先の部分を割り,木の棒を差し込んで引っ張り全体を割っていく。真っ二つに割れた竹をグラインダーで磨き,竹の樋が完成した。そのとなりでは,そうめんを茹でる人がいて,竹で箸をつくる人がいる。準備が整い,そうめんが振る舞われた。自然のなかでいただく味は格別で,参加者の笑顔が印象的だった。

写真:湿地ビオトープ

湿地ビオトープ

写真:ビオトープ内に生息する生物(写真提供:里と水辺研究所)

ビオトープ内に生息する生物(写真提供:里と水辺研究所)

写真:農業用ため池への放水は地元水利組合の要望

農業用ため池への放水は地元水利組合の要望

写真:ハスのつぼみ

ハスのつぼみ

写真:樋も手作りで行われた

樋も手作りで行われた

「自分たちの里山」

写真:ミツカングループ本社 コーポレートコミュニケーション部 広報室 日比野容久さん

ミツカングループ本社
コーポレートコミュニケーション部
広報室
日比野容久さん

「楽しい」。ビオトープ倶楽部の活動は,この一言に尽きます。メンバーの一人として活動に参加していますが,この楽しさが活動を支えていると実感しています。ここに至った要因は二つあると思っています。一つは計画当初の準備がしっかりしていたこと。「兵庫県立人と自然の博物館」さんや鹿島さんをはじめとする参加者が,活動内容などを十分に検討してきたからできたことです。もう一つは,参加者が自ら維持管理を行っていることです。管理することで,「自分たちの里山」という意識が芽生え,さらによくしていくための提案がなされる。いい方向に連鎖反応が働いているのです。

ミツカンよかわビオトープ倶楽部のこの活動は,今年5月に名古屋で行われた国際会議「都市における生物多様性とデザイン(URBIO2010)」に「みんなで楽しく自然とつき合う 活動事例」と題して出展もしました。文字通り楽しい活動をしながら,当社としては企業イメージの向上が図れているわけです。もちろん,害虫の発生を抑制する本来の目的も果たしています。製造環境と自然環境が共生し,企業と地域が共栄できる「21世紀の工場」は,皆さんのご協力の賜物と思っています。

発掘!旬の社員
鹿島の見える風景作品集

ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2010:特集「いのちの共生を,未来へ」 > 地域と企業をつなぐビオトープ

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ