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海域--再び豊かな海に

経済の発展の中で,全国の沿岸から干潟や藻場が姿を消した。
1990年代半ばから,再生の取組みが始まったが,
失われた生物を再び呼び戻すのは簡単ではない。
そうした中,かつて破壊した自然の再生に建設業が,
その技術を駆使して,積極的に挑戦している。
多様な海を育む環境再生へ。
生物多様性に配慮しながら持続的に海を利用するための
仕組み構築である。

写真:水域の生物多様性保全の研究を進める三人

水域の生物多様性保全の研究を進める三人。左から山木克則主任研究員,林文慶主任研究員,柵瀬信夫環境本部専任部長

【カニ護岸パネル】

高い護岸性能を保ちながら,岸壁周辺の生物多様性を再生するカニ護岸パネル。環境教育ツールとしての利用実績も多く,多方面から注目されている。

カニ護岸パネルイメージ

建設業にしかできないこと

「建設業にしかできないことを追求したい」という,環境本部の柵瀬信夫専任部長。コンクリートを利用する環境技術を開発してきた。その成果の一つがカニ護岸パネルである。東京都江東区・有明北の事業で初めて適用されてから10年近くが経過し,再び脚光を浴びている。東京都内で進行中の建設プロジェクトでは,パネルを設置して環境教育の場に活用することで,容積率向上のインセンティブも得られる可能性が高くなる。「有効な土地利用につながり,事業者に貢献できる例です」と,柵瀬専任部長は自信を深める。

コンクリートにこだわる

開発のきっかけはハゼやウナギがいなくなった護岸の再生だった。コンクリートがカニの棲み処を消失させ,カニやその幼生を餌とする魚が寄り付かなくなった。

ある日,柵瀬専任部長はコンクリートのひびから草が生えていることに気がついた。よく見ると経年劣化で生じた隙間には小動物も生息している。形状などを工夫すればコンクリートを使った生物共生が可能だと確信した。コンクリートの欠点を補いカニを呼び寄せる研究がはじまった。

生物が生息しやすい条件を満たすために課題を洗い出し,順次クリアしていく。まず気になったのは色,白は太陽光の照り返しが強くなるため,色をつけた。カニが通る貫通孔を開け,裏側に隙間をつくって住居とした。カニが登れるように表面をあえて粗くした。そうした改良を重ね,カニを呼び戻すことに成功した。コンクリートが生き物に適応した瞬間だった。

柵瀬専任部長はいう。「コンクリートに代わる利便性と耐久性を備えた資材はない。我われはコンクリートをもっと誇っていい」。

図:カニ護岸パネルのイメージ

カニ護岸パネルのイメージ

写真:カニを探す子供たち

カニを探す子供たち

写真:芝浦アイランド(東京都港区)に設置されたカニ護岸パネル

芝浦アイランド(東京都港区)に設置されたカニ護岸パネル

【アマモ場の再生】

海域の食物連鎖をもとにアマモ場再生などで,
海での生物多様性を保全するための技術を開発している。
藻場づくりは生態系回復の第一歩になる。

写真:アマモ場にアオリイカが産卵

アマモ場にアオリイカが産卵

「海のゆりかご」の再生

様々な魚の稚魚や小動物が集まるアマモ場は,沿岸域における生態系保護の役割を果たしてきた。「海のゆりかご」とも呼ばれるゆえんだ。技術研究所葉山水域環境実験場の山木克則主任研究員と林文慶主任研究員らは,2002年から全国的に消失しているアマモ場再生に取り組んできた。アマモ場再生は,市民中心の取組みが全国各地で行われているが,波による流出や,海の濁りなどが原因で,うまく再生した例は少ない。「環境面に十分配慮でき,確実にアマモ場が再生できる技術を探求した」と山木主任研究員はいう。

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遺伝子の保護にも配慮

研究はアマモの種苗づくりからはじまった。遺伝子の拡散を防ぐためその地に生息する種子を集め発芽させる。従来の方式では発芽率は10%に満たない。温度や塩分条件を解明し発芽率を80%以上まで高めることに成功した。現地海域での生長試験も含め,3年の月日をかけて実用化のレベルに達した。

技術のもう一つの特徴は,波による流出防止技術の開発にある。移植基盤に工夫を重ねることで移植後の定着率を高めてきた。2008年から水産庁の「環境・生態系保全実証事業」に適用され,同年の「全国豊かな海づくり大会」では,当社や葉山町漁協,地域の小学校,NPO法人からなる「葉山アマモ協議会」が水産庁長官賞を受賞した。再生技術は既に実用段階に入っており,これまでに約2,000m2以上の藻場再生に成功している。

林主任研究員は「技術を拡げていくために,今後は評価の研究も進めたい」という。アマモ場は,経験的に重要性は認識されているものの,集魚効果や餌場としての機能などは定量化されていない。アマモ場のゆりかご効果の評価をおこない,技術とその重要性を広く伝播していく考えだ。

写真:種子から育てたアマモの苗を春先に移植。3ヵ月ほどでアオリイカが産卵し,稚魚が育つ「海のゆりかご」となる

種子から育てたアマモの苗を春先に移植。
3ヵ月ほどでアオリイカが産卵し,稚魚が育つ「海のゆりかご」となる

写真:アマモ場には生物が集まってくる

アマモ場には生物が集まってくる

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Column サンゴの再生技術

サンゴ礁は全世界で5億人が依拠して生活する大切な生活基盤。
海域で最も重要な生物の生息域ともいわれている。
当社も再生手法の研究に取り組んでいる。

1997年から1998年にかけて世界各地で起きた白化現象*。サンゴの保全・再生が盛んに説かれるようになった。自らもダイバーとして白化現象を目の当たりにしていた山木主任研究員は,「サンゴが海中で発光しているかのように美しかったことがある。2週間後にその一帯のサンゴが白化したと聞き,サンゴからシグナルを受けた思いだった」と研究のきっかけを話す。

研究に着手した2003年当時,再生手法の主流は,折ったサンゴの枝を植えつける方法だった。親サンゴに傷がつくほか,遺伝子の拡散で固有の種が失われる可能性があり,生残率が低いなどの問題があった。たどりついたのが,サンゴの幼生を網状の基盤に自然着生させる方法である。一年後の生残率は8割にもなった。基盤は環境面にも配慮して,4~5年で自然に分解される。こうした素材の利用は世界初の試みであり,再生させたい自然岩やコンクリートなどの基盤に確実にサンゴを再生させることができる。2009年に土木学会「地球環境技術賞」を受賞している。

*白化現象…サンゴの体内に共生する藻類が水温上昇でサンゴから抜け出し,サンゴが白くなる現象。サンゴ自体は光合成ができず,藻類が戻らないと栄養不良で死滅してしまう。

写真:沖縄のサンゴ礁

沖縄のサンゴ礁

写真:生分解性サンゴ基盤

生分解性サンゴ基盤

写真:コンクリート基盤に着生して成長するサンゴ

コンクリート基盤に着生して
成長するサンゴ

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