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COP10開催地・名古屋では

COP10が開催される名古屋市でも各企業・各機関が,生物多様性への取組みを積極的にアピールしている。
COP10開催会場に隣接する名古屋学院大学。当社中部支店が大学に提案したのは,
「ニホンミツバチプロジェクト」だった。

ニホンミツバチプロジェクト

「生物多様性都市」に配慮した都市づくりの一環として,当社が2009年5月から行っている取組み。飼育するミツバチが周辺植物の蜜や花粉を集めることで,植物の受粉を促す。その結果,結実した果実を求めて野鳥が集まり,虫を捕食する。こうして地域の生態系を豊かにし,地域全体の価値も高めていこうとする計画。周辺緑地のモニタリング調査も併せて行い,効果の実証を行っていく。

写真:ミツバチは植物の受粉を促す

ミツバチは植物の受粉を促す

名古屋学院大学

名古屋学院大学(名古屋市熱田区)は,2003年に「環境宣言」を行い,「循環型エコキャンパスの実現」をテーマに,早くから商店街など地域と協働したエコ活動の取組みに努めてきた。環境をキーワードとした大学と地域との関わり方のモデルを示したと評価され,「2010年愛知環境賞優秀賞」を受賞している。

写真:名古屋学院大学

名古屋学院大学

提案

2009年夏,名古屋学院大学翼館新築工事を担当した佐野勝之工事事務所長は,大学側に環境に配慮した提案を積極的に行った。「エコ活動が盛んな大学だからこそ,鹿島の持つあらゆる技術を紹介したいと思った」。その佐野所長に当社中部支店愛知北営業所(現名古屋営業所)の平瀬佳都雄副所長(現営業部担当部長)が薦めたのが,ニホンミツバチプロジェクトだった。学舎の隣地で開催されるCOP10を睨み,「環境活動の中で,大学側が生物多様性への取組みをわかりやすくPRできる」と平瀬副所長は考えたのだ。

COP9にも参加していた環境本部の山田順之次長が打ち合わせに同席し,東京で実施していた「鹿島ニホンミツバチプロジェクト」の説明をする。地域に貢献できる点が伊藤信義理事長ら大学の思想と合致し,当社が一部業務を受託する形で採用された。

同時に,平瀬副所長は支店での飼育を考えた。地域の生物多様性保全に貢献し,大学側のミツバチにトラブルがあった際にも素早い対応が可能になる。

写真:中央手前にCOP10会場の名古屋国際会議場。隣接して奥に名古屋学院大学

中央手前にCOP10会場の名古屋国際会議場。隣接して奥に名古屋学院大学

2つのニホンミツバチプロジェクト

こうして名古屋市内で2つのニホンミツバチプロジェクトが始まった。当社中部支店の社員が環境本部から飼育・観察の指導を受け,支店ビルの屋上での飼育と蜜源調査を開始した。支店ビル1階のガラス面に,巣箱の様子などの中継画面を投射し2プロジェクトをPR。近隣保育所の園児らを招いた環境教育も催している。

名古屋学院大学では,学生たちが積極的にプロジェクトに参加し,新校舎の屋上とテラスで飼育を行っている。百貨店でのブースでPR活動を行うなど意欲的だ。同学の環境活動責任者で企画広報部長の生駒豊作理事は,「幼少期から中学校卒業までに生物に触れる機会が減り,“初めての飼育係”という学生たちも多い。皆いきいきと活動している」と学生の活動に目を細める。

両プロジェクトは,COP10パートナーシップ事業にも認定されており,COP10会期中は開催会場において共同でフォーラムなども行っていく。

写真:支店ビル屋上で飼育

支店ビル屋上で飼育

写真:左から生駒豊作理事,佐野勝之工事事務所長,平瀬佳都雄副所長

左から生駒豊作理事,佐野勝之工事事務所長,平瀬佳都雄副所長

写真:学生が積極的にイベントを行う

学生が積極的にイベントを行う

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Column 蜜のゆくえ

ニホンミツバチプロジェクトの副産物ともいえる,楽しみのひとつが,採集される蜂蜜。当社中部支店の蜂蜜は名古屋東急ホテルに無償で提供され,COP10期間限定メニューとして登場することになった。収益の一部はCOP10実行委員会に寄付される。

名古屋学院大学では,学生が運営する喫茶店「マイルポスト」で,コッペパンに採集した蜜と生クリームを挟んだ「はちみつクリームコッぺ」を販売中。今後は飼育方法も含めて蜂蜜を地域商店街に提供し,地産地消蜂蜜を利用した商店街の発展に助力していく方針だという。

写真:名古屋東急ホテルのシフォンケーキ

名古屋東急ホテルのシフォンケーキ

企業にとってのCOP10開催の意義

写真:古田尚也  国際自然保護連合(IUCN) 日本プロジェクトオフィス   シニア・プロジェクト・オフィサー

古田尚也
国際自然保護連合(IUCN)
日本プロジェクトオフィス
シニア・プロジェクト・オフィサー

1967年生まれ
三菱総合研究所を経て,2009年5月に日本経団連自然保護協議会内に新設されたIUCN日本プロジェクトオフィスで生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)にむけ,ポスト2010年目標やIPBES(生物多様性と生態系サービスに関する政府間プラットフォーム),TEEB(生態系と生物多様性の経済学)などのグローバルな政策課題の推進に携わっている。東京大学農学部修士課程修了。

1992年に締結された生物多様性条約と以降のCOPは,これまで多くの成果を上げてきた。一方で,遺伝資源へのアクセスとベネフィットシェアリングや資金における先進国と途上国の対立,2010年目標の達成方法など課題も残されている。

そのなかで開催されるCOP10では,2010年目標の達成状況が検証され,ポスト2010年目標が策定される予定である。指標や期限を定めた,実現可能な目標の設定が期待されており,各国政府のほか,多くの企業や地方自治体も参画する。生物多様性保全の機運はますます高まっていくだろう。

企業にとって,生物多様性の問題には多くのリスクが存在する。生物多様性の損失や破壊に関係することで,事業操業許可の喪失やブランドイメージの悪化,消費者による不買運動,従業員の士気や生産性の低下などを招くおそれがある。これを受け,欧米などの多国籍企業では,高まる生物多様性リスクに先行的に対処し,チャンスに転換する動きも見られる。企業がNGOや政府と協力し,率先して自主的なガイドラインづくりなどを行うケースや,独自の技術開発に乗り出し,信用を獲得する例も増えている。

現在リスクが大きく顕在化していない日本も例外ではない。時が経つにつれ,事業環境は変化していく。特に建設業はリスクにせよチャンスにせよ,この問題に左右されることが多くなるだろう。事業が生態系に与えるインパクトが非常に大きく,工法の改良や再生技術の開発など,技術開発の余地がある。ニーズはいずれ世界的に高まってくると予想されるからである。

COP10では,ポスト2010年目標の内容に関わらず,先進国が途上国に対してどのような技術協力や技術移転ができるかという議論も行われるであろう。各企業が経済的な負担を大きく強いられる可能性があるなかで,自社で培った技術が途上国で活用され,その分負担が軽減されるような仕組みづくりも考えられよう。また,行政やNGO,学術界など各機関との効果的な協働の実現に企業の経営ノウハウを活かす提案も考えられる。いずれにせよ,企業が果たす役割は大きくなっていくだろう。

日本にとって,COP10の開催自体は生物多様性保全の機運が高まる幕開けに過ぎない。2012年に行われるCOP11まで,議長国として日本が各国をリードしていくことになるからである。同じく2012年には,生物多様性条約が調印されたリオ地球サミットから20年の会議も開催される。国際生物多様性年である2010年から2012年までの2年間,生物多様性保全の動きは一段と活発化していき,この間,日本が世界を牽引していくことになる。これは日本企業にとっては,大変幸運なことである。国内開催で関心が集まるCOP10でその重要性を知り,積極的に関わっていくことでビジネスチャンスを獲得する可能性が高いからである。日本の各企業がこの機会を生かし,本分野における世界のリーダーとして役割を果たしていくことに期待したい。

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