ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2012:特集「橋梁〜次世代に使い継ぐ」 > 維持管理 現状と展望

KAJIMAダイジェスト

維持管理 現状と展望

当社グループのカジマ・リノベイトは土木構造物維持管理の施工を専門に手掛ける。
橋梁維持管理の現状や施工方法などについて,社員に聞いた。

写真

橋梁維持管理の重要性

「橋梁維持管理が重要視されるに至った大きな転機は,阪神・淡路大震災でした」と説明するのは,カジマ・リノベイト技術部の前山篤史課長。社会インフラ維持管理の第一線で活躍する技術者だ。1995年に起きた阪神・淡路大震災は土木構造物に甚大な被害を及ぼし,1996年と2002年に橋梁の耐震基準が大きく改正された。橋梁に高い耐震性能が求められるようになり,耐震補強作業が本格化したという。その後,橋梁の経年劣化の問題についても議論が高まり,2001年にはコンクリート診断士の資格が創設された。この資格は,構造体のコンクリートを対象に劣化の程度を診断して維持管理の提案も行う。資格創設が,社会インフラ維持管理の重要性が認識されたことを示しているという。

現在,約2,000の道路橋で通行規制が行われている。このうち,通行止めが300橋あまり。この数は年を追うごとに増加している。社会インフラは建設後50年で更新のタイミングを迎えるといわれるが,現時点で50年を経過したものは全国で約9%。これが10年後には28%になり,20年後には53%に上る。維持管理の重要性はますます高まっていく。

写真:前山篤史課長

前山篤史課長

図:維持管理・更新費の推計

予防保全的管理の高まり

橋梁の維持には様々な手法が存在する。使用材料の違いなども含めれば相当な数に分類されるが,大きくは補修と補強,予防保全に分けられる。橋梁に発生する劣化現象には様々な原因があり,進行速度も異なる。重要なのは,定期的に橋梁を点検し,早い時点で対策をとることだ。「ひび割れも初期の段階であれば樹脂を塗布するような簡易な作業で済みますが,ひび割れから水や空気が浸透して鉄筋が腐食し,コンクリートの劣化が進めば,コンクリートを斫って断面修復するケースも出てきます。コンクリートが剥落して第三者災害につながってしまうかもしれない。先手を打って対策することで,安全性も増し,コストの低減にもつながるのです」(前山課長)。

この考え方から,現在注目されているのが予防保全的管理である。構造体が健全なうちから劣化の進行を遅らせる処置をとることで,橋梁の長寿命化と維持管理コストの削減を図る。補修や耐震補強と併せて予防保全も行うケースも増えている。当社技術研究所が開発した「マジカルリペラー」は予防保全に高い効果を持ち,表面に塗布することでコンクリート構造物の耐久性を向上させることができる。表層部に浸透して水の浸透を抑制する層を形成し,塩害や凍害,アルカリ骨材反応などの劣化を防ぐのだ。簡易な施工方法と,施工前後で外観が変わらないのも特徴のひとつ。長期にわたる試験で,塗布から約10年は吸水防止性能を維持できることが確認された。10年の性能保持が確認されている材料は他に存在せず,大きな注目を集めている。

写真:マジカルリペラー塗布状況

マジカルリペラー塗布状況。予防保全の高まりを受け,マジカルリペラーの塗布実績は100万m2に達している

写真:マジカルリペラー

マジカルリペラー。吸水を防止して,コンクリート構造物の耐久性を向上させる

技術を高めて『100年をつくる』

橋梁維持の施工に携わる工事部の青木美明課長代理は,監理技術者の立場で全国を飛び回っている。「維持管理の仕事では管理する社員が一人という現場も多い。工期が短いうえに施工範囲が広いことも多く,同時施工しなければならないこともある」。半年ほどの現場が多く,担当工区が30kmを超えたこともあるという。これまで,規模の小さな補修も含めれば40から50現場に携わったという青木課長代理。「全国各地で工事をしてきましたが,工事のしやすいところは一巡したという印象があります。現在行われているのは,工事ヤードの確保が難しく慎重な施工を求められる市街地や,技術的に難易度の高い工事。技術提案型の工事も増えてきています」。従来の施工方法では対応できず,新技術の開発が必要な工事も出てきているという。

写真:青木美明課長代理

青木美明課長代理

「橋梁を維持していくための取組みは着実に進んでいる」と前山課長は断言する。「しかし,大地震の発生が懸念されているなか,耐震補強を待つ橋梁が多数存在しているのも事実です。鹿島の技術研究所などと連携しながら,これまでに実地で蓄えた知見を駆使して技術の向上に努めたい。その技術を持って『100年をつくる』ことに貢献していきたいと思っています」。

写真:繊維シートを巻き立てて橋脚の耐震補強を行う

繊維シートを巻き立てて橋脚の耐震補強を行う

写真:耐震補強された橋脚

耐震補強された橋脚

column マジカルリペラーが優れた先端材料として受賞

マジカルリペラーが先端材料技術協会製品・技術賞を受賞した。この賞は,先端材料技術協会が主催する賞で,新材料や新しいプロセスによる新製品・新技術に対し授与される。

先端材料技術協会は,本部を米国カリフォルニア州に置く国際団体。世界各地に支部を持ち,時代の要求する先端材料技術の発展を目指して1944年に発足した。研究開発から製造加工などに携わる会員により,国際協力と技術交流,情報交換などを行っている。

写真:受賞者を代表して表彰された当社技術研究所林大介主任研究員(右)とカジマ・リノベイト前山篤史課長

受賞者を代表して表彰された当社技術研究所林大介主任研究員(右)とカジマ・リノベイト前山篤史課長。二人のほか,技術研究所坂田昇グループ長と東京土木支店芦澤良一工事課長代理も受賞者に名を連ねた

ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2012:特集「橋梁〜次世代に使い継ぐ」 > 維持管理 現状と展望

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ